ピークオイル政策の概観

どうやらほとんどの政策立案者は、ピークオイルの現実にまだ目覚めていないらしい。眠る彼らをちょっとひじで突く意味で、この記事では、従来型の石油生産がピークを迎えるにあたり、彼らにどのようなことができるかを紹介する。以下の4つのシナリオは、大きな影響力を持つ科学者、エンジニア、環境団体が発表したさまざまなレポートに基づくものだ。

これらは、どのような行動がとられるかをおおまかに示すシナリオで、具体的にどのように行動してもらいたいかを挙げるわけではない(具体的な政策は、今後の記事で明らかにするつもりだ)。以下に示す通り、4つのシナリオは「革新的な構造改革」「適応」「緩和」「何もしない」に分けられるが、互いに重複するところがないわけではない。

各シナリオの主な提唱者たちもこの記事で挙げておきたい。彼らは、ピークオイルの影響に実際に対応することが自分たちの役割だと考えていたわけではないかもしれないが、気候変動や再生可能エネルギーの推進といった関係のある事柄には取り組むことができたのかもしれない。

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この記事の目的からすれば、「何もしない」シナリオは無視してよいだろう。「何もしない」というのは毎度のことだ。今日、ほとんどの国はこの状態にあり、幸運あるいは技術的な奇跡のかけらが実際に舞い降りてくるようなことがなければ、幸せな結末を迎えることはなさそうである。それは放っておいて、まずは「革新的な構造改革」のシナリオから始めてみよう。

平和的な革命を通してあらゆるものを作り直す

このシナリオによれば、私たちは全世界で、特定の日までに100%再生可能エネルギーに移行しなければならない。科学者の中には、この移行は2030年までに完了できるという人もいれば、2050年だという人もいる。しかし、このシナリオを推進する科学者は、化石燃料と原子力の両方を段階的に廃止しなければならないという点では、意見がほぼ一致する。

このシナリオで明らかにされている問題は、再生可能エネルギーだけで必要な電力を作り出すのは、現在の技術では不可能かもしれないということだ。そこで、この戦略を支持する人たちは、省エネルギー対策によって、電力消費量を今日のレベルから約50%削減することを提唱している。これはポストカーボン研究所のリチャード・ハインバーグ氏の言葉では「パワーダウン」であり、ロッキーマウンテン研究所のエイモリー・ロビンス氏は「ネガワット」と呼んでいる。ネガワットは、エネルギーの節約や効率向上の直接的な結果として削減される消費電力量を指す。

しかし、エネルギー供給システムを変え、省エネルギーを進めるだけでは十分ではない。このシナリオではまた、スマートグリッド、電気自動車、非ピーク時の電力貯蔵(例:水素燃料への転換、電池への貯蔵)などを導入するため、技術の劇的な変換が求められている。家庭は発電所になり、自動車はバッテリーになる。電化製品メーカーは電気自動車を製造するようになり、自動車のメーカーはエネルギー効率の良い家を建てるようになり、ショッピングセンターは電気自動車の充電ポイントになり……変わるものは枚挙にいとまがない。

まさに大改造である。しかし、容易ではない。企業は勝ち組と負け組に分かれる。化石燃料や原子力発電業界は政府に強硬に働きかけたり、一斉にPRキャンペーンを仕掛けたりして、抵抗を続けるだろう。ロビー活動については、監督機関は政治家を選ぶ権利を持っている市民の意見を取り入れるはずだが、米国やカナダのような国では、自分たちに不都合な動きに対抗して、業界が(政治家を通じて)規制機関に圧力をかけることが少なくない。

このシナリオにまつわる2つの課題は、どのようにして再生可能エネルギーの安定供給を可能にするか(風力、太陽光、波力のエネルギーの間欠的性質の克服)、そして新技術への大転換中に、既存の航空機、トラック、自動車に用いられている液化燃料の問題をどのようにして解決するかに関わっている。

「革新的な構造改革」シナリオと同様のアイデアを推進している主な人々としては、ジェレミー・リフキン氏(第三次革命)、エイモリー・ロビンス氏(火を再発明する)、リチャード・ハインバーグ氏(パワーダウン)、マーク・ジェイコブソン氏とマーク・デルーチ氏(2030年までに持続可能なエネルギーを実現する方法)などがいる。

