従来のビジネスの終えん

「持続可能なグリーンエコノミーの創造においては、失敗は断じて許されない。少なくとも将来の世代を考えるとそうだ」 このような強烈な主張がなされたのは、先月、東京で欧州ビジネス協会が主催した会議の開会式でのことだ。

このイベントの基調講演を行ったのは『石油の終焉』(2005年)の著者、ポール・ロバーツ氏である。これは優れた大著で、リチャード・ハインバーグ氏による2冊の名著『The Party’s Over(パーティーは終わった)』と『Powerdown(パワーダウン)』と共に、このOurWorld2.0の立ち上げの際に私たちは多いに触発されたものだ。

ロバーツ氏は2008年に続けてベストセラーとなった『食の終焉』を出版した。この書には「現代の食事に隠された恐るべき経済の現実」が描かれている。氏は講演の冒頭で、もっとハッピーなタイトルの本を書いたらもっと売れるのに、と子供たちから言われたと語った。

ロバーツ氏にとって、持続可能性とはグリーン雇用、グリーン・テクノロジー、そしてとても重要なことだが「罪悪感に悩まされることのない」商品を意味する。

氏は次のように説明した。「私たちは企業レベルでも個人レベルでも、企業や国家やこの惑星を滅ぼすことなく経済成長し、より高い投資リターンを得られるという確信が欲しいのです」

とはいえ、多くの人々にとって全てが順調に進んでいるにもかかわらず持続可能性を支持することは難しい。経済は回復傾向にあり(南欧の一部は例外だが)、テクノロジーは進化し続け、顧客の発言力も増し、様々な資源も手に入るようになった。歴史は私たちの味方であり、今までもこれからも障害を乗り越えることが出来るものだと私たちは考えがちだ。

ロバーツ氏は続ける。「産業革命が始まって以降、私たちは成功から次の成功へと突き進んできました」 その結果、それがいつまでも続くと期待してしまうのだ。

未来は過去と同じようにはいかない

だからといって自己満足したままではいけないと氏は主張する。未来を予測するにあたって過去を証拠にしてはいけない(私は指針としては役立つのではないかと思うが)。ロバーツ氏の主張について考察し、私は次のような懸念を抱いた。人間は過去の崩壊した文明については都合よく忘れ去ってしまいがちで、猛烈なスピードの進化がもたらす影響を完全に理解することは出来ないのではないか。そして予防の原則は進歩の車輪の前では忘れられがちだ。

ロバーツ氏は続ける。人類や地球の未来を脅かす一連の新たなリスクに対峙するのだから、私たちが不安になるのも当然だと。

氏によると、気候変動は、あらゆる分野での考え方を根本から覆している。だが、たとえ気候変動など無視し、学術的な理由でそれをでたらめだと仮定しても、今日私たちが直面する他の様々な難題には悩まされるだろう。

また懸念すべき別の問題は、産業、経済システムへの投入物の価格だ。ロバーツ氏は時間の推移と原油価格のデータを示し、私たちはハイ・ボラティリティ(高い変動率)と高価格の時代にいると説明した。歴史的に見ると、過去150年は「石油産業が産業化される以前と比べて、現在の方が石油に対する支出額は大きい」という。今日の石油産業が非常に効率的で、技術も進化し、巨大な規模で展開されているにもかかわらずだ。

それでもグローバル経済を構築できたのは、原油価格が比較的低い時代のことであり、石油がこの先も安価で安定していることを前提としていた。だが現在は上昇し続ける石油価格の現実と折り合いをつけなければならない。

“私たちは企業レベルでも個人レベルでも、企業や国家やこの惑星を滅ぼすことなく経済成長し、より高い投資リターンを得られるという確信が欲しいのです。”

ポール・ロバーツ氏

現在の高価格には様々な要因がある。例えば、新たな油田の発見数は減少しており(ピークは1960年だった)、発見されても小規模になってきている。石油の掘削作業もはるかに高額になった。

「以前よりずっと深く掘削しなければなりません」とロバーツ氏。「北極、シベリアなど過酷な環境で作業しなければならず、そのコストは著しく上昇しています」

また石油価格を左右する別の問題は、ほとんどの油田は世界で最も不安定な国々、主に中東に集中しているという点である。これを考慮に入れると「私たちの経済はこれらの様々な要因によっていわば人質となっている商品に基づいたものだとお分かりでしょう」と氏は続けた。

通常の市場経済なら、消費者は石油価格が上昇すれば別の選択肢を選ぶことだろう。例えば、再生可能エネルギー、バイオ燃料、バイオプラスチック、ハイブリッド車や電気自動車などだ。この傾向もあるにはあるが、現代社会は石油に基づいた経済とインフラにあまりに多くを投資してきたため、代替手段に移行するには膨大な努力が必要となる。石油価格は移行への動きを触発するほどの高額にはならないようだ。なぜなら石油価格が高騰すると景気は後退し、需要が落ち込むため、再び価格が下がるからだ。まさにキャッチ22(矛盾する状況による板ばさみの状態)の典型と言えよう。

他にも石油価格と直結している食料価格などのリスクもある。国際連合食糧農業機関(FAO)のデータによると現在、食料価格は高く変動的だ。食のコストは人口増加、収益力、食事パターンに影響を受ける。例えば西洋型の食事が広まりを見せ、乳製品、肉、加工食品、インスタント食品、贅沢食材が増加している。

また、食費が上がると、とりわけ途上国では、「アラブの春」に見られたような社会的、政治的不安が起こる。市場はその不安により石油供給に直接的影響が出ることを恐れるため、石油価格が高騰する。これは事象連鎖または無限ループといえる。

諦めるしかないのか?

