政治の地図化:専門家が見るタールサンド

かつて、今は亡き地理学者バーナード・ニーチマン氏は、「銃よりも地図が、より多くの土着の土地を奪ってきた」と述べた。奪われた土地を取り戻す地図の力を認めるかどうかは別にして、集団理解の形成や政治紛争への介入手段における地図の役割は小さくない。

土地利用図の用途は多岐に渡る。ほとんどの国では、土地利用図はさまざまな理由で、政府機関や個々の団体・組織などによって作成される。そして多くの場合、土地活用動向に関心がある人々へのメリットとして、それは公開されている。都市計画や地権争いにおいても、土地利用図はまた重要である。

土地利用計画のベテランであるペトル・チゼック氏は、カナダのタールサンドの現状(とそれらの発展曲線から紛争が予想される地域)の把握に大きく貢献してきた。「計画中または進行中のタールサンド開発による、環境・社会・経済への影響に関する情報を広めること」を目的とする第三者機関Oil Sands Truthと連携しながら、チゼック氏は現在、カナダのブリティッシュコロンビア大学・森林学部の博士課程で学んでいる。徹底した融和政治への批判から、大衆向けの環境保護主義、タールサンド縮小への尽力、一連の広告キャンペーンに至るまで、チゼック氏は尊敬に値する存在だ。ここで、同氏との長く啓発的な会話の一部をご紹介しよう。

Q: タールサンドの地図作製にどのように携わりましたか?

A: 私の専門分野は土地利用計画です。12年の間、カナダのノースウェストテリトリーズ州に住み、カナダのインディアン、ファースト・ネーションと共に働きました。そこで、狩り、漁、捕獲、またその他の文化的活動のために、長老たちや農家の人々がどのように土地を利用してきたかについてインタビューし、伝統的な土地活用と居住地図作製に携わるようになりました。そこにGIS(地理情報システム)が多大に応用されるようになったのです。

GISを使い始めた時、私は自分一人では何もできない状態で、地図情報をデジタル化する技術者を何人も抱えていました。そして、物事を逐一説明することに疲れ切ったのでしょう。私は自身でよりダイナミックな地図解析を行いたくなり、ソフトウェアの勉強に何年も費やしました・・・ まずこの伝統的な土地利用情報を処理するために、私は独学で地図製作法を学んだのです。そこからその他のプロジェクトが派生し、人々がCounter Mappingと呼ぶ分野が確立されたのです。

Q: タールサンドの地図作製には顕著な反応がありましたか?

A: 一度、サンコアで働く大学院生からEメールを貰いました。彼女は植生回復に関する論文を書いている最中で、何らかのポスター発表を企画していました。そこで、現在の復元規模の一例として、ポスターにOil Sands Truthの地図を掲載させてくれないかと頼んできたのです。私は「もちろん、どうぞ」と言いました。

“サンコアのような企業は、自社の社員に対してさえ現状を知る機会を与えていないのです。”

ペトル・チゼック、ベテラン土地利用計画者

後に、Oil Sands Truthの地図を上司に見せたところ、その上司がとても気に入っていたと彼女からEメールが届きました。私は「どうしてあなたの上司は気に入ったのでしょう?サンコアはこの現状を知らないのですか?」と尋ねました。すると、「累積していく専有面積を示すあなたの地図をとても気に入ったのです。なぜなら彼は今まで一度もそのようなものを見たことがなかったからです」と返信がありました。サンコアのような企業は、自社の社員に対してさえ現状を知る機会を与えていないのです。

Q: 地図作製において、最初にすることは何ですか?情報収集や正しい規模の判断基準など、地図に不可欠な要素とは何ですか?

A: タールサンドなどの大規模プロジェクトに臨む際、電子地図化における最大のハードルは情報へのアクセスです。タールサンドに関する情報は、政府と産業の双方によって厳重に守られているからです。空間的基準を含む電子データであるGISの99%は入手することができません。

よって、私たちは二つの方法でタールサンドの画像を入手することになります。現在はインターネットから無料で、NASAなどが提供する多くの画像を入手することができます。地球資源探査衛星LANDSATのアーカイブ画像は全て無料で、最近の画像だけでなく1973年まで遡ってアクセスすることができます。これにより、経時的な地形の変化を知ることができ、クロノシーケンスと呼ばれる作業を行うことができます。

