海が(さらに)緑色になる前に、グリーン経済の構築を

2013年7月初め、文字通り鮮やかな緑色に変色した海を映した衝撃的な映像が登場し始めた。藻が寄せ集まったネバネバした固まりは重みと厚みを帯び、緑色の波が沿岸に打ち寄せ、数マイル先の沖合まで広がっている。海岸さえも藻に覆われており、中国の沿岸の街、青島市はブルドーザーを使って7000トンの藻を撤去している。

この6年間、青島の沿岸沖では藻類ブルームが毎年生じているが、今年の発生範囲は2万8900平方キロメートルを超えた。これはベルギーの面積とほぼ同じであり、2008年の最大記録の2倍以上である。

このような大規模な藻類ブルームは、化学肥料の大量流出との関連が示されてきた。多くの場合、流出源は下水や農地からの流出液である。藻の大量発生は水中の酸素レベルを急変させるため、魚類が窒息し、カキなどの不動生物が死に、全生態系が崩壊してしまう。その結果、世界各地の河川デルタや沿岸海域では、デッドゾーンが形成されている。

レイチェル・カーソンから生じた誤った楽観主義

世界の海洋の広大さは把握しにくい。海洋は地球の水の97パーセントを占め、地球の表面の71パーセントを覆い、人類の歴史を通じてあらゆる文化と文明を形成してきた。

自然保護運動のパイオニアとして有名な海洋生物学者のレイチェル・カーソンは、海洋の純然たる大きさを受け、1951年の著作で次のように記した。人間は「地球を間借りしたつかの間に大陸を征服し、略奪してきたようには、海洋をコントロールしたり変えたりすることはできない」

それから60年後、憂慮すべき「緑色の海洋」の誕生を無視するとしても、現実は上記の記述とはかなり異なるようだ。例えば、国連食糧農業機関(FAO)による2012年の報告書によると、世界の魚類資源の87パーセントが満限利用されているか過剰漁獲されているかのいずれかである。

あるいは、2012年初めのニュースを考えてみよう。死んだマッコウクジラがスペインの海岸に打ち上げられた。そのクジラは17キロのプラスチック廃棄物を飲み込んだために胃が破裂していた。廃棄物には園芸用の鉢や、30平方メートルの温室被覆材、9メートルの合成樹脂ロープなどが含まれていた。

極めて狭い範囲を見ても、人類は海洋を変化させることに成功してきた。海流と風で生じる海洋の環流の内側には、広大ないわゆるゴミベルトが誕生した。しかし、これは若干誤った呼称である。この呼称から連想されるのは山積みとなったゴミのイメージだが、実際は大量のプラスチックの破片を含む広い海域のことで、破片の多くは微視的なまでに小さい。太平洋では、1平方キロメートル当たり5キログラム以上という濃度が記録されており、この数字は自然発生的なプランクトンの濃度の6倍である。驚くべきことに、こうしたプラスチックの破片は、バクテリアや藻やその他の微生物が繁茂する土台として機能し、微生物礁を形成することが明らかになった。このような新しい共同体はPlastisphere(プラスチック圏)と命名され、その内側で生じる相互作用はほとんど解明されていない。プラスチックが海洋の食物連鎖に入り込むことの長期的影響については、なおのこと不明である。

グリーン経済:チャンスは今しかない?

私たちは海洋を変化させることには大成功してきたようだ。その一方、海洋をコントロールすることはできないと言ったカーソンの指摘は、かつてないほど現実味を帯びている。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の議長を務めるラジェンドラ・パチャウリ博士は先日、海面上昇に対する都市の脆弱性を強調した。500万人以上が暮らす世界の大都市の60パーセントは、沿岸から100キロメートル以内に位置していると説明した。

最も脆弱な大都市の多くはアジア太平洋地域に位置する。この事実を考慮すると、パチャウリ博士のプレゼンテーションが行われた第5 回持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP2013)は、特に適切な機会だった。このフォーラムは毎年開催され、ISAP2013は地球環境戦略研究機関(IGES)と国際連合大学高等研究所(UNU-IAS)が共催し、「持続可能な未来への道を拓く:グリーン経済 ― アジア太平洋地域の視点」というテーマの下、2013年7月23~24日に開催された。

民間部門、政府機関、国連組織、非政府組織(NGO)という幅広い層の代表者らによる一連のプレゼンテーションは、グリーン経済の喫緊の必要性を強調した。国連環境計画(UNEP)はグリーン経済を、環境リスクと生態的希少性を大幅に減少させつつ、人間の福祉と社会的公平性を向上させる経済としている。

人々、政府、環境:奇妙な断絶

旧態依然のやり方が世界の海洋と陸上の生態系に与えそうなネガティブな影響を無視することは難しい。しかし、私たちはどうしたらグリーン経済への転換を図れるだろうか?

