70億人という数字から見えるもの

国連によると地球は今や70億の人間を抱えている。記念すべき70億人目の誕生は2011年10月31日とされているが、驚くことに、正確な日にちについては知ることができない。

人口増加推計データには誤差があるため、日付には前後数カ月の幅があると見られ、米国勢調査局は、この日を2012年3月中だとしている。それでも国連の発表が行われると、「70億人目の赤ちゃん」の認定証の申し込みが相次いだ。

この中でも一番有名なのがフィリピンで誕生したダニカ・カマチョちゃんだ。マニラでの出産に立ち会った国連人口基金の職員は、どの国も人口増加に伴う経済成長の基盤を整え、国民全員が医療、教育を受けられるよう備えをしておくべきだと述べた。

インドでは多くのNGOがこの機会を利用し、女児に対する選択的中絶への注目を求めた。女児中絶によりインドの多くの州では男女比率に著しい不均衡がある。2011年インド国勢調査によればハリリヤナ州では男児1000人に対し女児877人、6歳未満では男児1000人に対し女児はわずか830人である。あるNGOは女の赤ん坊でいっぱいのウッタル・ブラデーシュ州の病棟を選び、別のNGOプランインターナショナルはこの州で生まれた女児ナルジスちゃんを70億人目と認定した。

世界では10億人単位の人口増加のスピードは増すばかりだ。最新の10億人はここわずか13年の間に増加した。この数字を見て地球の未来を危惧する意見が支持されるのも当然だろう。もちろん、マニラで人口増加に備えよと述べた国連職員はこのような発言はしていない。実際は人類が安定して存続するには、人口だけではなく消費を考慮に入れなければならないのだが、一般的に「備え」というと、より多くの資源の確保に焦点を絞ることが多い。

人口については、尋ねる相手によって様々な問題点が挙げられる。環境保護論者は、あまりにも多くの人が不十分な資源を奪い合っている上、そもそも存在している資源に対するアクセスも不平等だと繰り返し主張している。需要増にこたえるには、2050年までに現在の7割増しの食料が必要だ。

これは人口増加が理由ではなく、途上国で中流階級に属する人口が増加するため消費が7割増加するためだ。

一方、経済学者に尋ねると、別の人口問題が指摘される。人口不足、特に若年層の不足だ。

裕福になるか、なれずに死ぬか

多くの経済学者の間では中国が老齢化する前に裕福になれるかという点が盛んに議論されている。「人口のボーナス」とは、死亡率が減少することにより、国の経済成長を支える就労人口が増加するという説だ。

この理論の前半部分は自己実現の預言ともいえるが後半はそうではない。人口世界一のこの国では一人っ子政策によって本来あるべき人口のボーナスが減り、中国経済が大成長を遂げた黄金期は、それが国の隅々に行き渡る前に衰えてしまうという懸念が広まっている。

東アジア、東南アジアの大部分では高齢化が急速に進んでいる。高齢化を避ける唯一の方法は出生率を今以上に高く保ち続けることだ。人口のボーナスを使ってしまい人口減少を恐れる国々は、理にかなう政策変更を検討している。つまり経済力になる若者を増やす策だ。

個々の国レベルで見れば、おそらく最もシンプルな方法は、既にこの地球に存在する人々を移民として受け入れることだ。20世紀初頭から新興国の間では大々的な移民政策は盛んだった。アメリカは貧しく飢えた者たちに、超大国を創ろうと夢ある呼びかけを行ったものだ。

地球の反対側にあるオーストラリアは世界市場から「ティラニー・オブ・ディスタンス(距離の過酷さ)」によって抑圧されてきたため、「人口を増やすか、消え去るか」はまさに生死の問題だった。この姿勢は、ケビン・ラッド前首相のビッグ・オーストラリア政策にも現れていたが、のちにこの政策は人口より利益を優先するものとして非難されることとなった。

東アジアの先進国では出生率と婚姻率の低下がしばしば報告されている。 特に日本だ。この傾向はアメリカでも見られるようになり、成人の半数以上が未婚になると見られている。移民がだめなら人口増加の唯一の方法は子をつくることだ。将来を不安視する韓国政府が、子づくりに励んでもらおうと公務員を早く帰宅させる日を設けたのも不思議ではない。

若者にやさしい国は存在しない?

