古いビルを都市農業に再利用

米国そして世界中で、かつては重要だった産業都市の数多くの古く頑丈なビルが、今や無用の長物となっている。しかし、ある環境イノベーターが、そうしたビルが送電網への接続に頼らずにゼロ・エミッションの都市型食料オアシスになりうることを実証した。

ジョン・イーデル氏は、シカゴの歴史あるユニオン・ストックヤードの元産業施設を、垂直型農場であり、フードビジネスのインキュベーターであり、さらには研究・教育の場でもあるという独特の空間に変貌させた。

ザ・プラントと呼ばれるその施設は、ティラピアを育て、マッシュルームを栽培し、アクアポニクスを利用して畑で野菜を育てる複合食品生産システムだ。同時に、パン屋や紅茶きのこ(発酵飲料)メーカー、さらにはビール醸造所といった小規模な食工房が集う場でもある。その上、ザ・プラントや周辺地域の事業者からの有機性食品廃棄物をバイオガスに変換し、タービン発電機のエネルギー源にするための嫌気性消化システムを利用することで、このユニークな施設はまもなく、グリーン・エネルギーのみで操業できるようになる。

この輝かしいプロジェクトは意外なスポットで花咲いた。今日の産業化された食肉産業の生誕地として悪名高い巨大なストックヤード跡に残された元豚肉加工工場だ。19世紀の中盤から20世紀半ばまで、ユニオン・ストックヤードは推定で4億頭もの家畜を死に至らしめた。この場所は、シカゴ近郊のすべての鉄道へのアクセスが便利だったためだ。

都市化が進み、化石燃料の使用への懸念や(フード・マイル、排出、ピーク・オイル)、水産資源も減少している中、8,686 m2の面積を持つこの建物は、屋内アクアポニクス農場に最適だといえるだろう。

イーデル氏は、「食料生産をその消費地である都市で行うのですから、垂直型農場はきわめて合理的なのです」と語る。

しかもザ・プラントには、推定で125人ものグリーン雇用を創出して地域経済を刺激し、「バック・オブ・ザ・ヤード」として知られるシカゴ近郊の貧困地域の食料安全保障にも光明をもたらしうるというメリットがある。

グリーンな野心

このマジックの仕掛け人であるイーデル氏は、シカゴ・サステナブル・マニュファクチャリング・センター (CSMC)のオーナー兼デベロッパーであり、同じく古い工業用ビルにもかかわらず今は空室もなく、利益をあげている建物を拠点とする環境ビジネスのインキュベーターでもある。(報道によれば、CSMCの賃貸料収入がザ・プラントのローン支払いにあてられているという)

たった5人のスタッフで、この垂直型農場の大半を所有し運営している非営利団体のプラント・シカゴは、これほど見事な事業に乗り出したことで、2011年のバックミンスター・フラー・チャレンジのセミファイナリストに選ばれた。毎年開催される、この定評ある国際デザインコンテストにおいて、同事業は下記のように讃えられている。

「入念なリサーチに基づいて、よく考え抜かれた現実的な事業計画があり、資金も万全で、堅実に運営されている。地域コミュニティとも深い結びつきを持ち、地域に戦略的なアライアンスのネットワークもあり、シカゴ市の行政のトップを含め、政治的な支援も確保している。かなり進んだプロジェクトで、成功の確率は極めて高い」

ラーム・エマニュエル市長による栽培システムの視察。(2012年3月)写真: Plant Chicago, NFP/Rachel Sweni

ラーム・エマニュエル市長による栽培システムの視察。(2012年3月)写真: Plant Chicago, NFP/Rachel Sweni

イーデルは知識豊富で、極めて野心的かつ機知に富んだ人物だと言えるだろう。2010年に彼はわずか52万5,000ドルでこのビルを購入し、その「解体」を監督した。「解体」とは、ザ・プラントのウエブサイトによれば、「再利用の意図を持って、注意深く素材を取り除くこと」とある。

実際、電気配線を最近刷新し、高い絶縁性を誇る強固なレンガの壁以外にこの建物にあるのは、ザ・プラントのスタッフと大勢のボランティア、そしてテナントが長期にわたるリノベーション期間中に、感謝の気持ちと熱意を持って再利用した食品安全基準を満たすステンレス鋼やラバー張りのコンクリートの床といったリサイクル素材だ。

