農村の成人識字教育を持続可能にするために

「国際識字デーを記念して、国連大学サステナビリティと平和研究所(UNU-ISP)の前研究員サラ・ハサバ氏による記事を以下に掲載する。ハサバ氏は、ウガンダ、ケニア、ベトナムの農村コミュニティにおいて政府や現地活動団体また国内あるいは国際組織により成人を対象として実施されている識字教育プログラムについて調査し、そのなかから、そうした学習機会を成人学習者それぞれのコミュニティにおいて持続可能な活動としていくための代替アプローチを提示することで、コミュニティの持続可能な発展につなげることを目指している。」

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「識字(読み書き)能力とは、さまざまな状況に関連する印刷物や手書資料を活用することによって確認、理解、分析、創作、伝達また算出することができる能力である。識字能力は、一人一人が自らの目標を達成するための継続的学習につながり、それによって、自らの知識や可能性を伸ばし地域社会またより広い世界に積極的に参加することを可能にする」とOECDの国際成人力調査では述べられている。

識字能力は、健康と栄養の基礎となるだけでなく、社会経済的開発や民主的諸制度の実現のための基盤ともなり、人類の発展にとって必要不可欠だと多くの学者が考えている。そして、今日の知識基盤社会において、このことはよりいっそう真実味を帯びている。したがって、識字能力がなければ、基本的なニーズを満たし、基本的人権を守り、生活の質を向上させることは困難である。

開発のプロセスと成果という面についても、環境、資源、公平性に対する意識が高まっている今日において、環境、経済、社会政治の持続可能性は、真の意味での生活の質向上にとって欠くことのできない要素である。確かに、持続可能な開発と「継続的でより良い人類福祉」が同時に達成可能であるとするなら、「対象コミュニティの積極的な参加が必要であり、したがって、真の意味での持続可能な開発にとって言語と識字能力が果たす重要な役割は、十分な検討に値する」ということは明らかである。

もちろん、成人識字教育には、それぞれに応じたプログラム設計と政策の検討が必要になる。筆者は、開発途上国の農村コミュニティにおける成人識字教育の学習機会について知るために、ウガンダ、ケニア、ベトナムを対象とした比較調査を実施した。この調査が、成人識字教育の学習機会についての理解向上に寄与するとともに、現地の人々の生存のための懸命な努力に応え、安定した生活とより良い地域社会の暮らしにつながる施策や政策の健全な実施を促すことを期待するものである。

私の研究では、成人識字教育プログラムを実施する既存の政策と、そうした政策をどのように強化しうるかについて調査を行った。また、国内機関や国際機関による資金支援が農村コミュニティの成人識字教育の成果という面でどのように影響しているか、さらに、国内また国際的な協力がどの程度そうしたプログラムの内容に影響しているかについても考察した。

具体的には、混合事例研究の手法を用いて、成人識字学習者と識字プログラム実施側から定性的情報と定量的情報の両方を収集した。また、上記3か国のプログラムについてさらに理解を深めるために、各種政策文書や識字学習教材その他の情報についても調査した。

資金拠出

開発途上国で活動している国際開発機関Action Aidは、成人識字について、国家教育予算の3パーセントを成人識字教育と訓練に充てるというベンチマークを各国政府に提示したが、さしたる効果はあがっていない。実際のところ、UNESCOはその「万人のための教育 2011年グローバルモニタリングレポート」のなかで、開発途上国における成人識字率向上の取り組みに対する支援の少なさを非難している。

識字教育関係者に対する聞き取り調査からは、3か国すべてにおいて識字教育に対する拠出は低いことが判明した。ウガンダの場合、中央政府は成人識字率向上の取り組みに毎年32億ウガンダシリング(1,391,304米ドル)を拠出しているが、自治体単位で見た場合、成人識字プログラムの運営に対する年間資金支援はわずか1,800ウガンダシリング(6,767米ドル)にすぎない。ケニア政府は、年間政府予算の30パーセントを教育プログラムに費やしているが、成人教育と社会人教育プログラムに対する拠出は1パーセントに満たない。また成人教育に関するベトナム政府の年間拠出額 100,000米ドルのうち、地域社会の成人識字プログラムに対して支出されているのはわずか 700ドルである。

調査ではさらに、5つの地域社会組織と1つの教会組織また2つの国際非政府組織(CBO/FBO/NGO)を訪問調査した。地域社会におけるこれら組織の活動期間は、9年から31年に及ぶが、資金源を地域社会に頼っているのは1つのCBOだけにすぎず、残りの団体は、50パーセントから100パーセントの割合で援助資金に頼っている。地域社会を対象としたプログラムに費やされている資金の割合は、それら組織のリソースの10パーセントから80パーセントであり、そうしたプログラムの最大の資金支援者は政府である。またこれらの組織の識字に関する取り組みは、保健衛生、環境意識、収入源などの活動と連動したかたちで実施されており、成人識字教育だけに特化した活動団体を見出すことはできない。

期待と課題

ウガンダとケニアは農業経済国であり、回答者の多くが農業に従事しており、それに次いで山羊や豚の飼育、養鶏、市場露天商、建築など多様な職業がみられる。ベトナムでは回答者のほとんどが漁業と養殖に従事しているが、一部は農業に従事しておりとくに稲作が多い。

