エコビレッジのライフスタイルを世界へ

木の花ファミリー農園は16年程前に日本の景勝地、富士山の麓で開園した。創設メンバーは数人だけ。エコビレッジという概念があることすら当時の彼らは知らなかった。

東京から西へ2時間半、静岡県富士宮市にあるこの持続可能なコミュニティでは現在60名以上が生活し、16ヘクタールの土地で250種以上の米や野菜作物を育てている。

オーガニック、旬、菜食、生物多様性を実現しているこの農園の活動は、日本やアジア太平洋地域の発足間もないエコビレッジの手本となり広まっている。

記事冒頭のビデオブリーフに登場する環境科学者の古橋道代氏は2007年にこの”ファミリー”の一員となった。血縁のつながりというよりは、志を共にする者同士という関係に基づいた仲間だ。

「以前にやっていた仕事はとても面白かったのですが、結局のところ大切なのは安定した収入よりも持続可能な生活を実践することだと感じました。ですから私は木の花ファミリーに加わったのです」。古橋氏はOur World 2.0.にそう語ってくれた。

“大切なのは安定した収入よりも持続可能な生活を実践することだと感じました。”

現在、彼女はエコビレッジトレーナーとしての資格を持っている。5月に東京で開催された第4回エコビレッジ国際会議では木の花ファミリー創設メンバーの一人、いさどんと共に出席し持続可能な共同体をゼロから立ち上げる方法とその維持について発表した。アメリカやフィリピン、インド、中国、韓国、その他の国々からも参加者が集まった。

成長するエコビレッジ

エコビレッジという言葉は、天体物理学者兼持続可能性の専門家であるロバート・ギルマン博士により1991年に初めて使われた。彼はエコビレッジを次の通り定義している。

グローバル・エコビレッジ・ネットワーク(GEN)日本大使でもある古橋氏だが、彼女自身この定義にそこまでとらわれている訳ではない。

「多くの人からエコビレッジの意味を聞かれるのですが、明確な定義など無いと思います。例えば、環境に調和したマンションや環境配慮型のビル群などもエコビレッジと位置付けることができますし、木の花ファミリーのようなコミュニティもエコビレッジと呼べるでしょう」

GENのジョナサン・ドーソン理事長による2008年度の推計では全世界のエコビレッジの数は1,500に上る。それらは先進国にも途上国にも存在するのだが、生態学者による特別レポート(PDF版)で報告されている通りそれぞれのビレッジの発展には様々な背景がある。レポートの著者がグローバルサウスで発見したのは、エコビレッジを支持する人々が「工業化した国々の影響から逃れ、伝統的な文化のなかで重んじられてきた価値や慣習に立ち返ることを望んでいる」ということだ。

一方日本では、木の花ファミリーのような共同体に関心を寄せる人々というのは、大抵は能力や学識があり、そして派手な消費やお金をため込むことで動かされている現代社会に幻滅した人々である。木の花ファミリーにはエンジニアやIT専門家、商売人、そしてひきこもりと呼ばれる社会の本流から離脱した不安定な立場にいる人々もいる。

“木の花ファミリーのような共同体に関心を寄せる人々というのは、大抵は能力や学識があり、そして派手な消費やお金をため込むことで動かされている現代社会に幻滅した人々である。”

自然、隣人、ネットとのつながり

だからといって木の花ファミリーは集団生活というものから連想されがちなイメージとは対照的に、外部と遮断されたコミュニティでもないし、テクノロジーに対して懐疑的というわけでもない。それどころかエコビレッジでは、ウェブサイト運営や100件以上の固定客からファックスや電子メールで受け付けるデリバリーサービス(木の花ファミリー農園で生産された余剰作物を購入し、電気、交通燃料、農機具などのファミリーの出費をサポートする)などのオンラインネットワーク上の活動を行うためにデジタル面に明るくなくてはならない。

木の花ファミリーは日本の農村における高齢化の問題に取り組み、長い月日をかけて地域社会との信頼関係を広く築いてきた。子供、若者、中間年齢層、高齢者層とメンバーの年齢バランスが均等であることからマンパワーもあり、耕作知識もある。彼らの活動がなければ土地は放置されたままであっただろう。

