エネルギーの未来は絶望的ではない

ディディエ・ウサン氏は国際エネルギー機関(IEA)の持続可能エネルギー政策担当ディレクターだ。地球の未来に関する警鐘を鳴らす組織の一員として、彼が悲観的な見解を示しても不思議ではない。「人々を怖がらせるのは必ずしも優れた戦略ではありません」と彼は語る。「私たちには解決法があり、未来は絶望的ではないということを説明することが大切です」。状況は「バラ色ではない」ことを認めながらも、「肯定的な事例もあり、それらの事例から私たちは学ぶ必要があります」と彼は述べる。

クリーンテクノロジーは急速に進歩している。例えば電気自動車の開発は、脱炭素化された輸送システムにとってよい兆しであり、人々は生活の中でシンプルな変化を起こすことで大きな影響をもたらすことができる。しかしウサン氏は、世界のエネルギー需要はいまだに石炭によって満たされていると述べ、より地球に優しいエネルギー源への劇的な転換を図らなければ、100年を待たずに気候変動との闘いに敗れると考えている。

各国と産業界は、増え続けるエネルギー需要への対応をめぐる不透明な状況からますます抜け出せずにいる。ウサン氏や、今年の春にIEAが発表した「Tracking Clean Energy Progress report 2013(2013年クリーンエネルギーの進展動向レポート)」によれば、私たちは気候変動の深刻な影響を避ける方向に順調に進んでいるとは言えない。

再生可能エネルギーの進展は良好で、特に風力と太陽光発電では、めざましい革新事例が見られ、大規模市場で有力な存在になりつつある。しかしウサン氏は、特に新興経済諸国での石炭消費が増加しているため、再生可能エネルギーの進展だけで潮流を変えるのは難しいと語る。

問題を説明するために、IEAは地球温暖化の3つのシナリオを提示した。世界の平均表面温度をセ氏2度、4度、6度で設定した未来の気温上昇とエネルギー政策の関係を示した。世界のエネルギー消費における傾向をモデル化し、エネルギー生産量を評価すると共に、生産と需要の比較を行った結果、分析者たちは地球温暖化を2度未満に抑えるために私たちに何ができるかを示唆した。

「現時点での世界のエネルギーシステムは、2度で設定したシナリオに合致していません」とウサン氏は認める。「恐らくセ氏4度から6度の間でしょう。このシナリオを使ったのは、気候と環境への負荷を緩和するためには政策と産業システムの再考が必要であることを明らかにするためです」

これまでのところ、世界の炭素排出量の上昇を促す原因として新興経済諸国の役割を過小評価していたことが最悪の過ちだった。ウサン氏は、世界のエネルギー供給の炭素量を評価するための指標を、IEAがどのように開発したのかを説明した。明らかにされたのは恐ろしい内容だ。「再生可能エネルギー分野でのあらゆる進歩にもかかわらず、指標は1990年代から変わっていないのです」と彼は言う。言い換えれば、クリーンエネルギーの技術開発には、中国やインドといった国々での増え続けるエネルギー需要を相殺するほどの効果はないということだ。

「今日生産されているエネルギーの平均単位には、25年前と同じ炭素強度が含まれています。その原因は、新興諸国の電力発電で引き続き石炭が大きな伸び率を示しているためです」とウサン氏は述べる。

石炭ベースの電力発電は、「非化石燃料による発電を大きく超えて増加しています。これは過去10年間の状況です。過去2年間に注目した場合、石炭による発電は6パーセント増加しました」

シェールガスは、先進経済諸国の脱炭素化における主要な成功例の1つとうたわれている。しかしウサン氏によれば、十分にクリーンなエネルギー源ではなく、操業するまでに時間が掛かりすぎたと言う。アメリカではシェールガスが排出量を抑制する大きな要因となったが、あくまで短期的な解決法でしかない。「シェールガスにまつわる話はさまざまありますが、北アメリカ以外ではまだ開発されておらず、電力システムの脱炭素化という長期的目標を達成するには十分ではありません」と彼は述べる。

ウサン氏は、2050年までに炭素排出量を激減できれば、最高6度の気温上昇を避けられると期待している。「電力システムがほぼ完全に脱炭素化した未来を想定しています」と彼は語る。「それは再生可能エネルギーだけに頼る未来ではありません。例えば電気自動車を広めることによって、大きな進歩を遂げることが可能です。また、二酸化炭素の回収と貯留に投資すべきです。かなりの量の二酸化炭素が今後も常に存在し、大気から除去する必要があるからです」

再生可能エネルギーの技術は、ウサン氏が考える脱炭素化された未来の世界で重要な役割を担う。「最良のシナリオでは、再生可能エネルギーは電力生産総量の約57パーセントを占めます。つまり、私たちが想定する未来のエネルギーシステムは100パーセント再生可能エネルギーに依存しているわけではないのですが、今日と比べれば、割合がかなり大きくなっています」

太陽発電と風力発電は、IEAの予測よりも大きな成長を遂げた。例えば、2011年と比べると、昨年の世界の太陽光発電は40パーセント以上も増加し、風力発電はほぼ20パーセント増加した。「これは大きな成長です」とウサン氏は語る。IEAの最良のシナリオでは、風力および太陽発電はいずれも、電力生産総量の14パーセントを占める。

IEAの予測には、技術の飛躍的革新は要因として含まれていない。一方、ウサン氏は、利用可能な技術の競争力と効果を高めるために技術革新が必要になると考えている。

しかしウサン氏は、究極的に変化を起こせるかどうかは人々に掛かっていると断言する。「気候変動に関する意識は高まりつつあります。なぜなら、自然災害が頻繁に起こりやすくなっているように、私たちは気候変動を実際に目にし始めたからです。問題は、過去数年間で経済危機が深刻さを増し、人々は失業や低収入や電気代などの問題ばかりに注意を向けがちになったことです」

しかし、個人の行動に変化を起こす長期的な展望がなければ、将来の見通しは暗い。

「よりよいエネルギー管理は、消費の抑制と経費の削減を意味します。自動車ではなく自転車を選べば、炭素を排出しなくて済む上に、お金の節約にもなります」。日々の習慣を少し変えることでどれほどの違いを生むのか、人々が気づけば、「打開策は見つかるのです」

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この記事は2013年6月6日、the Guardianで公表されたものです。

翻訳:髙﨑文子

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著者

ルー・デル・ベッロ氏はイタリア出身のフリーランスのジャーナリストで、環境問題を扱っている。彼女はシティ大学ロンドンで科学ジャーナリズムの修士課程に在学中である。Eメール・アドレスは、ツイッターアカウントは@ loudelbello。

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