いや、そんなことはない。将来像はかなり厳しいとはいえ、私たちが今すべきなのは、それぞれの問題が個別に解決できるという考えを改めることだ。

ロバーツ氏は次のように諭す。「事の複雑さと、無限ループの存在(問題→解決→新たな問題)を認識すれば、新境地が生まれ、複雑さを活用して事象連鎖を食い止めることができます。でもそれには、どのように連鎖が起こるのかを詳しく認識していなければなりません」

氏によればそれは誰もが知っていることだ。しかし、ただ投資をするとなると、このレベルの複雑さまでは考えようとせず、もっとシンプルなパラダイム(認識の枠組み)を求めがちだ。ロバーツ氏の見解によれば、私たちが今後新たなリスクに対処しながら前進するためには、事の複雑さを十分に受け入れなければならない。ビジネスには常に適応力が必要なのだ。

彼は2つの例を挙げている。日本の多毛作と、アメリカのフード・マイレージと都市農業だ。これらは複雑さを受け入れればいかに新たな機会を生み出すかを示している。多毛作(同じ耕地で数種類の作物を栽培することなど)は土地を有効活用し大家族を養う方法を示す好例だ。また、フード・マイレージと都市農業は地域の食の確保とレジリアンスを高めると同時に、食材のカーボン・フットプリント(商品のライフサイクル全体を通して排出された温室効果ガスをCO2に換算した数値)を削減することも出来る。いずれも私たちの食料バランスを分類し直し、そこに地域の要素を増す良い機会となっている。

ロバーツ氏は講演を次のように締めくくった。「将来は複雑です。それに抗うか、そこから利を得るかのいずれかです」

従来のビジネスの終えんではなく新たな始まりだ

ロバーツ氏の講演は、集まった国際ビジネスリーダーや、在日欧州ビジネス連合の会員の間で好評を博した。

この会議では、他に様々なビジネス代表者による講演が行われた。トタルオイル、ユニリーバ、損保ジャパンはそれぞれCSR(企業の社会的責任)活動について話した。また与党自民党の衆議院議員、河野太郎氏も素晴らしい講演を行い、日本が今後全国の原発を廃止すべき理由を述べた。河野氏は1997年から日本の原発セクターへの過度の依存について懸念を表明し続けており、新たな原子力発電所の建設に反対している。彼は2050年までに全てのエネルギーを再生可能エネルギーにできるとする日本の将来のエネルギーシナリオを提示した環境エネルギー政策研究所の研究内容に基づいたもの)。

さらに、ヴェスタスウインドテクノロジージャパンのルーク・エギントン代表取締役による興味深いプレゼンテーションも行われた。氏は日本の風力テクノロジーについての思い込みと、それがいかにこの発電テクノロジーの急速な拡大を妨げてきているかについて語っている。思い込みとは次のようなものだ。

エギントン氏は、今でも多くの影響力ある人々が信じ続けているこのような思い込みに対し、1つ1つ説得力を持って反論した。そして、2012年7月1日にスタートする固定価格買取制度により、日本の再生可能エネルギーへの投資は新たな段階に突入するだろうと述べた。

エギントン氏のプレゼンテーションは非常に興味深いものだったが、私の意見では、今本当に必要なのは、日本を100%再生可能エネルギーに移行させるために必要な投資額に関する包括的で客観的な見積もりではないだろうか。環境エネルギー政策研究所、グリーンピース、WWF、環境省によるいくつかの研究が行われているが、その研究結果はまちまちである。

むしろ私たちに必要なのはデービッド・マッケイ氏がイギリスで行い、TEDxウォーリックで発表した研究のようなものだろう。マッケイ氏はあらゆるエネルギーの選択肢を示しそれぞれについて解説した上で、私たち1人1人が最適なものを決定するのが良いと主張している。それが持続可能なエネルギー戦略だ。

このイベントにおける他のプレゼンテーションも洞察に富むものばかりで、テーマとして都市デザイン、持続可能な交通手段、スマートで強力なグリッドテクノロジー、そしてコンパクトシティが取り上げられていた。

“講演者も観客も、人類全員が前例を見ない課題に直面していることは認識しつつも、個人レベルではいまだに「従来のビジネス」に固執しているようだ。”

総合的に見ると、講演者も観客も、人類全員が前例を見ない課題に直面していることは認識しつつも、個人レベルではいまだに「従来のビジネス」に固執しているようだ。中心的な考えは「徐々に前進しよう」というもので、ハンス・ディートマール・シュヴァイスグート駐日欧州連合大使は「従来のビジネス形態は終わった」と語るのは効果的ではなく、誤解を与えかねないと指摘した。

会議の後、私の頭を2つの思いが巡っていた。1つ目は、まるで日本の封建時代である江戸時代の終わり、1860年代にまでタイムスリップして、当時の会合を見てきたようだという思いだ。目の前に並んでいるのは大名(現代版ではビジネスリーダーたち)で、今後、日本は近代化すべきかどうか否かを話し合っているのだ。1860年代の日本にとって「従来のビジネスの終えん」とは封建時代の終えん、明治維新と産業化の始まりだった。だが、当時の封建社会の中にあっては、産業化が何を意味するのかを想像することは難しかったに違いない。

2つ目は、この会議では講演者の1人が「小さなステップを徐々に」踏んでいくことが前進するための最も合理的な方法だと述べたが、1860年代に日本を近代化すべきだと考えた日本人、あるいは産業革命当初に封建時代は終わったと考えたイギリス人がその意見に賛同したとは考えにくい。実際、この講演者の発言に対しては聴衆から「徐々に変化する」だけで十分なのかという質問が飛んだ。それに対する講演者の回答は「たくさんの小さなステップを踏んでから、大きく飛躍するのです」だった。

では、次の大きな飛躍とは何なのだろう。手遅れにならないだろうか。

翻訳:石原明子

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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