エネルギー紛争の火種がくすぶる海域

本論文はTomDispatchに掲載されたもの。トム・エンゲルハート氏の御厚意により、ここに転載する。

エネルギーの「関門」といわれる場所でひとたび事件が起これば、地域全体が炎に包まれ、血が流れ、原油価格が急騰し、世界経済が危機に陥る……そんな危険な世界へようこそ。エネルギー需要が高まる一方で供給が減少している現在、私たちは新たな「地球エネルギー時代」に突入しつつある。今後は主要エネルギーに関する紛争が世界情勢の大半を占めるであろう。2012年以降、エネルギーと紛争はこれまで以上に切り離せないものとなり、資源に限りあるこの世界における地理的な引火点としての重要性はますます高まるだろう。

例えばホルムズ海峡は2012年の幕開けと共に新聞の見出しを賑わせ、エネルギー市場を揺さぶっている。ペルシャ湾とインド洋をつなぐこの海峡には、ジブラルタルの岩やゴールデン・ゲート・ブリッジのように目立った特徴はない。だが、エネルギーに注目が集まる現在、ここは世界のどの航路よりも戦略的に重要な地点だといえよう。米国エネルギー省によると、毎日約1700万バレルの原油を運ぶタンカー(世界の1日分の供給量の20%)がこの大動脈を通過していく。

そのため、先月ワシントンの厳しい経済制裁に対抗する措置として、イランがホルムズ海峡を封鎖すると警告すると、原油価格はとたんに跳ね上がった。米国軍は海峡を封鎖させることはないと断言しているが、専門家たちは原油輸送の安全性への不安や、ワシントン、テヘラン、テルアビブを巻き込んだ終わりない危機への懸念があるため、原油高は今後何カ月も続くと見ており、世界経済の停滞が予測される。

2012年以降、エネルギー、政治、地理が危険に交錯するホットスポットはホルムズ海峡だけに限らない。東シナ海、南シナ海、カスピ海地域、そして海氷が解けつつある資源豊富な北極にも目を光らせておかなければならない。これらの地域ではエネルギー生産、輸送の支配をめぐって国々が対立し、航行に関する国境と(または)権利についても争っている。

今後長期にわたり、エネルギー供給場所と供給ルート(パイプライン、給油港、タンカールート)は世界戦略の基軸的拠点となるだろう。ペルシャ湾のような主要生産地域は今後も重要であり続けると同時に、ホルムズ海峡やマラッカ海峡(インド洋と南シナ海の間)、生産地と海外市場を結ぶ「海上交通路」(海軍戦略者はSLOCと呼ぶのを好む)のような原油の「関門」も同様である。アメリカ、ロシア、中国が率いる主要各国では、これらの地域での戦いに備え、軍備の再編成がますます進む。

1月5日にオバマ大統領とレオン・パネッタ国防長官が国防省で発表した国防戦略指針「Sustaining U.S. Global Leadership」(米国の世界的リーダーシップの堅持)には既にこの動きが見て取れる。地上戦力と海兵隊の規模は縮小する一方、とりわけ国際エネルギーと貿易網の支配権保護のため空軍、海軍部隊の能力向上を挙げている。アメリカはヨーロッパと中東との連携は今後も維持するとしながらも、今後は「西太平洋から東アジア、インド洋そして南アジアに至る弧」におけるアメリカの軍事力増強が強調された。

新たな「地球エネルギー」時代が到来し、エネルギー支配と市場への輸送は、頻発する世界危機の中心となるだろう。今年は3つのエネルギー・ホットスポットから目をそらさぬようにしたい。ホルムズ海峡、南シナ海、カスピ海だ。

ホルムズ海峡

ホルムズ海峡 写真: ラシッド H

ホルムズ海峡 写真: ラシッド H

ホルムズ海峡はイランと、オマーン、アラブ首長国連邦 (UAE)の間の狭い海峡で、原油が豊富なペルシャ湾岸諸国とその他の地域を結ぶ唯一の海路である。イラン、イラク、クウェート、サウジアラビア、UAEで産出された原油の大部分が、毎日この海路を通ってタンカーで運ばれており、(エネルギー省の言葉を借りると)「世界で最も重要な原油の通路」である。一部のアナリストによると、この海峡が封鎖されると原油価格は50%上昇し、世界規模の深刻な景気後退、不況の原因となり得るという。

