しくみ解明:食物エネルギー

先進国ではマスコミがかなり前から取り上げているとおり、太り過ぎや肥満は心臓病、脳卒中、その他慢性疾患にかかるリスクを大幅に引きあげる。

急激なグローバリゼーションによっていわゆる西洋型ライフスタイルの問題が世界のあちこちで急速に広がっている。現在10億人以上が太り過ぎだが、現状が続けば、2015年にはさらに5億人増加するだろうというのが、世界保健機関(WHO)の予測である。

「低・中所得国で太り過ぎと肥満の問題がこれだけ急激に増加していることを考えると、何らかの対策がとられない限り10年から20年後には慢性疾患が驚異的に蔓延しているでしょう」とWHOのCatherine Le Galès-Camus 博士は警告している

出典: OECDヘルスデータ2005 Nation Masterより

出典: OECDヘルスデータ2005 Nation Masterより

この問題の原因は先進国でも開発途上国でもほとんど同じだ。都市化によって、運動不足の生活を送る人々が増え、日々体に良くないものを食べている。

「グローバリゼーションにより世界各国で安価な油、脂肪、砂糖が広く流通されるようになり、世界的に脂肪と糖分の摂取が増えました。グローバル企業で工業化した農業食品システムが確立され、今では世界のどこにいても安くてカロリーの高い食べ物を手に入れることができます」と栄養士マリア・ド・ルルド・アルヴァレス氏は言う。

「ファストフードチェーンや、脂質と糖分をたっぷり含むスナック菓子や高カロリー飲料を入れた自動販売機は世界の辺境の地でも見られます」とカナダのモントリオールにあるマギル大学でまもなく修士課程(専門は糖尿病予防)を終了するアルヴァレス氏は続ける。

懸念すべきは子どもたちがこの影響を大きく受けるかもしれないという点だ。新たな研究では思春期の若年化が進んでいることが示され、彼らは早死にする可能性がある。

「子どもの肥満・太り過ぎが問題となっている現状を考えると、人類史で初めて何百万人もの親が子どもより長生きすることになるかもしれないとヘルスケアの専門家は考えています」アルヴァレス氏は言う。

「子どもの肥満が大きな問題となっている地域はすでにいくつかありますが、他の地域でも増加傾向にあります。世界中の5歳未満の子どものうち約2200万人が太り過ぎだと言われています」

体にも地球にも悪影響

富裕国の大多数は適切な食事を選択することができるにもかかわらず、現状を変えることができずにいるようだ。食品業界は、かつてのタバコ産業のように意図的に中毒を引き起こそうとしているのではないかという人々がいるほどだ。

World 2.0をいつも読んでくださる方なら工業化した食品システムに関する疑問をいくらかご存知だろう。警告を発する記事を読んだという方もいるだろう。例えばフードライター、マイケル・ポーラン氏は食べ物の栄養価を表す数字を無視し「食べ物もどきの食用物質」を一切拒否し、自然食品のみを食べるべきだと主張している。

明らかに食品科学(そしてそれによる食生活への影響)はこれまでにいくつかの大きな過ちを犯してきたようだ。例えば「私たちを太らせるのは脂肪ではなく精製炭水化物である」という事実が最近明らかになり、これまでの考えが誤っていたことがわかった。食に関する情報に常にアンテナを張っている人ならアメリカのトウモロコシとコーン・シロップ業界について描いたドキュメンタリー「King Corn」を思い出し納得することだろう。

加えて、ゆとりのある私たちが食べ物について再考すべき理由はもう1つある。ウエスト周りを太らせる食べ物はカーボンフットプリントが最も高いのだ。絶対菜食(動物性食品は一切含まない食事)のように、かつて「過激」だとみなされていた考えは今や主流になりそうな勢いだ。国連環境計画も6月に「世界を飢餓、資源の枯渇、気候変動といった最悪な影響から守るには世界規模での絶対菜食主義への移行が極めて重要だという内容の報告を出している。

結局、肉を取るか、気候を取るかの議論のどちら側に立つとしても、食習慣がもたらす影響がどんなものか知らずにいるのは、私たちの健康にとっても地球の健康にとっても絶対的に危険である。そこで私たちは以下のごく初歩的な解説が役に立つのではないかと考えた。

graphics-digestive-s-jp代謝のしくみを理解する

ごく基本的なことだが、空腹を感じ、食べ、そして最終的に私たちを生かすエネルギーが発生するまでの過程は、脳と体の間で交わされる化学物質と信号のやりとりによる複雑なシステムの一部である。

食物は消化の際に分解され(炭水化物はブドウ糖に、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸に)インスリンなどのホルモンを活性化し、エネルギー生成のメカニズムを働かせる。

