石油の需給逼迫とユーロ圏危機 

ユーロ圏危機に入ってから3年半が経つ。発端は2009年10月、ギリシャのジョージ・パパコンスタンティヌ財務相が、「ギリシャの予算はぽっかりとあいた穴以外の何ものでもない」と世界に暴露したことだった。それ以来、景気後退、緊縮政策、高失業率、ストライキ、抗議デモ、信用格付けの引き下げ、財政改革、首脳辞任と物語は続いている。最近加えられた一章はキプロスの銀行の救済(厳密には、預金者や債権者が負担を求められる内側からの救済)だ。だが、この物語の展開の果てに、石油価格が1バレル200米ドル以上に高騰したら、どうなるだろうか? それこそ、ユーロ圏の終焉ではないだろうか?

1バレルあたりの石油価格の史上最高値は147米ドル(2008年7月に記録)で、現在の価格が94米ドルにおさまっているのに、どうして私は200米ドルなどと言い出すのだろうか? この問題については後で触れることにする。それにしても、石油価格の高騰に直面するかもしれないという認識はただの過去、あるいは遠い未来のものではなかったか? 理論として、ピークオイルはもう終息したのではなかったか?

少なくとも ロブ・ワイル氏は最近、ビジネス・インサイダーでそうした理論を展開していた。同様の見解は、コリン・サリバン氏の記事 「Has peak oil gone the way of the Flat Earth Society?(ピークオイルは地球平面協会と同じ運命をたどったのか?)」やザ・ボストン・カンパニー・アセットメント・マネジメント社が2013年2月に発表したレポートにも示されている。

このようなピークオイル終息説を勢いづかせている主な理由は、米国が水圧破砕法や水平掘削などの技術により、頁岩(シェール)に埋蔵されていたオイルやガスを新たに手にしたことだ。そこから、米国は2017年までには世界最大の石油産出国になり、2039年までには輸出が輸入を上回るとも言われている

ほかには、元石油会社幹部のレオナルド・マウゲーリ氏が2012年6月に発表したレポート「Oil: The Next Revolution(石油の次なる革命)」を挙げる人もいる。同氏は、世界の石油生産高は現在の1日9300万バレルから2020年には1日1億1千万バレルに上昇するだろうと述べている。そうであるなら、私たちは「助かった」のであり、2008年に経験したような石油価格の高騰にげんなりさせられることは当面ない。そういうことではないのか?

石油需給が逼迫する時は間もなくやってくるのか?

ここで懸念されるのは、ピークオイル終息説は単なるまやかしではではないかということだ。ピークオイルとはラベルにすぎず、その中にはさまざまな視点(石油枯渇、安価な石油の終焉など)が網羅されている。それらが曖昧なままでも、新たな根拠が出てきたところでエネルギーにまつわる構図は変化し、話は進行するのだ。だが、さらに大きな問題は、これらのピークオイル終息説に押されて、シェールオイルやシェールガスの実際的な見通し(ブームはどれほど続くのか)やマウゲーリ氏のレポートの土台になっている想定に私たちの注意が向かなくなっていることかもしれない。

かなり多数の専門家が、マウゲーリ氏のあまりにも楽観的な予想に懸念を示している。その中にはジャン・ロレール氏、ステファン・ソレル氏とクリストフ・マグレイド氏、サダード・アル・フセイニ氏などが含まれる。また、チャタムハウス(英国の王立国際問題研究所)でエネルギー問題を研究しているポール・スティーブンス氏は、いわゆる「シェールガス革命」を謳い上げる誇大な文言に不信感を抱き、2010年の論文で、環境上の懸念と急速な減耗率を考えると、その文言の正確性には大きな疑問符がつくと主張している。そして、それに続く2012年の論文では、米国以外、特にヨーロッパではシェールガスの開発に強硬な反対があることを論じている。シェールオイルとシェールガスは、多くの人が期待したほど広範囲もしくは長期間にわたって存在するものではなく、したがって私たちが期待するようなエネルギー革命ではないのかもしれない。

“欧州連合は石油消費においては世界第2位だが、生産能力は必要量の13%にすぎない。”

では、石油価格の高騰はヨーロッパにとって何を意味するのだろうか? ここで欧州議会の欧州緑グループが2012年11月に発表した「Europe Facing Peak Oil(ピークオイルに直面する欧州)」というタイトルのレポートを取り上げたい。重点が置かれているのは、彼らの言葉で言えば、石油生産の問題ではなく、「需要側のショック」であり、それはとりわけ中国およびインドにおける石油消費が増加を続けることにより大きくなるという。