アメリカの指導者たちは長い間、この海峡をいかなる代償を払っても守るべき、国際戦略上不可欠な地域と見なしてきた。この見解を初めて発表したのは、ジミー・カーター大統領で、1980年1月ソ連のアフガニスタン侵攻と占領直後のことだった。この時、カーター大統領は議会で「ソ連軍はインド洋から約500キロ以内に、そして世界の原油のほとんどが通過するホルムズ海峡付近にまで迫った」と述べ、アメリカは毅然とした態度をとるべきだと主張した。敵対的権力によってこの水路を封鎖しようという試みはいかなるものであれ「アメリカ合衆国の重大利益の侵害」であり、よって「軍事行動を含むいかなる抵抗も辞さない」とした。

“アメリカの指導者たちは長い間、この海峡をいかなる代償を払っても守るべき、国際戦略上不可欠な地域と見なしてきた。”

カーター大統領が、いわゆる「カーター・ドクトリン」と呼ばれる年頭教書を発表し、この海峡を監視する米中央軍を設立した頃と比べ、ペルシャ湾の情勢は大きく変容した。しかし、原油の輸送を妨げまいとするワシントンの決意は当時と変わらない。オバマ大統領は、たとえ中央軍の地上部隊がイラクを去ったのと同様、アフガニスタンを去ったとしても、ペルシャ湾岸全域における空軍、海軍の規模は縮小しないと言明した。

イランはワシントンの手腕を試そうとすることだろう。12月27日、イランの第一副大統領モハマドレザ・ラヒミ氏は「(西側諸国が)イランの原油輸出に制裁を課すなら、原油一滴たりともホルムズ海峡を通過させない」と警告した。その他の高官も似たような声明を発表している(そして同じように反論も起きている)。加えてイランは この海峡の東側付近のアラビア海で大々的な軍事演習も行っており、今後も似たような大演習が行われると予想される。また、イラン軍の司令官は、ペルシャ湾を離れていたアメリカ海軍の航空母艦ジョン・C・ステニスが同湾に再び戻らないようにと警告し、「イラン・イスラム共和国はこの警告を繰り返さない」と不気味な口調で付け加えた。

イランは海峡を本当に封鎖するだろうか。多くのアナリストはラヒミ副大統領やその他の発言はワシントンを混乱させ、原油価格をつり上げ、核開発に関する交渉再開時に譲歩を引き出すための「はったり」にすぎないと見ている。しかしイランの経済状況は深刻さを増しており、追い詰められた強硬派リーダーは、例えアメリカから激しく反撃されようとも何らかの劇的な行動の必要に駆られるかもしれない。いずれにせよ、ホルムズ海峡が2012年、国際的な注目を集め、原油価格はこの海峡の緊張状態に合わせて変動するのは間違いない。

南シナ海

南シナ海は、西太平洋の海域で、北の中国、西のベトナム、東のフィリピン、南のボルネオ島(ブルネイ、インドネシア、マレーシア)に囲まれている。この海域には、ほとんどが無人のパラセル諸島とスプラトリー諸島がある。重要な漁場としての歴史は長く、東アジアとヨーロッパ、中東、アフリカを結ぶ主要な商用航路でもあった。最近になってパラセル諸島、スプラトリー諸島周辺の海底に大油田とガス田があることがわかり、この地域の重要性が増した。

油田とガス田の発見により、南シナ海は国際摩擦の集中する場所となっている。この地域の少なくともいくつかの島に関しては、周辺の全ての国が領有権を主張している。中でも中国は全ての島の領有権を主張し、地域全体を独占するためには軍事力使用もいとわない覚悟を示している。当然だが、この姿勢はアメリカと軍事的に近い関係の国々を含む他の権利主張国との対立を生んだ。その結果、本来は中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の地域問題が、世界の二大勢力間の紛争の火種となっている。

