気候変動サミットを前に現場での活動を再考

年を追うごとに、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)の年次サミットは重要性を増しているようだ。カタールのドーハで今月下旬から始まる第18回締約国会議(COP18)は、京都議定書の第1約束期間の終了直前に開催されるため、極めて重要だと考えられる。第1約束期間とは、37の産業諸国と欧州の共同体が2012年末までに温室効果ガスを5.2パーセント削減すると合意した、目標期間である。

先月、29カ国がカルタヘナ対話に参加し、京都議定書に代わる法的拘束力を持つ協定のための、COP18に先駆けた合意形成に努めたが、多くの国は今後の展開に期待していない。なぜなら、アメリカなどの重要国は以前と同様に協力的姿勢を示さないと予測されている一方で、後発開発途上国はますます結束を固め、議論への参加と富裕国からの具体的な行動を断固として要求しているからだ。

同対話が行われた時期に、人の活動に伴って発生する温室効果ガスの排出が気候に与える影響は、京都議定書が調印された1997年時点で想定されたよりもずっと大きいことを示唆する調査が数多く発表されたため、さらに期待は薄れた。先週には同様の報告書が2編、皮肉なことにどちらもアメリカで発表された。1つは世界中のマスコミに取り上げられた報告書で、アメリカ大気研究センターによる気候モデル予測の分析だ。その分析によると、気候変動は幾つかのモデルが示すよりも深刻になる可能性がある。

“不吉な報告を伝える最近の研究の中には、気候変動の影響がアメリカの安全保障に打撃を与えると警告するものがある。”

もう1編の報告書は、アメリカの「情報コミュニティー」のために国立科学アカデミーが用意したもので、気候変動の影響は国家安全保障に打撃を与えると警告している。「地球の気候は過去の例の範囲を超えて変化していることが、科学的証拠によって示唆される」とプレスリリースに記されている。「気候に関連した事象は、被害に遭った人々の対処能力を超えた結果を招く。そうした状況から生じる安全保障上のリスクに、本報告書は重点を置いている」

変革への推進力を生む

UNFCCC事務局は、世間にまん延する気候会議への否定的な見解を十分に認識した上で、昨年ダーバンで開催されたサミットにおいて「Momentum for Change(変革への推進力)」イニシアティブを開始した。

「国際協定に向けての作業は複雑で困難なプロセスである。その過程では、気候変動の緩和策と適応策は往々にして、チャンスというよりも重荷として認識される」従って必要なのは「気候変動の緩和策と適応策をめぐる多くの否定的な認識を払拭すると共に、すでに実践されている積極的な活動や、すでに達成された成功例に注目する新しいイニシアティブである」と、同イニシアティブの開始報告書に書かれている

このプログラムは「世界の気候変動への取り組み全体に関する様々な重要な側面に注目するために、時間と共に進化する」。第1の「柱」となるのが、変革への推進力イニシアティブだ(ビル&メリンダ・ゲイツ財団による後援)。このイニシアティブは官民パートナーシップから生まれた活動を紹介するプラットフォームである。気候変動の影響を緩和したりレジリエンスを強化したりすると同時に、開発途上国の都市部の貧困層にプラスとなる活動が紹介される。

「気候変動の問題に効果的に取り組むことは、課題であると同時にチャンスでもある」これが同イニシアティブの理念の神髄だ。「強い回復力と低炭素に基づいた成長は、あらゆる気候変動への取り組みの中核である。人々に直接恩恵をもたらすチャンスは数限りなくあり、それと同時に排出量を制御し適応能力を強化する世界的取り組みにも寄与することもできる。すでに多くのステークホルダーが、国や地方レベルで、こうしたチャンスをつかんでいる」

灯台に目を向ける

「開発途上国は気候変動の影響を最も早く、最も強く受けることは認識されている。さらに、開発途上国は非常に少ない資源と環境上の大きな制約の中で、貧困の解消と生活水準の改善という問題に直面している」と開始報告書は記している。

ダーバンで紹介された活動には、アフリカの角地域に住む農民に不作対策としてマイクロ保険を提供する事例や、清潔な調理コンロを配布する事例、さらにフィリピンでの太陽エネルギーを使った「ボトル電球」の使用例などがあった。

こうしたプロジェクトを提出した団体には、国際金属・鉱業評議会(ICMM)、持続可能性をめざす自治体協議会(ICLEI)、グローバル・コンパクト、国際連合環境計画(UNEP)、世界経済フォーラム、持続可能な発展のための地方政府ネットワーク(Nrg4SD)、グローバル・eサステナビリティ・イニシアティブ(GeSI)、国際連合財団などがある。紹介するプロジェクトの選定は、同イニシアティブの諮問委員会が「政策決定者や経済界、一般市民にインスピレーションを与えることができ、重要な影響力を持つ、測定可能かつ転用可能な活動」(さらに共同実施あるいはクリーン開発メカニズムに登録していない活動)であることを強調した基準に基づいて行う。

今年、「Lighthouse Activities(灯台の活動)」がCOP18で紹介される予定だ(そのうちの3例を下記に掲載する)。これらの活動は実に多彩であり、すばらしい。読者の方たちにもインスピレーションを感じていただければ幸いだ。