つまり代謝とは、食物(と酸素)をエネルギーやその他生命存続に必要な物質に生成する一連の化学プロセスだと定義づけられる。

代謝を理解するためには、典型的な栄養素が体の中でどのように変化していくかを見てみるとよい。栄養素とは有機体の生命活動を持続し、健康に保ち、成長させる物質である。

三大栄養素と呼ばれる栄養素は炭水化物、タンパク質、脂質である。これらを理解して、あなたの(そして地球の)健康にとって最良の燃料で体が働くようにバランスを整えよう。

炭水化物(糖質)

世界の食事指針ピラミッドの大多数が、この栄養素を基礎としている。国際連合食糧農業機関は食物エネルギーの内55%を「様々な」炭水化物から摂取するよう提案している。(「様々な」と強調したのは、大多数の人々がこの部分を誤解しているからである)

出典: © Flickr ハーバード大学2008年「President and Fellows」より

出典: © Flickr ハーバード大学2008年「President and Fellows」より

しかしながら、炭水化物は最も誤解されることが多く、最近では誤用までされている栄養素である。穀物類ででんぷん質のものや糖分の入ったもの、炭酸飲料やフルーツジュースは炭水化物だと分かっていても、このカテゴリーにはマメ類(レンズマメやインゲンマメ)や野菜、果物も含まれるという点は意外に知られていない。

炭水化物は「単純炭水化物」と「複合炭水化物」に区分される。どちらも構成成分は糖だが、複合炭水化物は多数の単糖が複雑に結合したもので、それらは単糖類に分解されて血中に吸収されるまでにより多くのプロセスを必要とする。

血糖値が増えると、よく知られているホルモン「インスリン」は細胞に対し、血中の糖を取り込み、エネルギーを発生させるよう指令を出す。このプロセスがゆっくりの場合は(全粒穀物食品に含まれる複合炭水化物の場合など)腹持ちがよくエネルギーを長い間保つことができる。単純炭水化物はこのプロセスが早いため、またすぐに空腹を感じる。

血糖値に対する効果の違いに着目し、食物の「血糖応答」または「グリセミック(血糖上昇)指数」が高い・低いと表す科学者が多い。グリセミック指数が高いものを多く接種すると血糖値にヨーヨー効果が起こる。研究ではこれが体重増加や糖尿病、心臓病の原因になると証明されている。

食物繊維は炭水化物吸収のプロセスに重要な役割を果している。加工・精製されて食物繊維が取り除かれた食物(精白小麦粉など)や糖分が加えられた商品を多く摂取すると血糖値が乱れるだけでなく過食になりがちだ。その割には(コレステロールがもたらす病気を防ぐ)体に良い栄養であるビタミン、ミネラル、その他主要栄養素が不足してしまう。

“全粒穀物にはもみがら、胚芽、内胚乳の全てが含まれている。”

写真:国際米研究所

菓子パン類や精白パンをよく食べるという人も多いだろうが、食物繊維の多い全粒穀物の例は玄米、そば、ブルグァ(火にあぶって乾燥させて砕いた小麦)きび、キノア(アンデス地方原産の雑穀)全麦、全粒小麦、野生米など。このような繊維は、炭水化物の代表格といえる果物や野菜と共に是非食事に取り入れるべきだ。

タンパク質

タンパク質も誰もが知っての通り、三大栄養素の1つである。この構成成分はアミノ酸で、酵素、ホルモン、免疫体、筋肉などの組織タンパク質を構成している。

全ての食事タンパク質に体が必要なアミノ酸を全て含んでいるわけではない。アミノ酸は必須アミノ酸と非必須アミノ酸に分類される。必須アミノ酸は人間の体内では合成されないため食物から摂取されなければならない。体に必要な22種類のアミノ酸のうち、8種類は成人にとっての必須アミノ酸とされている。

タンパク源のうち、アミノ酸をバランス良く含むものは「より優れている」とされる。例えばレンズ豆はタマゴと比べタンパク質の含有量は多いが、必須アミノ酸の量はそれほど多くないので栄養的にはタマゴより劣っている。

しかしながら、タンパク質に関しては言えることがある。人は生物学的に肉を「絶対に」食べなければいけないというわけではない。

「よく考えられたベジタリアン料理は、健康を保つのに必要な全ての栄養を含んでいます」アルヴァレス氏は言う。「乳製品とタマゴを含めたベジタリアン料理であれば、肉・魚を含んだ食事と同じくらい必要な栄養を満たすことができます。それなら成人や子ども、若者の成長に必要なエネルギー、タンパク質、その他栄養素が十分に摂れるのです」

