リバウンド効果が気候対策の成果を台なしに?

ガーディアン紙の環境担当部門の記者の1人は、従来型の電球から省エネルギー型の電球に替えて以来、電気をつけっぱなしすることが多くなったと認めている。また、低燃費の自動車を持つ人の方が頻繁に車を運転する傾向がある。

どちらの例もよく見落とされる現象だが、新しい報告書によると、こうした現象が気候変動対策の効果を損なう可能性があるという。

いわゆるリバウンド効果とは、エネルギー効率の向上によって節約されたエネルギーの一部が人々の行動の変化によって相殺されてしまうことを示す。消費者レベルでは、直接的な例(新たに断熱材を取り入れた家で暖房の温度を上げる)もあれば、間接的な例(浮いた光熱費でスペインへの飛行機代を支払う)もある。そしてマクロ経済のレベルでは、効率性の向上は低価格につながり、さらなる需要を生むと広く考えられている。

アメリカのシンクタンク、ブレイクスルー研究所は、このテーマに関する最も大規模な文献レビューの1つにおいて、経済全体のレベルで見るとリバウンド効果は深刻な影響を及ぼしかねないと結論づけた。

「効率性の向上という点で私たちが2歩前進するたびに、リバウンド効果によって1歩、あるいはそれ以上後退させられてしまうのです。時には当初の進歩を完全に失うほどの影響を及ぼします」と同報告書の筆頭著者であるジェシー・ジェンキンス氏は語る。この発言には政策への重要な示唆が含まれるが、その点については後ほど触れる。

失われた効率性

個人レベルでは、車の使用と暖房に関連したリバウンド効果の事例が比較的分かりやすい。同報告書では、エネルギー効率のよい車や住宅によって節約されたエネルギーのうち、10~30パーセントはリバウンド効果によって失われていると推計している。

なぜこうした現象が起こるのかについての研究は、あまり進んでいない。何かの費用が安くなると、私たちはそれを以前より頻繁に使い始めるということかもしれない。あるいは、私たちは環境のためによいことを行うと、環境によくない行いを償う「道徳的な許し」を得たと考えるのかもしれない。興味深いことに、自分は持続可能なライフスタイルを送っていると自認する人々は、最も炭素排出量の多い生活をしていることが多い。

現実には、エネルギー効率の向上が(特に住居の暖房において)期待どおりの節約に結びつかない原因は数多く考えられる。最近、家庭でのエネルギー利用に関する報告書を記した英国エネルギー研究センターのキャスリン・ジャンダ(Kathryn Janda)氏は次のように語った。

「往々にして建築物は期待通りの機能を発揮しません。その原因の一部は、建物の中にいる人々の行動が設計家の想定よりも複雑だからです。例えば人々は窓を開け、ドアを開けたままにし、体温を放ち、熱帯魚の水槽やプラズマテレビを設置します」

行動の1つ1つが……

サセックス大学のエネルギー政策の専門家であるスティーブ・ソレル氏は3つの省エネルギー行動、すなわち暖房温度をセ氏1度低く設定すること、2マイル以下の自動車での移動を徒歩か自転車での移動に替えること、食べ物の廃棄量を3分の1少なくすることに注目した。ソレル氏によると、こうした3つの行動の結果、節約できたお金を自分の典型的な消費行動に費やした場合、リバウンド効果は34パーセントだという。つまり、浮いたお金を費やした商品やサービスのせいで、温室効果ガス削減量の34パーセントが相殺されてしまうのだ。

しかしブレイクスルー研究所によると、効率性の向上によって生じるエネルギー消費の最も大きなリバウンド効果は「消費者レベルではなく、経済の生産部門(産業や商業)において生じる。例えばスチール工場で効率性が向上するとスチールの価格が低くなり、その結果スチールの需要が増え、さらなる経済成長を生み出す。こうしたすべての現象が効率性の向上後のエネルギー利用において顕著なリバウンドを引き起こすだろう」としている。

では、この状況は何を意味するのか。リバウンド効果の研究はまだ進んでいないし、議論の分かれるテーマだ。しかしこうした調査結果が真実とすれば、この現状は炭素税の必要性を表わしているのだと主張する批評家もいる。なぜなら多くのリバウンド効果は、エネルギー効率の向上が(大抵の場合)お金の節約につながるという事実に端を発しているように思われるからだ。ブレイクスルー研究所などは、政策立案者たちは低炭素エネルギーの生産に焦点を置くべきだと主張している。そうすれば私たちの消費パターンに左右されないからだ。

