水道民営化に反対するギリシャ市民

ギリシャは民主主義について多少は知っている。乾燥化が進むこの国では将来に向けた賢明な水の管理は政治的にも物理的にも極めて重要だ。今回の財政危機はギリシャの民主主義を試すものであるが、水にとっての脅威でもある。

「誰でも水が利用でき、それが清潔で公共のものであれば、その社会は民主的だといえる」
コスタス・マリオグロウ氏はこのように考える。彼はテッサロニキ水道公社(EYATH) で倉庫から水道メーターや水道管を配送する仕事をするかたわら労働組合の幹部を務め、またイニシアチブ136の主催者でもある。これは、このギリシャ第二の都市の水道事業における政府の株式を購入しようという市民によるイニシアチブ(自発的な取り組み)である。

ギリシャには水道民営化の大きな圧力がかかっている。国が負債による破綻の危機を迎える中、欧州委員会、国際通貨基金、欧州中央銀行(この3者を総称してトロイカと呼ぶ)は、公共の水を売却してなんとか帳尻を合わせようという熱心な政党と協力している。財政危機において水道事業を民営化しようとする国はギリシャが初めてではない。水道事業の全てまたは一部の民営化を金融支援の条件とする方法は、国際金融機関の間では一般的になりつつあるが、それは大いに批判を浴びている

「2つの選挙(5月6日、6月17日)後の国民のメッセージは負債とトロイカが課した措置に関して再交渉を求めるものだったにもかかわらず、新政権はトロイカによるプログラムを継続しています」イニシアチブ136のメンバー、テオドロス・カリョティス 氏は話す。

2010年6月、財務省はギリシャ共和国資産開発基金を通し、ギリシャ政府はEYATHとアテネ水道公社(EYDAP) のシェアを74パーセントから51パーセントに削減すると発表した。その後、財務省はその数値を変更し、2社の国有会社の保有株を100%売却しようとしている。現在はEYATH株の約21%がアテネ株式市場で取引されている。

フランスの水道会社スエズはEYATH の5%を所有しているが、今後民営化が進めばそのシェアを増やすかもしれない。だがEYATHの労働組合委員長ジョージ・アルコントポウロス氏によると、2006年のEYATH施設を見学の後、その会社の幹部は「なぜテッサロニキの水はこんなに安いのですか」と尋ねたという。アルコントポウロス氏は、財政危機によって水が確かな儲け口になると期待してはいけないということがはっきりすればよいと思っている。

「毎日人々が水道料金の支払いを交渉しようと本部にやってきます。水すら彼らには高すぎるからです」

アルコントポウロス氏ととマリオグロウ氏は、民営化によって負債が減らせるという政府の見解に当惑している。 「Buying back the public, 136 euros at a time(公社を再び 一度に136ユーロを)」 という記事には「EYATHの利益は年間7500万ユーロ(EUR)で、2010年と2011年には債務危機にもかかわらず、それぞれ1240万と、2018万ユーロとなった」とある。しかし、この利益幅もここ9カ月で下落した。

民営化支援者はEYATH売却により、ギリシャの負債返済に役立つと主張しているが、イニシアチブ136のメンバー、テオドロス・カリョティス氏はこう述べる。「それは馬鹿げた言い訳です。EYATHの企業価値はおよそ5000万ユーロとされていますが、負債は4000億ユーロ以上なのですから」

共同組合は真の意味で公共のもの

国がEYATHを要らないというのなら、仕方ない。だがテッサロニキの市民は EYATHを求めている。ギリシャ国家が株を個人投資家に売却することへの対抗策として、イニシアチブ136の主催者らは近所の家のドアをたたいては、テッサロニキの世帯が一軒につき136ユーロで株を買うよう説いて回っている。それがイニシアチブ136という名の由来だ。ギリシャのように高所得の国にとっては高額には思えないかもしれないが、「就業率が35%ですから、それでうまくいくか不安です」とマリオグロウ氏は話す。

ギリシャの活動家らはフィレンツェで開催された10月のヨーロッパ水議会で連帯感が示されたことに感動した。そこではヨーロッパの同盟国はこの公社を購入するための資金集めに協力すると申し出てくれたのだ。

“イニシアチブ136の主催者らは地域の協同組合に水道料金や投資予算などの問題を決定するよう提案している。”

イニシアチブは真の意味で公共の会社を管理しようとテッサロニキの16の協同組合のネットワークを確立することを目指している。マリオグロウ氏の説明によると、巨大な市民組織が都市全体の水道事業を管理しようとしても手に負えないため分散化するのだという。イニシアチブ136の主催者らは地域の協同組合に水道料金や投資予算などの問題を決定するよう提案している。協同組合は公共水道事業と共同管理を行い、水の番犬、公共の利益のための執事の役目を果たす。組合は民営化を止めたいと強く願っている。しかしそれでも民営化が進む場合は、協同組合は会社が説明責任を負うよう最善を尽くす。

