ドーハ会議への懸念

今月下旬、カタールのドーハで第18回締約国会議(COP18)が開催される。過去17回の会議と同様に、COP18には気候変動に関する国際連合枠組条約の締約国が集まり、人為起源による気候変動の影響に対する緩和策と適応策の国際的な進捗状況を評価する。

京都で開催された第3回締約国会議(COP3)では、開催地名を冠した議定書が採択された。京都議定書は、産業諸国および旧ソビエト連邦諸国に対し、法的拘束力を持つ温暖化ガス排出量の制限を設定し、1990年の排出量を基準として2012年までに平均7パーセント削減することを定めた。アメリカはクリントン政権時代に議定書の批准を拒否し、ブッシュ大統領は議定書を明確に退けた。京都議定書の約束期間が2012年末に失効するため、後継案が必要とされている。

ドーハ会議には期待がほとんど寄せられていない。京都議定書以降の気候管理体制へのアプローチが抱える欠陥は、アメリカが京都議定書を批准しなかった理由と同じだ。アメリカの参加は決定的に重要である。中国とインドが法的拘束力を持つ制限を受け入れれば、将来の気候管理体制の効力は間違いなく強まるが、アメリカが非協力的であれば効力は大幅に低減する。また、アメリカが批准を拒否すれば、中国とインドも批准する動機をまず間違いなく失ってしまう。

キャス・サンスティーン氏(当時のシカゴ大学法学部教授)は自身の論文で、京都議定書の問題とモントリオール議定書(恐らく国際的な環境問題の交渉の成功例だ)を比較し、アメリカは単に京都議定書の費用便益分析に納得していなかったのだと論じた。一般的な推測とは反し、サンスティーン氏は、批准拒否の理由は典型的な囚人のジレンマではないと主張する。つまり、アメリカは中国とインドの不参加や不履行を見込んだために批准しなかったのではないということだ。自国の利益のみを考えて費用便益性を計算したために「たとえすべての国を順守させるためにアメリカのコンプライアンスが十分かつ必要だったとしても、京都議定書へのコンプライアンスは正当化されなかった」。サンスティーン氏は、ウィリアム・ノードハウス氏とジョセフ・ボイヤー氏の共著『Warming the World: Economic Models of Global Warming(世界の温暖化:地球温暖化の経済学的モデル) 』で示された数値を引用し、たとえアメリカ以外のすべての国が議定書に従ったとしても、アメリカは議定書に従うことで3130億ドルの純損益を被っていただろうことを明らかにした。

モントリオール議定書の場合は違った。アメリカは、たとえ他の国々が従わなくても、署名することは有益だと考えていた。同議定書はクロロフルオロカーボン(CFC)の排出撲滅を目指した。CFCとは、冷凍やエアゾールの関連業界で使用される化合物で、大気圏のオゾン層に穴を開ける原因となる。オゾン層は、太陽から放射される有害な紫外線が地球の表面に届くのを最小限にとどめるために不可欠である。アメリカは単独でCFC使用禁止令を実施した場合、皮膚がんの症例減少に伴って、医療費は大幅に削減される(環境保護局((EPA))によれば削減額は今後80年間で1兆3000億1985ドル以上に上る)。

こうした状況は京都議定書の構造的問題を示唆している。私の批判的見解としては、気温上昇をセ氏2度以内に抑えるという全網羅的で法的拘束力を持つ協定を実現させようとする考えに問題があるのだと思う。それが良い目標であることに疑う余地はない。しかし、それに伴う交渉は非生産的である。アメリカが将来的に非協力的な態度を示す兆候は明らかだ。アメリカはドーハに先駆けた予備サミットに敢えて欠席している。先月、バリで開催されたカルタヘナ対話に29カ国が集まり、京都議定書に代わる法的拘束力を持つ協定を求める合意形成に努めた。この対話にはノルウェー、デンマーク、オーストラリア、ドイツ、フランス、イギリスが参加したが、アメリカは欠席したのだ。

欧州連合は政策方針書を発表し、ドーハ会議は「2013年1月1日から始まる京都議定書の第2約束期間に関する結論も出す」べきと考える立場を強調した。これほどの熱意はアメリカ政府からは全く示されない。その原因を国内での選挙に求めることもできるが、ヨーロッパ諸国も現在、多少なりともそれぞれ厄介な問題を抱えている。そう考えると、戦いはなじみ深い輪郭で浮かび上がってくる。アメリカはいまだに、二酸化炭素排出の規制に関する法的拘束力を持つ協定に署名することに、あまりメリットを感じていないのだ。つまりインセンティブ構造が変わらないままだということだ。

ドーハ会議、さらには来年のバンコックにおけるサミットで、法的拘束力を持つ世界的な協定への署名を迫ると予測されるプレッシャーは、開発途上諸国に懸念を生じさせている。10月後半、同じ考えを持つ開発途上諸国(LMDC)グループと呼ばれる組織が北京で会合を開き、「共通の利益と優先事項」をめぐって一致団結する必要性を強調する決議を可決した。LMDCグループには中国、インド、ボリビア、エジプト、サウジアラビアなどが参加している。G77+中国と呼ばれるより大きな系列の一部であるLMDCグループは、明確なメッセージを打ち出している。すなわち、LMDCグループはドーハ会議でブロックとして投票し、開発途上諸国の開発問題に適切な解決策を講じないような法的拘束力を持つ提案はすべて握りつぶす意向であるというメッセージだ。

複雑な気候問題への解決策が先進国と開発途上国間の大きな駆け引きとして捉えられている限り、協定の成立はとうてい不可能だ。それは、協定に良い結果をもたらさない対立と競争心を煽るだけである。

富裕諸国と貧困諸国の協力関係のための2国間協定や地域協定を重視すれば、1つの選択肢が考えられる。グリーン気候基金は2009年のコペンハーゲン会議で設立されたにもかかわらず、いまだに資金が集まらず、運用が遅れているが、それとは明らかに対照的に、ノルウェーはガイアナに、1600万ヘクタールの熱帯雨林を保護するために2億5000万ドル近くを提供する予定だ。さらに同様の例としてはEU・中国気候変動パートナーシップ5があり、二酸化炭素の回収・貯蔵技術を利用した石炭火力発電所のために、ヨーロッパ系の資金を集めている。こうした協定は富裕諸国に投資機会を与え、資金提供を受ける国にとってはインフラストラクチャーを整備する機会となる。結果として、このような協定は、どちらの国にとっても国内の世論に受け入れられやすい。今回の大きな駆け引きの支持者たちは、上記のような活動は気温をぎりぎりのレベルに抑えるためには適切ではないかもしれないと主張する。しかし、国際的な協力を集めるには妥当な手段である。その一方で、懐疑論者たちの提案は、ただ怪気炎を上げるばかりなのだ。

本稿はコーネル・デイリー・サン紙の許可を得て掲載されました。

翻訳:髙﨑文子

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著者

キラット・シン氏はニューヨーク州イサカのコーネル大学人文科学学部3年生であり、経済学と政治学を専攻している。彼はコーネル大学のディベート部副部長を務め、コーネル・デイリー・サン紙で隔週ごとにコラムを執筆している。将来の夢は環境問題の弁護士になることだ。

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