一方、エネルギー効率に関するイギリスの政策では、環境への配慮とお金の節約という両方のメッセージに注目し、住居の断熱といった個別の対策と、より広い視野での対策を結びつけることがリバウンド効果の削減にとって重要だとNGOや学者たちは主張する。

環境心理学者のロレイン・ウィットマーシュ氏は次のように語った。「お金の節約という点だけに注目して(住居のエネルギー効率のための)グリーン振興政策のような対策を講じると、(特典としてクルーズ旅行を宣伝している場合は特に)目的とする効果を実際には損なうことになります。1つの方法だけに注目するのではなく、より全体的なアプローチを試みなければなりません」

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この記事は2011年2月22日火曜日にguardian.co.ukで公表したものです。

翻訳:髙碕文子

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著者

シルヴィア・ローリー氏はジャーナリストおよび環境政策アドバイザーである。彼女は2008年、ガーディアン紙が開催する国際開発ジャーナリズム・コンペティション(International Development Journalism Competition)で受賞し、ガーディアン紙、インディペンデント紙、ナショナルジオグラフィック・グリーンなどに寄稿している。

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  • Eriko Ooizumi

    環境保全が求められる今、持続可能な生活を実行していく上でエネルギー節約は必須の条件である。一方私達は生活の快適さを維持するため、もしくは向上させるために、現在の経済活動をストップすることはできない。リバウンド効果は、そのような人間の利己とリバウンド効果自体に対する無知が引き起こす課題と言えよう。私自身もこの記事を読んで初めてエネルギー節約における弊害があることを知った。
    そしてブレイクスルー研究所によると、効率性の向上によって生じるエネルギー消費の最も大きなリバウンド効果は「消費者レベルではなく、経済の生産部門(産業や商業)において生じる」とされている。確かに、リバウンド効果の大規模な削減において経済の生産部門は最も先に注目すべき点である。しかし、それらと平行して消費者レベルでもリバウンド効果に取り組んでいく必要がある。複雑なことに、一般生活におけるリバウンド効果は消費者一人一人によって変わってくる。そこでより効果を削減させるためには、早い段階での環境教育や、現代の人々における意識改革が重要となってくる。 
    特に日本は省エネ技術において優れている国であり、近年では多くの電化製品や自動車にその技術が適用されている。しかしそれを逆に捉えると、これから省エネ技術が普及していくのに比例してリバウンド効果が懸念されることとなる。国際的な立場の上で環境先進国としてありたい日本だからこそ、リバウンド効果の削減には特に力を注がなければならないだろう。

  • 渡部健司

    Eriko Ooizumi さん、素晴らしいご見識を共有して頂きましてありがとうございます。

    「特に日本は省エネ技術において優れている国であり、近年では多くの電化製品や自動車にその技術が適用されている。しかしそれを逆に捉えると、これから省エネ技術が普及していくのに比例してリバウンド効果が懸念されることとなる。国際的な立場の上で環境先進国としてありたい日本だからこそ、リバウンド効果の削減には特に力を注がなければならないだろう。」に関しまして、私見を述べさせて頂きたく思います。

    まず、結論部分にあります、「国際的な立場の上で環境先進国としてありたい日本だからこそ、リバウンド効果の削減には特に力を注がなければならないだろう」は果たして実行可能でしょうか。

    私自身は、現在の日本は環境先進国というよりは、環境技術先進国であると考えております。エネルギー消費の少ない技術を環境技術として全面に押し出し、欧米の先進国をはじめ、現在ではアジアの新興国への輸出を増加させています。また日本の大企業も新興国および発展途上国での事業を活発化させる方針を示しております。

    国際社会の中で、製造業の輸出を増加させつつ、リバウンド効果を最小限に抑えることは、果たして可能でしょうか。

    いくつかの潜在的な解決策は、考えられると思います。本記事にあります通り、炭素税等はその全体的なアプローチの例示だと思います。また、日本政府の推進している、環境技術のパッケージ輸出などもあります。環境技術を一つ一つ輸出するのではなく、環境モデル都市を計画して、その都市計画モデルおよびその中で使用されている環境技術を全体として輸出することです。

    こういった全体的なアプローチを通して、日本は、環境技術先進国から、環境先進国へ移行すべき必要があると個人的には考えております。

    Eriko Ooizumi さん、この度はコメントを残していただきありがとうございました。
    Eriko Ooizumi さんの次回のコメントを楽しみにしております。