日本は里山と里海からヒントを得るべき

世界は3月11日、記録史上5番目に大きい地震が日本の東北地方と関東地方を襲う様子を恐怖とともに目撃し、その後の数々の自然災害や事故から今でも目を離せずにいる。死亡者や行方不明者は現時点で2万7000人を超え、地震とその後の津波によって大きなダメージを受けた福島第一原子力発電所では、放射能の大惨事を懸念する声が高まっている。

日本はエネルギーと食料を外国に頼る傾向を強めている

日本政府が直面する当面の課題は状況の安定化だ。すなわち、漏れた放射能の危険性を回避あるいは軽減し、住まいを失った何千人の人々に避難所や食料、暖房、清潔な水を確保することである。日本の災害救援活動機関は1995年の神戸大震災から多くを学んでいるため、こうした目前の必要性に対し首尾よく対処することができている。

しかし日本政府は長期的な復興計画で難しい決断を迫られるだろう。日本は現在、持続不可能な経済の方向へ進みつつある。とくにエネルギーと食料の調達を他国に頼る傾向が憂慮すべき速さで強くなっている。復興を成功させるには、伝統的なマクロ経済の刺激策に加え、主要な3分野における持続可能性や自給率を向上させる戦略を組み合わせる必要がある。その3分野とは食料、エネルギー、そして文化だ。おりしも、日本には里山と里海という対のコンセプトがあり、戦略を作りあげる際の優れた土台になる。これらのコンセプトは先般開催された生物多様性会議において日本政府によって強調された

“経済学そのものの観点から数量化することはできないが、里海と里山は明らかに、住民や訪問者たちに文化的および社会的な恩恵を与えてきたのだ。”

里山や里海の営みは日本の伝統的な土地管理方法であり、内陸部での管理は里山、沿岸部での管理は里海と呼ばれる。農業技術だけでなく社会生態学的システム全体を包括するこのコンセプトによって、持続可能で生物多様性の豊かな地域が管理されてきた。そうした地域は木材、米、魚、エネルギー(バイオマスや水力など)、ツーリズムといった幅広い「生態系サービス」を提供する。それらは、経済学そのものの観点から数量化することはできないが、里海と里山は明らかに、住民や訪問者たちに文化的および社会的な恩恵を与えてきたのだ。

「失われた10年」の教訓

当然のことながら、日本は戦後の驚異的な経済成長を促した革新的でダイナミックな政策を簡単に切り捨てるわけにはいかない。しかし1990年代の「失われた10年」と2000年代の緩慢な景気回復以降、日本経済は世界に先駆けて不景気を経験した悪名高き一例となった。またこの時期に日本はエネルギーと食料を輸入に頼る傾向を強めていった。日本のエネルギー自給率は16%で、残りの84%は石油、石炭、液化自然ガス(LNG)を輸入している。そして日本の自給エネルギーのうち、40%は原子力発電であるが、福島の事故によって、日本における原子力の展望は著しく損なわれてしまった。

食料自給率についても同様に憂慮すべき数字が上がっている。1965年の食料自給率は73%だったのに対し、1998年では40%にまで落ち込んだ。食料自給率の計算方法や経済学的な意味は政治家たちの間で議論の的となっているが、明らかなのはこうした数字は単に自給率の低下を示すだけでなく、文化的傾向の変化を意味するという点である。日本の人々の食生活は、米と魚を中心とした食事から、小麦と肉の食事へ徐々に変化している。そして小麦も肉も主に輸入されている。その結果、農作物の生産者だけでなく、日本の国民全体に悪影響が及んでいるのだ。人々と食べ物の文化的関係の変化と同時に、有名だった日本人の優れた健康状態が近年著しく悪化している。

