伝統的な発酵食品の効用

発酵食品や発酵飲料は、世界中で人々の食生活の一部となっている。1日の食品摂取量のうち、発酵食品の占める割合が5%程度にすぎない地域もあれば、40%にまで達する地域もある。

地元で手に入る動植物素材に関するその地域固有の知識を使って、世界中の人々がこのようなタイプの飲食物を生産している。その方法は、自然発酵による場合と、微生物の入った発酵スターターを添加する場合とがある。微生物は、素材に生化学的変化(つまり栄養素の変化)と感覚的変化(つまり味・触感・匂いの変化)をもたらすことにより、その素材を生産者と消費者の文化において好ましい食品に変身させるのだ。

発酵食品には、焼く、茹でる、砂糖漬けなどの多様な調理方法があり、またカレー、シチュー、付け合わせ、酢漬け、菓子、サラダ、スープ、デザートなどの形でも食される。またペースト、調味料、香辛料、噛む嗜好品、時には着色料として使われることもある。発酵飲料は、アルコール飲料(ビールやワインなど)もあれば、ノンアルコール飲料のバターミルク、ある種のティー、さらに酢を含むものなどもある。

しかし、多くの発酵食品が健康促進の効果を持つにもかかわらず、伝統的食料システムが西洋の食生活とファストフードに席巻されるにつれ、その消費量は世界的に減少しつつある。

治療食の世界

さまざまな民族によって食される発酵食品の多くには、食事療法における価値が認められている。最もよく知られているのが発酵ミルク(つまりヨーグルトやカード)であろう。これらの食品には体に良い働きをするプロバイオティック・バクテリアが多量に含まれており、コレステロール値を下げる効果がある。

“ケフィアは消化が良く、健康な免疫系の働きを助ける微生物を提供してくれる。”

注目を浴びている発酵食品のひとつに、東欧と中東諸国で見られる、粘り気と酸味を有する弱アルコール飲料がある。特別な種菌によってミルクを発酵させ作られるケフィアという飲料だ。ケフィアは消化が良く、健康な免疫系の働きを助ける微生物を人体に提供してくれる。そのため、エイズ、慢性疲労症候群、ヘルペス、癌などの患者に恩恵をもたらすとされる。伝統的には結核や癌の患者の治療において用いられてきた。またコーカサス地域で見られるもうひとつの自然発酵乳製品クミスは、肺結核の治療に使われてきた。

“日本で朝食に好んで食べられる、ねばねばした高タンパクの食品である納豆のような発酵食品は、抗酸化などの性質を持つという報告がある。”

他にも広く食されている健康食品として、アジア地域で見られる発酵大豆食品がある。例えば日本で朝食に好んで食べられる、ねばねばした高タンパク食品である納豆のような発酵食品は、抗酸化作用などの性質をもち、脳内出血を予防する働きがあるという報告がある。納豆はまた、骨形成を促すビタミンK2が豊富なため、高齢者の骨粗しょう症予防につながる可能性があるとされる。同様に、インドネシアのテンペにはコレステロール値を下げる働きが、中国の豆豉(トウチ)には高血圧を改善する働きがある。

“中国の豆豉は高血圧を改善する。”

韓国の有名な付け合わせ料理キムチにはたくさんの効用があるが、便秘、結腸癌を予防し、血清コレステロールを減少させるだけでなく、抗ストレス効果があり、抑鬱症、骨関節炎、肝疾患、肥満、アテローム性動脈硬化症などを改善すると言われている。

ヒマラヤ山脈で食べられている、グンドゥルクと呼ばれる発酵青菜や、シンキと呼ばれる発酵大根は、乳酸、アスコルビン酸、カロチン、食物繊維が豊富で、抗癌作用を持つ。ヒマラヤ山脈では、病人や産後の女性が精力を付けるために、高カロリーであるbhaati jaanr(米発酵食品・飲料)のエキスやkodo ko jaanr(発酵させたシコクビエの飲料)が用いられる。

発酵のマジック

食品発酵のひとつの重要な役割として、食品に含まれる必須アミノ酸、ビタミン、ミネラル、生物活性化合物の増加が挙げられる。例えば、テンペの発酵過程では、クモノスカビの一種であるRhizopus oligosporusをスターターとして用いることによって、ナイアシンやリボルラビンといったビタミンが豊富になる。同様に、インドやスリランカで食される、米とケツルアズキというマメを発酵させたイドゥリは、その発酵過程でチアミンやリボフラビンの量が増える。

“プルケは最古のアルコール飲料のひとつ。メキシコのサボテンの汁から作られる。”

食品の栄養価を高めるため、人が賢い方法を考え出したのは、アジアに限られたことではない。メキシコのサボテンの汁から作られる最古のアルコール飲料のひとつであるプルケには、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ビオチンといったビタミンが豊富に含まれている。

食品の発酵には、微生物からうまく有用な酵素を引き出すという、もうひとつの重要な働きがある。酵素は抗栄養素を分解することによって、消化や味やその両方ともが良くない食べ物を、味と香りのいずれも良い食べ物に変身させる。キャッサバの苦味種はそのままでは毒性を持つ物質を含んでいるが、乳酸菌によって解毒される。アフリカで食されているgariやfufuといった発酵キャッサバがその例である。

“キャッサバの苦味種は乳酸菌によって解毒される。アフリカで食されているgariやfufuもその例である。”

乳糖不耐症や乳糖吸収不良に悩まされる人は多い。これはミルクに含まれる主要な糖質である乳糖が完全には消化しきれないため生じる症状である。ヨーグルトやカードを作る際に使われる培養菌には、相当量のß-D-ガラクトシダーゼが含まれている。これが乳糖吸収不良の症状を和らげるのに役立つと考えられている。ヨーグルトは粘性食品であるため胃内容排出を遅らせ、それによって乳糖不耐症を緩和させるのであろう。

健康に良いが、価値が正しく評価されていない

発酵食品は、健康食品・機能食品・治療食・栄養補助食品、あるいはバイオ食品として世界規模で販売されてはいるが、都市化、ライフスタイルの変容、伝統的食習慣から商業的ファストフードへのシフトにより、伝統的発酵食品の生産および消費は減少傾向にある。

たとえ発酵食品が消費されたとしても、家庭で作られたものや地元の町工場で作られたものではなく、スーパーで販売されているパックに入ったものであることが多い。その結果、発酵食品の伝統的知識を持ち、何もないところからこれらを作り出せる人がどんどん減っている。ごく少数の発酵食品提供者に依存せざるを得ない結果、微生物の生物多様性、すなわち微生物多様性の減少に結びついている。これらのトピックに関しては、次回の記事で、より詳しく述べようと思う。

翻訳:金関いな

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伝統的な発酵食品の効用 by ジョティ プラカッシュ・タマン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ジョティ・プラカッシュ・タマン教授は、世界の発酵食品についての専門家であり、特に食文化、微生物学、栄養学、機能特性の分野に詳しい。タマン教授は現在インドのシッキム国立大学で微生物学を教えている。かつて国連大学フェローとして、日本の食品総合研究所においてポスドク研究を行った経験をもつ。著書には「Himalayan Fermented Foods: Microbiology, Nutrition, and Ethnic Values(ヒマラヤの発酵食品:微生物学、栄養学 そして民族的価値観)」と、「Fermented Foods and Beverages of the World(世界の発酵飲食品)」の2冊があり、いずれもTaylor & Francisグループに属するアメリカのCRC Pressから出版されている。

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