自然災害被害者のための対応策

気候変動が自然災害の頻度と強度に影響を及ぼしていることを示す証拠は増えるばかりだ。科学的な全球気候モデルが正確であれば、現在の諸問題は、今後ますます肥大化するだろう。

専門家によると、自然災害による経済損失の4分の3以上が暴風、洪水、干ばつその他気候関連の災害であり、その頻度は地球物理学的な災害(地震、津波など)以上に増加している。

国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)は、議論を通じ、国際社会が気候災害関連のコストと損失の対策が必要であると認識してきた。

“異常気象による被害が増大する今日、包括的で総合的なリスク・脆弱性低減戦略こそ、異常気象に適応するための核となるべきです。”

イェルン・ビルクマン博士、国連大学環境・人間の安全保障研究所

そのような対策の緊急性は世界銀行と国際連合の新共同報告でも強調されており、天災による年間の世界的損失は今世紀末までに3倍の1850億米ドルになる可能性があると示されている。気候変動によってサイクロンの被害だけでも毎年280~680億ドルずつ増加する可能性があるのだ。

この傾向は主に土地活用の変化と、人口と資本が海岸沿いなど暴風被害に遭いやすい地域や洪水に遭いやすい肥沃な河川域に集中していることが主な原因だ。対応が急がれる。

「異常気象による被害が増大する今日、包括的で総合的なリスク・脆弱性低減戦略こそ、異常気象に適応するための核となるべきです」。この問題に関し、国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)の首席専門家であるイェルン・ビルクマン博士が言う。

有益なツールとしての保険

ここ四半世紀の天災による死亡者のうち95%以上が開発途上国の人々であり、国民所得への直接的な経済被害(ここ10年の年間平均1000億米ドル)は、高所得国と比べて低所得国が2倍以上である。

先進国と開発途上国の間には、天災による人的、経済的負荷に大きな違いがあるだけでなく、保険金も大きく異なる。最富裕国では1980年~2004年の損害のうち30%(GNPの3.7%)に保険がかけられていた。一方、低所得国では損害の約1%(GNPの12.9%)にしか保険がかけられていなかった。

多くの無防備な開発途上国は保険がないことに加え、高額の負債があり、援助供与も少ないため、大災害の被害に見舞われた後は、建替えや修理、生活再建のための十分な資本を集めることができない。このことがさらなる貧困を招き、発展が遅れる。

以上から分かるとおり、気候変動の適応策と持続可能な発展につながる方法でリスクを減らし、(契約を交わした保険会社など、他の団体に)移転する必要がある。さらにリスク低減や移転は貧困削減のためにも、補完的な対策となるだろう。

「大災害は多くの命を奪い、GDPにとっても大きな痛手です。そして発展を数十年も遅らせることになります。よりよいリスクマネジメントを含む適応策は、このような大災害を避け、より良く対処する助けとなります。それらの対応策と並行して、保険対策も被害を受けた人々や経済がより早く立ち直る助けとなるはずです」ニコラス・スターン卿は、今月メキシコで開催される第16回気候変動枠組み条約締約国会議(COP16)に先立って私たちが出版した政策提言上のコメントで上記のように答えている。この提言(このページ右側の「論文をダウンロードする」のバーからご覧ください)では気候交渉担当者が、案を実行に移すための、重要で実質的な問題について論じている。

課題への取り組み

災害が起こる前に行動し、災害リスクマネジメント(DRR)対策または保険によって損失の可能性に備えることは、事態が起こってから対応するよりも、政府にとっても地域にとっても利益となることである。

多くの政府は災害後の復興に必要な財源がなく、別の用途の予算(教育、公衆衛生、開発など)を巨額を要する復興活動に回すというジレンマに直面している。

各世帯や地域もリスク低減策と保険があれば、「万が一に備えて」大金をとっておく必要はなくなる。生産的資産が発展につながる選択や投資(生活水準を高める、子どもの教育、農業インプットと種子の購入、起業活動など)に自由に使えるのだ。

“HARITA計画の下、農家は降雨不足による被害を防ぐため、用水路や貯水池の建設、干ばつに強い穀物の育成などの活動に従事している。”

災害リスクマネジメント戦略をいくつか連結させることで気候変動適応策もたてられるようになる。各国が独自のリスク低減策の優先順位を決め、国際支援のもとそれらの目標を果たす。「共通ではあるが差異のある責任」(http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=628)という原則に従い、まずは被害を受けた国々が気候関連リスクを認識し、対策を立てなければならない。リスク低減策には次のようなものが含まれる。

•高リスク地域を特定し避ける
•防災建築物を建てる
•災害緩衝機能(森林、岩礁など)を保護し開発する
•災害予防と抵抗力のある文化を育てる
•早期警戒と対応システムを改善する
•施設を建て開発政策・計画を策定する

すでに数カ国ではこれらの災害防止策を含めた小規模の試験的アプローチが始まっている。Horn of Africa Risk Transfer for Adaptation(HARITA・アフリカの角 災害適応のためのリスク移転)はその1つの例で、この計画の下、農家は降雨不足による被害を防ぐため、用水路や貯水池の建設、干ばつに強い穀物の育成などの活動に従事している。

