討論会2.0:「人間の安全保障」の行方

金融業界で働く人々なら、「セキュリタイゼーション」という言葉を聞いて真っ先に思い浮かべるのは、住宅ローンを含むさまざまな種類の債権を蓄積し、債券などの商品として新たにパッケージ化する金融手法だろう。実際、この言葉をインターネットで検索すると250万件はヒットするだろうが、間違いなくそのほとんどは、複雑な金融市場に関連するウェブサイトだ。

だが、「セキュリティ」という言葉は金融市場だけで使われるものではない。国連システムと国際社会も、別の「セキュリタイゼーション」の波に巻き込まれているように見える。2011年4月に開催された第65回国連総会では、ヒューマン・セキュリティ、すなわち人間の安全保障のコンセプトと、それが国連および国際社会にとってなぜ重要なのかが非公式に議論された。

この会議において、アシャ=ローズ・ミギロ国連副事務総長は、「脅威が津波のように突然で予測できず、あるいは圧政を敷く独裁国家のようにしぶとく長期化する世界においては、人々の生存、生活、尊厳を脅かす幅広い状況を網羅するように、セキュリティのパラダイムを拡大する必要があった」と論じている

ミギロ副事務総長はまた、日本を先ごろ襲った3重の災害や、今年アラブ世界で相次いだ民主化運動を振り返り、「自然災害や根深い貧困から紛争の勃発、病気の蔓延まで、この数週間の劇的な出来事は、新興国にも先進国にも同様の脆弱性があることを明確に示している」と述べた

この副事務総長の見解は、2005年の世界サミット以降のトレンドを反映している。同サミットにおいて各国首脳は、人間の安全保障には「恐怖からの自由」と「欠乏からの自由」の両方が関わっていることに合意し、この定義により、人間の安全保障は従来の軍事・政治的パラダイムを超えて、社会、エネルギー、環境に関する問題も含むものになった。

実際に、さまざまな国連機関がそれぞれの分野で安全保障の課題に積極的に取り組んでいる。たとえば国連環境計画(UNEP)は環境安全保障、国連食糧農業機関は食料安全保障に取り組んでおり、他にも国連開発計画/ 国連人間の安全保障基金などが活動を行っている(同様に、1973/74年のオイルショックに対処するために設立された国際エネルギー機関は今日、加盟国にエネルギー安全保障の提案をするうえで、ますます重要な役割を担うようになっている)。

安全保障の定義が拡大され、社会・環境・人間開発における問題をも含むようになったことに異議を唱えるわけではない。だが、その先に何があるというのだろうか? これほど焦点が多様な議論が、最終的にどんな実を結ぶのだろうか?

おそらく私は悲観的すぎるのだ。もっと忍耐強く、こうした多種多様な安全保障問題が実行可能な政治的解決策に展開されるのを待つ必要があるのだろう。しかし、現実的な解決策の代わりに曖昧な概念がグローバルなガバナンス組織を動かすとどうなるのかは、「持続可能な開発」という言葉にまつわる経験で教訓が得られた通りだ。

私たちは時折、解決策を比喩や枠組みに置き換えて、社会や環境、人間開発といったグローバル規模の懸念を議論してしまうらしい。注目度が増しつつあるこの安全保障の話になると、私たちがまるで、どこかの軍隊が応急処置をしてくれるのを待っているように聞こえるのだ。あたかも米海軍特殊部隊がオサマ・ビン・ラディン殺害のために派遣されたのと同様に、気候変動による人口移動を一気に解消するために招集できる特殊部隊が存在するかのように。

残念ながら、エネルギー安全保障、食料安全保障、環境安全保障、気候安全保障、そして人間の安全保障に関する国連のプログラムやイニシアチブが(たとえどれほど価値のあるものであっても)、こういった問題に同時に対処しようと試みながら、結局、何ひとつ解決できないという事態に陥ることは十分に考えられる。1つ確実に言えるのは、セキュリタイゼーションがトレンドとなる中で、本来の救うべき人々、すなわち国際社会で最も脆弱な人々に、実際どのようなメリットがもたらされるのかは明らかにならなくとも、安全保障をテーマとする国際会議の計画だけは増えていくということだ。

皆さんはどう思われるだろうか? 安全保障の旗印の下で、人間の生活におけるあらゆる脅威に対処すれば、世界中で「リスクにさらされている」コミュニティに違いをもたらせるのだろうか? 私たちは解決策ではなく、言葉に踊らされているだけではないのだろうか?

翻訳:ユニカルインターナショナル

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著者

ジェイコブ・パーク氏はアメリカ・バーモント州のグリーンマウンテン・カレッジでビジネス戦略・持続可能性を専門とする准教授である。