もう一つの情報源は、さまざまな業界の環境影響表明書などから入手できるPDF、JPEG、TIFFなどの画像ファイルです。カナダ・アルバータ州のEnergy Resource and Conversation Board(翻訳者訳:エネルギー資源検討委員会)のサイトには、認可された全てのプロジェクトの地図とその土地占有面積が掲載されています。地理座標情報を持たないこれらの電子画像をダウンロードし、座標を与え、専有面の輪郭を数値化することにより、タールサンドの地図が出来上がるのです。そして、最終にして最大の課題が、その地域の調査と詳細の把握です。全てのタールサンドプロジェクトを合わせると、その面積は100キロメートル四方に相当し、大抵の場合、広大な調査領域に対する細部の情報は極めて乏しいのです。

Q: それに関していくつか質問させてください。情報に関して、特にグーグル・アースの存在についてどうお考えですか?グーグル・アースがある今、あなたの地図のような詳細さは必要とされているのでしょうか?また、グーグルのような単一情報源に依存する危険性についてお話しください。

A: ここ数年間は、グーグル・アースに蓄積したデータをロードする方法や、景観の変化を3-Dで見せる方法を模索してきました。現在グーグル・アースでタールサンドがどのように表示されているかというと、それが未加工のデータだった場合、グーグル・アースは基本的に、サイズの異なるさまざまな衛星写真の組み合わせなのです。それらがいわば‘基準層’なのです。そして、これらの画像は現在と過去を表示することが可能なのです。

グーグル・アースでは、超高解像度画像をパッチワークすることによってタールサンドが表示されています。通常は地上解像度1mなので、ズームしていけば長距離輸送ダンプや起伏構造まで確認することができます。そして、ズームアウトして全体像を表示した時に見える画像は、不思議にパッチワークされた今現在の姿なのです。

グーグル・アースが表示できないのは未来だけなのです。タールサンドの現状は、認可された計画のほんの3分の1だということを知っていただきたい。その広さは今後3倍に達します。これは、グーグル・アースのような技術を使って伝えていかなければならないことの一つです。私は今、平面の地図が伝えられることの限界や、木々の質感さえよりリアルに表示する3-D地図の可能性を模索しているのです。

この地図では、アサバスカ採掘地帯のすべての認可採掘坑およびプロジェクト現場と、2008年7月までの成長水準を見ることができる。(ページトップにあるフォトギャラリーで拡大画像を見ることができます。また、OilSandsTruth.orgウェブサイトにて、その他の地図もご覧いただけます。)© Oil Sands Truth.

Q: では、レイブンプロジェクトで注目を集めるコールド湖やビーバー湖付近の地下などに広がる未開発タールサンドについてはいかがでしょうか?それらはおそらく標準的な具象描写の地図作製法が通用しないように思われます。なぜなら、開発が地下で行われていたり、低解像度の画像しか存在しないため、グーグル・アースなどでは確認できないわけですから。この辺りの課題についてお聞かせください。

A: そうですね。事実上誰もやっていなかったので、Oil Sands Truthのウェブサイトを見て、露天採鉱ではないプロジェクト、つまり、スチームを注入することによってその場で直接タールを抽出しているプロジェクト現場の地図化を試みました。例えば、LANDSAT衛星画像から、プロジェクト現場の地理情報の数値化に挑戦したのですが、地上解像度30mのLANDSAT衛星画像では、地形の特徴を識別することは非常に難しいということが分かりました。フォートマクマレイの北で行われている露天採鉱プロジェクトなどとは違い、こういった現場は規制の無い開発によって形成されていくからです。

開発現場への連絡道路が、同時に、従来の石油やガスを伐採地へ供給するために使われていた場合、これらを論理的に区別する手段があるでしょうか?開発現場を構成しているのは、その他たくさんの事業に影響を受けた地形なのです。あなたのブログも読み、ピーター・リー氏が製作した地図を見て、開発現場とその他全ての人為的地形を区別しようともしてみたのですが・・・

Q: そういった問題については、生物学者やこの地域を調査する他の研究者からも聞いています。アルバータ州政府は開発に伴う現場の変化を把握していません。道路などの三次的地形変化を追ってはいないのです。そこで、こういった情報に関しては、企業に頼らざるを得ない。そして、企業が情報を開示してくれるかどうかは、また別の問題になっています。では、開発現場の地図を作製して分かったことについてお伺いします。新たに生じる政治的関係や環境面での発見などはありますか?

