米国とメキシコ国境でのリサイクル活動

アメリカとメキシコの国境は、先進国が開発途上国と隣接する世界でも数少ない場所である。世界銀行によれば、アメリカ経済の規模はメキシコ経済の25倍であり、国民1人当たりの収入ではアメリカはメキシコの10倍近くである。

こうした経済格差は、物資が国境を越えて両方向に大量に流通する状況を生んだ。その中には、ボール紙やアルミニウムといった再利用可能な資源ごみも含まれる。

両国における再利用可能な資源ごみの市場は著しく異なる。アメリカでは、資源ごみの供給は通常、国内での需要を上回るが、メキシコではその逆である。また、アメリカには何千という地域的なリサイクル・プログラムが存在するが、メキシコにはほとんどない。メキシコでは、未使用の素材と使用済みの素材の価格差が大きいため、産業界の資源ごみへの需要は高い。

例えば、メキシコの製紙産業はマーケット・パルプ(市場価格で購入される、紙の原料となる木材パルプ)をアメリカやカナダから輸入することが可能だ。あるいは、国内で回収した古紙や輸入古紙を使うこともできる。そして、輸入マーケット・パルプは、国内の古紙よりも価格が7倍高い。

しかしメキシコにはリサイクル・プログラムがほとんど存在しないため、資源ごみの需要は供給を上回ることが多い。このような状況が、外国との再利用可能な資源ごみの取引を刺激した。アメリカは世界で最も多くの資源ごみを生む国であり、最大の輸出国だ。北米自由貿易協定によって、資源ごみへの関税が撤廃されたため、アメリカの対メキシコ輸出量は1993年の70万トンから2005年の160万トンに増加した。輸出は2005年のピークを境に減少したが、景気回復と共に再び増加する可能性がある。

国境をまたぐ資源ごみの流れ

メキシコでの資源ごみの回収は、何千人もの資源ごみを収集するスカベンジャー(ごみを拾う人)の行為に大きく依存している。彼らは、道路、道に置かれたごみ箱、大型ごみ収納容器、駅、ごみ捨て場、堆肥化工場、埋め立て地から資源ごみを収集する。

収入は、ごみの発生率や廃棄までのプロセスのしくみに影響を及ぼす。高中所得者は低所得層よりも多くのごみを出す傾向がある。そして彼らが出すごみのうち、金属、ガラス、紙、プラスチックといった資源ごみが占める割合は低所得層よりも大きい傾向がある。アメリカとの国境付近で暮らすメキシコのスカベンジャーたちにとって、国境付近のアメリカの町から発生するごみは、メキシコのごみよりも高価である。アメリカの住民や企業が廃棄する物資や物品の多くは価値が高く、国境の向こう側にあるメキシコの資源として認識されている。

そのため、メキシコのスカベンジャーはアメリカの廃物を収集することで、比較的高い収入を得ることができる。しかし、こうした「豊かな」ごみへのアクセスは規制されており、国境付近のアメリカの町の資源ごみを誰もが集められるわけではない。なぜなら国境を渡りたいと願うメキシコ人はアメリカへの入国ビザが必要であり、それは低所得者にとっては非常に入手困難だからだ。

アメリカ国内でのメキシコ人によるスカベンジング(ごみを拾うこと)には、次の3タイプがある。

自己消費のためのスカベンジング:このタイプの行動では、人々は自分の必要性を満たすために、ごみの流通過程から物品を収集する。例えば、消費期限切れだがまだ食べられる状態の食料をアメリカのショッピング・センターや食料品店から収集する。また彼らはアメリカの住宅街を歩き回り、捨てられた家具や電化製品、洋服など、再利用できる物品や修理できる物品を探す。建設や解体作業で出た廃材を工事現場や改築中の住宅から集めるために国境を越えるメキシコ人もいる。彼らは石こう板、ドアフレーム、窓枠、さらには便器まで回収し、メキシコへ持ち帰って自分の家を建てる際に再利用する。

消費者へ販売するための資源回収:国境近くに住む多くの低所得層のメキシコ人はアメリカのビザを持っていないため、国境を越えることはできず、利用できる物品を集めることは不可能だ。起業家の中には、国境を越えられない人々に販売するために、廃棄物を回収する者もいる。

