地域の革新が世界の食料危機を救う

おそらく最近の地球環境や開発における議論の場で圧倒的に注目されている問題は、2050年までに90億人に達する世界の人口を支える食料を、いかにして調達するのかということだろう。2010年12月の国連食糧農業機関の食料価格指数が、前月と前々月に続いて上昇したこともあり、この問題はより深刻さを増している。この統合指数(肉、乳製品、シリアル、油脂、砂糖の商品価格を考慮に入れたもの)は今や215ポイントに達し、食品価格高騰の危機として知られる2008年の181ポイントを軽く超えてしまった。

しかし世界銀行は、現在の状況に対して2008年ほど悲観的な見方はしていない。というのは、世界銀行が最近発表した世界経済見通し2011(Global Economic Prospects 2011)によると、開発途上国は高所得者層に比べて世界的な経済危機からの立ち直りが早く、今年度の世界経済成長の46パーセントを担うと見込まれているからだ。また多くの経済圏ではドル価格が下落し、地域の状況は改善され、物価が上昇しているため、実際の食料の価格はそのUSドル立ての貿易価格ほどは上昇していないとしている。それでもなお、食料価格の急激な上昇が多くの人々(例えばウガンダの田舎など)にとって不必要な妨げとなるのは事実であり、影響が心配される。

この問題の解決にあたって、新種の肥料の開発やバイオテクノロジーに依存した緑の革命の実現可能性といった事柄を中心に、食料安全保障に関する議論が世界中で展開されてきた。もちろん、幅広い観点からさまざまな意見が主張されている。

ところが大ざっぱに言うと、実はこうした議論には2種類ある。1つはビル&メリンダ・ゲイツ財団や国連の前事務総長コフィー・アナン氏によって支持を受けたアフリカ緑の革命のための同盟のようなイニシアティブによるものである。そしてもう1つはインド出身の環境活動家、男女同権主義者、物理学者、哲学者の肩書を持つヴァンダナ・シヴァ氏や、持続可能で豊かな未来はより有機的で伝統的な農業にあると信じるスローフード・インターナショナルのメンバーによるものだ。

世界の食を支える

どうしたら90億人の食生活を支えられるのか?という難題に答えるため、ワシントンに拠点を置くワールドウォッチ研究所は非常に重要な報告書「State of the World 2011: Innovations that Nourish the Planet」(地球白書2011:世界の食を支える革新)を先日発表した。

創設37年になるワールドウォッチ研究所によれば、この報告書は”数10億の人々が自力で食生活を維持し、地域経済を回復し、生計を立て、農業の基礎となる自然資源を保持していくことが可能となる現実的で新しいアイディアを提供している”そうだ。

この報告書ではさまざまな食料政策の考えを持つ思想家20人の多種多様な見解を紹介している。同報告書はビル&メリンダ・ゲイツ財団からの支援を受けてまとめられたものだが、こういった多様性を表すために、生物多様性のためのスローフード基金の事務局長セレナ・ミラノ氏が、地域特産物の保護と題した章を寄稿している。

将来起こり得る世界食料危機の原因の解明や結果の予測に力を注ぐのはしばらく止めておき、私たちOur World 2.0はワールドウォッチ研究所が運営するブログ(Nourishing the Planet blog)がまとめたある農業改革の実例を皆さんに紹介したいと思う。同ブログの中のWhat Works(役に立つこと)シリーズから、私たちが気に入った3つの話を取り上げよう。

農家から農家へ

飢えと貧困をなくすため、国際社会が即効性のある高度科学技術を使った解決策を求めて巨額を投じている間に、アフリカ大陸全域の農家では、アフリカ主導の改革の助けを借りてすでにこれらの問題に取り組んでいる。農民が必要としていることは本人たちが一番良くわかっており、農民同士で解決策を共有しようというものだ。

政府や振興団体や援助団体は、農民に農家主導の知恵を共有するよう支援することによって、彼らが自分たちの土地の知恵を尊重し、そこに投資する手助けをすることができるのだ。

