1億2300万人の若者を含む7億7400万人の人々は、読み書きができない。何世紀もの間、多くの場合このような非識字は書籍の欠如に原因があるとされてきた。サハラ以南のアフリカに暮らす多くの人々は、いまだに1冊の本も持っておらず、同地域の学校が生徒に教科書を提供することはめったにない。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の新しい報告書によると、こうした状況は変わろうとしている。モバイル技術が開発途上諸国における読解力を向上させ、識字率を高める大きな可能性を提供するのだ。
国連大学世界開発経済研究所(UNU-WIDER)のHan Ei Chew(ハン・エイ・チュウ)博士が共同執筆した報告書『 Reading in the Mobile Era(モバイル時代の読書)』は、エチオピア、ナイジェリア、パキスタンといった国々の数十万人の人々が現在、書籍の入手方法としてモバイル技術を利用しており、ごく単純な小型スクリーン装置で長編の書籍や物語を読んでいることを明らかにした。
「識字力は人生を変える機会と恩恵への扉を開くため、この取り組みは重要です」と、報告書の主要共著者であるユネスコのマーク・ウェスト氏は次のビデオインタビューの中で語っている。
国連大学の最近のデータによると、地球上の70億人のうち、60億人以上が機能している携帯電話を利用できる。この数字を正しく理解するために、報告書はトイレを利用できる人はわずか45億人であることを特記している。全体として、モバイル機器は歴史上、最も広く散在するようになった情報通信技術(ICT)である。さらに重要なことだが、モバイル機器は書籍が少ない場所にも豊富に存在する。
ユネスコ、ノキア社、ワールドリーダー(世界各地の読者に電子書籍を届ける活動を行う世界的な非営利団体)による現在進行中の共同活動を通じて作成された報告書は、モバイル機器での読書に関する2本の論文シリーズの1本である。間もなく発表予定のもう1本の論文『Reading without Books(本のない読書)』は、モバイル機器での読書を促進する世界各地の取り組みを概観し、今後のプロジェクトの展開を方向づけるために各取り組みの長所と弱点を確認している。これらの2本の報告書は共に、いかにモバイル技術が読者の能力を高め、開発途上諸国だけでなく世界各地の識字率を向上させるかを解説している。
報告書は1年に及ぶ研究から得た成果を利用し、開発途上国7カ国でモバイル機器を使う読者の習慣、好み、人口統計学的データを解説する。携帯電話は今でも主に基本的な通信手段として利用されているが、同時に(ますます)長文テキストを入手する手段でもある。物理的な書籍に掛かるコストのわずか一部だけで、同じ書籍をモバイル機器で入手することが大抵は可能だ。そして、それはスマートフォンに限った性能ではない。今日では最も安価な携帯電話でさえ、本を入手し読むことができる。開発途上諸国では、女性と男性、少女と少年が、30USドル未満で購入できる多種多様な本や物語を読んでいるという証拠がある。著者たちは、モバイル機器による読書は未来の現象ではなく、今ここで起こっている現実であると強調している。
「モバイル機器による読書は、まだ十分に活用されていないとしても、将来性のある、テキストの入手経路であることが、研究で明らかになった」と報告書は記している。「地球上の一人一人の人間が、簡単に、かつ安価な方法で、自分の携帯電話を本であふれかえる図書館に変換できることを理解したら、テキストの入手が現在のように識字を阻むハードルではなくなると言っても誇張ではない」
モバイル機器による読書に関する今回の研究は、エチオピア、ガーナ、インド、ナイジェリア、パキスタン、ウガンダ、ジンバブエという7カ国の開発途上国で行われ、4000を越える調査や付随する質的インタビューの分析を含む。
「報告書から得た結果の中で私が気に入っているものがあります。調査対象となった人々のおよそ3人に1人は、モバイル機器を使って子供に本や物語の読み聞かせをしているという結果です」とウェスト氏は打ち明けた。「これは大人にとっても、子供にとっても、社会にとってもよいことです」
しかし研究チームの知る範囲では、成人の児童保護者が子供に適したコンテンツに簡単にアクセスできるようなポータルサイトは皆無であると、彼は指摘し、ユネスコがそのようなリソースの創造に向けて主導的に取り組みたいと希望を述べた。
本調査は、性別による重要な差異も浮き彫りにしている。モバイル機器を利用する読者の大多数は男性(77%)だが、女性の方が読書にずっと多くの時間を費やしている。女性の読書時間は月に平均277分であり、男性はわずか33分だった。
「単純に言えば、いったん女性がモバイル機器での読書を経験すると、そういった形の読書に没頭する傾向にある」と報告書は記している。
ミレニアム開発目標も、ユネスコの 万人のための教育目標も、教育における男女平等を優先事項としており、女性と少女の識字率向上はこうした目標の達成にとって極めて重要である。従って、女性が読書を好む傾向は識字力の開発にとって望ましい。世界の読み書きができない7億7400万人の成人のうち、64%は女性である。報告書によると、世界の非識字人口が減少しているにもかかわらず、この比率は変動しないという。携帯電話は膨大な量の蔵書を便利で安価な方法で利用できる手段であるため、女性の識字率向上を期待できる。特に、費用、紙の本の不足、あるいは女性教育に対する社会的偏見によって女性が紙の本を入手できない地域において、携帯電話に期待ができる。
しかし、報告書の図17に示されているように、全体として、携帯電話は男女両方の読書への態度に変化をもたらしているようだ。
この傾向は、チュウ博士が研究の意外な結果の1つと表現した次の結果によって裏付けられている。携帯電話の通信費用は利用者にとって最も懸念が低い事項で、読書のために通信時間を使うことを心配していた利用者は、わずか18%だった。
対照的に、利用者の60%は書籍コンテンツの少なさを懸念しており、この点はモバイル機器で読むことができるデジタルコンテンツを増やす必要性を浮き彫りにしている。
「読書における革命は、モバイル技術の大規模な拡散のおかげで実現しつつある。今後の研究では、進展していくこの革命を評価し、改良し、促進することを目指すべきである」と報告書は記した。
この報告書は、読書を広め、識字を向上するためにモバイル技術を利用したいと考える政府や組織のためのロードマップとして作成された。また報告書は、例えば親や教師といった特定のターゲットグループの興味を引くようなコンテンツの多様性を改善することを提言している。また、携帯電話を、読書資料を入手するための機器へ変換することを人々に教える窓口や訓練の必要性も強調している。もちろん報告書は、モバイル機器での読書を妨げる、費用や技術面での障害を低減する重要性についても言及している。
翻訳:髙﨑文子
携帯電話が開発途上国で読書革命を引き起こす by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 4.0 International License.