K*を研究成果に活用しよう

国連大学メディアセンターを率いるブレンダン・バレット氏が、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)のK*(Kスター:研究の伝達、サイエンス・プッシュ、知識の転換・応用・移転および交換、知識の取引や可動化、そしてポリシー・プルに関する幅広いアイデア)をテーマとした会議で得た洞察を共有する。

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先日開催された2012年K*会議が必要となった背景には、一人の会議出席者の言葉を借りれば、「気候変動をはじめとする『困難な問題』で分かるように、事実に関する科学的な合意が政策や社会一般に影響を与えられるだろうと推測するだけでは不十分」だということがある。

アンドリュー・キャンベル氏はチャールズ・ダーウィン大学のブログの前書きで、この点を指摘すると同時に、科学と政策の接点、そして知識がどう活用されるかを理解するには、「その背景とともに、それがどのように、そしてなぜ知識戦略の選択や予想される効果に影響するのか」を認識することが重要だと書いている。

私たちは往々に、自分の研究結果が重要だと(自分たちと、そして資金を拠出した人々にとっては重要であるために)みなしがちであるために、ターゲットとする人々にとってもその重要性は明白なものだと思い込みがちだ。もしもそれが事実なら、そうした結果が何らかのインパクトをもたらすのに必要なのは、そうした発見をターゲットに伝えること、あるいはできる限り広い範囲に伝えることだけのはずである。

だが、そのインパクトの計測はおそらく難しい。研究結果が政策に影響を与える道筋が不透明と感じることもあるだろう。影響を評価するのに、確固たる指標ではなく逸話的な証拠に頼らざるを得ないかもしれない。認識できるような影響がごく限られたものであると分かった場合、私たち科学者や学者がコミュニケーターとして力不足だと結論づけるか、またはその他の言い訳(タイミングが悪い、コミュニケーションに必要な予算不足など)を探すかもしれない。しかし、私たちは研究結果が伝達される背景をより大きな視野で見ていないのかもしれず、あるいはその背景を理解するために費やせる時間や能力が、そもそも十分でないのかもしれない。

この点において、K*の専門家たちが活躍できる可能性がある。「可能性がある」と言うのは、現時点では、そうした意見は単なる憶測に過ぎないという見方がおそらく主流だからだ。

K*とは何か?

K*(K-スター)は、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)のアレックス・ビーラク氏が発案した用語で、研究の伝達、サイエンス・プッシュ、知識の転換、応用、移転および交換、知識の取引や可動化、そしてポリシー・プルにまつわる広範なアイデアを意味する。

この用語で知識関連のアイデアと概念をすべてひとまとめにすることで、一歩先に進める可能性がある。あるいは、独立研究者のエンリク・メンディザベル氏が指摘するように、かえって混乱を招き、私達を一歩後退させるもとになるかもしれない。

しかし、K*について考えれば、特定の要素に関する議論について憂慮する必要はなく、知識がいかに研究・政策・行動の接点において用いられ、どんな課題があり、分野を超えてどう学べるのか(例えば気候分野の科学者と、医療や開発の専門家などとの交流によって)に着目できるという点で、アレックス・ビーラク氏やその仲間は私たちを二歩は前進させてくれる、とここでは提案しておきたい。

これまでに述べたすべてに対処するため、2012年のK*会議が(国際諮問委員会からの助言と支援を受けて)UNU-INWEHにより、4月24~27日までカナダのオンタリオ州ハミルトンで開催された。政策提案書が用意されたが、更なる詳細は近い将来に明らかにされるだろう。

同会議には学会やシンクタンク、NGO、各国機関や国際組織を代表する60人近くが出席し、ケース・スタディーのパネル、討議、メールによる世論調査(優先される行動について)、オープンスペーステクノロジー(OST) を通じてK*をめぐる状況を調査した。

さらに100人以上がWebEx(ウェブ会議)を通じて参加し、質問を投げかけ、優先事項の世論調査に参加した。極めてプロフェッショナルに組織された刺激的なイベント(筆者が参加したイベントでは最高の部類)だった。ツイッター(#kstar2012)やブログなど、ソーシャルメディアによる会議に関するオンラインの反響も様々にあった。たとえば、会議の始まる前から直後までの間に、12か国から61人のツイッター・ユーザーが450以上のツイートを発信した。

参加者としては、K*への理解をめぐる現状について、ダイナミックで双方向的な方法で調査したことで、三歩は前進した感がある。ヨーク大学のデヴィッド・フィップ氏がまとめたように、今後の優先分野として次の3分野が決定された。

会議に対する参加者その他からの反応は全般に良好だった。ITコンサルタントのインゴ・ピーターズ氏は次のように話した。「……会議により、とても勢いが出てきました。それにより、私たちがK*にかける情熱、体験、洞察を分かち合っていけるメカニズムが動き出したのです」

大学にとって、これが意味するものとは?

