日本の短期および長期のエネルギーリスク

日本では、国の原子力エネルギー計画の将来に関して激しい議論が行われている。当初、2040年までに原子力から完全に脱却する決定が下されたように見えた。しかし内閣は、その誓約を明確化し遵守することができず、将来的な原子力へのUターンの余地を残した

政府の当初の表明は経済界から批判を集め、日本の欧米同盟諸国、すなわちアメリカ、イギリス、フランスの懸念を高めた。『ガーディアン』紙上でマーク・ライナス氏は、原子力エネルギーを放棄すれば地球温暖化との戦いに敗れたのも同然だと警告し、原子力撤廃の決定は狂気の沙汰だと主張した。

私の考えでは、ライナス氏は見当違いであり、原子力が世界の一次エネルギー供給に果たす貢献を過剰評価しており、日本国民の意見を軽々しく片づけている。確かに、彼の次の主張は真実である。「石炭による汚染で1日に亡くなる人の数は、過去50年間に原子力発電の操業が原因で亡くなった人の数よりも多い」しかし、彼の論旨はずれている。福島の原子力事故によって経済的にも社会的にも環境的にも大きな影響に苦しんだ結果、日本国民の圧倒的多数は、他の人々、特に自分たちの子供や未来の世代に同じ災難を味わってほしくないと考えているのだ。

さらに東北地方大震災以降、日本の地震学者たちは次の巨大地震が起こる場所として南海トラフに注目し始めた。この地帯での地震の影響に関する予測は修正され、次のような懸念がある。「震度7の地震(日本の地震指標で最高レベル)は、以前の予測の20倍の範囲を壊滅する可能性がある」この状況が生じれば、一部の地点では最高34メートルの津波が押し寄せ、11県90自治体では少なくとも10メートルの津波が起きる。

“これが日本の抱える本当のエネルギー安全保障の問題、つまり海外の石油やガス、石炭への依存という問題なのだ。日本のエネルギーバランスに原子力を残しておくことは、こうした依存性に伴う短期的および長期的リスクを改善するのにほとんど役立たない。”

このような地震の影響を受けやすい原子力施設が、静岡県に所在する浜岡原子力発電所だ。この施設で原子力事故が生じた場合、甚大な人的および経済的被害を伴う。福島の原子力事故以前でさえ、浜岡発電所は日本で最も危険な原子力発電所であると言われていた。この発電所の立地が2つのプレートの接点近くのサブダクション・ゾーン上に存在しているからだ。さらに最近の調査が、浜岡を含む7カ所の原子力発電所(総計19の原子炉)で津波のリスクがあると示唆している。

こうした流れを考慮すれば、地震が起きやすい日本で原子力エネルギーを使い続けるリスクに市民が憂慮することは容易に理解できる。

日本のエネルギーバランスから原子力を除外する

原子力計画の続行論として、2012年6月になって野田総理大臣がエネルギー安全保障の問題を取り上げた。しかし日本の一次エネルギー消費のうち原子力が占める割合はわずか13パーセントだ。大部分は化石燃料を原料とした発電で、それは2010年には82パーセントという驚くほどの割合だった。そのうち石油が占める割合は42パーセントだ。

これが日本の抱える本当のエネルギー安全保障の問題、つまり海外の石油やガス、石炭への依存という問題なのだ。日本のエネルギーバランスに原子力を残しておくことは、こうした依存性に伴う短期的および長期的リスクを改善するのにほとんど役立たない。今までは、日本のエネルギー関連のリスクを低減させるには、エネルギー使用を多様化することが手段だった。しかし今後は、唯一の賢明な方法として、エネルギーシステム全体を完全に転換させることを考えるべきだ。要するにエネルギー革命である。この革命を始めるために、まず原子力からの撤退を決断すべきだったのだ。

この問題を別の視点から見てみよう。日本は1日当たり450万バレル近くの石油を消費する。アメリカ、中国に次ぐ世界3位の石油消費国だ。さらに日本の石油の82パーセントは中東から輸入されており、同地域での紛争に影響を受けやすい。

重要なのは、世界各地や中東からの石油供給の関連で生じている変化や、生産ピークの可能性、あるいは供給が途絶える可能性を理解することだ。石油は私たちの経済の生命である。万が一、石油の供給が途絶えたり減ったりすれば、世界経済はパニックに陥るだろう。

こうした状況下で、影響力を持つ報告書で次のような言説を読むと不安をあおられる。「近い将来、世界経済は基本的に化石燃料に基づいて動くようになり、輸送部門では石油がほぼ独占状態になる」

「近い将来」というような言葉は誤解を招きやすい。石油の供給が今日よりもずっと少なく、石油価格がずっと高くなる未来は、ほとんどの人々に見えている。上記の言説は2012年8月の報告書からの引用だ。同報告書はリチャード・L. アーミテージ氏(元国務副長官)による『日米同盟:アジアにおける安定の礎』と題されたもので、戦略国際問題研究所が発表した。

