バングラデシュ 困難を越えて:荒海と戦う漁師

2010年04月05日

昨今の気候変動がバングラデシュの内陸部や海岸沿いに暮らす人々の生活に影響を及ぼしている。必要にかられた人々は、革新的な行動や国際的NGO、国連の協力などを通して伝統的な知恵や習わしを用いつつ適応への道を歩き始めた。

住む場所は違っていても、私たちは皆どのようにして環境変化に適応するか模索中だ。その最前線に立たされたバングラデシュが実際の経験から得る知識は、これから先ますます多くの地域が直面する課題を対処する上で有用となる。

今週はバングラデシュの独立記念日(3月26日)を祝して、全3回シリーズのビデオブリーフをお届けする。取り上げるのは、破壊的変化に立ち向かうタフなバングラデシュ魂。また、気候変動への適応に関する知識共有基盤を築くために国際連合大学がどのようにNGOと連携しているのか、その一端も紹介する。

危機に瀕したバングラデシュ

温暖化が進むこの地球上で、バングラデシュは気候変動に伴うリスクが最も高い12カ国のひとつと見なされている。気候変動に起因するとされる脅威は5つ:干ばつ、洪水、嵐、海面上昇、不安定化する農業。バングラデシュはこれら全てのリスクと日常的に隣り合わせなのだ。特に洪水被害においては同国が最も深刻だ。バングラデシュが3つの河川とその支流の合流地点に形成されたガンジス-ブラマプトラ川デルタ地帯の低地に位置しているのが原因である。ヒマラヤ山脈の氷河も溶けてこの河川に流れ込んでいる。

バングラデシュをはじめ、高リスクにさらされている国々は他の途上国と比較しても二酸化炭素の排出量が僅かであるにもかかわらず、気候変動による被害は次第に大きくなっている。

これらの被害に加え、バングラデシュは人口密度が最も高い国のひとつとされ、国連開発計画が発表する人間開発指数(PDF)において179カ国中147番目にランクされている。この指数は健康や教育、男女平等などの観点から国の発展度合いを計るもので、GDP成長率だけで判定するものではない。

気候変動の影響は健康、貧困、土地の浸食、自然災害など、バングラデシュがすでに抱えている問題を深刻化させている。海上では波が荒くなり、熱帯性低気圧の発生も頻度を増している。陸上では、降雨パターンが不規則になり、昼と夜の温度が著しく変動し、干ばつと洪水の両方に苦しめられている。

バングラデシュ人口の80%は農村地域に住んでおり、54%は農業に従事している。一方で多くの農民が農業では生計を立てられなくなってきており、より良い暮らしを求めて大都市や他国に移住し始めている

しかし気候変動が生んだ悲運に見舞われたからといって、バングラデシュの人々があきらめたわけではない。むしろ気候変動への適応を率先してリードする存在となったのだ。2008年には政府が気候変動戦略とアクションプラン(Climate Change Strategy and Action Plan)(PDF)を発行した。

バングラデシュはすでに行動を起こし、気候変動に伴う不可避かつ取り返しのつかない影響への備えを始めた。幾つかのコミュニティでは学校で教育や意識向上に取り組んでいる。沿岸に住む人々には、風速100kmの台風にも耐え洪水による水位上昇の被害を防ぐために高床式になっている家が建設された。また、農民は彼らの土地を干上がらせる海水氾濫の対策として、塩水に耐性のある作物を植え始めた。

気候変動が生んだ悲運に見舞われたからといって、バングラデシュの人々があきらめたわけではない。むしろ気候変動への適応を率先してリードする存在となったのだ。

結局のところ適応策にも限界があり、気候変動に対する長期的な問題解決法にはならない。優先すべきは温室効果ガスの削減ではあるのだが、このビデオブリーフシリーズで紹介している通り、差し当たりバングラデシュの人々は気候変動に適応するため可能な限りの手を尽くしている。

大荒れの海に立ち向かう

本記事の冒頭にある第1回のビデオブリーフでは、ガンジス-ブラマプトラ川デルタ地帯に暮らす漁師が世界的な気候変動から生じる被害にさらされている様子を伝える。彼らは何百年もの間、伝統的な船で漁をしてきた。ベンガル湾に出てもびくともしない頑丈な船だ。

しかし、漁師を取り巻く状況は変わってしまった。嵐はより強力になり、海はこれまでにも増して荒れ、この頃では漁に出るもの命がけになってしまったのだ。

12歳の頃からメグナ川で漁をしてきたというモハメド・イリアス氏は、家計を支えるため資金を貯めて自分の船を購入した。しかし2008年、彼と10名の漁師達は大嵐に巻き込まれた。幸い乗組員は全員助かったものの、船はひどく破損し沈みかけた。

その後、国内外のNGOの支援のもとモハメド氏の船は元通りに修理された。船底はスチールの骨組で補強され、より頑丈な造りになった。今ではどのような荒波でも持ちこたえられる船で安心して沖合まで漁に出ることが可能となり、これまで以上の収獲をもたらしたのであった。

翻訳:浜井華子

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