新送電システムで変わるインドの村

12月の終わり、冷たい霧がインド北東部のウッタル・ブラデーシュ州を覆う。市街地から遠く離れたこの地で、わずかな薪の炎から立ち上る煙は濃密ならせんをぐるぐると描いていく。薄着の子供たちは寒さに震える。ところどころレンガで補強してある泥の家々はほとんどが農家で、明かりも暖房も清潔な水もない。

だが、インドの最大かつ最貧の州の1つであり、国の電力グリッドから遠く離れた、ここウッタル・ブラデーシュ州でアメリカ出身の起業家ニキール・ジェイシンガーニ氏とブライアン・シャード氏は最貧層の最も基本的なニーズを満たすため全く新しいエネルギーシステムを創造している。

彼らが興したMera Gao Power (MGP)は、村単位で太陽光発電によるマイクログリッドを建設・運営し、個々の家庭に超低価格の照明と携帯電話充電サービスを提供している。

このサービスに接続した世帯は、週25ルピー(0.301ポンド、0.46米ドル)で2本のLED照明と携帯電話充電設備が得られる。別途必要な設置料は40ルピー(0.48ポンド、0.74米ドル)を一度払うだけだ。 「大多数の世帯が支払えるのはこの値段設定が限度です」とMGPの運営マネージャー、サンディープ・パンデイ氏は話す。

シンプルなサービスではあるが、その恩恵は計りしれない。照明があれば、日没後も働くことが出来るため、労働時間を延ばして収入を増やせる。さらに子供たちが勉強できる時間も増える。

「すぐにでも照明が欲しいと思ったわ。暗くなっても調理ができるもの」 孫を持つカランプラ村のムニ・デビ氏は話す。彼女は地元の市場でサモサを作っている。「働く時間が延びれば、毎日家族のためにもっと稼げるわ」

隣村チャックに住む4人の父親サントラム・パル氏も大喜びだ。「照明がついてとても嬉しいよ」と彼は言う。「これで子供たちは夜も勉強できるし、家の中がすすけて真っ黒になることもなくなる。それに泥棒にも入られなくて済むよ」

市街では携帯電話を一度充電する度に10ルピー(0.12ポンド、0.18米ドル)かかるが、新たなサービスはこれよりはるかに安いため、村人はより気軽に通信ができ、携帯電話で音楽を聴いたり映画を見たりして楽しむこともできる。

多くの顧客にとって、この照明は灯油の明かりよりはるかに良い。灯油は高いだけではなく、燃えると体に有害だからだ。

投資を促進する社会環境

シャード氏によると、これだけの低価格で照明を供給する必要があったからこそ、このビジネスを思いついたものの、実現は困難を極めたという。「照明や充電のニーズに応え、多くの企業がソーラーランタンや手巻き式充電器などを販売しています。しかしこの地域の1世帯1カ月の平均収入は800~1600ルピー程度ですから、そのような商品を買うには借金をしなければなりません」
MGPのサービスでは初期の支払いは最小限に押さえ、電気使用量のみに支払いをするシステムになっている。

彼らは小額の支払いを得ながら、それぞれのマイクログリッドシステムの投資分を18カ月で回収し、3年後には投資利益率15%にできると見積もっている。ジェイシンガーニ氏によると「投資信託に預けるより利回りが高いですよ」

これだけの低価格で提供しつつ利益を得るため、ジェイシンガーニ氏とシャード氏は常に新しいアイディアを出し続けなければならなかった。シャード氏は2010年8月にカプール付近で始めた初期のプロジェクトについて「この1年で多くの間違いから学びました」と話す。「私たちのモデルは進化し続けています」とジェイシンガー氏。「しかし何より大事なのは、できるだけシンプルなものに保つことです」

