禁漁区の設置は私たちの海を守るのに有効か?

2008年、太平洋に浮かぶ小さな島国のキリバス共和国は、カリフォルニアと同じ面積を持つ世界最大規模の海洋保護区(MPA)、 フェニックス諸島保護地域 (PIPA)を設置し、グローバル規模の保全を牽引する立場となった。その目的は、乱獲と気候変動によって脅かされている美しいサンゴ礁と豊かな魚類を保護することである。

2011年には、東部熱帯太平洋にあるココス島(コスタリカ)の周辺に、 Seamounts Marine Management Area(海山海洋管理区域)と呼ばれる巨大なMPAが新たに設置された。このMPAは米国のイエローストーン国立公園に匹敵する面積を持ち、シュモクザメやオサガメといった絶滅の危機にある海洋種や、地域のコミュニティにとって重要な漁業資源の保護を目的としている。

MPAは、私たちの海が未曾有の危機にさらされている今、特に必要とされている。2008年には、世界の1人あたりの魚の消費量は、過去最高の17.1kgに達した(今後も確実に増えると予想されている)。漁業資源は乱獲され、重要な生息地は前例のない割合で喪失あるいは劣化している。2010年には、国連の食糧農業機関は、2008年までに世界の水産資源の85%が十分に利用(一層拡大の余地のない、最適生産限界かそれに近い漁業)、過剰に利用、枯渇、回復のいずれかの状況に達したと推測した。また、現在の減少率が続くと、2030年までに世界のサンゴ礁の60%が喪失すると予測されている。

現在、世界人口の4割近くが海岸から50km内に居住しており、これらの人々の多くは海産物を主要な食料としている。だが、不適切な漁業管理や、海洋および沿岸部の資源の過剰利用の拡大により、数百万人もの人々の伝統的な生活基盤が蝕まれている。沿岸部に居住する人口の急増と共に、海洋資源にかかる負荷は多くの場所で持続不可能な水準に達している。

“漁業資源は乱獲され、重要な生息地は前例のない割合で喪失あるいは劣化している。”

しかし、世界では5,000を越えるMPAが設置されているにもかかわらず(World Database on MPA ((海洋保護区に関するワールドデータベース))に基づく数値)、世界の海域で保護されているのは1.2%にすぎない(それに比して、陸地では17%が保護されている)。これは、2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議および生物多様性条約により、海洋および沿岸のそれぞれの生態的地域について、MPAにより2012年にまでに少なくとも10%保護するという国際社会の約束に反している。

MPAの大部分は管理が適切ではなく、ほとんどすべてが観光やリクリエーション活動などに開放されており、9割のMPAでは漁も認められている。加えて、ケイトリン・トロポヴァ氏らが2010年に発表した調査によると、ほとんどのMPAは国の管轄下にある。つまり、外洋、すなわち公海で保護されている海域はほとんどないということだ。

禁漁区の設置は解決策か?

MPAsによる漁業管理の役割を強化する1つの方法は、禁漁区(NTR)を設置することだ。NTRはMPAの一形態で、その中では収奪的な漁獲活動は制限(あるいは禁止)され、汚染、建設、調査、船遊び、ダイビングなどのその他の活動も制限されることが多い。特定の区域で漁獲を禁止するのは、貴重な生息地を保護し、枯渇した種を回復させ、脆弱な資源を保護するために、漁業管理においては過去にも広く行われていたことである。

しかし、どのような形でも魚を獲ることを永久的に禁止するのは、比較的最近のアプローチである。NTRsは地元の生物多様性と漁業の両方にとってメリットがある。つまり、対象となる種(成魚、幼魚、魚卵)が増加し、NTR内のバイオマスが豊かになると、最終的には保護区域外に溢れ出すものが出てくる。漁業従事者はこの余剰分を獲り、持続可能な暮らしを手に入れられる。こういったことがNTRsの成果だ。

商業漁業が行われると、通常、ごく一部の魚齢層のみが残り、完全に成魚になるものがいなくなる。これまで利用されてきた種をNTRsで保護すると、長い期間、大きくなるまで生育させられるので、数が増える。これが重要なのは、魚齢が上がるにつれて産卵数が多くなるものがいるからだ(大西洋北東部のタラやレッドスナッパーなど)。さらに、ほとんどの魚卵は海水中を浮遊するので、保護された種の卵は保護区域外に漂い出て、遠く離れた漁場を潤すことになる。

NTRsがもたらしうる効果を最も説得力のある方法で示すには、NTRsの管理がうまくいっている場所の例を挙げることだろう。これらのケースにおいては、漁業従事者は保護区域の境界近くに移動して漁をするようになる。この好例は、フィリピン東ネグロス州で20年前に制定されたアポ島保護区だ。この場所では釣漁業が行われており、漁獲高は1982年の制定以来、10倍に増加した。そして、漁獲高は国内でも最上位を争うほどで、この15年間、1平方キロメートルあたりの年間漁獲高は20メガトンで安定している。

興味深いことに、捕食性の対象魚種のバイオマスは、保護区域設置から20年を経て、なお加速的に増加している。つまり、保護区の収容力が安定するには数十年かかり、したがって、NTRsの成果を十分に上げるには、長期的な保護が必要ということだ。

適正なNTR計画の策定

NTRsが健全な生態系の保全、生物多様性の保護、枯渇した魚種の個体数の回復に役立つことを示す研究は、世界中で数多く行われている。しかし、NTRsの設置は一筋縄ではいかず、すべてにあてはまる解決策は存在しない。NTRsの計画および管理にあたっては、管理者は、漁業従事者やその他の主要なステークホルダーと協調し、次のような重大な問題を検討しなければならない。NTRsの規模、位置、間隔はそれらの機能にどのような影響を及ぼすか? 隣接する保護区は互いにどのような影響を及ぼすか? 複数の小規模なNTRsより、1つの大規模なNTRの方が効果的か? NTRsはすべての沿岸環境の漁業種に有効か?

