ブラジルのバイオ燃料と牛肉

サンパウロ州ロンドリアナ市近郊で牧場を営むベチャラ・サアブは、廉価な廃棄物を家畜飼料に変える簡単な方法を開発した。

これは、サトウキビを加工する際に産出される繊維質の廃棄物「バガス」を使った方法だ。家畜にとって消化しやすい魅力的な飼料に改良すべく、現在世界各地の研究室でも、バガスの発酵法を研究している。

この研究はある特定の菌類を中心に行われており、植物バイオマスの主要成分であるセルロースをグルコースに変えることができる。しかし、そのプロセスには多額の費用がかかるため、研究室外での大規模生産は未だに実証されていない。

サアブが開発した簡単な新技術とは、貯蔵したバガスを数か月間、自然に発酵させるという方法。豊富で廉価な(1トン当たり約3米ドル)バガスを再利用するサアブのやり方は、ブラジルの牧場経営者たちが直面する飼料供給の課題に、費用効率の高い解決法を見出したと言えるだろう。

そもそも、なぜブラジルに大量のバガスがあるのだろうか?その答えは「エタノール」にある。

ブラジル・バイオ燃料の成功

化石燃料から脱却し、エネルギーの新しい供給手段を見つけることは急務である。バイオ燃料生産の経済的、環境的、社会的影響が広く議論される中、近年、バイオディーゼルとエタノールの重要が伸びつつある。

現在、世界中には約1600万台のフレックス燃料車(エタノール混合ガソリンで走行可)が走っている。

フレックス燃料車に必要なエタノール量は、国ごとに異なっていて、例えば米国ではガソリン15%とエタノール85%(E85)の混合を使用しているし、ブラジルではエタノール100%(E100)で走行するよう設計された自動車がある。

ブラジルは、世界で屈指のバイオ燃料プログラムを誇っており、自動車燃料の50%はエタノールだ。

コペルニクス研究所によると、ブラジルのエタノールは比較的持続可能だという。その理由は様々だが、例えば、サトウキビは作付面積当たりのエタノール生産量が多いことに加え、ブラジルの高度な農工技術も挙げられる。

“エタノールは効果的な解決策だが、ブラジルに倣うことができるのは数少ない熱帯諸国しかない”

世界銀行の報告書では、ブラジルのエタノール生産は、米国で生産されるトウモロコシ製エタノールより温暖効果ガス削減への貢献度が高く、正味エネルギーバランスも格段に良いことが示されている。(ガソリンエネルギー単位当たり、サトウキビ製エタノールは8エネルギー単位、とうもろこし由来のものでは1.3エネルギー単位。)

このため世界銀行はトウモロコシ製エタノールに批判的で、「スポーツカーの燃料タンクを満タンにするのに使用するエタノールで(100リットルのエタノール生産にトウモロコシ240キロを使用)、1人の人間を1年間養うことができる」と主張している。

また、ブラジルエタノール産業への副次的な悪影響や批判もあり、『ホット・フラット・クラウディッド―緑の革命を必要とする理由-アメリカを一新させる方法とは』の著者トーマス・L・フライドマンに共感する人たちも多い。「エタノールは効果的な解決策だが、ブラジルに倣うことができるのは数少ない熱帯諸国しかない」と彼は指摘している。

廃棄物の再利用

サトウキビ製エタノールの生産過程で大量廃棄されるバガスは、主に製紙や電力生産に再利用されている。

業界分析によると、バガスを利用した電力発電は2007年に3ギガワットに達し、ブラジルの総エネルギー量(エネルギー需給量)の3.03%を占めている。さらに2014年には12.2ギガワットに拡大すると予測されている。

今日、手つかずのバガスが大量に貯蔵されている。この安価な廃棄物の貯蔵期間が長引けば長引くほど自然発火の危険性が高まることから、サトウキビ工場やその周辺地域で悩みの種となっている。

この危険性を最小限に抑えるために、工場ではバガスを燃焼処理しているが、多くの場合、非効率的な加熱炉に頼っている。他の国々では、バガスを放置し腐敗させる、焼却する、河川に流すなどの環境に悪影響を及ぼすやり方で処理しているのが現状だ。

その点、ベチャラ・サアブが考案した新技術は、まさに一石二鳥だ。大量のバガスを処分することができ、また家畜の飼料になり得る。しかし、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)のラジェンドラ・パチャウリ議長をはじめとする多くの人々は、「我々は根本的に肉食を減らし菜食に移行すべきだ」と主張している。

世界の牛肉消費バランス

近代の食糧生産技術と輸送手段の炭素フットプリントは、非常に高い。「食肉生産は、様々な理由から特に集約的である」と結論付けたある分析は、次の記事に明確に要約されている。

「牛肉消費には、大量のエネルギーと自然資源が必要である。牧場での飼料生産、糞尿の処理(強力な温暖化ガスであるメタンガスを大量に放出する)、家畜の出荷、屠殺、肉の加工、パッケージ、死体の処理、小売店への販売、店から消費者宅までの輸送、食事の準備をするまで冷蔵庫で貯蔵、そして調理するまでの全行程においてだ。」

“実質的には、エタノール生産に必要な農地で家畜飼料を生産していることから、バガス飼料で育てた肉牛のエコロジカル・フットプリントは少ないと言えるだろう。”

しかし、反対意見もある。肉は先進国では簡単に手に入る食材だが、途上国では貴重なタンパク源であるとカルロス・セレは指摘する。

さらに、世界中で毎年1億6800万トンの乾燥バガスが生産されており、主要飼料である大麦の総生産量(1億4000万トン)をはるかに超えている。

実質的には、エタノール生産(持続可能なエネルギー資源)に必要な農地で家畜飼料を生産していることから、バガス飼料で育てた肉牛のエコロジカル・フットプリントは少ないと言えるだろう。

Creative Commons License
ブラジルのバイオ燃料と牛肉 by 小沢和義, リリアン 山本 and ミゲル・ エステバン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ブラジルの牧畜経営者。1955年に慶応義塾大学卒。現在、微粉石灰と半嫌気的発酵による脱リグニン化とヘミセルロース除去に取り組んでおり、バガスの飼料価値を向上させるべく研究に従事している。

神奈川大学の博士課程に在籍中。ブラジル・ロンドリアナ大学法律学部卒。

イギリスのブリストル大学で土木工学修士号を取得(2002年)。“Structural and Financial Risk Assessment of Caisson Breakwaters against Wind Waves and Tsunami Attack”と題した論文で、沿岸工学の博士号を取得(2006年)。このテーマには、ケーソン防波堤の破壊モードと建設に伴う財務的リスクの評価が含まれる。

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