里山の秋

Share This

里山と聞くと多くの人びとは、人と自然がうまく共生した自然環境のことを思い浮かべるのではないだろうか。里山は、集落に結びついた二次林や二次草地で、豊かな生物多様性の風景として日本では一般的に知られている。

里山という言葉が初めて文献のなかに登場するのは、1759年に木曽の役人、寺町兵衛が山村の暮らしを記録した「木曽山雑話」である。このなかで里山は、集落の周りにある日常的に村人が利用する山林を指す言葉として使われていた。

そして里山には、自然の景観とともに、生活スタイル、文化的価値、伝統的知識や資源管理などの意味あいが含まれていた。その後廃れつつあったその言葉は、1960年代に森林生態学者の四手井綱英がよみがえらせた。

四手井による里山の復活は、当時の燃料革命や、急激な経済成長がもたらした日本の社会・文化的および農村景観の変化に対する反応という側面もあった。

広がる里山の解釈

最近では、里山は伝統的な農村景観を指す言葉として広く使われるようになった。また、人と自然との調和が作り出した二次的な自然景観のシンボルとして用いられるようになっている。

生態学者を中心とした農村の土地利用や生物の生息環境の調査によって、里山の言葉が示す範囲は、二次林や二次草地に限定したものから、その周りの集落や農地、ため池なども含んだ日本の伝統的な農村の土地利用システム全体に広がった。

現代の環境負荷の高い生活や社会のあり方に疑問を持つ市民や政治家も、このような里山のなかに持続可能な社会へのヒントを見出し、関心を寄せるようになっている。

この関心の高まりは、自然環境に対する意識の変化を表している。人の手が入ることによって作られた二次的自然への配慮には、人の働きかけも含めて保全していくことの大切さが認識されるようになったのだ。

風景の変化

風景の変化は、時として社会経済の変化を映しだす鏡である。

地域の生物資源を持続的に利用する農耕社会から化石燃料や輸入品に依存する工業社会へと日本が変化をとげるなかで、里山の風景はどのように変化してきたのだろうか。

里山を英文で海外に紹介した生態学者の武内和彦や鷲谷いづみらによると、1960年代の燃料革命以降、里山の風景の変化には大きく2つのパターンがみられたという。

大都市周辺では、無秩序な市街地形成や大規模開発による変化が起こった。一方都市から遠く離れ、開発の波がおよばなかった農村地域では、過疎・高齢化によって二次林や農地の管理放棄が起こり、生物資源が十分に活用されなくなるという変化が起こったのである。

食料と燃料

環境問題を里山という視点から考えた時に、日本の食料や燃料の問題も避けては通れない。

1950年には、国内の労働力の45.5%が農業に関連したものであったが、現在は7%にまで減少している。しかも農業にした従事者の約60%が65歳以上であり、GDP(国内総生産)においてもわずか1.3%を占めるにとどまっている。

また、日本の食料自給率は39%にまで落ち込み、先進工業国のなかでもっとも食料を輸入に頼っている。土地利用や資源管理の面だけでなく、食料や燃料の安全保障の面でも大きな問題を抱えているのである。

日本政府が2008年秋に実施した食料自給率に関する世論調査によると、93%の人が現在の食料自給率に関心を持っており、輸入に頼らないようにより多くの食料を生産することが必要、と回答している。

農村の役割としては、2人に1人が、食料の生産だけでなく多くの生物が生息できる環境の保全や良好な景観の形成を挙げた。

将来の農業政策については、70%近くの人が農村の過疎・高齢化や資源の管理放棄に対する政策の必要性を感じていた。

高まる意識

このような世のなかの里山や食料・燃料の安全保障への関心の高まりは、里山の生態系評価を行う研究者にとっても喜ばしい流れである。

国連大学高等研究所(UNU-IAS)は、2006年から日本の里山、里海を対象に生態系評価を始めた。これは、30以上の世界各地域で行われるサブ・グローバル生態系評価の1つとなることを目指したプロジェクトで、日本における里山・里海のサブ・グローバル評価(里山里海SGA)と呼ばれる。里山里海SGAでは、全国を5つの地域グループ「クラスター」(そのうちの1つがビデオで紹介された地域を含む北信越クラスター)にわけて、評価を行っている。

各クラスターは過去50年における里山の変化に焦点をあて、ミレニアム生態系評価の枠組みを応用し調査している。その調査結果は全国的な報告書としてまとめられ、2010年10月に名古屋市で開催される生物多様性条約(CBD)第10回締約国会議に提出される予定である。

里山が提供する生態系サービスを評価するレポート作成者の多くは、伝統的に受け継がれてきた持続可能型社会が、現代版のモデルを形成できるような研究成果を得られるように努力している。

その現代版の持続可能型社会は、日本において持続可能な食料、燃料生産だけでなく、生物多様性の保全に向けた戦略や取り組みにも貢献してくれるだろう。

  • http://ourworld.unu.edu/jp/2009/06/30/japan-examines-costs-of-climate-change/ 気候変動による経済的損失 | Ourworld 2.0 beta

    [...] これらの課題は、小規模な都市計画、農業システムの活性化、自然と共生する自治体の構築などの多くの分野で変化をもたらし、日本社会の活性化につながるだろう。(里山についてのビデオを参照下さい) [...]

  • http://ourworld.unu.edu/jp/rebuilding-after-the-tsunami-eco-or-transition-towns/ 災害復興で目指すべき街づくり | Ourworld 2.0 日本語

    [...] 特に、来るべきピークオイルを踏まえるなら、東北・関東のコミュニティをピークオイルや気候変動、そして自然災害リスクに確実に耐えられるように建て直すことが重要だ。食料生産については、被災した各県は日本でも食料自給率が最も高い地域で、東京に多くの農産物を供給している。もし、これらの地域が農業組合の統合により、機械化と産業化の進んだ農業システムに移行すれば、ピークオイルに対してますます脆弱になるだろう。むしろ、日本は独自のモデル――つまり 里山モデル――を再建の方針として目指すべきではないのだろうか。 [...]

  • http://ourworld.unu.edu/jp/revitalising-socio-ecological-production-landscapes/ 社会生態学的生産ランドスケープの再生 | Ourworld 2.0 日本語

    [...] SEPLsは世界各地で、さまざまな名称で呼ばれている。たとえば、スペインでは農林業の一形態として「デエサ」というシステムがあり、木がまばらに立っている牧草地に家畜を放牧しながら、穀物や豆類の移動耕作を行って、土地を統合的に利用している。また、 日本の里山の特徴は、林地、牧草地、水田、農地、灌漑池、水路を取り込み、土地と水の両方のシステムを組み合わせていることだ。 [...]