例えばアフリカ稲センター(AfricaRice)は農民たちの知識の共有に役立つシンプルな解決法を考え出した。それがfarmer to farmer videos(農家から農家へのビデオ)である。バングラデシュからベニンまで、米の生産方法を改善するために農民たちがそれぞれ違った解決法を練り出している。そこでアフリカ稲センタ―は、実際に農民に米生産のノウハウを実演してもらい、それを撮影した教育ビデオをシリーズで作成した。ビデオの中で実演されているのは、バングラデシュで行われている浮揚性を利用した種子の選別や乾燥、保存の方法、またベニンで行われている米の品質の改善や湯通しの方法、ブリキナファソで行われている田植えのための整地の方法、そしてマリで行われている苗床準備、移植、除草、肥沃な土壌の管理方法などだ。

“農家から農家への教育ビデオシリーズで実演されている内容には、バングラデシュで行われている浮揚性を利用した種子の選別や乾燥、保存の方法や、マリで行われている苗床準備、移植、除草、肥沃な土壌の管理などがある。”

またファーム・ラジオ・インターナショナル(Farm Radio International)(FRI)との連携で、このビデオはラジオの台本としても利用された。台本は300以上の地方ラジオ局に送られ、このビデオは広く普及していき、遠く離れた農民同士が共通の利益を共有する結果につながっていった。

モザンビークのマプトでは、Prolinnova(プロリノーバ)、スペインのNGO団体Centro de Iniciativas para la Cooperación(Batá) (バータ・協力へのイニシアティブ・センター)、National Farmers Union of Mozambique(UNAC)(モザンビーク全国農民組合)が農民のためのワークショップを企画した。内容は、それぞれの地域の農民が自分たちのコミュニティーで実際に行ってきた独自の画期的な農業のノウハウについて、お互いの経験を共有し学び合うというものだ。

例えばニカサ地方のエネルジンド・パウロ氏は、作物を守るためにニームの木の葉から毒性のない農薬を作って利用する説明をした。また、農作物の病害を防いだり、養殖魚を育てる方法を紹介した農民たちもいた。

Prolinnova, Batá, UNACはワークショップで特に目立っていた12~14の方法を1冊の本にまとめてモザンビークの3種類の言語に翻訳する計画だ。これでモザンビーク全土に農民たちの革新的な農業が広がっていくだろう。

ECOVA MALI(エコバ・マリ)はバマコから35マイル離れた場所に位置するトレーニングセンターである。地元で培われてきた知恵を共有することで、環境に優しい持続可能な農業技術を利用するよう農民たちに勧めてきた。ここでは地元の専門家チームを作り、農民が自分たちに必要なスキルを身につけられるよう支援している。農民たちがよりよい農業ビジネスができるよう、また自分たちの暮らす環境をより上手に管理できるよう手伝っているのだ。

地元の専門家が農民に教えるのは、間作、水の保全、農業と林業併用の土地利用、種の節約、シアバターの加工処理など、環境に優しく、しかも収益につながる方法だ。ビジネスの基礎、会計、マーケットスキルなど、エコバは農家のコミュニティーからの要望に基づいてワークショップを開催している。さらに、農民たちが新しいビジネスを始めるために必要な道具や設備を調えられるよう、小規模な融資を行ったり”小額の助成金”を出している。

(上記の例はマット・スティスリンジャー氏による文章)

畜産業から食料生産を改善する

こういったアフリカの農家や世界の極貧層の人々にとって食肉はぜいたく品であり、開発途上国の平均的な収入層が1年間に食べる食肉の量は30キログラム強しかない。しかし2050年までには90億人を超えると予測される世界の人口と、この先20年間に2倍に膨れ上がるとされている開発途上国における食肉の需要を考慮すると、家畜の生産は経済学的に最も重要な部門となっていくだろう。

変動する気候に順応しながらタンパク質への需要を満たすためには、畜産農家の人々がクリエイティブで持続可能なアイディアを生みだし、自分たちの家畜の生産方法を順応させていく必要がある。