文化の衰退は食事だけにとどまらない。過去50年の間に、日本の文化活動や祭典の数は著しく減少してしまった。

心の治癒過程を支える集合的な社会アイデンティティ

里山と里海を復活させれば、こうした傾向を緩和することができるかもしれない。里山と里海のコンセプトには社会と自然への全体的な視点が内在している。伝統的かつ現代化された里山と里海のコミュニティは、食料とエネルギーの持続可能な資源や生物多様性を提供するだけでなく、豊かな文化の発展も促す。土地管理と農業への共同体的なアプローチは、どの時代にも、様々な伝統や祭典やその他のコミュニティ活動の源であり続けた。実際、集合的な社会アイデンティティを感じる体験は、今回のような悲しい出来事から立ち直るのに必要な心のケアを行う際の一助となるだろう。とくに、津波に襲われた三陸地方の沿岸地域は日本でも有数の漁業地域であり、コミュニティ活動から恩恵を得られるだろう。

“世界が持続可能性へ向かう長い道のりを模索するなかで、日本が先導の光を照らしてくれるかもしれない。”

里山と里海を取り入れた復興戦略は、短期的にはコミュニティの流通を活性化させる。さらに、多様で再生可能エネルギー先導型のポートフォリオと、日本の生態系に最適な農業活動を含む持続可能な将来に向かって、日本が長期的に移行していくきっかけとなる。

この戦略自体は万能薬ではない。実際のところ、日本の国民、そして多くの先進工業諸国の国民たちが直面する諸問題には、唯一の解決法など存在しない。しかし、上記の戦略は現代的なサステイナビリティに有効な新たなパラダイムである。このユニークなパラダイムは、文化、社会、生態系の長期的なニーズを認め、それらに適応することをつうじて、福祉と進歩に関する伝統的な考え方を提示するものである。

私たちは日本という国と、逆境に負けず機知に富んだ日本の人々が復興を遂げることを確信している。しかし日本は復興計画を立てる際に長期的な視野をもつべきである。そして日本以外の国の人々は、日本が今後数カ月の重要な時期をどう舵取りしていくのか、注意深く見守るべきだ。世界が持続可能性へ向かう長い道のりを模索するなかで、日本が先導の光を照らしてくれるかもしれない。

翻訳:髙﨑文子

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日本は里山と里海からヒントを得るべき by カルメン・シェルケンバッハ, 武内 和彦 and アナンサ・ドゥライアパ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

カルメン・シェルケンバッハ氏は広報副部長として、雑誌、ニュースレター、プレスリリース、ウェブサイトなどIHDPの様々な発表資料を担当している。またIHDPのコミュニケーション戦略のさらなる発展やプロダクト・ポートフォリオに関する情報を提供している。彼女はワシントンD.C.の欧州委員会代表部やドイツ大使館、ケルンのピクセルパーク社で勤務した経歴を持つ。フランクフルト、ケルン、バルセロナで学び、コミュニケーション学の学位を持つ。

武内和彦教授は、2008年6月1日に国連大学副学長に就任した。過去30年にわたって、東京都立大学(1977-1985年)、東京大学(1985年-)で研究教育活動に従事してきた。武内教授は、1997年から東京大学大学院農学生命科学研究科緑地創成学研究室の教授を務めている。また2005年からは、東京大学総長特任補佐(国際連携本部長)、サステイナビリティ学連携研究機構副機構長、2007年には国際連携担当総長特任補佐(副学長)に就任した。

アナンサ・ドゥライアパ博士はドイツのボンに事務局があるInternational Human Dimensions Programme on Global Environmental Change(IHDP、地球環境変化の人間・社会的側面に関する国際研究計画)の事務局長である。経験豊かな環境開発エコノミストであり、主に生態系サービスへのアクセスと利用の公平性に焦点を置いた活動をしている。また、生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の設置や、Inclusive Wealth Report(包括的な豊かさに関する報告書)にも協力している。

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  • http://www.facebook.com/johsen.takano Johsen Takano

    日本という先進国が諸外国に見せることの出来るGIAHSは、農薬・化成肥料・除草剤を使わずに、生物多様性を保全しつつ、農業そのものを活性化できるAK-methodをやってみせて、理解してもらうこと。能登半島に暮らしていて、ここだけはGMOや農薬からの防波堤を創り上げたい。それが先進国として見せることの出来る農業システムだと考えています。 農業が環境汚染を助長し、大気汚染、気候温暖化の元凶だとする「サイエンス」の記事は、日本が解決策を世界に見せていける最高の好機だと考えています。