同報告書はさらに「世界的な石油取引が世界の地政学を不安定にし、中東地域のエネルギー供給諸国への渡航や輸出を脅かすことがないように、日本……とアメリカは中核となる戦略的利害をさらに共有している」と説明している。

日本と、実は世界のほとんどの国々にとって、化石燃料、特に中東からの石油とガスへの依存に伴う主なエネルギー安全保障上のリスクは2つある。第1のリスクは下記の地図に示されているように、いわゆる「チョークポイント」や、エネルギー供給国の船舶ルートにおける海賊活動の関連地域だ。

世界の石油の20パーセント近くは、幅34キロメートルのホルムズ海峡を通過する。中東で紛争が起こった場合、ホルムズ海峡は、例えばイランの対艦ミサイルの影響下に置かれる。一例として、2011年12月、イランの海軍司令官は、自国の海軍がこのチョークポイントを封鎖するのは容易だと説明した

イランの原子力計画をめぐる欧米大国の懸念と行動が、この警告の中核にある。イランが発した威嚇に対し、戦略国際問題研究所は2012年9月6日、イランの原子力施設に対するアメリカの予防的軍事攻撃の可能性を概観した報告書を発表した。同報告書は中東地域での紛争時にエネルギー輸出の流れを閉鎖しない選択肢にも言及しながらも、次のように警告している。

「どこで石油が生産されているかに関係なく、石油の大規模な途絶はアジアの全経済と世界各国の石油価格に影響を及ぼす。それはパニックにつながる可能性があり、世界的な買いだめ行為やアメリカ経済の力をもってしても、他の主要な経済大国と同様に、エネルギー価格の結果的な高騰や、アメリカやその他の産業商業国への輸出量の低減を免れない」

同報告書はさらに「(エ)ネルギーの自給はいずれ実現するかもしれないが、今日では愚かで危険な神話である」と述べている。

では、現実主義者が見る世界を考察してみよう。中東地域からの石油供給が途絶えた場合、日本には政府や民間部門が蓄えた戦略的石油備蓄は190日分をわずかに超える程度しかない。そのタイムリミットを過ぎた時の事態は、いまだに不明だ。恐らく配給を通じて、タイムリミットを後ろ倒しにすることは可能だが、日本経済への影響は甚大だ。

中東地域は現在、緊張状態だ。シリアの状況は深刻であり、イランとの緊張関係は、状況を悪化させる可能性を高めている。

元国連事務総長で現国連シリア特使のコフィ・アナン氏はDaily Showに出演し、今日の世界情勢を「平和」から「大変だ、逃げろ!」までのレベルで評価するように問われた。彼の答えは「逃げるべき時が近づいています」だった。

彼はさらに、私たちは中東で非常に深刻な問題に直面していると語り、判断ミスを犯せば、対応しきれない問題を生み出すと説明した。彼は、特に国連安全保障理事会の理事国が共通目的を見い出し、結束する必要性を訴えた。前進するには、軍事行動よりも平和的介入を通じて、より冷静な思考を広めることしかない。

しかし、たとえ紛争を避けることができても、長期的で切迫した問題に取り組まなくてはならない。長期的とは、今から10年から20年の期間という意味だ。

より長期的な日本のエネルギーリスク

Our World 2.0では、福島の原子力事故以前に発表した記事の中で、日本が直面するエネルギー問題について論じた。2009年5月、石油生産のピークが日本に与える影響について概観し、政府は十分な速さで対応しているのか疑問を投げかけた。

2010年7月、私たちは日本の次世代的な再生可能エネルギー技術の潜在力について論じ、2011年2月、原子力が日本をピークオイルから救えるのかという問いに対し、それは不可能だと結論づけた。

福島の事故が起こった後の2011年3月、日本のエネルギー政策へのリセットボタンを自然が押したのかどうか、読者に問いかけた。つまり、自然は地震と津波を通して、別のエネルギー政策を取るべきだというメッセージを日本に送ったのだろうか、という問いだ。それから1カ月後の2011年4月、地震と原子力事故の影響について論じ、私たちの対処や管理の能力を超えたスピードでピークオイルとエネルギー減少という事態が生じた場合と同じように、地震と原子力事故を理解できると述べた。

“中東地域からの石油供給が途絶えた場合、日本には政府や民間部門が蓄えた戦略的石油備蓄は190日分をわずかに超える程度しかない。そのタイムリミットを過ぎた時の事態は、いまだに不明だ。”

また私たちは、トランジション藤野に関する記事で、日本のコミュニティは時間さえかければ、ピークオイルの到来に対応できるかもしれないことを示した。トランジション藤野とは、気候変動やエネルギー危機が引き起こす結果を理解し、それに備えようとしている小さな町だ。さらに私たちが制作したインタビュービデオも忘れるべきではない。飯田哲也氏は、日本が2050年までに100パーセント再生可能エネルギーに移行するにはどうすべきかを説明し、グリーンピースのスベン・テスケ氏は、日本が2012年にも完全に原子力を撤廃できると主張した。

