データを駆使して土壌を守る

ジャガイモ畑にところどころ見られる沼地。あるいは乾燥してひび割れた地面。乾燥していても、水浸しでも、完全でない土壌では植物や作物が健やかに育たない。

緑で豊かな大地が今後もそのままでいられるかどうかは、土壌浸食の程度による。毎年1ヘクタールにつき1トンの土壌が失われれば耕地は砂漠になってしまう。

だが土壌の詳細な調査と分析を行えば、その流れを食い止めることはできる。2006年には欧州委員会はEU土壌データセンター(ESDAC)で全欧州連合(EU)の土の状態を詳しく観測し、浸食、酸性化、重金属汚染に関する重要なデータを記録している。

終わりなきデータ

ESDACは土壌の健康状態を測るため、手触り、鉱物、気孔率、汚染化学物質など73項目を記録している。

センターは数年かけて独自の詳細な情報データベースをまとめた。「膨大なデータから、その意味を読み取るのは難しいことです」と、ESDACの開発を率いるパノス・パナゴス氏が話す。「ヨーロッパ全土の土壌に関して集まった情報は100ギガバイトにもなるのですから」

このギリシャ人研究者は、EUの共同リサーチセンターが置かれているイタリアの小さな町イスプラで働いている。机には本とコンピューターが雑然と置かれているが、土を採集したビンはない。地理情報システムの専門家であるパナゴス氏は土壌のデータベースを何人が使っているか、いくつの質問が提起されたかの方に関心を向けている。

「2011年には、私たちのデータベースの情報使用に対し1400の認可を出し、合計で1800件のデータ記録がダウンロードされました」

新しいモデルの必要性

パナゴス氏によると、リサーチセンターは最近欧州委員会からバイオ燃料利用増加による影響について質問を受けたそうだ。この問題は今は特に重要だ。バイオ燃料の需要に追いつくよう農地の作物が植え替えられているからだ。

しかしパナゴス氏に言わせれば、彼が収集した膨大なデータはその質問に答えるには十分ではない。必要なのは、現在のデータを使って過去について計算し、未来のパターンを予測することだという。

例えば、気候変動によりアルプス地方の土壌浸食にどんな影響があるかという疑問については既に計算済みだ。センターはおよそ10種類の統計モデルから1つを選び必要な情報を決定した。

その結果は驚くべきものだった。1990年から2000年の間、毎年1ヘクタールにつき50トン以上の土が雨によって流されていたのだ。地球の平均気温が2100年までに3.4度上昇すれば、アルプスの土は現在より2トンほど失われることになるかもしれない。だが、2.4度の上昇にとどまれば、土壌浸食は数箇所の狭い範囲で悪化する程度で済む。

「土壌を失うということは、世界の食の安全を脅かすことになります」とパナゴス氏。健全な土壌は食料を生産し、森林を安定させ、バランスの取れた生態系と種の多様性を保存するのに欠かせないものだからだ。

主なユーザーは科学者

データベースに関する問い合わせ100件のうち、政策決定者からのものは10件ほどしかなかった。しかもそのうち欧州委員会に関するものはわずか3件だけだ。ESDACはEUのステークホルダー向けに情報を提供する目的で創設されたにもかかわらずである。

「政策立案者はデータそのものを読み込むより、年間報告に目を通す人が多いようです」とパナゴス氏は言う。データバンクの主な利用者はドイツの連邦地質天然資源研究所の土壌研究者ライナー・バリッツ4氏のような科学者がほとんどなのだ。

バリッツ氏は、最近のデータを利用したのは、ヨーロッパ全土のうち起伏のある土地の土砂崩れの危険性を調べるためだったという。傾斜がきつく、斜面が浸食され、丈夫な根を張る植物や木々の数が少ないほど、土砂崩れの危険性は高い。

ESDACの土壌地図には、土砂崩れの危険性を知るのに必要な情報がしっかり盛り込まれている。土壌の健康状態だけでなく、地表近くの岩の状態までもが記録されているのだ。「普通の地質図にはこれほどのことはできませんね」バリッツ氏は言う。

不完全で矛盾するデータ

このデータベースは確かに研究者や政治家に十分な情報を提供するものの、2つの主な問題点がある。記録の一部が最新ではなく不完全であることと、様々な国々から流れ込むデータの比較が難しいということだ。

パナゴス氏は前者の問題については、5年毎にデータを確実に更新することで解決を図っている。「こうすれば私たちの分析結果を最新のものに保ち、さらに、気候変動が時間の経過と共に土壌の特性にどんな変化をもたらしているかを追跡することもできます」

だが、そのためにはEUのメンバーから定期的にESDACに情報を送ってきてもらう必要がある。そこで後者の問題とぶつかる。各国がさまざまな特色に異なる定義づけをし、メソッド、研究室、計測器などがバラバラなのである。

そこでパナゴス氏と同僚たちは用語体系を標準化し、データを一致させ、全ての情報が正しい形式でデータベースに入力されるように努めている。

ESDAC自体は土のサンプルを収集することはほとんどなく、主にデジタルデータのみを扱っている。だが2009年、EU全土の土壌研究の際には、27カ国から2万2千件のサンプルが集められ、その総重量は13トンにもなった。

ハンガリーの研究室がこの困難極まりない作業を引き受け、全てのサンプルからpH値や窒素、リン、有機化合物その他を分析した。「100万ユーロ弱かかりました」とパナゴス氏。「これらのデータを使えば、私たちの統計モデルを有効化し標準化して、より正確な報告ができるはずです。そうなると私たちのデータの価値も高まるというものですね」

この記事はドイチェ・ヴェレ「グローバル・アイディアズ」で公表されたものです。

翻訳:石原明子

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著者

フランツィスカ・バーデンシアー氏はフリーランスの科学ジャーナリスト。Spiegel Online、Zeit Online、ドイチェ・ヴェレ「グローバル・アイディアズ」などに寄稿している。科学ジャーナリズムの学士号と修士号を持ち、特に生命科学と医学に関心を持つ。

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