地域社会に基盤を置いた、家畜のためのヘルス・ワーカーのグループが発展していくと、畜産業を営む多くの貧しい地域で革新が起こることは間違いないだろう。病害対策の職員が”病気に感染した動物とワクチン接種をした動物を区別する”ことを可能にするワクチンは一般的にDIVAワクチンとして知られているが、現在ではこのワクチンと伝統的な知恵という2つの力によって、病気を監視することが可能となった。例えば東アフリカにおけるソマリ族とマサイ族の家畜所有者は、流産の可能性を引き上げるなどの原因となるリフトバレー熱の兆候を厳密に理解している。

“変動する気候に順応しながらタンパク質への需要を満たすためには、畜産農家の人々がクリエイティブで持続可能なアイディアを生みだし、自分たちの家畜の生産方法を順応させていく必要がある。”

乾燥したケニア北部に暮らす家畜所有者は、今では自分たちの家畜に保険をかけることができるようになった。これは牧草やその他の植物の衛星画像を利用することで、干ばつによって家畜が餓死する危険性を予測する新しいプログラムに基づいて行われている。また彼らが環境保護サービス(例えば野生動物の数や生物多様性を維持したり地球温暖化ガスを保管したりする)に対しての報酬を得られるということは、つまり貧しい家庭が自分たちの生計を多様化させ、収入を増やす機会を増やせるということになる。

また飼料の利用法の改革により、農民が家畜をより持続可能な方法で飼育することができるようになった。アフリカの貧しい農家の間では、作物の余った部分で作るブロック型の飼料や農業関連産業の副産物が広く利用されるようになってきた。また例えばインドでは、牧草、トウモロコシに似た植物の実を取った後の茎や葉、ふすまなどを利用することで飼料の質を改善し、数少ない家畜からより多くの乳を生産している。

(この例はマット・スティスリンジャー氏による文章)

街に食料を

農業改革においては田舎で暮らす農民をいかに支援するかということばかりに注目が集まるが、実際は世界の人口の半分以上が街で暮らしている。農業といえば田舎の地域を連想させるが、現状では世界で8億以上の人々が自分たちの食生活の大部分を街で育った作物に頼っているのだ。

現在、都市農家の多くはアジアで見られるが、毎年1400万人のペースで人口が増え都市が巨大化し続けているアフリカでも、都市農家がしだいに食料生産と食料改革の中心的役割を果たすようになっていくだろう。

ケニアの首都ナイロビにあるスラム街キベラに暮らす女性たちは、家族に食べさせるために十分な作物を作るだけでなく、余った農産物を売って収入を得ている。非営利団体のUrban Harvest(アーバン・ハーベスト)とSoladarités(ソラダリテ)の支援を受け、女性たちは汚れた麻袋にいくつもの穴を空けて種を植えこみ、ホウレンソウなどの作物を育てている。また、空き地に菜園を作り、種を集めて保存し、同じ地域に住む農民たちでこれを共有している。

この街では2007年と2008年に街で紛争が起こり、道路の全てが閉ざされた。しかし、食料が持ち出されることも持ち込まれることもないまま、人々は麻袋や小さな空き地など、さまざまな場所を利用して農作物を育てたので、食べるものに困る家庭はほとんどなかった。

“現在、都市農家の多くはアジアで見られるが、都市が巨大化し続けているアフリカでも、都市農家がしだいに食料生産と食料改革の中心的役割を果たすようになっていくだろう。”

南アフリカのケープタウン郊外には、100万人以上の人々のうち40パーセント近くが間に合わせの掘っ立て小屋のような家に住み、廃墟となった建物は利用されないままになっている地域がある。ここで、Abalimi Bezekhaya(アバリミ・ベゼカヤ)という組織が農民のコミュニティーを作ろうと支援を始めている。アバリミ・ベゼカヤの実習と教本での教育支援を受けて、人々は学校の校庭や空き地を菜園に変えていった。6人から8人ほどで1つの菜園を管理し、支援を受けながら働いているうちに、間もなく家族に食べさせるのに十分な食料を生産できるようになった。