同様の提案をしている環境団体としては、グリーンピース(Energy [R]evolution)と世界自然保護基金(エネルギーレポート)が挙げられる。

例を挙げると、ジェイコブソン氏とデルーチ氏は、2030年までに、私たちは世界のエネルギー消費を11.5テラワット(現状で予測されているのは16.9テラワット)まで削減でき、再生可能エネルギーで100%賄える(太陽光41%、風力50%、水力9%)ようになると述べている。これを達成するには、例えば、380万基の風力タービンを建設することが必要である。

このシナリオが根を張り始めている場所を世界に探してみると、それはスウェーデン、デンマーク、ドイツ、米国のカリフォルニアあたりではないかと思われる。

適応シナリオ – 私たちのレジリエンスを高める

ほとんどの読者の皆さんは、気候変動適応という言葉にはなじみがあり、気候変動の影響に対する人間や社会のシステムの脆弱性を低減するという、そのゴールについてもご存知だろう。ピークオイルの適応シナリオも同じようなところを目指しているが、ここでのゴールは、石油生産量低下の影響に対する経済および社会のシステムのレジリエンス(変化に対する柔軟な強さ、回復力)を高めることにある。

このシナリオでは、原子力エネルギーも再生可能エネルギーも推進するが、気候変動が手に負えなくなるのを避けるために、化石燃料への依存を減らすことが求められている。しかし、化石燃料から脱却すれば、エネルギー生産量が大幅に不足することは免れないため、その問題については大規模な技術革新と投資で対処せざるをえない。

例えば、発明家で技術者のソール・グリフィス氏は、自身が提唱するゲームプランで、2033年までに、エネルギーの63%が再生可能資源から得られるようになると論じている。そうなると、気候の上昇を2度までに抑えるのに役に立つ。しかし、グルフィス氏の計算によると、その状況に達するには、今後25年間にわたり、3ギガワットの原子力発電所を毎週1基、100メガワットの蒸気タービンを毎日3基、3メガワットの風力タービンを毎時12基、太陽光パネルを毎秒100平方メートルずつ建設し続けなければならない。このような開発のスケールは驚異的だが、工業生産システムの焦点をこのゴールに合わせるのであれば、能力を超えているということはない。

このシナリオの目標は、従来通りのライフスタイル、利便性、サービスを維持しながら、化石燃料からの脱却を図り、エネルギー使用量を全体的に減らし、先進国と途上国の間で、より均衡をとるように取り決めをすることだ。この考え方はしばしばコンバージェンス(収束)と称され、 先進諸国が自らのエネルギー消費を抑制して、その他の国々に発展の余地を提供するのが主旨だ。私たちは1人あたりのエネルギー消費量と二酸化炭素排出量をあるレベルに収束させることを目指すことになる。

このシナリオの問題点は、原子力エネルギーの選択肢を残して、原子力事故のリスク(現在では10年から20年に1度の割合で起こっている)を無視し、放射性廃棄物の処理方法の問題を将来の世代に先送りしていることだ。

ソール・グリフィス氏はエネルギーリテラシーの向上と全体の「パワーダウン」を呼びかけており、個人の生活におけるエネルギー使用量を11,000ワットから2,300ワットに下げることを求めている(もっとも、これは多くの途上国にとってはパワーアップである)。この文脈において、彼のアイデアは、スイスで生まれた2,000ワット社会や日本の低炭素社会に呼応するものがある。ここで示されているのは、1人あたり2000ワットで極めて質の高い生活が維持できることだ。

そういうことから、このシナリオは日本やスイスで支持され始めている。しかし、再生可能エネルギーへの投資が急速に伸びてきていることを考えると、中国やインドがこの方向性に近づくことも考えられる。

緩和シナリオ – 緊急対応

さて、ここで4つ目、最後のシナリオだ。このシナリオには、私たちはピークオイルに対応するのが遅すぎたという前提がある。2005年のハーシュ報告書『Peaking of World Oil Production: Impacts, Mitigation, and Risk Management(世界の石油生産ピーク:影響、緩和、リスク管理)』 が出発点である。ロバート・ハーシュ氏はこのシナリオの提唱者として最もよく知られている人物だろう。そして、この論文は、生産がピークを迎えるのを待っていたら、世界は20年間、液化燃料の不足にあえぐことになると論じている。また、ハーシュ氏は2010年の著書『The Impending World Energy Mess(緊急エネルギー危機)』において、世界が取ることができるさまざまな緊急対策を挙げている。