「私たちの試算では、2010年7月から2012年2月にかけて、スタッフとボランティアをあわせて約1万5,000時間の労働力が費やされました」

共生を極めて

イーデルによれば、プロジェクトの目的は廃棄物を閉じたループで循環させることだ。物理的な廃棄物も、ガスや二酸化炭素、酸素といったものも、すべて施設内に留め置き、食料以外は何もビルの外に出さない。

アクアポニクスは、魚の養殖(アクアカルチャー)と、植物を土を使わずに育てる水耕栽培(ハイドロポニクス)を組み合わせたもので、魚が排出するアンモニアが豊富な排泄物をバイオフィルターで肥料化し、それを植物が吸収して水を浄化し、魚の養殖に再利用するという、それぞれの産物を生かした共生だ。

ザ・プラントでは共生をさらに進め、ビールの製造時に排出される麦芽や、紅茶きのこの発酵で得られる二酸化炭素をマッシュルーム栽培に利用する計画もある。

(ザ・プラントの共生連鎖を分かりやすく図解した、この素晴らしいビデオをご覧ください)

通常、室内農法は栽培用の照明と温度管理の必要性から、大量の電力消費を必要とする。そのために、嫌気性消化システムが食品廃棄物を処理し、発生したバイオガスをコジェネレーションシステムに送ることで、植物の栽培やビール製造に必要な電力を得る仕組みが採用されている。イリノイ州から150万ドルの助成を得たこの野心的な取り組みは、軍の戦闘機のジェット・エンジンを使って(再)構築されている。

ザ・プラントはいざというときのバックアップとして電力送電網や天然ガス供給網につながっているので、公共の送電網に過剰電力を供給して、エネルギー消費を「実質ゼロ」にすることも可能だ。

もちろん、課題もいくつかあるが、そのためにイーデルが立ち止まることはないようだ。

シカゴでは、市の規制法で営利目的の魚の養殖場が禁止されている(魚は「家畜」に分類されているためだ)。もちろん、イーデルはそれを変えようと動いている。しかし一方で、アクアポニクスによる農法は教育目的では許されているので(教育はザ・プラントの目的のひとつでもあるため)、イーデルはイリノイ工科大学と提携を結んだ。学生は、大規模な室内栽培場の創設や改善方法に加え、熱と電力を排出量を抑えながらビルに供給する方法、さらにはそうした操業のためにオープンソースの制御システムを開発する方法を学ぶ。また、学生らは、ヒラタケやヤマブシダケの栽培施設(新規栽培用に「種菌」を生産する施設内実験室の設置も含む)を開発し、室内外での栽培システムに役立てている。

将来に向けて

では、ザ・プラントが完全に稼働するのはいつになるのだろう?

施設は段階的に機能し始めている。目下のところテナントは3軒(アクアポニクス、紅茶きのこの醸造所、ベーカリー)だが、さらなるテナントの獲得を模索しており、ザ・プラントの試算では、2012年の末までには5つのスペースが完成してリース可能となり、2013年6月までには再生エネルギーシステムも稼働する予定だ。

小さなティラピア  写真:Plant Chicago, NFP/Rachel Swenie.

小さなティラピア  写真:Plant Chicago, NFP/Rachel Swenie.

こうしたビジネスのほとんどすべてが、利益を得るために食料を生産している。その大きな例外がプラント・シカゴだ。この非営利団体は、持続可能な食料生産や雇用創出、再生可能エネルギーの利用と環境に優しいビルのリノベーションをテーマに、研究や一般の人々の啓蒙活動を行う予定だ。したがって、栽培スペースを研究に使うだけではなく、共有キッチン(2014年に完成予定)も運営する予定で、そこでは雇用も創出され、ザ・プラントについて大人や子供が学べる大規模な教育プログラムの場ともなる。

知識の共有を約束するザ・プラントの姿勢は、環境企業の未来像を予期させる。このモデルがフル稼働すれば、そのエネルギー効率の良さから、このビジネスがトレンドとなるチャンスも増すだろう。ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は、すでに垂直型農法を将来のトップ20ビジネスのひとつに挙げている。

古き良きビルに、新鮮でグリーンな生命をもたらした例がここにある。

翻訳:ユニカルインターナショナル

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古いビルを都市農業に再利用 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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