マリオグロウ氏はたどたどしい英語ながら、「公共」と「国家」を注意深く区別した。イニシアチブ136は現状維持のための努力ではない。 彼はEYATが公共事業とみなされることに反発している。

「公共事業とは、イニシアチブ136が創ろうとしているものを指します」とマリオグロウ氏。「現在EYATHは水道サービスの経験が全くない政府の役人が次の地位に移るまでの間だけ管理を負かされ、まずい経営をしている国の会社です」

ギリシャの共産党はEYATH民営化に反対だが、地域の協同組合の考え方には同意していない。彼らは今の国による所有継続を支持している。その他の左政党は国民が会社を国から買う必要はないと主張している。それは既に彼らのものなのだと。

しかしマリオグロウ氏とイニシアチブ136のメンバーは旧態依然の状態はもはや機能していないと言う。政治がらみの請負業者とのなれ合い協定があちこちで見られのだ。

「彼らは水漏れのする水道管を直すのに、もっと稼ごうと大きな穴を開けるのです。2メートルでいいものを4メートルにするのです」マリオグロウ氏は、公社がここ数年で水道技術者を半分も解雇したことに憤っている。彼らなら水漏れを直せるのだ。

「公社がなぜ利益を出す必要があるんです?」マリオグロウ氏が憤慨しながら言う。「公共のお金なんですよ。国民に還元するか、水飲み場や公共トイレを作ったりするべきなんです。なぜ国民は店主にトイレを使わせて欲しいとお願いしなければならないのですか。公共投資については我々が決定します」

仕事より水を

マリオグロウ氏は、協同組合は水源の保護に関しても適切に行えると主張する。テッサロニキは飲料水を泉とアリアクモン川の両方から引いている。泉の水はマリオグロウ氏に言わせれば「実においしい」もので、消費者にも好まれている。またEYATHが水を引くのにも泉からの方が安くて簡単だ。1990年頃、泉の水を引きすぎたため泉が枯れ、その地域の生態系が衰えた。農民らはそれに反発してEYATHの施設を焼き、自然に湧き出ている水以外は取らないよう要求した。

“これは雇用のための闘いではありません。水のため、そして水道料金を本当に支払えなくなっている貧しい人々のための闘いなのです。”

EYATHの労働組合委員長ジョージ・アルコントポウロス 氏

下水に関してだが、欧州委員会はテッサロニキ湾を「慎重に扱うべき」リストに載せている。高濃度の窒素が排出されると、海岸線は富栄養化の危険にさらされる。マリオグロウ氏は目先の利益にとらわれやすい民間事業が下水処理や水源の管理をどう行うか懸念している。現在の国による管理より悪くなるのではないかと恐れているのだ。

主流のマスコミによる世論調査によると、イニシアチブ136に対して大々的な支持が見られる。これは単に国の仕事を守るためのキャンペーンなどではない。ハンガーストライキ、民営化反対の住民投票、大規模なデモなどが行われているのである。

「ここが重要なディテールです」とアルコントポウロス氏は言う。「国民は我々の行動主義に共感してくれています。これは雇用のための闘いではありません。水のため、そして水道料金を本当に支払えなくなっている貧しい人々のための闘いなのです」

このイニシアチブは知事らやテッサロニキの大都市圏の町議会の支持も得るようになってきた。ギリシャの政治システムと債務危機による恐怖、皮肉、不安に対抗し、人の心を広く捉えているのである。

今の所、マリオグロウ氏とアルコントポウロス氏は、その働きによって政治的迫害を受けてはいない。マリオグロウ氏はこう話す。「私たちが目指すものは夢に過ぎず、実現するはずがないと思われているんです。彼らは私たちを脅威とは捉えていません」今のところはそのとおりだ。だがイニシアチブ136はまだ始まったばかりである。

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この記事はOn the Commonsのご厚意により掲載したもので、Our World 2.0により編集上の変更を加えてあります。

翻訳:石原明子

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水道民営化に反対するギリシャ市民 by Our World 2.0 is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://onthecommons.org/magazine/greeks-stand-protect-their-water-privatization.

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著者

ダニエル・モス氏はOur Water Commonsのパートナー組織である On the Commons’ (OTC) のコーディネーターを務め、最近は「Water Commons, Water Citizenship and Water Security: Revolutionizing Water Management and Governance for Rio + 20 and Beyond.(ウォーターコモンズ、水の市民権、水の安全:リオ+20とその後の水管理と統治)」 を共同執筆した。現在は上流を水源とする都市の水資源管理改善プロジェクトに参加し、OTCの水管理シリーズを編集している。

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