産業へ販売するための資源回収:メキシコ人のスカベンジャーがアメリカで収集する最も一般的な資源ごみは、段ボールとアルミ缶だ。段ボールを収集する人は一般的にカルトネーロとして知られている。国境近くのほとんどのアメリカの町では、メキシコの消費者の要求に応えるために国境付近に商業地域がある。テキサス州ラレド市は過去数年間、1人当たりの小売売上率が国内最高を記録し、小売売上高の約65パーセントをメキシコ人が占めた。

段ボール紙とアルミニウム

小売業は大量の段ボールを排出する。廃棄された段ボール紙は清潔で、カルトネーロは作業中に、他のごみと混ざった段ボール紙に遭遇することはない。彼らはただそれを拾って車両に載せ、メキシコに輸送し、再利用のために売る。これはスカベンジングの理想に近い状況だ。比較的安全であり、スカベンジャーはまずまずの収入を得ることができる。カルトネーロの健康を著しく脅かすリスクはない。そして、警察の厄介になったり、人々からさげすまされたりすることもない。

テキサス州ラレドとメキシコのヌエボ・ラレドという隣接する2つの町で行った調査では、メキシコ人のカルトネーロは月に約682トンの段ボールを収集しており、その経済的影響は年間50万USドル近くになることが分かった。典型的なカルトネーロはヌエボ・ラレドの最低賃金(1日およそ15USドル)の3倍を稼ぐ。これは多くの工場労働者や従業員よりも高い収入である。

平均的なカルトネーロはラレドで14年間、本業として段ボールを回収している。安定した労働なので家族を養うことが可能だ。2007年の拙著『The World’s Scavengers: Salvaging for Sustainable Consumption and Production(世界のスカベンジャーたち:持続可能な消費と生産を目指して)』のために私が行ったインタビュー調査によると、ほとんどのカルトネーロは自分の仕事や生活条件を「普通」あるいは「良好」と認識している。

メキシコ人のスカベンジャーはアメリカでアルミ缶も収集している。彼らは一般的にブスカボテ(缶を探す人)として知られ、公共スペースに置かれたごみ箱や道に置かれたごみ箱、自治体による回収のための住宅街のごみ捨て場、さらに道に捨てられたごみから、アルミ缶を収集する。中には本業として缶を収集するブスカボテもいるが、過半数は臨時収入を稼ぐために余暇を使って缶を集める。

アルミ缶の収集は段ボールほどの稼ぎにはならない。ブスカボテは缶を入れる布袋やビニール袋を背負って、幾つかの地域を歩き回らなくてはならない。彼らは缶を探しながらかなり長い時間を歩かなくてはならないので、生産性は低下し、最終的には収入も低くなる。例えばテキサス州ラレドで本業として缶を集めるメキシコ人のブスカボテは、メキシコの最低賃金のわずか60パーセントしか稼いでいない。

しかし、メキシコ人のスカベンジャーがアメリカで行う収集作業のすべてが、アメリカのコミュニティーにとって有益なわけではない。時には、メキシコ人のスカベンジャーは街角に置かれたリサイクル用ごみ箱からアルミ缶を盗むこともある。自治体が回収に来る前に缶を持ち去ってしまうのだ。このようなアルミ缶の窃盗は、自治体のリサイクル・プログラムの運営財源を減らしてしまう。資源ごみの窃盗が執拗に続いた結果、カリフォルニア州の220市と22郡では、持ち去り禁止の措置を施したリサイクル・プログラムを実施している。そのコミュニティーで資源ごみを盗んだ者は、告訴と投獄の対象になる。

企業によるリサイクル活動

スカベンジングに加えて、再利用できる物品や資源ごみをアメリカで買い取り、メキシコ人に売る既存の企業も存在する。企業の中には国境のアメリカ側で操業しつつも、メキシコ人の買い手と取引する企業もある。国境近くの格安中古品店やリサイクルショップにとって、低所得層のメキシコ人は重要な顧客である。貧しい人々はアメリカの店で中古の家具や電化製品、洋服、台所用品を購入し、メキシコへ持ち込む。国境近くのほとんどのアメリカの町には、捨てられた洋服を大口売りする専門店があり、その顧客は主にメキシコ人である。売れ残った洋服はメキシコの企業が買い取り、工業用の洗浄布を作る原料となる。