私たちはまだ、この長い危機状況の初期段階に入ったばかりだが、行政的な対策と物理的な対策の2種類が必要とされている。前者に含まれるのは、カープーリング(相乗り)、在宅勤務、燃料配給制などだ。一方、後者に挙げられるのは、燃料効率の良い輸送手段の導入、既存油田からの回収率の向上、タールサンドから液化燃料への転換、石炭液化合成や天然ガス液化合成などがある。

ハーシュ氏の計算によると、そのような対策によって、世界は1日に石油3000万バレル相当分を節約できる(比較までに挙げておくと、私たちは1日に平均8000万バレルを使用している)。もっとも、世界経済が石油の少ない状況に合わせられるまでには、緩衝期間もしくは移行期間が必要である。

これらの緩衝対策の効果は、石油生産減少のスピードにかかっている(通常は年間4〜6%)。もし急激に生産量が下がると(約10%)、私たちの対応能力では追いつかなくなり、私たちは破滅に追いやられかねない。

このシナリオでは、原子力エネルギーと再生可能エネルギーの選択肢は考慮されていない。というのは、それらは電気を生産するだけで、輸送問題の解決にすぐに役立つわけではないからだ。たとえば、世界のガソリン車がこれから20年ないしは30年の間に電気自動車に切り替わるには、5兆米ドルから10兆米ドルの費用がかかると見られている。

残念ながら、このシナリオは環境、特に気候に対する影響を完全に無視している。どれほど環境を破壊するものであっても、あらゆる可能性を探って液化燃料を開発することが求められているのだ。特に思い出すのは、カナダのタールサンドのことである。また、このシナリオでは、バイオマスを原料とする液体燃料合成は解決策に含まれていない。その主たる理由は、バイオマス燃料には極めて手厚い補助金が必要だからである。

ハーシュ氏と彼の同僚の仕事に加え、同様の筋書きのシナリオを提唱している組織には、英国の Industry Taskforce on Peak Oil and Energy Security(ピークオイルとエネルギー安全保障に関する産業タスクフォース)がある。

このシナリオに歩調を合わせているように見える国は米国、英国、カナダである(だが、これらの国々は「何もしない」シナリオに入るのではないかという意見があるのも十分に承知している)。

全てのシナリオ

さて、皆さんの国は今、どのような立場をとっているだろうか? どのシナリオがあてはまるだろうか? おそらく答えは「挙げられていたものすべて」だろう。たしかに、革新が進行している場所もあれば、明らかに適応策もしくは緩和策がとられている場所もあるようだ。しかし、それ以外の場所では、人々は安価な石油の終焉とそれが意味することについて(こ幸せなことに)気がついていないらしい。

「革新的な構造改革」と「適応」のシナリオは実に興味深く、進歩的だと思われる。しかし、この変容にはどれほどのコストがかかるだろうか? グリーンピースの試算によると、彼らの提案を実現するには、現在から2030年までの間に、再生可能エネルギーへの投資を17.9兆米ドル上乗せすることが必要だ(これは何もしない場合よりも60%多い)。

これらの2つの先進的なシナリオを採用することが好ましい理由は数多くある。そのなかには、少し挙げただけでも、グリーンな雇用の新規創出、エネルギー安全保障の向上、核廃棄物がこれ以上増えないこと(革新的なシナリオの場合)、気候への影響の軽減、資源争いに端を発する紛争勃発の可能性の低下などがある。しかし、そのようなシナリオが必要とする、優れた国の指導者はいないのではないだろうか。さらに私たちには危機感もなければ、化石燃料や原子力エネルギーで既得権益を貪っている人々を相手に前向きな議論を進める能力も持ち合わせていない。

結局のところは、「緩和」あるいは「何もしない」シナリオにおさまってしまうのかもしれない。これらの結末は、控えめに言っても、経済的にも社会的にもひどく痛ましいものだ。

おそらく私たちに必要なのは、これらの想定シナリオを細部まで、また世界、国、地域のすべてのレベルについて、さらに精緻化することだ。データや分析もさらに必要である。どのようにすればエネルギー革命が可能か、なぜそれに意味があるのかについて、説得力のある議論を構築しなければならない。これらの困難で複雑な問題にまずは真剣に取り組み、そして劇的な変化をもたらすように尽力する政治指導者も必要だ。なかなか叶えられない要求だが、無理というわけではない。今、これらはすべて必須である。もう時間がないのだ。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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ピークオイル政策の概観 by ブレンダン・ バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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