影が薄れる飢餓と貧困

国際金融危機のあおりを受け、世界各国は国内市場の安定化と、諸外国との連携に取り組んでいる。
金融危機は我々個人にも既に影響を及ぼしている。住宅ローンや投資の有無にかかわらず、市民生活への影響は今後も続くと考えられる。国連機関である国際労働機関の事務局長フアン・ソマビア氏は先週、今回の金融危機で新たに2千万人の失業者が出る可能性があると発言した。

「金融危機が起きるずっと以前から、我々は大規模な世界的貧困、蔓延する社会不平等、インフォーマルセクターの増加や不安定な就業状況、といった危機に直面していた。これはグローバリゼーションのプロセスであり、これまで我々に多くの利益をもたらしてきたが、現在では不均衡、不平等で持続不可能なものになった」とソマビア氏は語る。

このような混乱期に、世界中で飢えに苦しむ9億人の貧しい人々のことを考える人間はいるのだろうか?

先週行われた世界食糧デーで、国連副事務総長のアシャローズ・ミギロは、「ハイチやエチオピアの各地では食糧価格が、通常の500倍に膨れ上がった。これはすなわち、今まで5杯分の米を購入していた家族が、1杯分の米で生活していかなければならないことを意味する」「金融危機は、人々の購買力をさらに低下させることになるだろう」と述べた。

グローバリゼーションが金融混乱を急激に拡大させ、同時に世界規模での飢餓に拍車をかけたことは否定できない事実だ。つい数か月前には石油価格の高騰、バイオ燃料生産の拡大、市場投機が物価の急騰を引き起こし、援助関係者は多くの人々が食糧不足にさらされるだろうと予想していた。

金融危機の影響で、食糧価格は再び安定し、また石油価格も驚くべきスピードで回復している。しかし、物価が下落したからといって、世界中の貧しい人々に食糧が行き渡るわけではない。食糧危機には、化学肥料の費用の高騰や干ばつなどの様々な要因があり、解決は決して容易でない。

「シカゴの小麦市場の動向とアフガニスタンの小麦粉価格に、自動的相互関係があるわけではない」と国連人道支援担当事務次長ジョン・ホルムズはロイターに述べている。

また、金融危機が石油市場にもたらす影響も複雑だ。価格が下落すれば需要が高まると予測しがちだが、実際には米国石油株は再び上昇し、消費者が買い控えていることを示唆している。

OPEC(石油輸出国機構)が減産によって石油価格を抑えようとしているが、これまでのところ失敗に終わっている。OPECはいわゆる「急激な価格暴落」を回避するため、これまでに例のないスピードと規模で、さらなる減産に踏み切ると予測される。

ミレニアム発展目標を見失う

このような混乱状況にあっては、国連のミギロ氏が後進国の優先事項を憂慮するのは当然だ。先週開催された国際貧困撲滅デーで、同氏はミレニアム開発目標への国際的コミットメントがこれまで以上に重要だと訴えた。

「多くの国々が食糧安全保障の強化、母子死亡率の減少、子供の就学をめざす新たな供給源を約束した。これらのコミットメントは慈悲ではなく、すべての人々の人権を守るための義務だ。」と、同氏は語った。

「食糧不足と気候変動の影響により悪化の一途をたどる金融危機の衝撃は、全面的にミレニアム開発目標達成の可能性を妨げるものになりかねない」とミギロ氏はアジズアババで開催された国連会議で述べている。

ジョージ・ブッシュ米国大統領は、ワシントンで行われた国際開発に関するホワイトハウスサミットで積極的な態度を示し、「アメリカは全力を投じており、またアメリカは市場低迷に関わらず、信念をもって国際開発にあたらねばならない」と発言した。

ブッシュ大統領の意思が後継者に引き継がれるかは、未だわからない。ブッシュ大統領は2007年度の海外援助予算を3.5%削減したが、アメリカは依然として世界第一位の援助国である。しかし、アメリカ大統領選の二大候補者は、明確な公約を示していない。

今後、金融危機のため貧困国の海外投資が枯渇することを考慮すれば、海外援助はより重要性を増してくる。それは実際、アフリカではすでに現実となっている、と今週、リベリア大統領エレン・ジョンソン=サーリーフは今週ワシントンポストに語っている。

新しい金融世界秩序、または世界金融構造の立て直しを求める声がある中、グローバル化された世界の在り方を見直し、再構築していく時期がきているのだ。

コラムニストのトマス・L.フリードマンは、最近の著書の中で、有効な金融救済措置を講じるためには、環境面に配慮しなくてはならず、国際金融危機は大幅な変革なしには解決しないと提唱している。

「我々には的確なバランスが必要で、人々の救済と生産増加に集中しなくてはならない。それはすなわち、実体経済を救うということなのだ」と国連のソマビア氏は語った

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影が薄れる飢餓と貧困 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.
Based on a work at http://ourworld.unu.edu/en/hunger-and-poverty-overshadowed/.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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