権利を主張するため、ブルネイ、マレーシア、ベトナム、フィリピンは、中国と個別に対峙するよりも、集団でアプローチする方が交渉に有利だと判断し、ASEANを通して解決を図ろうとしている。一方、中国は全ての議論は2国間で解決を図るべきだと主張する。その方が彼らにとっては経済的、軍事的圧力をかけやすいからだ。そんな中、これまではイラクとアフガニスタンから手が放せなかったアメリカがこの問題に介入し始め、北京と集団で交渉しようとするASEAN諸国に全力で支援をすると声高に叫びだした。

中国の楊潔チ外相は即座にアメリカに介入しないよう警告し、そのような動きは「事態を一層深刻にし、解決をより困難にする」と力説した。それ以降、北京とワシントン間では激しい論戦が続いている。2011年7月、中国の首都を訪問した米統合参謀本部議長マイケル・マレン氏は今後軍事行動を起こすこともいとわないという脅迫を隠すことすらしなかった。マレン氏は次のように述べた。「様々な懸念があるが、現在進行中の衝突は、誤算や予測不可能な暴動へと発展する恐れがある」 アメリカは、自らの意図を明確にしようと、南シナ海でベトナムとフィリピンとの協同演習も含め一連の派手な軍事演習を行っている。中国の方も負けじとばかりに海上演習を行った。将来的な海上の「衝突」の材料は出そろっている。

アジア事情を詳しく追っている人々の間では南シナ海は長く注目の的だったが、これが国際的注目を浴びるようになったのは11月にオバマ大統領がオーストラリアを訪問し、驚くほど単刀直入にアジアと太平洋における中国の権力に対抗する新たな戦略を打ち出した時だった。大統領はキャンベラのオーストラリア議員たちを前にこう述べた。「将来の計画と予算策定においては、この地域の強力な軍事力を維持するのに必要な財源をあてる」 この戦略の特徴は南シナ海の「海上の安全」を約束する点だ。

11月にオバマ大統領がオーストラリアを訪問し、アジアと太平洋における中国の権力に対抗する新たな戦略を打ち出した。 アメリカ海軍 写真: ベンジャミン クロスリー

11月にオバマ大統領がオーストラリアを訪問し、アジアと太平洋における中国の権力に対抗する新たな戦略を打ち出した。アメリカ海軍 写真: ベンジャミン クロスリー

オバマ大統領はまたオーストラリア滞在中に、同国北部の沿岸ダーウィンに米軍基地を建設すること、インドネシアとフィリピンとの軍事的連携を強化することも発表した。大統領は1月に国防省でアメリカの軍事態勢の変化について議論した際も、この地域でのアメリカの軍事力誇示の重要性を改めて語っている。

北京も南シナ海で増す利潤を守ろうと、同じように挑発的な独自の対策を打ち出すに違いない。それによって何が起こるかはまだわからないが、南シナ海はホルムズ海峡に続き、2012年以降、わずかなミスや挑発がより大きな問題へと進展する世界的エネルギーの難所となる可能性がある。

カスピ海

カスピ海はロシア、イラン、旧ソ連の3カ国、アゼルバイジャン、カザフスタン、トルクメニスタンと接する陸に囲まれた水域である。他の周辺国としては旧ソ連のアルメニア、グルジア、キルギスタン、タジキスタンがある。これら旧ソ連の国々はいずれも、ある程度はモスクワの権威を離れ、アメリカ、ヨーロッパ連合、イラン、トルコ、さらに中国と個別に連携を結びたいと考えている。どの国も内部分裂や隣国との国境問題を抱える。この地域は、たとえカスピ海に世界最大の未開発の油田と天然ガス田がなくても紛争の温床だが、それらが絡むと即座に沸点に達する可能性がある。

カスピ海が原油の主要な供給源であり、よって紛争の源ともなり得ると見られるのは、今回が初めてではない。19世紀後半には、当時のロシア帝国の一部、現在はアゼルバイジャンにあるバクー周辺は原油の宝庫で、重要な戦略地点だった。その後ソ連の独裁者となるヨシフ・スターリンもまずは石油労働者のリーダーとして頭角を現したし、ヒトラーは1941年、ソ連に奇襲攻撃をかけこの地域を争奪しようとしたが失敗している。しかし第二次世界大戦以降、バクーの内陸の油田が枯渇してしまい、この地域は原油生産地としての重要性を失った。現在は、カスピ海沖と、これまで未開発だったカザフスタンやトルクメニスタンの地域で新たな開発が行われている。