おそらく、この取り組みの意義についてもっともよく説明しているのは、アンドリュー・キャンベル氏の次の言葉だろう。「科学機関の多くは、及び腰でソーシャルメディアに進出しているとしても、従来型の科学出版物やメディアリリース、ウェブサイト以外のコミュニケーションには未だに苦戦しています。もっとも、公平を期して言うならば、既存の業績指標や学術研究の助成・報奨制度が、より意義深く、双方向性のある知識の共同創出という方向に進むうえで、阻害要因になっていることも確かです。そうした動きによって、いわゆる影響力の大きい学術専門誌での発表の機会が減ることになるかもしれないからです」

これは、私たちが「気候科学をオンラインで議論する」と題した最近の記事でも触れたことだ。キャンベル氏は私たちの見方を裏付けるように、「新しいテクノロジーは、知識の共有と相互関与、そして社会教育の加速化の可能性を大きく広げています。最先端のスマートな技術というだけでなく、古い問題に対処する新たな方策や画期的な方法を可能にしてくれるのです」と述べている。

しかし、彼はまた次のようにも述べている。「基本を正しく理解することが重要でしょう。つまりそれは、情報を発見・検索・アクセスしやすくするベースとなるデータ・システム、ニーズを満たすために様々なプロジェクトから情報を引き出すうえで役立つ統合・合成ツール、そして、科学者が成果をメディアや政府、産業やコミュニティに宣伝し、わかりやすい情報としてアクセスできるようにするための「大文字のC」の科学コミュニケーションツールです」

「大文字のC」とは通常、広報部門が行っている戦略的な企業コミュニケーションのことだ。アレックス・ビーラク氏らは、それは「組織内部と社会全般に対して包括的かつ一貫性のあるメッセージ」を確実に発信することだと説明している。

それと対照的なのが「小文字のc」で始まるコミュニケーションで、それはK*の実践者と主要ステークホルダーの間で日々行われている有機的で意義深いやりとりのことだ。そうした実践者(個人や集団)には、「科学者と科学を利用する人々の両方の世界で対話を開始・実践できる能力が必要で、研究結果を利用者が理解できるような言葉に翻訳でき、明解な知識ニーズから研究可能な疑問を生みだすのに役立ち、タイムリーに情報を提供できなければならない。両方の世界で信頼され、価値が認められ、尊敬されていなければならない。科学や政策の泥沼をやみくもに進む試みが行われないよう、彼らが提供する情報は確かな証拠に基づいたものでなければならない。そうすることで、科学と政策の接点で発生する駆け引きのコストも減らすことができる」

現時点では、そうした個人や集団の役割は、所属機関において十分に認識も評価もされていないかもしれない。

この点でもキャンベル氏は要点を突いており、「だが、そうした人々の多くは、その主要な役目は所属機関の研究結果を宣伝することであり、つまりは科学の伝達における従来型の役割なのです。研究の優先順位や方法論に影響を与えることや、外部の科学の宣伝になるようなことは、ほとんど対象とはなっていません。個人的な意見としては、そうした役割はもっと正確に分類されるべきで、双方向に交渉力と権限を持っていない限り、仲介役と呼ぶべきではないのです」と述べている。

つまり、これはまだ道半ばであり、やるべきことはたくさんある。今後数ヶ月で、2012年のK*会議からの重要な教訓の数々が明らかにされるだろう。より洞察を深めるためには、参加者とのインタビューのビデオ・シリーズがオンラインで見られるので、お勧めしたい。

締めくくりとして、ヤコブ・リーナー国連大学副学長が「国連大学にとってのK*の意義は?」という質問に答える形で国連大学の見解を述べている以下のビデオをぜひご覧いただきたい。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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K*を研究成果に活用しよう by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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