木の花ファミリーは過疎化が進む地域から恩恵を受けているのだ。近隣の農地がファミリーに提供され、メンバーの増加に伴う需要を満たす分の収獲も可能にした。また、地元レストランのてんぷら油をリサイクルし農園のトラックや農機具の燃料として利用している。

また、木の花ファミリーは地元の自治体とも良好な関係だ。それもそのはず、2009年には国内海外から2,000人以上もの人々が木の花ファミリー農園を訪れたのだから。来訪者のほとんどはWWOOF(世界に広がる有機農場での機会)の体験を目的にやってくるが、中にはそのまま残って滞在する人も年に数名いるほどだ。

フットプリントについて

木の花ファミリー全体のカーボンフットプリント、そしてより重要となるエコロジカルフットプリントは非常に小さい。「共同生活ではエネルギー使用を抑えることができ環境負荷も低くなります」古橋氏は言う。

フットプリントの測定システムは様々あるが、最も広く知られているのはグローバルフットプリントネットワーク(GFN)が次のように定義しているものである。エコロジカルフットプリントとは、“人間活動により消費される資源の生産と、発生する廃棄物の吸収を、一般的技術を用いて行なう場合に必要とされる陸水面積”をいう。

GFNの調査によると、もし地球上の誰もがアメリカ人のような生活を送れば最大で地球が5個必要となる。同じような基準で測ると、日本のフットプリントが1人平均2.4個分の地球であるのに対し、木の花ファミリーにおける1人当たりのフットプリントは0.8個分の地球であるという。

「キューバや北朝鮮のエコロジカルフットプリントも1人当たり0.8個分の地球に当たります。しかし、私たちファミリーのライフスタイルはとても豊かで資源が豊富です。食料も衣類も十分にあります。とても恵まれた生活を送っているのです」。古橋氏はこのように感じている。

古橋氏やいさどんはアジアや世界各地で行われるエコビレッジの国際イベントに参加するため時々飛行機を利用し、その分エネルギーを消費する。そう考えると、木の花ファミリーの持続可能性はどの程度のものなのだろうか。彼らの説明によると、第一にそういった移動はエコビレッジについて人々に教育を普及するためには必要であり、第二に飛行機を使うのはファミリーの中の数人に限られ、カーボンフットプリントがゼロに近いその他メンバーに代わり自らの努めの一環として行っているとのことだ。

前進する

多くの人は自然と調和したライフスタイルに魅力を感じるであろう。しかし、実際にエコビレッジで生活するということは個人主義的な生活で享受できるぜいたくを多少あきらめねばならないということになる。そこには個人の所有物や食の好み、プライベートな空間も含まれる。

では、古橋氏に関しては木の花ファミリーに加わる前の生活と比べ、何か恋しいと思うものがあるのだろうか?「自分の部屋が欲しいと思う時もありますが、個人の所有物という点に関して、ここでは全てみんなと共有できるので自分だけのスペースがなくても問題ありません」。

「例えば、もし私が本を買ってしばらく読まずに放っておいても、他の誰かがその本を読んでくれれば良いのです。結果的にその人の知識向上につながれば私は嬉しいです」、古橋氏はそのように述べた。

どちらにしろ、今の彼女には読書の時間はあまりない。昨年からワールドワイドなエコビレッジ・デザイン・エデュケーション(EDE)のコースで教鞭をとっているのだ。これは国連訓練調査研究所(UNITAR)の認証を受けたコースで、初年度は50名が参加し卒業後は日本各地でエコビレッジを立ち上げる。

木の花ファミリー農園はエコビレッジとしては最も知られた存在かもしれないが、古橋氏はこのような動きがさらに広がり、現在日本に10あるエコビレッジがますます増えていくことを強く願っている。「持続可能なエコビレッジのような暮らしはこれから人類が地球上で生きていくために必要だと思います。私はこのようなライフスタイルを日本中にそして世界へ広めたいのです」

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このビデオブリーフの監督、製作は西倉めぐみ、製作補助はマーク・ノタラスが担当しました。

翻訳:浜井華子

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エコビレッジのライフスタイルを世界へ by マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

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