シェールガス革命の可能性については、このレポートの著者であるブノワ・テヴァール氏とイブ・コシェ氏が次のように記している。

「100年にわたりガスを動力源にすることを考えると、大規模な構造改革が必要になる。たとえば自動車を天然ガス車に変える、ガソリンスタンドの設備を更新する、ボイラーを入れ替えるなどだ。この状況により、米国は非常に深刻なリスクを負うことになる。もし、シェールオイルやシェールガスのブームが結局はバブルだったということになれば、生産は急速に減少し、ガスの価格は急騰し、もはや手に入らないエネルギー源に合わせて行われた多額の投資(主に借金によるもの)が残る。エネルギーを他国に依存しないという夢はおそらく現実にはならないだろうが、それを夢見た米国の人々は袋小路に追い込まれ、その状況は今日直面しているものよりさらにひどいものになるかもしれない」

もっとも、著者らは米国が抱えうる問題を認識する一方で、ヨーロッパのエネルギーの未来図についてはさらに悲観的だ。欧州連合は石油消費においては世界第2位だが、生産能力は必要量の13%にすぎない。著者らは石油価格が1バレル200米ドルに高騰する事態も踏まえたシナリオを描き、エネルギー安全保障におけるヨーロッパの脆弱性を明らかにしている。なお、石油価格の高騰の原因としては、中東やその他の地域の紛争による供給削減、生産減少や需要増加を見越しての投機、その他の予測不可能な状況を挙げている。

興味深いのは、さかのぼって2008年8月、チャタムハウスのポール・スティーブンス氏が「Coming Oil Crunch(来るべき石油の需給逼迫)」と題された研究で、石油需給が逼迫するのは2013年頃で、価格は1バレル200米ドル以上に高騰するだろうと予測していたことだ。同氏は、そのような価格の高騰はマクロ経済に大きな影響を及ぼし、その結果、「反対意見を抑え込んで、政府がエネルギー分野にこれまでよりはるかに深く介入するようになる。そして9.11が軍事政策や安全保障政策に及ぼしたような影響が、エネルギー政策において見られるだろう」と述べている。

スティーブンス氏の論文の目的は、石油の需給逼迫がどのように起こるかを明らかにして、その発生を防ぐための政策を提案することであって、価格高騰が実際にどのような影響を及ぼすのかを説明するものではなかった、しかし、この論文が発表されてから、私たちが目にしてきた通り、ヨーロッパでは長引く景気後退の中で石油需要は抑えられ、過去20年で最低の水準に達している。しかし、ヨーロッパのエネルギー政策の変容はまだ起こっていない。

だがこれこそが、EUの欧州緑グループが望むことであり、だからこそ彼らはレポートを欧州議会に提出したのである(以下のビデオをご覧ください)。

1バレル200米ドルになったら、ヨーロッパはどうなるか?

ヨーロッパ(特に南部の国々)はすでに長引く景気後退と高い失業率に苦しんでおり、最大の経済国のドイツですら、成長は鈍化し、停滞状態に近づいている。こういった状況が石油価格の高騰でさらに悪化することは誰も望んでいないが、同時に、私たちが受けて立つべき新たな現実は、景気後退、経済成長、エネルギー消費の増加、エネルギー価格の高騰、そして再び景気後退といったものかもしれないのである。この文脈において、EUの緑グループは、石油価格が1バレル200米ドルを超えるようなことがあった場合、経済全体、そして食料や医療、住宅、観光、通信といった特に脆弱な分野に何が起こるかを理解したいと考えている。

彼らのレポートによると、この規模の石油価格の高騰は生産コストの上昇を引き起こし、企業は投資を控えるようになる。そうなると最終的には収益と民間部門の賃金に影響が及び、同時にインフレは加速し、エネルギーコストは急騰する。その結果、彼らは国内のエネルギー需要が30~40%下がるかもしれないと予想している。

連動して消費者物価が上昇すると、賃金の再交渉が必要になり、収益率が下がり、労働力需要が全体的に下がることになるだろう。レポートでは、投資と消費が縮小すると、物価は上昇しているのに成長がない「リフレーション」を引き起こすと論じられている。これはすべての分野に影響を及ぼし、社会の円滑な機能を確実にするのに不可欠な部門(警察、消防署、医療機関、保健サービスなど)も例外ではない。最も貧しい人々が最も大きな打撃を受け、失業率はさらに上昇し、品不足、破産、債務不履行などが決して珍しくない状況になる。

レポートには次のように記されている。「2008年においては、農作物の価格が17%上昇したことにより、食料品の価格が10%上昇した。同年、1バレルあたりの石油価格は約85%上昇した。したがって、1バレルあたりの石油価格が2倍になるようなことがあれば、2012年の価格と比較して、農作物の価格は20%上昇し、消費者物価は12~15%上昇するだろう」

