プリンターカートリッジの旅

このデジタル時代にあって、手紙を送ることはもはや多くの人々にとって古臭い習慣と映るだろう。実際80年、90年代生まれの世代にとっては手書きそのものが面倒だ。Eメールで済ますことができない場合には、パソコン上で手紙を作成し、印刷して郵便局で投函する方がはるかに簡単だ。

数週間前、私は東京でまさにそうするところだった。そして郵便局のドアの内側に1メートルほどの白い箱―そこには有名な国内外のプリンターメーカーの名前が書かれている―が置かれてあるのに気づいた。そこへ手紙を投函してはいけない。今度プリンターのインクが切れたら、カートリッジを持って行き、その白い箱の中に放り込むとよい。そうすればメーカーがリサイクル用に回収してくれるのだ。

信じ難いことに、毎年日本だけで2億本のカートリッジが消費されているが2008年にはそのうち10%しか回収されなかった。残りは捨てられている。つまり東京の場合、燃やされているということだ。イギリスも似たような状況だ。毎年6500万のカートリッジが消費されるが、回収率は15%に過ぎない。残りは埋め立てられている。

このような大量な無駄をなくす対策が必要で、その責任はメーカーにあった。

カートリッジは長野へ

東京から北西へ電車で向かうこと2時間で、諏訪湖に到着する。この地域は「東洋のスイス」と呼ばれる場所だ。諏訪市は息をのむ美しい景観を持つと同時に精密機械産業が盛んな都市でもあり、日本で最も有名なプリンターメーカーのエプソンミズベ株式会社を抱えている。 従業員数1万人のエプソンは長野県最大の企業である。

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“エプソンは日本でのプリンターカートリッジ回収率の低さを憂い、他の5社を集め1年半に渡る交渉を続けた結果、インクカートリッジ里帰りプロジェクトを開始した。”

2008年4月、エプソンは日本でのプリンターカートリッジ回収率の低さを憂い、他の5社を集め1年半に渡る交渉を続けた結果、インクカートリッジ里帰りプロジェクトを開始した。このイニシアティブを通し、全国の3639の郵便局に設置された白い箱に使用済みインクカートリッジを入れられるようになったのだ。

ブラザー、キャノン、デル、エプソン、日本ヒューレット・パッカード、レックスマークのインクカートリッジは日本郵便からエプソンミズベ工場に運ばれ、リサイクル用に分別される。運用費用はこれらの企業間で分担されている。

リサイクル工場には129名の従業員が働いており、障がい者の雇用が優先的に行われている。工場全体―駐車場、作業場、トイレ、食堂に至るまで―が彼らの労働参加を支援するため設計されている。

「私たちの生産ラインのほとんどは中国、マレーシア、その他アジア諸国にありますが、このような仕事に関しては地域内で行うことが可能です」エプソンの取締役の1人、酒井明彦氏が言う。
従業員はパッケージとカートリッジをメーカー別に分別し、それを今度は日本郵便がそれぞれのメーカーに送り、そこでリサイクルが行われる。

“ブラザー、キャノン、デル、エプソン、日本ヒューレット・パッカード、レックスマークのインクカートリッジは日本郵便からエプソンミズベ工場に運ばれ、リサイクル用に分別される。”


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「私たちは環境に優しいアプローチが非常に大切だと信じています。ですから一つひとつのプロセスについて細部まで検討したんです」と酒井氏は話してくれた。

このリサイクル計画を始めてから、提携する各社は外国にもこの活動を広げようとしている。

自らが解決策の一部になる

プリンターカートリッジから出るゴミをゼロにするまでは、遠い道のりである。それでもエプソンとその他プリンターメーカーの努力は解決の一部ではある。

こういった革新的な努力はカートリッジのリサイクルのみではとどまらない。エプソンのプリンターは特許をとったマイクロピエゾテクノロジーを使い、機械的加圧力でインクを吐出して電力を減らすだけではなく、小型の設計なので、輸送に使われるエネルギーも節約できる。

さらにもう一歩進んだものとしては、エプソンが取り組むカートリッジのないプリンターである(色づけされていないリサイクル品で包装されて輸送される)。シンプルな形状のプリンターEC-01には、カートリッジではなく細いインクの袋がプリンタ内にセットされ、
8000ページ印刷することが可能だ。このプリンターの場合、インクがなくなったときには新しくカートリッジを
使用するのではなく、プリンターを返却してエプソンでインクを補充後、ユーザーはプリンタ本体は再使用する
システムだ。

これはエプソンの環境ビジョン2050の一部であり、さらに資源とエネルギー使用を抑える最新の計画である。この考えは私の国、ドイツでのビールと空き瓶のリサイクルの考え方と少し似ている。EC-01の場合、返却されたプリンターは2度まで再利用できる。つまり24000ページの印刷が可能なのだ。

このような方法は他社にも広がるだろうか。答えるのは難しい。ある場所で「馬鹿げた考えだ」と評され、別の場所では「静かな革命」と評されたりしている。だが真に緑の革命を起こすには、もっと「馬鹿げた」アイディアが必要なのかもしれないのだ。

翻訳:石原明子

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プリンターカートリッジの旅 by シュテファン・シュミト is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

シュテファン・シュミトは 来日前にはヨーロッパのデジタルエージェンシーネットワークのひとつでプロジェクトマネージャーとして働いていた。現在彼はハインツ・ニクスドルフ財団が主催する将来のドイツ人実業家養成のためのアジア太平洋プログラムに参加している。デジタル文化に興味があり、国連大学のOffice of Communicationsで知識を共有することを喜ばしく思っている。ドイツ ワイマールのバウハウス大学卒業。

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