「逆にベジタリアンでも肉食でも、脂肪と単糖が多すぎれば有害です。またバランスよく食べなければ栄養素が足りない場合もあります。栄養バランスが考えられていない場合、ベジタリアン料理では鉄、亜鉛、カルシウム、ビタミンB12、ビタミンDが不足しがちで、肉食の場合は、ビタミンA、 ビタミンC、葉酸、食物繊維が主に不足しがちです」

アメリカの農務省も、最近発表されたReport of the Dietary Guidelines Advisory Committee(食事指針諮問委員会による報告書)の中で、タンパク源として植物性のものの効果を認めている。とは言え、2005年版がそうであったように、今年の改訂版ガイドラインも国民に無視されたり特別利益団体(塩やサプリメント関連の企業など)によるロビー活動で反対されたりする可能性はあるのだが。
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体にどのくらいのタンパク質が必要なのかについては、意見が分かれている。ハーバード大学の公共衛生学部や他多くの人々は米国医学研究所の提案を引用して1日最低でも体重1キロに対し0.8グラムのタンパク質(73キロの成人なら64グラム)を摂取するようすすめている。一方で代謝や活動レベルに応じてもっと多く摂取すべきだと主張する人々もいる。アルヴァレス教授によると、カロリーで言えば1日分の10~35%はタンパク質から摂取すべきだそうだ。

脂質(脂肪)

先進国では脂質は悪者扱いされることが多いが、私たちの代謝には欠かせない重要な役目を担っている。ただし、たとえ脂肪を恐れて無脂肪食のみを食べるという思考になっているほどではなく脂肪も適量摂るという人でも、体に良い脂肪を摂るとなるとなかなか難しい。現代の加工食品には体に悪い脂肪が非常に多く使用されているからだ。

「脂肪は三大栄養素のうち、残りの炭水化物とタンパク質が効率的に作用するのを助けます」とアルヴァレス氏。「エネルギー代謝では、脂肪酸とブドウ糖から作られる物質が結合します。脂肪のおかげでタンパク質が節約され、タンパク質は効率よく他の作用に使用されます。」

「一般的にエネルギー摂取量の最低15%を脂肪から摂らなければなりません。20~30%が推奨レベルでしょう」と氏は解説する。「太り過ぎまたは肥満の人々はたいてい30%以上のエネルギーを(脂肪から)摂っています」

この習慣は食欲や満腹感をコントロールする化学物質(これまで12種類が認識されている)が原因の場合もあれば、環境的(心理的)反応の場合もある。

アルヴァレス氏によると、いい匂いや見た目、味などは薬物乱用と同じように脳に作用することが神経画像検査でわかっている。 「多くの享楽的食事をする人や肥満の人の脳の変化は様々な中毒でも見られます」

「非常に重要な点ですが、太り過ぎや肥満は麻薬中毒同様、動機や誘因という点で後天的衝動によって起こるのかもしれません。渇望、欲求、嗜好といったものは幼い頃から繰り返し刺激にさらされることによって起こるものなのです」

具体的な原因は特定が難しいが、参考となる研究結果が出ている。

「研究者たちが、一般的な食物の満腹指数なるものを計算しました。すると脂肪の満腹効果は弱く、タンパク質や繊維質のそれは強いことが確認されました。クロワッサン、ドーナッツ、ピーナッツ、ポテトチップスなどの高脂肪食品は味覚を刺激し食欲をそそりますが、満腹指数は低いです」

バランスが全て

私たちは、上記の解説が消化しやすいものであることを願うとともに、あなたが代謝についてしっかり把握し、体にいいものを摂るようにしてくれることを願う。あなたの体はいい物を受ける資格があるのだから。最後に重要な点を繰り返しておこう。「エネルギーバランス」を整えることは非常に大切である。

「肥満の問題は、いくつかの要因が組み合わさって事態を悪化させたものです」とアルヴァラス氏は説明する。「最も基本的なことですが、太り過ぎと肥満はカロリーの摂取と消費のバランスの悪さが原因です」

太り過ぎまたは肥満の人の大多数は、自分が消費する以上の(栄養素の乏しい、満腹感のない、ビタミン不足の)カロリーを摂取している。富裕国に住む私たちはこのバランスを正すために空腹を恐れる必要はない。私たちは恵まれた環境にあるので食生活を改め、満腹感があり加工工程が少なく糖分の使用を控えた食べ物を摂るよう心がけるだけでいいのだ。

それは(全粒小麦入りほうれん草)パイを食べるのと同じくらい簡単なことだ。

翻訳:石原明子

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しくみ解明:食物エネルギー by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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