緑化を生かすバスク自治州

都市生活の利点は数え切れない。それゆえ驚異的な割合(毎年1.8%)で世界の都市化が進み、実に今やヨーロッパ人の73%が都市部に住んでいる。将来地球は都市で溢れかえるだろう。

都市はまた資源を食い潰し、汚染物質をまき散らし、自然に多大な影響を与える怪物と化すこともある。しかし、保護された自然環境の中に持続可能な発展を遂げた中型都市が点在し、それらを効率の良い交通網がつむぐ、そんな環境に優しい都市の姿もあるはずだ。住みやすくまとまりエネルギー消費も少ない社会で、都市の利便性を余すことなく享受できたらどんなに素晴らしいだろう。

スペイン・バスク自治州(17ある自治州の一つで3つの県で構成される)にある2012年の欧州グリーン首都・ビトリア=ガステイスを手本にすれば、この構想は夢ではなく現実味を帯びてくる。

2010年に設立された欧州グリーン首都の選考基準は実に分かりやすい。「長期に渡り高い環境基準を満たし、さらなる環境改善と持続可能な発展のための目標達成に努め、魅力的な模範都市としてヨーロッパ中に最良の実践モデルを奨励する」都市に与えられる。

ビトリアの人口は24万人である。これは、バルセロナ(160万人)に代表される2012年の他の候補地や、2011年受賞のハンブルグ(180万人)、2010年受賞のストックホルム(80万人)などに比べ少ない。正にこれこそがビトリアに受賞をもたらした理由なのだ。人口25万以上の都市に住むヨーロッパ人は全体のわずか4分の1に過ぎず、ビトリアは典型的な都市として、その功績が各都市のモデルとなり得る。

また、ビトリアの環境政策や運営モデルは、ヨーロッパのみならず開発途上国などの環境改善にも適しているかもしれない。国際連合人間居住計画によれば、「世界中で進む都市化の大半は、行政力の弱い人口10-25万の小さな地域で起きている」

地方自治体は市民とより密接に関わり、地域の管理者や政治家は社会的要請への対応力が高い。つまり、気候変動の影響がこれまでになくさし迫る今日、持続的な発展のための地域政策は非常に重要なのだ。

しかし、地方自治体は経済面、人材面、情報面において不十分な場合が多いので、地域の持続的発展においては、知識や最優良事例を共有する共同アプローチが有効になる。イクレイ(持続可能性をめざす自治体協議会)の取り組みや欧州グリーン首都の賞レースは、正にこの点において重要なのだ。

“ビトリアの交通機関は、国連のBest Practices in Improving the Living Environment(住環境整備のための最優良事例)も受賞している。”

さらに、国連大学高等研究所のラクエル・モレノ=ペニャランダ博士は、ノウハウを持つ都市はそうでない都市に手を差し伸べるべきだと語る。地域の生態系サービスと生物多様性強化における都市生態系の役割について研究するモレノ=ペニャランダ氏は、「エコ化が進むヨーロッパ都市の政策立案者たちは、開発途上国のように永続的な地域環境問題を抱え、経済・知識の両面に乏しい地域の課題対処法について考えるべきだ」と提唱する。

「真の欧州グリーン首都とは、都市として非常に良く機能しつつ、同時に他地域との経験値の共有を厭わず、支援の手を差し伸べ、パートナーシップに進んで取り組み、真の持続可能性は結束を伴うということを示す都市なのだ」

政治情勢の恩恵

ビトリアの環境への取り組みは、常に政治に後押しされてきた。政治家たちが選挙に勝つための口約束としてではなく、持続可能性をビトリアの独自性の一つと捉え実際に行動で示してきたのだ。

ビトリアは二大政党制を敷き、つい最近社会主義政権が4年の任期を終え、野党による政権奪取も起きた。しかし、エコ都市活動はこの30年間でその勢いを増してきているのだ。

この取り組みの中核を担ったのは、80年代後半に設立された環境研究センター(CEA — Centro de Estudios Ambientales )である。この機関は今や政府のほぼすべての部門に対し、分析と解決策を提供している(2007年にパシュティ・ラスコース前市長との意見の相違から辞任したCEAの前センター長は、次期政権によって、環境政策と持続的発展に関係する全組織を監督するポストに任命されたばかりだ。これはビトリアの持続的な発展計画にとって大変良い兆しと言われている。なぜなら、ルイス・アンドレス・オリーベ氏がビトリアをエコ都市として大きく前進させた立役者として高い評価を得ているからだ)。

