地球を守るため 成長を制限する

「現在の人口増、工業化、公害、食糧生産、資源の枯渇がこのまま続けば、今後100年以内にこの惑星は成長の限界に達するだろう」

気候変動、不安定な食糧事情、生物多様性の喪失などに関心が向けられる2010 年現在、上記の予測には説得力がある。

しかし、同じ説明を1972年に聞いていたら、あなたはどんな反応を示しただろうか。

デニス・メドウズ博士は40年前に、故ドネラ・メドウズ氏、Jørgen Randers氏、William H. Behrens III氏と共著で、名著といわれる『成長の限界』を記し、その中でこのように述べていたのである。反対する議論が噴出し、この本は環境問題に関わる人々の間で最も物議をかもし、影響力を持つ1冊に数えられるようになった。メドウズ博士は今日もほぼ同様のメッセージを訴え続けているが、メッセージの緊迫感は以前より増している。

「今日、かつてうまく機能した事情がもはや機能しない地点にきています」メドウズ博士は、先日、国際連合大学のウ・タント会議場で行われた新大学院新設記念シンポジウムにおいて多くの聴衆を前に上記のように述べた。

力学的事実

成長の限界という議論を生み出すにあたり、メドウズ博士と共著者らはコンピューターモデルWorld3を作った。世界人口、工業生産、気候変動、石油と金属の使用などの指標を用い、人類が地球の環境収容能力を超えていないかどうかを計るものだ。分析では1980年頃この限界点を超えたことが示されている。

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2002年のこのグラフは1972年の『成長の限界』で示された予測シナリオである。人類のエネルギーと資源の需要に対し、利用可能な供給量(すなわち私たちの星、地球)が示されている。人間の需要は1980年以降から自然の供給量を超え、1999年にはその超過分が20%に達している。(出典: M.ワッカーナゲルその他)

システム力学、金融学、経営学の分野で博学で知られるメドウズ氏は聴衆に対し、世界システムについて理解されるべき主要な「dynamic facts(力学的事実)」について説明した。

その1つが相互関連性であり、成長を制御するには成長方程式の全ての要素を考慮に入れなければならないという考え方だった。

「相互関連性を理解しなければ、成功しません」と博士は地球温暖化についての話の中で述べた。「二酸化炭素排出削減に集中しようにも、人口増加など他の問題にも同時に注目しなければ効果は得られません」

メドウズ博士はまた、株価暴落などのシステム崩壊や、急激な解氷などを招く転換点がこないよう努力することの重要性も強調した。フィードバックループとは減少しつつある氷河が太陽光反射量も減らし、そのため気温が上昇し、解氷のスピードも早まるといった悪循環を意味する。

メドウズ博士は次の点も指摘した。「たとえ今日、二酸化炭素排出量をゼロに減らすことができたとしても、今後数百年とは言わないまでも、数十年は気候変動の影響は続くでしょう」

「習慣を変えなければいけない」

産業革命のおかげで衣服、インフラ、食糧、その他製品の需要に見合うだけの大量生産が可能になった。その過程でこれらの製品の供給は需要を超えてしまい、積極的な宣伝や市場拡大による需要創出がシステム全体においても個々の企業経営においても最も重要な特徴となっていった。

しかし、このような拡大主義的経済政策の礎である過剰な生産能力は、もはや持続可能なものではなくなった。メドウズ博士が示唆するように、私たちは古い習慣を新たな政策や制度に転換し、物理的成長を伴わない、人類の幸福という観点からみた発展を支えていかなければならない。

だが、より少なく幸せであるにはどうしたらよいのだろう。主導的な役割を果す新進思想家たちは「新習慣」を支持することを政策提言という形で表明している。(この話題に関する記事をご覧ください)多くの概念には重なるところがある。例えばGDP以外の情報を補完するより良い経済指標の作成、人口と所得格差の制限、課税システムの見直しなどだ。

“資本、金融、労働、情報における急速な世界的な動きにより、政策決定における成長偏重型民間セクターの影響力は高まっている。”

写真提供 国連大学サステイナビリティと平和研究所

これらは全て重要で新しい概念だが、それ自体が現実的な政策目標といえるものはほとんどない。政府や市民社会には(特に現在の経済状況の中では)そのような変化を推し進める手段も権限もないからである。推し進める「意志」についても言うまでもない。資本、金融、労働、情報における急速な世界的な動きにより、政策決定における成長偏重型民間セクターの影響力は高まっているからだ。

例えば収入の平等化を進めるには一体どこから手をつければよいだろう。例え富裕層だけを対象にすると言っても税金引き上げの概念自体が社会で最も勢力のあるグループに逐一反対されるというのに?