この1年、日本における原子力の将来をめぐる議論が示してきたように、化石燃料や原子力からの転換は明らかに、重大で難しい課題になりそうだ。多くの負け組と一部の勝ち組が生まれる。そのため、現実主義者はそのような変化は政治的に不可能だと言うかもしれない。中には、民主党の政策調査会長代行の仙谷由人氏のように、原子力の撤廃は「集団自殺」行為だと表現した者もいる。

しかし、次の2点を考慮すべきだ。第1に、今年1月に『Nature』誌でデビッド・キング氏とジェームズ・マレー氏が論じたように、石油生産のピークはすでに到来している可能性がある。彼らは2005年以降、従来型の原油生産は伸び続ける需要に応えられるほど増えていないと指摘した。

その逆の見解を示す者もいるため、混乱と行動の遅れが生じている。レオナルド・マウゲーリ氏(イタリアの石油会社重役で、ハーバード大学のBP出資による研究所で上級フェローを務めている)は、石油革命が進行中であり、より高いレベルの投資と技術の応用によって世界の石油産出を現在の1日当たり9300万バレルから2020年には1日当たり1億1000万バレルに増やすことが可能になると主張している

こうした相反する見解に当惑し、国のリーダーたちは楽観的な評価の立場を取りがちだ。その立場を取れば、任期中はエネルギーに関して「何もしない」か、ほとんど何もしなくてもよくなる。中東における紛争がエネルギー供給に与える脅威を考えれば、楽観的な評価に賛成することは危険で無責任な態度だ。

さらに、アナリストたちによれば、マウゲーリ氏の研究は過剰に楽観的な推測と、2020年以前に生産ピークの著しいリスクが生じることを示唆する何百という予測の詳細な調査に基づいている。そうなると、日本や他のどの国にとっても、再生可能エネルギーをベースとした新たなエネルギーシステムへの移行を検討し着手する時間はあまりない。さらに、どの国も輸送システムを変更しなければならないことも念頭に置かなくてはならない。現代の民間輸送手段は主に石油に頼っているからだ。

第2に、日本を含むほとんどの国は傾向として、石油供給が途絶した場合の緊急対応策を講じている。しかし私たちがOur World 2.0で以前に示したように、自国の石油依存性を低減する対策や、新たなエネルギーシステムへの転換を促進する対策を講じている国はほとんどない。かなり明らかなことだが、日本のような国が抱える高い脆弱性が示すように、必要なのは小手先の修正ではなく、エネルギーシステムの完全なオーバーホールなのだ。

主要な対策としては、再生可能エネルギーへの100パーセントの移行、エネルギー使用の削減と効率性の向上による電力の抑制、スマートグリッドや電気自動車の全面採用、新しい蓄電システムといった新たなテクノロジーの導入が挙げられる。とはいえ、こうした対策はピークオイルの到来に関連したリスクと脆弱性を部分的に低減するにすぎない。その他にも取り組むべき相互に関連した問題が多く存在する。例えば、燃料費の高騰に伴って食料の輸送費がさらに高額になった場合、日本のように輸入に依存する国の食料安全保障はどのように確保できるだろうか。

つまり、何ら新しい問題ではないのだ。私たちは過去にOur World 2.0で言及してきたし、読者の方々も石油への依存やエネルギーショックなどについて耳にしてきた。それなのに、私たちはいまだに実質的な変化を引き起こせないままだ。日本が発した原子力エネルギーからの脱却の表明は、大いに希望を持たせるものだった。その後の、当初の姿勢を覆すような状況が、私たち全員に突き付けられた巨大な政治的課題を例示しているのだ。

野田首相は現在、かなりの圧力をかけられているに違いない(党首選には勝利したとしても)。彼は根本的に異なるエネルギーの未来への新しい道筋に日本を導かなくてはならない。それは誰もが理解しているわけではない道のりだ。そして誰もが歩みたがる道のりでもない。それでも、どの選択肢もあまり魅力的とは言えないのだし、現状の日本のエネルギー消費傾向にしがみつくことは、かなり明らかに深刻な判断ミスだ。

前述のインタビューでコフィ・アナン氏は「世界は今、非常に厄介な状態です」と発言した。課題は大きい。しかし私たちにはビジョンが必要だ。どうしたら現在の不安定なエネルギー状況から脱することができるかという確固たる計画が必要なのだ。

翻訳:髙﨑文子

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日本の短期および長期のエネルギーリスク by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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  • Rie

    日本の中にいると、日本のエネルギー政策は結局はあいまいなものになってしまっただけのような感じがしますが、(この記事を読んで)海外目線で見ると、日本の方向性がクリアに見えてきます。政府はパブリックコメントよりも財界を重視し、原子力の道を取るということなのでしょうか。先進諸国はそれぞれ、原子力の道、再生可能エネルギーの道、それぞれ別の道を選択し歩み始めている中、日本はどうするんでしょう。ここでの選択を誤らないことを祈るばかりです。長崎、広島、福島の経験。それほどの経験をしている国は日本だけなのですから、日本人として取るべき道を選んでほしいと思います。