困難は伴うが、この二人は野心あるビジョンを描いている。2016年までに10万世帯にソーラーサービスを提供しようというのだ。つまり今年は50村、そして5年以内に1000~2000村に対象の区域を広げなければならない。既にいい兆しが見えている。彼らに新たな注文がくるようになったのだ。
「近隣の村の代表者たちがサービスへの申し込み希望者の一覧を持ってきてくれます。今週だけでも5村から希望がありました」パンデイ氏が言う。とはいえ、MGPが目指すスピードで事業を進めるには、2012年の末までに追加資金が必要だ。

「米国国際開発庁のおかげで、少なくとも今年は50村に広げるだけの資本はあります。ただこの事業は資本集約型なので、次に進むには、新たな追加投資が不可欠です」とジェイシンガーニ氏は話した。

自立システム

労働環境がいいとはとても言えない。現場は交通の便が悪く、システムに必要な部品などを供給してくれる信頼のおける業者を見つけることは難しい。政治的腐敗(村の指導者の中にはシステム設置の「特権」に対する賄賂を求める者もいる)の問題にも常にぶつかる。そして作業チームはシステム設置まで、厳しい気候に耐えながら何週間も村に滞在しなければならない。それでもシャード氏とジェイシンガーニ氏はまさにこのような困難を好機とみなしている。

「誰もここで働きたくないのももっともです」新たなパネルを設置する村のマッピングをするため、寒さに震えながら歩くジェイシンガー二氏は率直に認めた。「でも、これは未開発の市場の足がかりを築く好機なのです」

確かに、世界資源研究所の見積もりではインドの送電網外のエネルギー市場は年間20億ドル規模で、クリーンエネルギーの人気は増している。そしてウッタル・ブラデーシュ州がインド最大の電力不足の地域であることを考えれば、彼らの言うことは的を射ている。

ジェイシンガーニ氏とシャード氏は、社会的・環境的理念を満たすためにビジネスを利用することには意義があると堅く信じている。「これが長期的に続ける唯一の方法です」とジェイシンガー二氏は言う。「寄付金はいずれなくなりますが、自立したシステムを作れば将来にわたって地域に貢献することが出来ますから」

2人は、照明と携帯電話の充電を足がかりとし、今後のサービス拡充を願っている。「将来的にはここで構築したネットワークを、必要とされる他の分野にも広げたいと考えています。すなわち灌漑や農業技術、医療、教育そして娯楽などです」とシャード氏は語った。

この記事は2012年1月16日月曜日、 guardian.co.ukで公表したものです。

Copyright The Guardian. All rights reserved.

ディスカッションに参加しよう

著者

インドとイギリス両国の血を引くアンナ・ダ・コスタ氏は、世界的な分断、とりわけ気候変動とそれに関する数々の問題における分断を埋めるべく情熱を持って取り組んでいる。ニューデリーに拠点を置き、ワールドウォッチ研究所Eye on Earth、Chinadialogue(中外对话)、エコロジストなどの出版物やブログに寄稿している。

ディスカッションに参加しよう

  • jukesan

    ourworldのサイトで、興味深いトピックを見つ けては、読ませていただいています。 私は元、電気関係のエンジニアだったのです が、この記事の内容について、とても興味がわ きました。 我々が俗にいうソーラー発電は膨 大な初期投資がかかり、この初期投資を償却す るために、10年以上かかるのが常識で、補助 金や、電力の買取システムの整備が必要で、政 策的なバックアップがないと、なかなか普及し ないという認識がありました。 インドで一週間にわずか50円程度の課金でど うしてビジネスとして成立するのか、非常に興 味がわきました。 おそらく、我々が常識的にイメージする太陽発 電と送電網とはまったく違う、現地のミニマム リクワイアメントに基づいた発想なのでしょう か。 とはいえ、震災以来の電力供給問題に直 面している我々日本でも、このインドでの取り 組みが何か参考になればと思います。 ところで、50円程度の課金が許容できる上限 だとすると、携帯電話を保有することは困難だ と思えるのですが、インドでは携帯電話を所有 することが容易なのでしょうか。 いろいろと 興味が沸いてきます。