社会経済システムが相互依存しながら間違った方向に進みつつある慣性のボールだとしたら、まず変えなければならないのは、私たちの行動を支配する価値観、信念、生活パターン(制度的ロックイン:他の行動を取らず特定の行動を取り続けること)である。ここでメドウズ博士や似た考えの人々の研究に基づき3つの現実的公共政策目標を手短に挙げることとする。これらには、少なくとも長期的に見れば専門家が必要性を訴えている変化に対し触媒作用があるかもしれない。

政治家でさえわかる3つの超簡単な地球の守り方

1. 子どもを自然とつなげる環境教育
人格は子どもの頃に養われるものであり、大人になってから子どもの頃にしたことをすると満足感が得られるということはよく知られている。「自然欠乏症」とも呼ばれる状態から明日の大人を守るために、教育関係者は教育委員会と協力し幼い子ども向けの環境教育プログラムを始め、自然とのつながりを強固にすることができる。

実際に、自然欠乏症という表現を作りだした人物は、The Children & Nature Networkの立ち上げに関わり、この組織を通して子どもの健康と幸せづくりに貢献している研究者と個人、教育者と組織を結びつける重要な関係作りに貢献している。

この目的で自然センターを自然のあふれる場所に設置し、そこを訪れることを学校のカリキュラムに組み込めばよい。この考えはアメリカにあるタイプのものと同様の「森の」幼稚園の考え方の根底にあるものだ。このような学校は森の中の校舎で授業や自然を知る活動を行うものだ。
2.「消費者」ではなく「市民」になる
先進国のほとんどの人々と開発途上国で増加しつつある小数民族は、その購買力を使って社会に影響を与えている。そのため、政府や企業は私たちを「消費者」とみなしている。このダイナミクスは一見悪いことではないように思える。ボイコットが成功するのも、企業が顧客に気を遣うのも私たちが消費者だからだ。(「お客様は常に正しい」という表現がいかに私たちをいい気分にさせてくれることか)

だが実際はこのことが歪んだ関係を強化しているのだ。つまり私たちは市民として、選出したリーダーに責任を課すことができるはずだが、その権利が民間(私たちが選んだのでもなく、知りもしない会社のリーダーたち)に移ってしまっているのだ。企業団体の利益が、市民社会や地域団体の利益よりはるかに偏重される。この傾向は民主主義を腐食するもので、覆されるべきものである。

簡単に言えば、「投票者」ではなく「市民」は、自分たちの利益を表明し政府に責任を課すことができる市民社会グループなどに参加して政治的権利を取り戻すべきである。あなたは現在いくつの政治活動グループに参加しているだろうか。そこで費やす時間と、「消費者」として1週間に費やす時間を比べてみよう。
3. 脱都会化と地方化(家族と地域の密着)
就職しやすいとはいえ、都会での生活は家族の孤立化、重要な農地の破壊、資源使用を招き、移動や雑事に無駄な時間が費やされる。

分かり易い例を挙げよう。都市の生活を維持するために生産物が地方や海外からスーパーへと運ばれてくる。しかし私たちはその生産者のことも箱詰めした人も、運んだ人のことも知らない。生産から流通の連鎖の中では、次の担当者には環境コストは知らされず、ましてや消費者には何も伝えられない。資源が持続可能でない形で使われていると知らせるフィードバックループは途切れ、例えば罪のないバナナ1本がいかに環境にとって破壊的影響を持つのか、ほとんどの人は知らない。

小規模で結びつきの強い地域社会や都市では、問題の責任がどこにあるか判断し、直接地域レベルで対応ができる。持続可能な居住地域を作るには、日本の里山イニシアティブのような斬新なプログラムに政府が相当の投資をしなければならない。里山イニシアティブでは苦しかった農村地域などを活性化させるという付加価値もついた。

個々の力が集まれば

環境への意識が高く活動的な市民が、成長を制限する政策作りのための政治的意志を盛り上げていかなければならない。今、若い世代に投資をすると同時に、知識としてだけ持っている価値観を実際の行動に移すべきである。「すべてのタマゴをひとつのカゴにいれるな」と言われるが、その「カゴ」をひとつ増やせるのだ。

調査や研究によると人々は環境に対する信条はいくつかあるものの、個人的、家庭的、社会的、心理的理由があって行動に移せないでいる。このようなためらいこそ、公共政策やビジネス習慣において取り挙げられるべきだ。

「必要なのは、人々に新しい価値観を実行に移すよう指導できる人材です。個人ではなく、ポジティブな変化を進めるあらゆる団体が必要なのです」とメドウズ博士は言う。

陳腐な表現ながら、個人も変化を起こすことは可能だ。メドウズ博士は私たちOur World 2.0のライターを含め、多くの人々に前向きな影響を及ぼしてきた。博士の学識と、持続可能な社会への変化を導くための価値観を広めようという強い意志には感銘を受ける。

博士は世界の大いなる変化を予測したという偉大な功績を残しながらも、権力の座にある人々を変えることに成功していないことを認めている。

「アメリカの政治家には影響を与えていないし、私も彼らから影響を受けていません」と博士。

意識の高い個人がもっと増えることで博士の成功もより大きなものになるのかもしれない。

翻訳:石原明子

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

ダレック・ゴンドール氏は作家兼編集者であり、カナダ政府の政策分析家である。過去には国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)で、国際学術誌『Sustainability Science』の編集委員および研究員を務めた。彼は公共政策の観点から人間と環境の相互作用の影響について執筆している。ゲルフ大学で生態学、またカールトン大学で公共政策の学位を修得している。

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