Ackerman Pick n’Pay Foundation(アッカーマン・ピックアンドペイ財団)の支援をうけて、South African Institute of Entrepreneurship (SAIE) (南アフリカ企業家になるための研究所)やBusiness Place Philippi(ビジネス・プレース・フィリッピ)と協力しながら、アバリミ・ベゼカヤは2008年にHarvest of Hope (HoH) (収穫の希望)を創設した。今や、HoHはアバリミ・ベゼカヤのコミュニティー区画で働く14グループの農民たちから余剰作物を購入し、箱に詰めてケープタウンで販売できるようになった。こうして田舎の農民は副収入を稼げるようになり、街に住む人々は新鮮な作物を食べられるようになったのだ。

ガーナのアクラでは、農家と環境のために水質と土地の管理改善を目指してアジアとアフリカで活動する非営利団体International Water Management Institute (IWMI) (国際水質管理研究所)が、農家の人々と力を合わせて収穫量の増加と公衆衛生の改善に取り組んでいる。街の農家では作物に水を与えたり収穫物を洗浄するのに下水を利用しており、これが衛生上の問題を引き起こしているのだ。

国際水質管理研究所(IWMI) の教育普及の担当者は街の農家と話し合いの場を持ち、農作物が市場で売買されるときだけでなく、育てたり収穫したりする段階においても、下水利用による雑菌の混入を減らすためのシンプルでコストのかからない方法を考え出そうと意見を出し合っている。

アクラの街の農家では今、”下水の沈殿池”に集まった水を農地に引いている。この池は沈殿物が池の底に溜まるように設計されているため、表面のきれいな水を引いてくることが可能だ。またこれと共に、コンテナにろ過した水を溜めて利用もしている。またInternational Development Enterprises(国際開発事業団)が開発した装置を使って細流灌漑(かんがい)を利用する農家も出てきた。これによって、より正確に水を管理し水質の維持ができるようになった。(Slow and Steady Irrigation Wins the Race((ゆっくり着実な灌漑が勝利する))も御覧ください)

(上の例はダニエル・ニーレンベルグ氏による文章)

こうしたイニシアティブの存在は、多種多様な作物を生産するそれぞれの地域社会が、その土地に根付いたノウハウを駆使して飢えから身を守ろうとする強い意志を持っているという証であろう。メディアに注目されたことはないが、世界を食糧難から救うためにこうして協力している人々の例を、あなたは他に知っているだろうか?

確かに、こうして述べてきたような地域特有の食料確保の方法は、それ自体が確実な問題解決になるとは限らない。しかし、実際に試されている多くのアイディアの中には、地域社会や政策決定者が学びとって自分たち自身の環境に利用できるものがきっとあるはずだ。

さもなければ他の選択肢は1つしかない。中央政府や国際機関や大規模な農業団体が自分たちで破壊した世界の農業システムを修復する方法を考え出すまで、ひたすら待ち続けることだ。例えるなら、本当の改革が起こる前に全世界の人々の食べ物は冷めきってしまうということだ。それに現実には、たとえそんな改革が行われても食料難から全く救われない人々も存在するのである。

◊ – ◊ ◊ – ◊

ワールドウォッチ研究所の地球白書2011「State of the World 2011: Innovations that Nourish the Planet」は購入が可能です。オンラインもしくはこちらfree chapter-by-chapter decision-makers briefsへアクセスしてください。

翻訳:伊従優子

Creative Commons License
地域の革新が世界の食料危機を救う by マット スティスリンジャー, ダニエル ニーレンベルグ and マーク・ノタラス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

ディスカッションに参加しよう

著者

マット・スティスリンジャー氏はワールドウォッチ研究所のNourishing the Planet project(世界の食生活を支えるプロジェクト)の研究研修生である。テキサス大学で人類学の学士号を取得し、2009年バーモント州のSIT Graduate Institute(SIT高等研究所)では監視と評価を専門に持続可能な開発の分野で修士号を取得して卒業した。同学位に必要な実務経験としてBRAC(バングラデシュで貧困を終わらせようと取り組むNGO団体)で6ヶ月間の研修を体験した。そこでBRAC’s Water, Sanitation & Hygiene program(BRAC水と公衆衛生と衛生学のプログラム)を考案、実施した。また、ワシントンDCに移る卒業前に、アメリカを拠点とするNGO団体NextAid(ネクスト・エイド)と南アフリカでAIDS orphan crisis in Africa(アフリカにおける孤児のエイズ患者の危機)の問題を扱う環境に焦点を当てたプロジェクトに取り組んだ。現在は、ワシントンDCの国際開発プログラム・開発部のワールドラーニングでプログラム会員に従事している。