国境のメキシコ側では、アメリカ人が使用した中古品、例えば冷蔵庫、調理コンロ、洗濯機、乾燥機などを売る店が国境近くの町に多い。多くの場合、こうした電化製品は売る前に、洗ったり、磨いたり、修理したりしなければならない。

メキシコ企業がアメリカで捨てられた物品を入手し、それを建築資材としてメキシコで売ることもある。起業家たちは、特にカリフォルニアやテキサスの建築会社や解体業者から、古いドアフレーム、窓枠、木製やビニール製のパネル、石こう板、便器、バスルームの付属器具などの廃棄物を買い取り、メキシコで販売する。廃棄された木製パレットや合板も小屋の建築資材としてメキシコで利用される。

多くの場合、カリフォルニアやテキサスで住宅が解体されると、その構成材はメキシコに持ち込まれ、再び組み立てられる。この数年間、カリフォルニアで廃棄されるガレージ用のドアが非常に人気だ。ガレージ用のドアはメキシコに持ち込まれ、低所得者の住宅の壁や屋根の建材として利用される。

資源ごみの売買は国境を挟んだ企業間でも行われている。テキサス州の廃物業者は、国境近くのメキシコの町にある組立工場(マキラドーラ8)から廃棄物を購入する。組立工場は鉄やスチールのスクラップを廃物業者に売り、業者はそれらをメキシコの製鋼所に売る。さらに業者はメキシコの工場から古い金属部品を買い取り、アメリカの倉庫に持ち帰ると、今度はそれらをスペアパーツとしてメキシコの企業に売る。

流れのままに

結論として、メキシコとアメリカの経済格差は、両国の資源ごみ市場に非常に大きな違いを生んだ。メキシコはアメリカの資源ごみに対して高い需要が継続してあり、その結果、廃棄物の国際取引が促進された。メキシコ側の需要に加えて、アメリカでは再利用や再生が可能な質の高い資源ごみが手に入るため、スカベンジャーと企業を巻き込んだ国境をまたぐ非公式なごみ回収作業という複雑なシステムが誕生した。

このような国境を挟んだ資源ごみの非公式な流れが経済に与える影響は、ほとんど明らかになっていない。しかし恐らく年間で数百万ドルになると考えられ、何千人ものメキシコ人に恩恵をもたらしている。

一方、それが両国にとって有益であることは明らかだ。メキシコでの需要を満たし、メキシコ人や一部のアメリカ人に収入の機会を提供する。さらに最終処分を必要とする廃棄物の量を削減できるため、結果的に処分費用を省くことができ、ごみ埋め立て地の利用期間を延長できる。こうした国境を挟んだ活動は両国にとって有益であり、積極的に支援すべきである。

このような国境を挟んだ活動は、メキシコとグアテマラ、コロンビアとブラジル、中国と北朝鮮といった他の国境地域でも行われている。2国間でより貧しい国の人が資源ごみや再利用可能な物品を収集するために、時には違法に、国境を越えて隣国のより豊かな都市へやって来る。

日本のような先進国と近隣の開発途上諸国の間で、中古製品の取引をより積極的に行うことは、相互に恩恵をもたらす可能性がある。とはいえ、使用不可能な物品を開発途上国へ送り出す口実とならないように、注意しなければならない。

翻訳:髙﨑文子

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米国とメキシコ国境でのリサイクル活動 by マーティン・ メディナ is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

マーティン・メディナ氏はコミュニティを中心とした資源の利用、非公式の再利用事業および固形廃棄物政策と計画に高い関心を持ち、研究機関、非政府組織、および国際機関と協働して、アフリカ、アジア、ラテンアメリカ、および中東におけるごみ管理プロジェクトに取り組んできた。エール大学で博士号を取得したメディナは、国連大学高等研究所の元研究員であり、「The World’s Scavengers: Salvaging for Sustainable Consumption and Production」(世界のスカベンジャーたち:持続可能な消費と生産を目指して)の著者である。現在、アメリカ国立海洋大気圏局で天気予測、環境観測および災害管理での衛星活用における国際協力の推進に従事している。また、現在メキシコの非公式再利用事業について執筆中である。

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