社会的に公正なスマートグリッド

国際エネルギー機関の「世界エネルギー展望2010年」によると、2009年、サハラ以南のアフリカでは、およそ5億8500万人が電気のない生活をしていた。他の地域と違い、この地域ではこの数字は2030年までに激増し、6億5200万人にまでのぼると予想されている。これは持続不可能であり、看過することのできない状況だ。

各国政府やアフリカ南部地域の各団体は、電化率を加速することが必要だと認識している。だが、その必要性に応えるには革新的で効率的なエネルギー政策がなくてはならない。未来の電力システムの計画、設計、建設、資金提供、運営が、この夢を効率よくかなえるための重要なカギだ。

国連事務局長のエネルギーと気候変動に関する諮問グループ(AGECC)は、2030年までに世界中が、信頼でき、低価格で、持続可能な現代的エネルギーサービスが得られるよう意欲的な目標を提案した。この目標を達成するには、壮大な短期・中期的な電力インフラ開発が必要である。

必要な投資を最低限に抑えるには、効率向上、需要管理、最適発電計画、グリッド運用改善、サハラ以南アフリカ諸国間での電力取引増加などが不可欠だ。

私たちが先日発表した論文では、文献を分析し、政策展開の基本となる考えを示し、より詳細な研究が必要となる分野を提案した。そして、既存のスマートグリッド(次世代送電網)構想や、新たな構想において、いくつかの要素、システム、技術を導入すれば、サハラ以南の人々が電力サービスをより公平で公正に受ける大きな助けとなるだろうと述べた。

スマートグリッドは、新しいビジネスモデルで使われる様々な革新的ツールと慣習を規制の枠組みと組み合わせ、信頼性が高く、安全で効率的な電気供給を確立しようというものだ。スマートグリッドの目的については合意があるものの、スマートグリッドという語の定義については視点と環境の違いによって様々に解釈されており、今も変わり続けている。

スマートなだけでなく公正なグリッド

サハラ以南の特定のニーズを考慮すると、スマートグリッドに対しては先進国の既存のアプローチを単純に踏襲するというわけにはいかない。この地域での出発点、課題、条件は異なるからだ。

私たちは「スマート・アンド・ジャスト(賢く公正な)グリッド」というコンセプトを広く定義し提案している。これは、進化した双方向性通信、自動化、制御技術を全て統合して市町村、国、地域の電力インフラを作りあげるため、あらゆる対策を含めたものだ。

このコンセプトは、グリッド(送電網)システムと運用を最大限にいかし、再生可能エネルギーを広く浸透させ、電力供給の信頼性と効率を向上させるというものだ。サハラ以南アフリカでは、貧しい人々を搾取することなく現代的エネルギーへのアクセスを保証し、公平で包括的な経済的・社会的発展に貢献するため、「スマートな(賢い)」だけではなく、社会的に「ジャスト(公正)な」電力システムが求められている。

このようなスマートグリッドの進化は、既存の電力システムを技術、規制の両面から飛躍的に伸ばすことを可能にする。そうすれば各国と地域全体の電気化の時間を短縮し、サービス提供を向し、コストを最小限に抑え、環境的負荷を減らすことになるだろう。

短期的な利点

スマート・アンド・ジャストグリッドの側面のいくつかは、短期間に有形で直接的な利益をもたらす。これが適用されれば、サハラ以南におけるスマート・アンド・ジャストグリッドの概念を実際に試し、可能性を広げる機会となるだろう。利点とは以下のようなものだ。

送電と変電所設計: 特に長い送電線の場合、技術的損失は非常に大きい。スマートグリッドでは、送電線や変圧器の改良、定期的なメンテナンス計画によってこのような損失を減らすことができる。

電力分配システムデザイン: インテリジェント制御を拡大し、電力分配自動化テクノロジーを使えば、電力システム改善につながる。例えば、送配電網の各所にスマートセンサーとフレキシブル・アンド・インテリジェント(柔軟かつ自動制御ができる)スイッチ、インタラップ装置を取り付けて停電などの障害をいち早く検知し、すばやく復旧することができる。コスト上昇も最小限に抑えられる。高レベルの分配型発電を可能にした、スマート電力分配テクノロジーは地方の電力化需要にこたえ接続コストを抑えるために特に重要である。

スマート・ミニグリッドとスマート・マイクログリッド: 再生可能なエネルギーの割合が高いミニグリッドとマイクログリッドは(特に後者は)、発電量が不安定で負荷率が低いため一般的に導入が複雑である。電力の質を一定に保つのは非常に難しい。モーターの起動電流に起因する過電圧やバックアップ電源供給の必要などが要因だ。スマートコンポネントは、新たな需要管理オプションを統合して、このような状況を緩和し、システム全体のバランスを改善するだろう。

“ジャストグリッドは、負荷管理を行うことによりオフ・ピーク時には貧しい人々が調理などに使用できるよう信頼できる低コストの電力を供給し、需要のピーク時には電力利用を調整する。”

デマンド・サイド・マネジメント(需要側管理): 大口消費者の側の管理、例えば工場や産業施設などに負荷制御スイッチを備えればエネルギーサービスの質を上げ、電力供給制限を減らすことにつながる。電力供給制限は最も貧しい電力消費者に影響を与える。無線制御された商業用給湯器や揚水システムがそういった負荷制御の2つの例だ。ジャストグリッドは、負荷管理を行うことによりオフ・ピーク時には貧しい人々が調理などに使用できるよう信頼できる低コストの電力を供給し、需要のピーク時には電力利用を調整する。

