七尾湾のマルチステークホルダー間の活動

南北に伸びる日本の沿岸地域には、独特の地形条件に合わせた様々な生活様式が見られる。人々は昔ながらの知恵と科学的知識の両方を取り入れながら海と共存 している。このように海と人が密接に関わりあう沿岸地域を「里海」と呼ぶ。本記事と掲載ビデオは、里海の事例紹介のシリーズの一環である。完全版のビデオ 映像(74分)は こちらからご覧ください。

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七尾湾は、石川県の能登半島の東にある閉鎖性海域で、外洋から遮断された穏やかな内湾という地形的特徴のために、昔から漁業者と海産物商の停泊所とされてきた。

江戸時代(1603~1867年)には、ニシンや昆布、およびその他の商品を北海道の北部から関門海峡や瀬戸内海を通って当時の首都であった京都へと運ぶ北前船の基地となった。

能登半島で生産された塩は、この海洋交易路を通って運ばれる海産物の防腐剤として、非常に需要が高かった。

能登半島の耕作可能地が限られていたため、昔から流域での漁業、農業、林業分野での人間の活動を統合した全体論的なアプローチが実践されており、伝統的な社会生態学的生産景観である里山と、その海版である里海が、長期にわたって共存してきた。

しかし最近の人口動態によると、この地域の漁業者と農業者の高齢化と人口減少が進んでおり、現地の政策立案者たちの間では、こうした伝統的な景観の未来に関する懸念が高まっている。

豊かな海洋資源

ナマコ、モズク、貝類が七尾湾における年間漁獲量の70%近くを占めている。カキの養殖は1920年代に湾内で開始されたが、現在では、北海道の北部から九州の南部までに至る日本海側で最大の生産地域となっている。

この閉鎖湾の面積は、約183km2である。七尾湾は、水深やその他の海洋環境特性に基づき、北湾、西湾、南湾地区に分けられる。湾の平均水深は20~30mで、北湾の湾口付近の水深が最も深く60mである。北湾湾口部から砂と泥の潮間帯がある西湾へと移動するにつれ、徐々に浅くなっている。

漁業活動は、北湾と西湾の方が活発で、ヨシエビ、シャコ、アカガイ、トリガイ、オニアサリ等が獲れる。

七尾湾里海創生プロジェクトに関する環境省による2009年の調査によれば、この閉鎖湾では、石川県のその他の沿岸域に生息していない多数の種が生息しているが、潜在的な収量が少なく、そうした種に対する消費者の需要もないため、商業的には成立しないと考えられている。

商業海産種では、石川県のナマコ漁獲量の80%以上が七尾湾産で占められている。

工業開発による影響への対応

北湾および西湾地区では漁業活動が行われているのに対し、南湾地区では、都市化と工業開発のために干拓や沿岸域で工事が行われている。御祓川の河口に位置する南湾地区は、海産物加工工場や貯木場等、その他の小規模産業工場で構成された工業地帯に囲まれた貨物港となっている。

人間による開発が進むと、資源の利用と管理面での対立もみられるようになった。そうした衝突が、今度は直接および間接的に住民の対話を促進し、資源利用と管理に対する統合的な対策を模索する必要性を増大させている。里海ベースの活動も、その一例である。

観察が研究活動や住民の対話につながった例は、湾の漁獲量が減少し始めた1980年代後半からあり、1980年代後半から1990年代にかけて年間漁獲量とカキ養殖の収量が激減したため、漁業者や試験場の研究者たち、最近では漁業・環境政策立案者の間で懸念が生じた。環境省によれば、減少前の年間漁獲量は2,000トンであったが、現在の平均漁獲量はこの半分で、約1,000トンである。

1990年代後半以降、漁獲量は安定しているが、カキの収量は減り続けており、2006年のカキ収穫量は1,920トンで、過去のピーク時だった1984年に比べると38%に過ぎない。こうした減少を受けて、石川県水産総合センターによる湾内の海洋環境の調査が行われており、具体的には、収量減少の原因特定を目的とした水質および底質の調査が実施された。

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海洋政策研究財団による2009年の調査によれば、漁獲量とpH値を比較すると、収量が激減した1990年のpH値は8.5を超えており、湾内で赤潮が発生する可能性があったことがわかった。