ソーラー・シスター:戸別訪問販売を特色としたウガンダのグリーンエネルギー社会事業

ソーラー・シスターは持続可能で測定可能な多角的変革を目指すウガンダの社会事業であり、クリーンエネルギー分野での経済的機会を通じて女性の社会的地位の向上を図る。小規模委託モデルに則り、ソーラー・シスターの事業者たちは商品、訓練、販売サポートといった起業に必要な支援を受けて、顧客の家に直接クリーンエネルギーを届ける。

climate_summit_graph01-jpソーラー・シスターは2009年、ソーラー・ランプを戸別販売するために10人の女性事業者を訓練することから始まった。現在ではウガンダ、ルワンダ、南スーダンに171人の事業者を抱える。起業した女性たちは太陽エネルギーの恩恵を3万1000人以上のアフリカ人に提供しており、さらにアフリカにおけるクリーンエネルギーの価値連鎖に不可欠な役割を担いつつある。1人のソーラー・シスター事業者に1ドルを投資した場合、最初の1年間で、事業者の収入と顧客の支出削減という形で48ドル以上の経済利益が生じる。

例えば、顧客が18ドルでソーラー・ランプを買えば、灯油を使わずに済むため、その後の5年間で総額163ドルの貯蓄が可能になる。さらに、45ドルで携帯電話の充電器付きのソーラー・ランプを買えば、灯油を使用しないことに加えて、携帯電話の充電費も節約されるため、5年間で225ドルを貯蓄できる。家庭用ソーラーシステムの設置費の10分の1で、顧客は貯蓄を増やし、労働時間を延長でき、屋内の空気は改善され、子供たちは勉強する時間を延長できる。(その他の恩恵については下記の表をご覧ください)

「女性は家庭で使用されるエネルギーの主要な消費者であるため、クリーンエネルギーを取り入れた適応策の成功にとって重要な存在である。ソーラー・シスターの起業理念は、女性への投資が草の根レベルでクリーンエネルギー技術を大々的に取り入れるための必須条件であるという考えだった。エネルギー貧困を解消するために持続可能な暮らしを実現する機会を提供する女性主導型の事業モデルと合わせて、女性をシステムに取り込むというアプローチこそ、ソーラー・シスターの事業モデルの特徴である」

全くそのとおりだ。

アーメダバードのバス高速交通システム

550万人以上の人口を抱えるインドの都市アーメダバードでは、移動手段は限られていた。そのため手頃な価格で利用できる効率的な公共交通網が必要だった。バス高速交通システム(BRTS)は2009年10月から運行を開始し、その路線は12キロメートルから45キロメートルに延び、現在も延長し続けている。かつて1万8000人だった乗客者数は、今では13万人近くに増加した。

climate_summit_graph02-jp「人々の道」という意味のJanmarg(ジャンマーグ)という名称で知られるBRTSは、潜在的な交通需要を引きつけ、空気の質を改善し、都市の拡大化を防ぐための戦略的介入策として設計された。経由地点を持つ閉鎖型のBRTSは自転車専用レーンと歩行者用施設を統合しており、時速25キロという走行速度により通勤時間は短縮される。世界中の都市のBRTSの中から最良の実践例を取り入れたJanmargは、街の公共交通の基幹となった。

安全な飲料水はアフリカの多くの地域で入手困難であり、水の浄化方法の中には環境に負荷を与えかねないものもある。水は沸騰させないと浄化できない場合が多く、その際に持続不可能で温室効果ガスを排出する燃料や、木や灯油といった高価な資源が使用される。2011年、ベスタガード・フランドセン社(「複雑な緊急対応と疾病コントロール製品を専門とし」「人道的起業家精神に基づくビジネスモデル」に従うスイスを拠点とする企業)は、LifeStraw® Carbon For Water™と呼ばれる画期的なイニシアティブを開始した。

LifeStraw®はユーザーが使いやすく、メンテナンスも容易な水浄化システムで、燃料は不要だ。家庭用サイズのフィルター1枚の耐用年数は10年で、最低でも1万8000リットルの安全な飲料水を作り出せる。同製品を使用するケニアの人々は、伝統的な生活必需品だった薪を使って水を沸かす必要がないため、炭素排出量も削減できる。

“LifeStraw®は年に約270万トンの炭素排出量を削減すると予測される。”

ケニアの西部州で安全な公共水道を利用できない全世帯の91パーセントに、約88万枚のLifeStraw®家庭用フィルターが配布された。この活動の資金はベスタガード・フランドセン社が投資し、年間およそ200万トンの炭素排出を削減したことで同社が得た炭素クレジットを(カーボン・フットプリントを削減したい先進国のエネルギー企業や銀行に)販売して、投資資金は回収された。つまり、ケニアの450万人の人々は今後10年間、自宅で水を浄化できるのだ。

Carbon For Water™の画期的な資金モデル(政府にも支援提供者にも負担がない方法)は、昔ながらの資金の問題を克服できる新しいアプローチであることが証明されているため、世界の健康問題に大きく寄与できると、ベスタガード・フランドセン社は主張する。

LifeStraw® Carbon For Water™の活動は「世界の炭素市場に見られる不均衡を正す重要な役割を担っている。アフリカは気候変動に対するリスクが最も高い地域の1つであるにもかかわらず、歴史的に気候市場の外側に置かれてきた。炭素関連のプロジェクトのうち、アフリカで実施されたものは5パーセントに満たないのだ」

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その他の刺激的な活動については 変革への推進の活動データベース をご覧ください。

翻訳:髙﨑文子

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気候変動サミットを前に現場での活動を再考 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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