ISAP2013のプレゼンテーションで繰り返し取り上げられたテーマは、政府が担うことが可能なポジティブな役割だった。政府は経済や産業の参画を促すインセンティブを高めることができ、前向きな官民パートナーシップの構築において、より積極的なイニシアティブを取ることができ、グリーン経済への転換を促進する上で主導的役割を引き受けることが可能だ。

同時に、世界各国の政府は、ほとんど不可能な課題に直面しているようでもある。結局のところ、グリーン経済への転換は大事業であり、政府が明白な短期的利益よりも長期的で先見の明のあるグリーン経済を優先させることは、とりわけ数々の財政危機に直面している状況では常に困難かもしれない。さらに、グリーン経済に内在する楽観主義にもかかわらず、世論調査では一貫して「経済」が「グリーン」より勝っているようだ。例えば『ガーディアン』紙は、環境に対する国民の関心は20年間で最も低かった2013年初頭の調査を引用している。

多くの政府はすでに、ますます失望感と無関心を募らせる有権者に直面しているようである。例えば、アメリカ議会に対する不支持率は83パーセントであり、欧州連合の支持率は低下しており(2013年では45パーセント)、日本では総理大臣の交代が続いている(過去7年で7)。こうした数字と、経済不安が環境問題をしのぐという優先順位を考慮すると、そういった問題が政治課題に載っていること自体、世界中の環境活動団体の超人的な努力に賛辞を送るべきだろう。

楽観主義の最終的な根拠

「海は全ての人に十分な魚を有す

それ以上、何を望むのか?」

(ジョージ・ギャスコイン、1573年)

生態系の復元力とポジティブな変化を起こそうとする地域社会の力は、楽観主義を生む原動力である。国あるいは世界的な政策の話し合いが行き詰まった場合でも、ダイナミックな行動がボトムアップ式に構築され、地域レベルでの成功例や教訓が次第に話し合いの場に供給される可能性がある。

例えば、川に火が付き、収拾のつかない勢いで燃えさかるという破滅的で絶望的に見える状況を考えていただきたい。1969年、オハイオ州のひどく汚染されたカヤホガ川で火災が起こった。この川は「流れるというより、じわじわと動く」川と表現されていた。この火災をきっかけに市民の激しい抗議が生じた結果、地域レベルでの広範な環境立法が成立し、最終的にはアメリカ環境保護局の設立につながった。最近の調査では、カヤホガ川流域でかつて全滅していた魚種60が発見された。

同様に、地元のステークホルダーの力強い関与を土台にして、日本の豊岡市はコウノトリの再導入に取り組んでいる。日本のコウノトリは乱獲、生息地の消失、化学農薬の過剰使用が相まって1971年に絶滅した。ISAP2013で発表されたように、飼育繁殖システムと、コウノトリに優しい手法で育てた米の画期的なブランディングによって、コウノトリの個体数が増え、2009年には野生環境で初めてヒナが生まれた。

実際のところ、破滅的と思われる崩壊状況から再生する生態系の復元力は感動的だ。前述の藻類ブルームとデッドゾーンに話題を戻すと、肥料の過剰使用によって黒海にデッドゾーンが生まれたことがある。1991年のソビエト連邦崩壊による肥料使用の大幅な減少と、協調的な国際努力により、10年もしないうちにデッドゾーンはほとんど消失した。かつては非細菌性の生命体が一切存在しなかった領域に、今では魚類資源が回復し、漁業は同地域の経済における主要部門となった。

ISAP2013の総合プログラムとレポートは、オンラインで入手可能です

翻訳:髙﨑文子

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著者

ロバート・ブラジアック氏は以前、横浜の国連大学高等研究所においてSATOYAMAイニシアチブに取り組んでいた。現在は、東京大学大学院農学生命科学研究科のリサーチ・フェローである。

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