エネルギー関連の巨大企業BPによると、カスピ海には480億バレルもの原油(ほとんどがアゼルバイジャンとカザフスタン)と約13兆立方メートルの天然ガス(最大供給地はトルクメニスタン)が埋蔵されているという。つまりこの地域は北米、南米よりガスの埋蔵量が多く、アジアより原油の埋蔵量が多い。ただしこのエネルギーを生産し外国市場へ輸送するのは途方もない作業だ。この地域のエネルギーインフラは嘆かわしい状態で、カスピ海自体、外と海路がつながっていないため全ての原油とガスはパイプラインか鉄道で運ばなければならない。

この地域で長く強大な勢力を持っていたロシアは、カスピ海周辺の原油およびガスと市場を結ぶ輸送ルートの支配を進めようとしている。彼らは旧ソ連諸国とロシアを結ぶ旧ソ連時代のパイプラインを改良したり、新たなものを敷設したりなどして、かつての外交や強引な戦術、そして各地域の指導者へのあからさまな賄賂(彼らの多くはかつてソビエトの官僚機構で働いた経験がある) などの手段を用い、この地域のエネルギー市場をほぼ独占しようと企んでいる。拙著『Rising Powers, Shrinking Planet』に詳しく書いたが ワシントンはロシアの領土を避けアゼルバイジャン、グルジア、トルコを通って地中海に抜けるパイプライン(特にバクー・トビリシ・ジェイハン〈BTC〉パイプライン)敷設に資金援助をしてロシアの計画を阻止しようとしており、北京はカスピ海と中国西部を結ぶ新たなパイプラインを敷設中である。

こういったパイプラインはいずれも民族不安や、様々な紛争の場であるチェチェンや南オセチア自治州を通る。よって中国とアメリカはパイプラインの稼動と、ルート上の諸国の軍事支援を一体化せざるを得なかった。元ソ連の領土で軍事その他の事情にアメリカが介入することを恐れるロシアは自らも軍隊を出動させ、2008年にはBTCルートでは短期だがグルジアと戦争が起こっている。

カスピ海の膨大な原油とガス埋蔵量にみせられ、多くのエネルギー会社がこの地域で新たな生産事業と、市場に運ぶために必要なパイプラインを作る事業を計画している。たとえばヨーロッパ連合はアゼルバイジャンからトルコ、オーストリアを通って天然ガスを輸送するナブッコ・パイプライン建設を望んでいる。ロシアはそれに対抗しサウス・ストリーム・パイプラインを計画している。このような動きはいずれも大国の地理的関心に関わるもので、カスピ海地域は今後も国際危機や紛争の火種であり続けるだろう。

新たな地球エネルギー時代を迎えた今、ホルムズ海峡、南シナ海、カスピ海だけがエネルギーに関する危険区域というわけでは決してない。中国と日本が海底の天然ガス田を狙って対立している東シナ海、イギリスとアルゼンチン両国が海底の油田の所有権を持っているフォークランド諸島周辺の海域、さらに、多国が資源所有権を主張する北極も同様だ。確かなことが1つある。2012年に火花が散るところには、海底原油があり、危険が迫る。

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著者

マイケル・T.・クレア氏は、ハンプシャー大学教授で平和と安全保障問題の専門家である。最新の著作は『Rising Powers, Shrinking Planet』。前作の『地と油』のドキュメンタリー映画版はMedia Education Foundationから発売されている。

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    M.Klareの最新の著「The Race for What’s Left」、石油ピークから様々な金属資源の限界、そして再生的な地下水、森林、漁業資源もピークを過ぎた。人間の生存損の砦は食料。中東のサウジは農地の獲得に走り、中国、韓国なども。そしてその地の農民と指導層間の争いとなる、世界は新たな不安定時代に。