現実的に見て、先進国では赤ん坊を生み出すより年寄りを生み出すほうが簡単だ。経済が発展し、出生率が下がると、若者の数が減少し、時間が経てば高齢者人口は増加する。これに加えて寿命が延びればこの傾向はさらに強まる。

西洋では戦後のベビーブーマーが「ミー・ジェネレーション」となり、カウンターカルチャー、ヒッピー、ヤッピーを生みだした。彼らはまた、様々な環境・金融危機をもたらし、現代的西洋文化と呼ばれる文化の大部分を支配してきた。親を介護施設に入れるのが当たり前になってきた世代は(彼ら自身も高齢化している)、自分も施設に入れられることをいとわないだろうか。それとも同世代パワーを利用して高齢者への年金やその他の権利の法制化を求めるだろうか。

親の面倒を見る子供の数が減少しているのを受け、シンガポールは1995年に親が子孫による介護を要求できる「Maintenance of Parents Act(両親介護法)」を制定し、親子の情を法で強制しようとしている。制定後3年以内に400人の親(主に父親)がこれを申請している。

とはいえ、仕事がなければ若者が事態の解決策とはならない。高失業率、とりわけ若者の失業は世界的に見られる現象だ。最近の報告によると、今後10年間の経済成長と社会の安定を保つためには、世界全体で、生産性の高い職を6億も創出しなければならない。

「アラブの春」を思い起こせば、不満を抱く若者のパワーを痛感させられる。今でも世界中の若者は機会さえあれば田舎を離れ大都市へと飛び出そうとする傾向にある。アメリカ中世部に多い過疎化に悩む町は、都会に疲れた人々を取り戻そうと無償の土地譲与まで試みた。世界でも最大級の巨大都市、東京ですら2050年までには高齢化がかなり進行すると見られてる。その一方で国家の食の確保のため農業を守るには地方の人口増加が必要だとされている。

若者を育てる

70億という数字の裏を読むと、様々な世界観や山積みの課題、それらに対応するための一見矛盾した政策の数々が見えてくる。地球にとっては人口が少ない方が好ましいという共通認識があるにもかかわらず、多くの地域では経済を守り、高齢者を支えるために人口増加が求められている。

経済成長により出生率が低下する一方で消費は増えている地域もあり、地球の資源の負担は今後も大きくなるだろう。経済成長維持のために人口と消費を限りなく増加させなくても済むような新たな経済モデルを見つけることは有益である。だがそのためには経済を今より小規模にして、世代間の関係を強化し、、高齢者を負担ではなく貴重な資源とみなすことが必要だ。

様々な課題はあるものの、60億人目誕生からわずか13年後に70億人目が誕生したことを思えば、この世界は圧倒的に若いといってよい。この若者たちがより知識を深め、直面する膨大な課題に対する独創的な解決策を生み出すことに長けた世代となってくれるよう期待したい。そのためには彼らが受ける教育が極めて重要となる。これは何も子供や孫のためだけではなく、親や祖父母の生活の質向上のためにも、ますます大切なものとなるだろう。

翻訳:石原明子

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70億人という数字から見えるもの by クリストファー・ドール is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

クリストファー・ドール氏は2009年10月に、東大との共同提携のうえ、JSPSの博士研究員として国連大学に加わった。彼が主に興味を持つ研究テーマは空間明示データセットを用いた世界的な都市化による社会経済や環境の特性評価を通し持続可能な開発の政策設計に役立てることだ。以前はニューヨークのコロンビア大学やオーストリアの国際応用システム分析研究所(International Institute for Applied Systems Analysis)に従事していた。ドール氏はイギリスで生まれ育ち、ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジにてリモートセンシング(遠隔探査)の博士号を取得している。

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