ダニエル・ニーレンベルグ氏は現在、ワールドウォッチ研究所がまとめた地球白書2011のプロジェクト・ディレクターを務める。家畜の向上飼育とその世界への広がりや持続可能な農業に関する彼女の知識は、ニューヨークタイムズ・マガジンやインターナショナル・ヘラルド・トリビューンなどの出版物の中で、またテレビやラジオを通して広く引用されてきた。2年間、平和部隊のボランティアとして活動し、アース・サンガ(都会における森林再生機構)やシチズン・イフェクト(世界中で持続可能な開発プロジェクトに取り組むNGO)などの農業関連のマーケットで働いた。最後の1年間は、サハラ砂漠以南の25余りのアフリカ諸国を旅して、飢えと貧困の問題を解消するための環境面で持続可能な方法を探った。農業、食料、環境の分野における理学修士号をタフツ大学で取得し、モンマスカレッジで環境政策の学士号を取得した。

マーク・ノタラスは2009年~2012年まで国連大学メディアセンターのOur World 2.0 のライター兼編集者であり、また国連大学サステイナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の研究員であった。オーストラリア国立大学とオスロのPeace Research Institute (PRIO) にて国際関係学(平和紛争分野を専攻)の修士号を取得し、2013年にはバンコクのChulalpngkorn 大学にてロータリーの平和フェローシップを修了している。現在彼は東ティモールのNGOでコミュニティーで行う農業や紛争解決のプロジェクトのアドバイザーとして活躍している。

ディスカッションに参加しよう

  • Tomoyuki Nakatsuka

    近年、地球規模での食料に関する議論で注目されているのは、2050年までに90億人に達する世界の人口を支える食料をいかにして調達するのか?という問題である。
    この記事では、その問題を解決しうる、地域の農業改革における3つのストーリーを紹介している。まず、遠く離れた農民同士がビデオを通じて、農業生産のノウハウを共有しあい、お互いに学ぶという例。次に、今後ますます増加が見込まれる畜産業において、家畜のためのヘルス・ワーカーのグループの発展や、家畜への保険の例。そして、世界の人口の半分以上が町で暮らしている現状において、都市農家が次第に食料生産と食料改革の中心的な役割を担っていくという話である。
    確かにこういったイニシアティブが存在し、これからますますこういった地域における農業改革が、世界中の多くの人々の間に知れ渡り、知識や経験を共有できるようになれば、世界を食糧難から救う一助となるかもしれない。
    しかし、私は以前大学の授業で、世界の穀物生産量は、今の人口をはるかに超える分をすでに毎年生産しているということを学んだことがある。では、世界人口を養えるだけの穀物が生産されているのならば、残りの余剰穀物はどこへいってしまっているのだろうか?それは以下の5つのケースがある。まず一つ目は、膨大の量の穀物が、飢えを抱える貧困国から、もっと高値を付ける先進消費国に売却されているケース。二つ目は、近年、先進国を中心に、肉食(特に牛肉)への食生活シフトが強まり、穀物の約半分が家畜の飼育として消費されているケース。三つ目は穀物流通業者が、市場メカニズムから穀物の値崩れ回避のために、大量の穀物をストックしているケース。四つ目は、多くの発展途上国では、政府や軍が非常用食料としてかなりの量の穀物を備蓄しているケース。そして五つ目は、ここ数年の新たな現象として、主要な穀物(特にトウモロコシ)がバイオエタノール生産の原料として活用され始めているというケースである。
    従って、地域におけるさまざま農業への取り組みももちろん重要だが、いかにして生産された食物を世界中の人々に均等に配分できるようにするかという、配分のメカニズム、あるいはその構造についても同時に議論することが、30年後の世界だけでなく、貧困や飢餓がすでに起きている今日の世界においても、非常に重要になってくるのではないだろうか。