彼らによると、水産業においては、多くの漁船が操業を停止し、市場と農作物・食品業界で品不足が起こる。これはこの業界で働いている25万人の人々に直接的に影響を及ぼし、労働力の60%が水産業に関わっているスペイン、イタリア、ギリシャ、労働力の25%を占めるポルトガル、フランス、英国では特に顕著だろう。また、価格の高騰と物理的な食料不足が相まって食料危機が起こり、市民の抗議活動、さらには暴動も起こりうる。

信頼できるエネルギー供給のコストが上昇すると、エネルギー貧困のリスクが高まり、最貧困層の人々の健康状態が悪化し、慢性的なストレスが人々の精神を疲弊させることもある。住環境が悪化し、最も基本的なリソースも手に入らなくなると、社会情勢が不穏になるかもしれない。エネルギー貧困の状態で暮らす世帯の割合が今日の15%から30~40%に上昇することもありうる。それに加えて、消費がピークに達する時間帯には停電がよく起こるようになり、代替手段であった、石油を燃料に用いる火力発電所はすでに選択肢にはない。

“ユーロ圏が分裂あるいは団結するまでに、どれだけ事態はさらに悪化せざるをえないのだろうか? そして、石油価格が次に高騰することがあれば、ヨーロッパは決定的な転換点を迎えることになるのだろうか?”

航空業界では燃料が経費の70%近くを占める。したがって、燃料コストが上がると、航空運賃に影響が及ぶのは避けられない。それほどゆとりのない人はもはや飛行機で旅行に出かけられず、太陽の下での休暇を安価で楽しむことなど無理になるだろう。結果的に、運航の固定コスト(空港使用料や航空交通管制などのサービスにかかるコスト)はより少ない数の旅行者に振り分けられることになり、そうなるとまた航空運賃が上がる。ヨーロッパでは航空業界関連の仕事についている人が合計510万人いるが、搭乗客が減少すればその雇用にも影響が及ぶかもしれない。

航空機の耐用年数の延長が必要になると共に、航空機の製造注文はキャンセルになるかもしれない。航空機製造業界では約50万人が働いているが(そのうち3分の1はフランスを拠点としている)、ここでも結果的に事態は深刻になるだろう。

陸上輸送コストも少なくとも10%上がるため、EU加盟国の間でも輸送距離は短くせざるをえなくなり、取引も減るだろう。製品生産に必要とされる直前に資材の注文および生産が行われるジャストインタイム方式は見直されることになるだろう。食料品の配送についても、輸送力への依存度が非常に高いだけに、懸念が浮かび上がってくる。スーパーの在庫を維持することも困難になるかもしれない。

読んでいるだけで空恐ろしくなってきた。

それでは、私たちはどうすればいいのか?

まず、心に留めておかなくてはならない重要な点は、レポートの著者らは石油の価格高騰が明日にでも起こると言っているわけではないことだ。そうではなく、彼らが示唆しているのは、石油供給の低下が今から2020年までの間のどこかで起こる可能性があり、それを公共政策において考慮しなければならないということだ。

次に、彼らが懸念しているのは、EUが現在、推し進めているエネルギー戦略( 20-20-20 戦略)はEUの石油依存度を問題にしておらず、2020年までに石油生産量が減少する可能性も考慮していないので、不十分だということだ。

著者らはそこで、エネルギー安全保障の問題に関して市民の力を結集するために、移行型のアプローチを採用することを求めている。その中には地域回帰、多様化、イノベーション、転換の促進が含まれ、それらはEUの適応力とレジリエンスを高めることになるであろう。

しかし、レポートで触れられていないのは、ユーロ圏がこのような類いの石油価格高騰を乗り切ることができるのか、あるいはお粗末な崩壊に至ってしまうのではないかという疑問だ。すでに私たちは、ユーロ圏の南北格差を目にしている。南部では失業率が非常に高く、ギリシャでは26.2%、スペインでは26.3%、ポルトガルでは17.5%で、その傾向は特に若い人たちの間で顕著である。本当に聞きたい質問はこうだ。ユーロ圏が分裂あるいは団結するまでに、どれだけ事態はさらに悪化せざるをえないのだろうか? そして、石油価格が次に高騰することがあれば、ヨーロッパは決定的な転換点を迎えることになるのだろうか?

翻訳:ユニカルインターナショナル

Creative Commons License
石油の需給逼迫とユーロ圏危機  by ブレンダン・ バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

ディスカッションに参加しよう

著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

ディスカッションに参加しよう