モレノ=ペニャランダ氏は、学術界の参画がエコ政策には欠かせないと説明する。同氏曰く、政策立案者と学者の対話は「後者の研究対象と前者が管理する都市の現実の関わりを浮き彫りにし、その逆もまたしかりである」。つまり、両者の対話は「都市の持続可能性への取り組みを理論から実践へと昇華させ、同様に政治的思想を都市計画に応用させる」可能性を高めるとモレノ=ペニャランダ氏は語る。

ビトリアのもう一つの斬新な動きといえば、ヨーロッパのどの都市よりも早くオールボルグ憲章 に参加したことだ(1995年に署名)。この憲章はローカルアジェンダ21への参加を各自治体に要請する持続可能な開発の枠組みである(アジェンダ21は1992年の地球サミットにおいて178の国や地域に採択され、「国連システムや政府機関、また人類が環境に影響を与える全ての分野の主要団体が実行すべき、地球、国、地域レベルの包括的行動計画である」)。

ビトリアのアジェンダ21の取り組みは、公害、交通、水質、エネルギー、生物多様性、環境リスクなど、様々な分野での達成水準を計る指標となった1998年制度(2004年に改定)を生み出した。

ビトリアはまた、2009年という早い段階で欧州委員会が設立した欧州市長誓約に調印している。この市長誓約は、2020年までに20%の二酸化炭素削減という欧州連合の目標に寄与する様々な持続可能エネルギー政策を、地域自治体に奨励するために設立された。

調印した都市は二酸化炭素排出目録の基準値を策定し、1年以内に、削減に向けた具体的な取り組みの素案となる持続可能エネルギー実行計画(SEAP)を提出することが求められる。2050年に向けて作成した実行計画により、ビトリアはヨーロッパの持続可能なエネルギー社会を目指すENNEREGプロジェクトにおいて、12のパイオニア都市の一つに選ばれている。

実在する持続可能性研究所

環境都市ビトリアのたゆまぬ取り組みがもたらした最大の功績はグリーンベルトである。このプロジェクトは欧州グリーン首都を受賞する上でも重要な役割を担った。1990年代、ビトリアにはスプロール現象に見まわれ、産業拡大に伴い砂利採取場やごみ捨て場などの荒廃した場所が無秩序に広がり、森などの脆弱で生態学的価値が高いエリアが(浸食や火事などの)脅威にさらされていた。都市周辺のこのような問題に対処するために、壮大なグリーンベルトプロジェクトが発足したのである。

現在グリーンベルトには6つの広大な公園(さらにいくつかの計画が進行中)があり、様々な生態系が存在している。そこには複数の湿地が存在し(一つはラムサール条約に指定)、南方に流れる河川への水の流れを形成するまでにその機能を回復した。これにより環境に悪影響を与えかねない運河の建設も回避することができたのだ。

環境が改善した一帯は、動物や鳥類の多様化を支える自然の回廊の役割を果たすだけでなく、サイクリングや散歩コースも備え、市民が「自然と親しむ場」としても設計されている。コースは現在も拡張を続け、いずれはビトリアをぐるりと囲う予定だ。またそこには2つの沼と、2箇所の野鳥観測所、造園施設のための託児所、そしてオーガニック食品を生産する複数の地域農園も存在している。

“環境都市ビトリアのグリーンベルトは、動物や鳥類の多様化を支える自然の回廊の役割を果たしている。”

モレノ=ペニャランダ氏は、街の緑化運動に市民を取り込むためには、市民に配慮した都市設計が重要だと言う。例えば、農業との関わりがない都市生活者は近代農業がどれだけ生態系に悪影響を及ぼしているかに関する意識が低く、農産物を買う際これについて考慮することがない。

「一方、地域のオーガニック野菜作りに参加している市民は、農産物購入の際によく考え環境負荷の少ない製品を買うだろう。またこのような市民は進んでよりクリーンで環境にやさしい都市造りに参加するだろう」とモレノ=ペニャランダ氏は述べる。

またビトリアの交通機関は、国連のBest Practices in Improving the Living Environment(住環境整備のための最優良事例)も受賞している。2006年に始まったこの計画には電車の開通やバス路線の見直しなどが含まれ、とりわけバスの待ち時間を10分に引き下げたことが功を奏し、2008年11月から2010年1月までの利用者が43.5%増(112万9,761人から162万1,140人)と劇的に伸びた。

サイクリングコースの拡充や自転車共有制度も計画された。また、車の使用を抑制するため、駐車料金を引き上げる新法や車両専用公園が設置された。

この壮大なプロジェクトはバスク自治政府とスペイン政府、およびヨーロッパの CIVITAS プログラムから支援を受けている。しかし、国連が最優良事例として評価したのは、プロジェクトへの地域社会全体の貢献度だ。「30以上の説明会や参加型ワークショップに加え、新しい公共交通機関の規模や運用について、市民に直接説明する100人以上の献身的なボランティア達の協力があったのだ」