識字プログラムに対する学習者の期待は、その内容に沿ったものであった。読み書きが最大の目的のようであるが、同時に全員が計算やビジネススキルの習得もプログラム参加の目的にあげた。またその一部は(とくにウガンダとケニアにおいては)、別の言語(英語)を学ぶための機会として、さらに正式な学校教育を受け知識を深めるための準備として、識字プログラムを捉えていた。

学習者全員にとって、在庫管理と記録管理が読み書き能力を必要とする最大の理由であった。その他には、最新情報を知りたい、会計勘定ができるようになりたいという理由があげられた。自信と行動面での良い変化も成果としてあげられているが、それはウガンダとケニアの学習者について顕著である。また、プログラムが無料で、内容も興味深く日常生活に密接しているという点も評価されていた。

政府と活動団体双方の取り組みがみられるコミュニティでは、識字教育プログラムに対する共同支援を通じて大きな成果があがっている。すなわち、政府資金では賄われないが学習者の学習成果を高めるためには必要不可欠なプログラム経費、たとえば指導者に対する報酬を活動団体が負担するといったことが多くみられた(ウガンダ、ベトナム)。

そうした政府と活動団体との共生による成果として、活動団体それぞれの開発アジェンダが既存の政府プログラムに取り込まれることで(ウガンダとベトナム)、成人識字プログラムの内容がさらに多様化している。さらに、さまざまな活動団体が活動を展開しスタッフとして地域社会の人々を採用することで、(ウガンダ、ケニア、ベトナムにおいては)多くの住民が参加しやすい雰囲気が生まれている。またそうした団体は、国連ミレニアム開発目標のとくに識字や教育、健康、環境に関するベンチマークのいくつかについて、これまでに達成に向けた取り組みを行ってきた(ウガンダ、ベトナム)。

識字教育を維持するための取り組み

その価値が明らかであるにもかかわらず、成人識字教育プログラムがいくつかの課題に直面していることが調査から明らかになった。具体的には、学習教材などの十分なリソースの欠如、十分に訓練された教師の不足、教室不足、長距離の徒歩通学、プログラム終了後の雇用機会の少なさ、指導者に対する無報酬、雨期の教室閉鎖(ウガンダ、ベトナム)、プログラム後の訓練機会の少なさ、常習的欠席、学習者が抱える問題に対応していないプログラム内容といったことがあげられる。

調査を行った既存プログラムの性質に基づいて、識字教育を参加する学習者にとってよりいっそう持続可能な活動とする可能性を高める施策として、以下を提案するものである。

訪問したクラスの大半で、読み書き能力の習得後にその能力を活かす機会がないために、成人学習者が実際にはプログラムを本当は「卒業」できていないという状況が見られた(ウガンダ、ベトナム)。このことから、政府と活動団体は、職業訓練センターというかたちでの投資を積極的に検討すべきであることが示唆される。学習者が十分な読み書き能力を習得した暁には、自己開発のためにさらに能力を磨くことができる短期の学習プログラムに参加し(ウガンダ、ベトナム)、持続可能な生活の実現につなげるといったことが考えられる。

自立のためのもう1つのステップとしては、社会問題を扱う活動団体が手助けして、学習者と指導者共通の意見をまとめて彼らの代表者に対応を働きかける(ウガンダ、ケニア)、あるいはプロジェクト提案を作成して、地域社会が識字教育に関して直面している緊急の課題に取り組むための資金を要求するといったことが考えられる。

また、活動の重複を避けるために、すべての活動団体の取り組み内容に対する調査を実施することも重要であろう。識字能力の習得をよりいっそう促し、また農村コミュニティのより積極的な参加を得るために、活動団体が互いに補い合う必要がある。同様に、フォーマルとノンフォーマルな教育制度間の協力(ウガンダ)を強化し、リソースの共有と交流(ケニア、ベトナム)を図るべきである。さらに、非識字は社会政治的な問題であることから、国際的な協力や開発という枠組みのもとで活動を行っている組織に対しても、各国政府またあらゆる機関が成人識字教育プログラムの実施と運営を目的としてリソースを拠出し合う「成人識字プール」を設立する必要性を、各国政府に対して強く認識させることが求められる。

また、より多くの成人学習者を呼び込むために、すぐれた成果をあげている識字活動団体を、国際識字デー(9月)を記念する毎年のイベントにおいて表彰し、他の成人学習者の励みになるインセンティブを提供すべきである。同様に、現地ラジオによる識字教育プログラムに対する支援や、さまざまなコミュニティに出向いて識字セミナーやレビューを開催することによっても、プログラム参加者を増やすことができるであろう。

国際社会が果たす役割は、とくにウガンダやケニアなどの開発途上国における識字率の向上や非識字状態の解消にとって重要であり、また識字教育は、安定した生活の実現にとって重要な要素である。したがって、農村コミュニティにおける持続可能性の実現に向けた十分な能力獲得につながる識字教育により多くのリソースを割くべきであると、各国政府に対して国際的な協力や開発の枠組みを通じて強く働きかけることができる。

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農村の成人識字教育を持続可能にするために by サラ・ ハサバ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

サラ・ハサバ氏は、以前は日本学術振興会に在籍し、国連大学のサスティナビリティと平和研究科における国連大学博士研究員である。

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