1991年には高濃度のアンモニア態窒素が記録されているが、これは、人為的富栄養化による海底環境の悪化によるものと思われる。漁獲量の減少はこれと連動しており、調査の結果、魚類個体群の減少率は実際の漁獲量の減少率よりも大きいことがわかったが、これは、最近の漁獲量の減少が、漁業活動だけでなく、工場排水、家庭からの生活排水、農薬の流出等の陸上における人為的な活動によると思われる、これらが湾内での生産性の全体的な低下にもつながっていることを示唆している。

過去の調査から、西湾および南湾地区の海底環境の悪化が明らかにされている。まだ断定はできないが、この地区の漁業研究者たちは、環境の悪化がアカガイの漁獲量減少の原因でありうることも示唆している。具体的に言うと、魚種資源を増やすため、湾内に毎年大量の稚貝を放流しているにも関わらず、稚貝の生存率が低いのは、底質環境の悪化に起因するということである。

乱開発による種と生息地の劣化のほとんどが、農地を市街地に転換したこと、沿岸部での住宅ならびに産業活動、土地造成等の建設活動に起因している。過度の人間活動と開発による劣化と並んで、山林、高台の農地の低利用、管理不足、放棄もみられる。

土地利用の変化のうち、七尾湾の沿岸域で最も顕著なのは都市域の拡大である。七尾湾の海岸線の約90%がコンクリートであるため、その結果として植物や動物の生息空間が減少し、海洋生物多様性を減少させている可能性がある。しかしより注目すべきは、そうしたコンクリート護岸のほとんどが垂直に設置されているということで、これは、岩礁海岸を好む海藻種や魚種の成長を妨げるだけでなく、水の交換を低下させ、淡水と海水の両方に生息するモクズガニ等の生物の陸海間の移動を妨げている。

地域コミュニティを核とした協力関係

七尾湾は、2008年、環境省によってモデル地区として選定された4つのパイロット地区の1つで、2年間にわたって統合的流域活動の調査を実施し、地方自治体の政策等の問題に関する科学的および社会経済的データを提供することになっている。

このプロジェクトは、閉鎖性海域の範囲を超え、湾に流れ込む河川沿いの山地と農地を結ぶ里海活動の開発のために計画された。政府によって4つのパイロット地区の1つに選定された(翌年、さらに2カ所が追加された)結果、さまざまなステークホルダーを結びつける地域活動にはずみがつき、促進された。県の環境部門に運営委員会が設置され、研究者、七尾湾研究会の代表者、漁業共同組合の代表者等が委員に就任した。

活動を計画する際に地域の主体性を認めることで、中央政府は地方への権限委譲の可能性に貢献している。同プロジェクトでは、データの収集、モニタリング活動、七尾湾のさまざまな利益団体との社会科学に基づいたインタビュー、研究活動について議論するための会議が要求されていた。

七尾湾では、研究およびモニタリング関連活動の検討と計画を目的とした会議が、地域の湾岸コミュニティで開催された。サイトのコミュニティ内とパイロットサイト間での広報活動も、要求されていた。地域ワークショップとフォーラム、里海の概念と関連活動について説明した視覚に訴える資料やおよび書類が地域運営委員会によって作成された。

調査結果がステークホルダーを結集させる鍵となったことに加えて、漁業者から観光団、部門横断的な地方自治体の組織までを含むさまざまな利益団体と研究者の対話や、マルチステークホルダー間の現地での対話への参加も、地域主導の取り組みを強化し、地域の努力と国主導の取り組みを効果的に結びつけるために必要な科学的妥当性を与える際に有用であった。

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この記事は Biological and Cultural Diversity in Coastal Communities: Exploring the Potential of Satoumi for Implementing the Ecosystem Approach in the Japanese Archipelago(生物多様性条約事務局テクニカルシリーズ No. 61. 38-45)に掲載された2011年のあん・まくどなるど氏、寺内元基氏による論文「Multi-Stakeholder dialogue initiatives in Nanao Bay(七尾湾におけるマルチステークホルダーの対話型イニシアチブ)」を要約したものです。

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七尾湾のマルチステークホルダー間の活動 by 寺内 元基 and あん・まくどなるど is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial 3.0 Unported License.

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著者

寺内元基氏は、特殊モニタリング・沿岸環境評価地域活動センター(CEARAC)に指定された富山市の財団法人環日本海環境協力センター(NPEC)の主任研究員である。

国連大学高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット所長。1980年代後半から日本の農山漁村のフィールド調査に携わる。

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