支払い請求システム: スマートグリッドの要素の多くは情報通信技術に依存しているので、たとえば携帯電話による電力消費情報提供など未来のテレコムサービス拡充に加わるのが有効だろう。またはで、プリペイドカードなどを使って携帯電話で料金を前払いするシステムにすれば、貧しい人々の特定のニーズに対応でき、検針や請求書送付などの運営コストも削減できる。またサハラ以南アフリカの一般家庭では、時間帯別料金システムを導入すれば需要を平準化するのに役立つかもしれない。

情報システム構築: スマートデータ管理ツールがあれば、有用な情報を管理可能で理解可能なフォーマットにして抽出するのに役立つ。診断ソフトウェアはグリッドの資産が健全かどうかをモニターし、電力分配における問題を予測、是正措置を行う。必要なシステム構築には、相互運用力を確保し、既存の電力システムから次世代へのスムーズな移行を可能にしなければならない。

千載一遇のチャンス

将来的には、サハラ以南のアフリカにおけるスマート・アンド・ジャストグリッドは、先進国でスマートグリッドをフル稼動させるのと同規模のものになる可能性があるが、そこまでの道すじも、かかる時間も異なる。この地域では電化率が様々に異なっているため、他の地域で得られた教訓をそのままいかせる場合もあれば、独自の解決策を練らなければならない場合もある。

不十分な統治機構、投資資本の不足、インフラの未整備、電力部門の技術を持つ人員の不足など、多くの制約があるため、この地域では既に組織的に行われてもいいはずの革新的な実践は滞っている。

既存のスマートグリッドを大々的に改良するためのコストは正当化し難いが、新たなインフラ整備に投資するビジネスは、サハラ以南アフリカでの新たな可能性を引き出すという意味ではるかに重要だろう。よって、コストを削減し、経済成長を促進し、長期的な持続可能性を向上させるために必要な機能に基づいて、賢明な解決策の優先順位を決定しなければならない。

サハラ以南アフリカでの巨大なインフラを整備するには、先進諸国のグリッド開発に学びつつ、必ずしもその開発の各段階を踏むのではなく、前進させていくことが大切である。現在の重大な機会をいかし、この地域の未来のグリッドがスマートでかつ公正なものにしていかなければならない。

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本論はモーガン・バジリアン、マニュエル・ウェルシュ、デイパック・ディヴァン、デイビッド・エルジンガ、ゴラン・ストゥルバック、マーク・ハウエルズ、ローレンス・ジョーンズ、アンドリュー・キーン、ドルフ・ギーレン、V. S. K. マーシー・バリジェパリ、アビーク・ブルーハモンド、カンデ・ユムケラーが執筆し、インペリアル・カレッジ・ロンドンEnergy Futures Lab(未来エネルギー研究所)にて公表された記事に基づいたものです。(画面右のDownload the paperからダウンロード可能)

翻訳:石原明子

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社会的に公正なスマートグリッド by マニュエル・ウェルシュ and モーガン・バジリアン is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

マニュエル・ウェルシュ氏は、国際原子力機関/王立ストックホルム工科大学(KTH)に最近加わり、電力システム計画と設計、特に最新のスマートグリッド関連を中心に研究している。特にOpen Source Energy Modelling System(OSeMOSYS)の開発に力を注いでいる。KTHの前は、国連工業開発機関(UNIDO)で勤務し、エネルギー問題に関わる国連の連絡協議会UN-Energyの課題に対応した。それ以前は発展途上国でのエネルギープロジェクト第一回提案募集時に欧州委員会エネルギー基金に勤務していた。2002年4月インスブルック大学土木工学科を卒業した。

モーガン・バジリアン氏は国連工業開発機関(UNIDO)事務局長の国際エネルギー・気候政策に関する特別顧問を務める。主に国連による開発のためのエネルギー対策の構築を担当。以前はアイルランドのエネルギー研究所にて数年間クリーンエネルギー部長を、その後、エネルギー相の国際エネルギー・気候政策に関する特別顧問を歴任した。低炭素技術に関し、EUを代表して気候変動交渉の中心的役割を果たしており、国連気候変動枠組み条約の技術移転に関する専門家グループ(EGTT)のメンバーでもある。エネルギーシステムの技術経済的側面に関して博士号と修士号を持つ。フルブライト・フェロー。国際エネルギー機関の世界エネルギー展望(WEO)、世界経済フォーラムのClean Energy Investment Committee、ブルームバーグ・ニュー・エナジー・ファイナンスのGlobal Futures、クリーンテクノロジーのベンチャーキャピタルファンドNovus ModusFundへの助言を行っている。

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  • Okumura281

    この概念を基本軸とすると地域特性を求め続ける面と国、地球全体を連携する面を総合的に思考する軸の二面性への対応が求められてくるのではないだろうか、まさに、現在IT分野におけるクラウド化と同等な視点があるこのクラウド化により形成できるスマ-トグリッドと解釈してもよいかもしれない、そうだとすると、家庭内、個人のライフスタイルへの関わりが色濃くなり、個人情報の課題,社会公正の理念とは如何なるものか等課題が細分化されて行くだろうが、機能として定着させたい点では異論はないが具体的な運用面における検討は多義になし、かつ集中的なプロジェクトとして国際的に立ち上げる必要があり、早急にすべきである。今後の世界的なエネルギ-のバランスを思考することの重要性からして必要であるし、多くの課題の基本問題であると言える。ここに国連大学という機構を活用するに十分な組織力が試されるであろう。