例えばマラウイではインデックス保険(成長期の雨不足で作物が十分に育たず収穫高が減少しそうな場合に保険金が支払われる穀物保険)の備えにより農家の人々はマイクロクレジットを使用することができる。この追加的経済支援のおかげで、彼らは生産を高めるための活動(肥料への投資、用水路の建設など)に集中することができるため、非常に有効である。こういった財源がなければ、農家は異常気象の際に生活に必要な資産を失ったまま再建もできず、ゆっくりと確実に貧困サイクルに陥ることが多いのだ。

より大きなスケールのものとして、Caribbean Catastrophe Risk Insurance Facility(カリブ海諸国大災害リスク向け保険プール機構)(CCRIF)がある。これはカリブ海諸国政府に対しハリケーンと地震で発生した損害額に対し保険金を支払う機構だ。このタイプの計画には2つの主要な利点がある。第一に、これによって、各国は国際支援に依存しなくてもよくなる。国際支援は通常到着までに何ヶ月もかかるのだ。第二に、災害に遭った国々が安定して労働者に給与を支払い復興と再建努力がより早く実行できることを約束してくれる。

開発途上国が気候変動に適応できるよう、このような機構を立ち上げるために、国際社会は次の重要点を検討しなければならない。

1. 地域を挙げての取り組み、専門家との相談、政治的意思
2. 有望なアプローチを軌道にのせるための援助供与
3. リスクマネジメント(災害リスク低減を含む)と保険アプローチを、2012年UNFCC後の適応化フレームワークに含めること。これらの対策は、COPにおいて決定があって初めて、案を実行に移すことができるのである。

リスクマネジメントモジュールと他の解決策

UNFCCC適応化フレームワーク内で、リスクマネジメントモジュール(災害リスクマネジメントやその他のアプローチを含む、より大規模なリスクマネジメントを取り揃えた保険メカニズム)を適応すれば、被害に遭いやすい国とその国民が気候関連リスクをよりよく管理することができる可能性がある。これはミレニアム開発目標を達成する努力を補うものだ。

リスクマネジメントへの投資は、災害による損失や損害に比べれば遥かに少ないものであり、世界中の弱い立場にある人々の生活状況を目に見える形で改善することができる。これら努力の究極の目的は、被害に遭いやすい国とその国民の災害に対する抵抗力を育てることである。

世界中で実験が行われているが、低レベル、中レベル、高レベルでの気候関連リスクに対する保険は実現可能である。当面の課題は、不完全なデータを修正したり、適応化のための機関を設立したり先進国と途上国のそれぞれの役割を決めたり、民間、公共セクターがリスク低減とリスク移転のアプローチを導入したりすることなどである。

衛星画像と災害モデリング技術の発展により、異常気象を知るために必要な様々なデータが得られるようになった。Index-Based Livestock Insurance in Kenya(ケニア インデックス・ベースの家畜保険)では、家畜が食糧不足に陥っているかどうかを衛星画像の緑の分量で測っている。飼料が少なく、家畜死亡率が特定のパーセンテージ以上になれば、畜産業経営者に対し家畜の損失に対する保険金が支払われる。

柔軟性があり、緩い制度設計は世界中で見られる。これらの実質的な例はUNFCCC適応フレームワークの設計と導入の参考とされるべきだ。さらに公共、民間セクター両方を巻き込んできた活動の経験は、セクター間で役割と責任分担を決めるためのガイドともなりうる。

その一例はトルコ巨大災害保険プールである。公共セクターは、保険プールの規定のフレームワークを設定し、認知度を高め、保険プールの設計資金を拠出する役割を担う。一方の民間セクターは保険プールの再保険、リスクマネジメント活動に関する情報を集めるため研究を行い、導入に関する運営のガイドラインを決め、そして当然この保険商品を住宅所有者に売らなければいけない。

必要なツールはすでに準備が整っている。今は、特に地方レベルでのUNFCCCプロセスでの政治的意思がリスク低減と保険の考えを前進させるのに不可欠だ。こういった対策は、長期的に適応コストを劇的に減らし、気候変動の被害に遭いやすい国とその国民が被害に対応することを可能にしてくれるかもしれないのである。

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本記事はミュンヘン気候保険イニシアティブによる政策提言書に基づいたもの。著者:Koko Warner, Michael Zissener, Soenke Kreft, Peter Hoeppe, Christoph Bals, Joanne Linnerooth-Bayer, Armin Haas, Eugene Gurenko, Thomas Loster, Ian Burton. You may download it from the sidebar on the upper right of this page.

ミュンヘン気候保険イニシアティブ(MCII)は2005年4月、枠組み条約と京都プロトコルで提唱されたように、保険関連の対策が気候変動への適応策として有益であるという認識が広まる中、創設された。このイニシアティブは保険業者、気候変動と適応についての専門家、NGO、気候変動によるリスク対策を目指す政策研究者で構成されている。MCIIはドイツ、ボンの国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)に置かれている。

翻訳:石原明子

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自然災害被害者のための対応策 by ミヒャエル ・ ツィセナー is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ミヒャエル・ツィセナー氏は2008年から国連大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)にてリサーチアシスタントを務め、最近ボン大学で地理学の学士号を取得した。ミュンヘンUNU-EHSでは、ミュンヘン気候保険イニシアティブの活動に参加している。このイニシアティブは自然災害リスク低減と保険ツールを結びつけ、発展途上国が気候変動によりよく適応できるような革新的解決策を見つけ、UNFCCC気候変動会議に影響を与えるべく努めている。

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