気象学者を非難しないで

ヒマラヤ山脈の氷河の解氷速度に関する記事に誤りがあったからという理由で、気候変動自体を否定するのは、恐るべき知的まやかしである。

しかし実際に気候変動懐疑論者は気候変動を否定する。気候変動に関する私たちの理解は膨大かつ正確な科学的根拠に基づいたものである。それなのに、自らを危険にさらしてでも、それらを歪曲し、わい小化しているという現状だ。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、1988年の設立以来、4つの評価報告書と、その他重要な特別報告書を発行してきた。その最新版、2007年発行の第4次評価報告書(AR4)には世界各国から450人の科学者が主執筆者として従事した。その他に800人の執筆協力者が専門的な助言を、約2500人の専門家が9万件のレビューコメントを提供した。

この途方もなく膨大な作業によって制作された3000ページに及ぶ報告書であるが、大変残念なことに誤った記述があった。ヒマラヤ山脈の氷河が2035年までに消失するという記事である。IPCCはこの誤りを認めている。

この誤りを教訓とし、IPCCは国連事務局長の協力を得て、作業手順や作業方法に関する独立レビューを実施するようインターアカデミーカウンシル(IAC)に申請した。このレビューは、今後似たような過ちを可能な限り防ぐということを目的のひとつとしている。

事実と向き合う責任がある

AR4にはヒマラヤ山脈の氷河に関する誤りや、その他いくつかの特定の表現に関する疑問点などはあるものの、報告書の調査結果は気候システムの温暖化が間違いなく進んでいるという絶対的な証拠を示している。「20世紀中旬からみられる世界的な平均気温上昇は、人間が排出する温室効果ガス(GHG)の集積によるものである可能性が非常に高い」と報告書では指摘している。

「我々が適切な緩和策や持続可能な発展の方法を実行しなければ…
21世紀における世界の気候システムの変化は、20世紀の変化よりさらに大きなものになるだろう」

地球の住人である私たちの命は、安定した気候なしでは続かない。将来の世代が気候変動の影響に苦しまないよう努めるのは私たちの責任である。観測に則った気候変動の影響で、AR4が述べているように、「世界中の気温と海水温が上昇し、雪氷が溶けることによって、海面上昇が引き起こされている」という事実を無視するわけにはいかない。

数多くの研究者やいくつかの諜報機関による公的な調査は、気候変動による安全性への影響について指摘している。

私たちが適切な緩和策や持続可能な発展の方法を実行しなければ世界中の温室効果ガスは増加し続け、現状あるいはそれ以上の割合でいけば、世界の気温は上昇を続け21世紀における世界の気候システムの変化は、20世紀の変化よりさらに大きなものになるだろう。

異常気象が強度を増して頻発し、海面上昇とあいまって自然と人類のシステムに損害を与えるだろうと予測される。さらに重大なのは人が引き起こす温暖化は突発的かつ不可逆の影響を与えるかもしれないというという研究結果だ。例えば、北極の氷床の一部が溶けると海面は数メートルも上昇し、海岸線が大きく変わり標高の低い地域、三角州、標高の低い島などに多大な変化を引き起こすはずだ。

決定的な選択を下すときだ

人間社会は重大な選択肢を抱えている。利害関係のある人々や産業セクターにとっては障害となることかもしれない。しかし、IPCCの科学的な研究結果を無視すれば、現在地球の気候を安定させるのにかかる費用より、はるかに多くの費用が必要になるだろう。

「無知と闘う科学者たちが新たな形の迫害を受けたり、
科学的根拠に基づいた信念のためにひどい仕打ちをうけたりするようなことがないよう
心から願っている」

世界中の何千人もの科学者たちが、気候変動問題に対処するための行動を求め、科学的根拠を提供しようと真摯に公正に作業してきた。3000ページにも及ぶ正確な報告書の1つの過ちに過剰に重点を置き、現実問題を覆い隠そうとするのは嘆かわしいことだ。

さらに嘆かわしいのは、権力と責任ある地位の人々が、熱心な科学者たちを「気候犯罪者」だなどと非難することだ。無知と闘う科学者たちが新たな形の迫害を受けたり、科学的根拠に基づいた信念のためにひどい仕打ちをうけたりするようなことがないよう心から願っている。

IPCCは仕事内容に関する批判や経験から学び続けるだろう。数千人もの高名な科学者たちからの助言、各国政府、そしてIACのおかげで、IPCCは今後も増え続ける気候変動問題に対処するための堅固で信頼できる科学的基盤を提供できるよりよい環境にあるといえる。

この記事は2010年3月26日金曜日、グリニッジ標準時17:00にguardian.co.ukで公表されたものです。

翻訳:石原明子

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