規模の問題を考えるにあたっては、保護区域内の大型魚種のサイズが区域外に比べて3倍以上の場合は、大規模なMPAが最も効果があることがわかっている。しかし、単独のMPAが常に最善策であるとは限らない。NTRsの規模が大きすぎると、魚類の個体数を維持するには有効でも、ほとんどの魚類が保護区域内にとどまったままでは、漁業従事者にメリットがない。一方、NTRsの規模が小さすぎると、保護区域内で存続可能な魚類個体数が維持できない(以下の図をご覧ください)。
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さらに海洋種は、成長に応じて必要とする生息地と生態系をしばしば変える。そうなると、NTRsがすべての必要な生息地を保護するものでなければ、種の存続はできないことになる。

漁業従事者のニーズと海洋環境のバランスをとり、保護から最適な効果を上げるためには、さまざまな規模のMPAsを数多く、ネットワークで結ぶことが最善の解決法かもしれない。そのようなネットワークには、あらゆる生息地のタイプと種、そして重要な産卵場所を含めた、それらの活動を取り込む必要がある。理論的には、ネットワーク内のNTRsについては、保護と漁業管理において最大限の効果を上げるのに最適な数、規模、位置、間隔があるはずだが、科学的、経済的、社会的、政治的に複雑な問題があるために、漁業従事者、リクリエーションとして釣りを楽しむ人、エコツーリズムの主催者、環境団体など、海を利用するさまざまな人々の間で「共通の基盤」を見つけるのが困難になっている。

効果的な管理ツールとしてのNTRsに必要なのは、地元の漁業コミュニティによるルールの遵守と法規制の施行である。だが、残念ながら、ほとんどのサンゴ礁は、適切なインフラストラクチャーも施行システムもない、世界でも最貧国に属する国々に存在しており、このような形態の資源管理はあまり効果が上がっていない。したがって、管理者はこの点についての結果を慎重に予測したうえで、NTRsをステークホルダーに提言しなければならない。

科学的知見の拡充が必要

NTRsの適正な規模、間隔、位置についての科学的情報が不足しているため、NTRsが周辺の漁業および生物多様性にもたらしうる効果を予測するには限界がある。

対象とする種の移動性、生活史、定着および加入の割合とパターン、成魚の連結性、主要な産卵場所の特定、近隣の個体群との連結性、これらの個体群の供給源と定着地の状態について、生物学的な情報がさらに必要だ。

“健全な漁業管理や、開発および汚染といった人間の活動に対する規制も必要であるが、海洋の一部を立入禁止にすることができるなら、このシンプルな手段でより大きな効果が期待できよう。”

同様に留意すべきこととして、根底にある社会経済的な問題に注意を払わなければ、NTRsの効果は期待できないことがある。その点については、科学者と管理者は地元のコミュニティ、漁業従事者、その他のステークホルダー、政治家と協調して、管理計画を策定し、包括的かつ統合的な管理計画として確実に価値のあるものにしなければならない。

Marine Ecology Progress Series(海洋生態学発展シリーズ)(2011)から刊行された最近の論文で、著者である国連大学水・環境・保健研究所のピーター・セール教授らは、生物多様性の保護を目的としたMPAsに疑問を投げかけている。著者らは、MPAsでは、世界規模の生物多様性の喪失を食い止めることはできず、この問題の解決においてMPAsが上げられる効果は過大評価されていると述べている。また、長期的に成果が上がらない状況が続けば、生物多様性保護に対する一般市民および政治的な支援が得られなくなり、また利用可能な資源をこの戦略に過度に投入すると、NTRsなど、より効果的なアプローチの展開が阻まれると警告している。さらに、生物多様性の喪失を食い止めるには、人間の人口過密や消費といった複雑な問題に対処しなければならないことを強調している。

要するに、NTRsは漁業管理や生物多様性保全に有効なツールだが、漁業管理者が利用できる数多くのツールの1つにすぎないことも覚えておかなければならない。保護区域は海洋が直面しているすべての問題の万能薬ではなく、保護区域外の健全な漁業管理や、開発および汚染といった人々の活動に対する規制も補完的に行うことが必要だ。それでも、NTRsの設定は、海洋の一部を立入禁止にできるシンプルな手段であり、これにより大いなる効果が期待できる。

この記事は、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の刊行による「The Science of No-Take Fishery Reserves – A Guide for Managers(禁漁区の科学—管理者のためのガイド)」に基づくもので、同文書は右上欄からダウンロードしていただけます。

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禁漁区の設置は私たちの海を守るのに有効か? by ハンネケ・ファン ・ラヴィーレン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.0 UK: England & Wales License.

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著者

ハンネケ・ファン・ラヴィーレン氏は国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)の沿岸生態系プログラムオフィサーである。オランダのフローニンゲン大学で海洋生物学・生態学の修士号を取得後、オランダ水産研究所に所属して、オランダのビームトロール漁業における漁獲構成と魚種の個体数変化について研究を行った。Netherlands Development Agency(オランダ開発局)の下、フィリピンにおける保全プロジェクトの(沿岸・海洋)テクニカルアドバイザーを務め、ケニアにて国連環境計画の地域海計画に参加、小島嶼、MPAs、沿岸部の生物多様性、気候変動、海洋外来種などの問題に取り組んだ。2006年より、ピーター・セール教授と共にUNU-INWEHの沿岸プロジェクトの管理、調整にあたっている。

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