エコカーと壮大な環境活動

つまり、ビトリアは長きに渡り、有言実行してきたのである。このような実績を持つビトリアは、2012年の欧州グリーン首都受賞後も更なる努力を惜しまないであろう。

学校アジェンダ 21のフォーラムにて生徒達が持続可能性に関して発表した際に、ラスコース前市長は「私たちは今以上に独創的で野心的になるべきだ」と述べている。

前市長が語るように、ビトリアは二酸化炭素排出の原因となる個人車両の使用を減らすため公共交通機関を拡充するなど、より革新的な取り組みを現在でも推し進めている。来年初頭には最初の電気自動車充電スタンド網が開設され、会員の希望の場所で1時間からレンタルできる電気自動車のカーシェアリングサービスも開始されるのだ。

また、節約の観点からも個人所有車両は減ると考えられている。ビトリアの環境都市計画を率いるアンドレス・アロンソ氏は、最近スペインの新聞に次のように語った。「私たちはカーシェアリングが1台増えるごとに6~10台の個人所有車両が消えると見積もっている」

ビトリアの電気自動車シェア計画は、マサチューセッツ工科大学らによる合弁事業Hiriko Mobility Project(ヒリコ運転可動性プロジェクト)にも参画している。この合弁事業は”シティカ―”をコンセプトとし、「都市空間に最適な移動手段となるべく、環境にやさしく経済的かつ持続可能な小型電気自動車の開発」を行う。目標は「バスク自治州の工業網を生まれ変わらせる」ことだ。

バスク自治政府のエネルギー局( Ente Vasco de la Energía)もまた電気自動車事業に乗り出している。エネルギー大手レプソル社と充電網の拡充事業で提携し(スーパーマーケットチェーンの協力を得て、すでに10の充電スタンドが開設)、加えてメルセデス・ベンツ社と商用電気バン”ヴィト”の開発においても合意している。

モレノ=ペニャランダ氏は電気自動車の利便性は否定しないものの、政治家が「枠にとらわれない考え方」ができれば最善であり、健全な科学に基づいた社会的意義のある解決策を見出すべきだと言う。

自転車における矛盾を引き合いに出し、「都市の環境問題への解決策は、私たちが考えるよりもシンプルな場合がある」と同氏は指摘する。多くの都市、特に開発途上国において、自転車は単なる代替交通手段と化しており、実際には自転車利用者のための都市計画は成されず、自動車が優遇されているのが実情だ。

「高速道路を大量に建設するような自動車優遇の開発を止め、自転車をこよなく愛する人たちにまず何かする方が賢明ではないだろうか?」

進むべき(自転車)道

モレノ=ペニャランダ氏は、(都市はそれぞれの経済、地理的、人口動態、付属する国/地域により異なる問題を抱えているものだが)ビトリアは刺激的な事例である。しかし、そのように環境都市として確立しているビトリアでさえも、「今後さらに目標を高く設定し、環境によりやさしい都市の姿を意欲的に模索し続ける事が必要だ」 と語る。

サルブルア公園観測所。撮影:エンリケA. ガルシア・ヒメネス

サルブルア公園観測所。撮影:エンリケA. ガルシア・ヒメネス

“モレノ=ペニャランダ氏は、持続可能な都市の姿を追求するあまり、外部に弊害をまき散らすという矛盾に陥ってはならないと警告する。”

また、周辺地域への影響も考慮できる都市こそが、真の環境都市であると同氏は言う。持続可能な都市の姿を追求するあまり、外部に弊害をまき散らすという矛盾に陥らないためにも、政治家は今まで以上に持続可能な生産と消費の関係に気を配る必要があると釘を刺す。「太陽電池パネルの利用には賛成だが、それを生産するために他の地域に公害が発生するようなことはあってはならない」

「自治区内の取り組みが、地域・地球レベルにどのような影響を与える可能性があるかを考慮すべきなのだ。都市のエコ活動は地球環境へ直結しているのだから」 と同氏は訴える。

「都市生活と社会は動的活力に満ち、思考、人、物質が加速度的に渦を成し存在している。今日達成した画期的な持続可能性も、明日の課題の前では小事と化すかもしれない。現在、地球環境や社会は未曽有のスピードと前例の無い規模で変化し続けている。人類の幸福のために、都市はさらなる役割を担って行くべきだ」

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緑化を生かすバスク自治州 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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