A: 政府や企業は一貫して、地図作製や開発の足跡開示を行おうとはしません。情報へのアクセスも可能な限り許していません。そればかりか、第一線の環境保護団体までもが、全ての空間的・地理学的解釈から目をそむけているのです。主要な環境保護団体が行うタールサンドに関する議論の99%は、広大な景観破壊という恐ろしく屈折した曖昧なイメージに関するものなのです。イメージ政治ですよ。それは最新のホラーのようなもので、時には圧倒的に明解で、またある時はロシアの銛からクジラを守るためゾディアックに乗るグリーンピースくらい不正確なイメージなのです。

“タールサンドの現状は、認可された計画のほんの3分の1だということを知っていただきたい。”

ペトル・チゼック氏

一つには、主要な環境保護団体は空間様相に全く興味が無いため、ひところ顕著だった、新たなプロジェクト認可に対するペンビナグリーンピースシエラクラブの反対運動のようなキャンペーンが起こるのです。認可が下りているプロジェクトだけを見ても、タールサンドの広さは2倍になることになっているんですよ。環境保護団体はタールサンドが倍化することについては賛成だとでも言うのでしょうか?このような質問をしたことがありますが、彼らは答えられませんでした。しかし、財団法人などに最新の魅力的な画像を見せ、彼らは莫大な資金を集めてしまうのです。まったく‘反空間的’な環境保護団体には感心させられます。非常に視覚的なのにもかかわらず、そのイメージの出所や意味するところには関心が無いのです。

• • • •

ページトップにあるフォトギャラリーのタールサンド土地利用図(ペトル・チゼック製作)をご覧ください。地図の右上にあるアイコンをクリックすると、拡大画像を見ることができます。また、OilSandsTruth.orgウェブサイトにて、その他の地図もご覧いただけます。

本記事はraventrust.comに掲載されたものである。RAVENとは、カナダの先住民族を資金援助する慈善団体で、地球温暖化やその他の環境持続可能性の課題に取り組みながら、産業開発と先住民族の伝統的生活様式の調和を合法的に推し進めている。

翻訳:上杉 牧

Copyright R.A.V.E.N..

ディスカッションに参加しよう

著者

マックス・リッツ氏はトロント大学で地理学の修士号を取得し、在学中、タールサンドにおける視覚表示と政治的生態をテーマに修士論文を執筆した。現在はブリティッシュコロンビア大学博士課程にて地理学を学んでいる。

ディスカッションに参加しよう

  • Eriko Ooizumi

    この記事は、筆者がペトル・チゼック氏とタールサンドについて会話した内容を紹介する形で、集団理解の形成や政治紛争への介入手段における地図の役割について述べている。
     私はこの記事を読み、初めてタールサンドや土地利用図の果たす役割を知った。記事を通しタールサンドについて関心を持ったため調べたところ、タールサンドとはオイルサンドとも呼ばれ、将来は採掘に要するコストと技術面で注目されなかった化石燃料であることがわかった。また「カナダの汚れた秘密 タール・サンド・ラッシュ」によれば、その採掘には温室効果ガス排出や森林破壊、大気汚染などの問題が伴うようだ。(詳細はhttp://blog.goo.ne.jp/coccolith/e/c0d541e8feeb91668f95862294e72ad0)
     このようなタールサンドの環境破壊の現状のみならず未来をも可視化したのが、この記事で紹介されたペトル・チゼック氏のタールサンドである。チゼック氏が作成した土地利用図で描かれた未来を見て、タールサンド開発への懸念が高まった。こういった情報に基づいて、タールサンド開発の是非を議論する必要があるのではなかろうか。また、今回紹介された土地利用図のような情報に触れ、より多くの人々が環境破壊の現状を知ることが必須である。

  • Eriko Ooizumi

    この記事は、筆者がペトル・チゼック氏とタールサンドについて会話した内容を紹介する形で、集団理解の形成や政治紛争への介入手段における地図の役割について述べている。
    私はこの記事を読み、初めてタールサンドや土地利用図の果たす役割を知った。記事を通しタールサンドについて関心を持ったため調べたところ、タールサンドとはオイルサンドとも呼ばれ、将来は採掘に要するコストと技術面で注目されなかった化石燃料であることがわかった。また「カナダの汚れた秘密 タール・サンド・ラッシュ」によれば、その採掘には温室効果ガス排出や森林破壊、大気汚染などの問題が伴うようだ。(詳細はhttp://blog.goo.ne.jp/coccolith/e/c0d541e8feeb91668f95862294e72ad0)このようなタールサンドの環境破壊の現状のみならず未来をも可視化したのが、この記事で紹介されたペトル・チゼック氏のタールサンドである。チゼック氏が作成した土地利用図で描かれた未来を見て、タールサンド開発への懸念が高まった。こういった情報に基づいて、タールサンド開発の是非を議論する必要があるのではなかろうか。また、今回紹介された土地利用図のような情報に触れ、より多くの人々が環境破壊の現状を知ることが重要である。