持続可能性を考慮した人間開発指数

幸福の追求、人類の発展および環境には、2通りの深いつながりがある。第一に、私たち人間が狩猟採集の民族から都市生活者へと変貌を遂げたのは、気候が異例の安定を見せた時代であった。しかし、気候の安定はもはや当たり前ではなくなってしまった。第二に、私たちの健康や幸福度、生活の質は、環境衛生や生態系が人間にもたらす影響(リラクゼーション、きれいな空気、肥沃な土壌など)によって改善されることがわかっている。

国連の人間開発指数(HDI)が初めて発表されてから20年が経った。HDIは、世界の様々な指標の中でも最も独創的な指数であり、国民の生活の質をもとに世界の国々をランク付けしている。簡潔さこそがこの指数の強みだ。

HDIによると、人類の発展や生活の質を決定するのは、富、健康および教育の3つのパラメーターである。国家の豊かさは国民総所得(GNI)によって示される。(以前は国民総生産が使用されていた)さらに、国民の健康は寿命(出世時の平均余命)、教育の充実度は就学年数によって数値化されている。

人間開発指数の限界

HDIは簡潔であるが故に長い間継続的に使用されてきた。同時に、国家の向上心を高めながら、直接的な目標を提示している。その影響力を過小評価してはいけない。なぜなら、HDIの出現によって、国家は国民所得のみを成功の尺度とすることを止めたからだ。これは、国際社会が地球という境界線の中で存続していく上で重要なステップである。今では、世界中の政府や国際機関が、自分たちのHDIランクを上げるために様々なプロジェクトや政策を打ち出している。実際、2010年報告書の序文には「人間開発指数というアプローチが、世界中のあらゆる世代の政治家や開発専門家に大きな影響を与えた」と書かれている。

しかし、HDIには1つの大きな欠点がある。信じられないことに、この指標には環境が考慮されていないのだ。人類の発展が持続可能ではないことを示す多くの証拠がある中で、これは明らかな手落ちだ。

人間開発報告書の提案者マブーブル・ハック氏は「発展の主な目的は人々の選択肢を広げることであり、原則として、これらの選択肢は無限大で、時と共に変化する」と述べている。

地球がたった1つしかない現実において、私たち人間に与えられた選択肢は限られているという見方がある。確かに、世界が日々排出している二酸化炭素の量を考えれば、人類には2つの惑星が必要だろう。しかし、私たちには持続可能な発展という道もある。そのために必要なのは、より優れた測定ツールだ。

潘基文国連事務総長は、2009年の世界気候会議において「私たちはアクセルを踏み続けたまま地の底に突き進んでいる」と述べた。

つまり国連は、地球に関する重要な生物学的、物理学的および化学的循環が、人類のせいで大きく変わってしまっているという揺るぎない事実を認めているのだ。そして、このような変化が将来、とりわけ貧しい国々に与える悪影響を認識し、緊急に対策を講じる必要性を感じている。

しかしながら、これらの発言にも関わらず、HDIに持続可能性という要素が欠落していることで、国連は人間と自然を関連づけた対策が取れずにいる。国連事業のすべてにおいて持続可能な開発が実施されない限り、いかなる議論も空回りになってしまうだろう。国連は模範を示して世界を導かなければならない。

そんな中、私たちはHDIに環境的側面を与え、持続可能性を考慮した人間開発指数とも呼べる指標を作ろうと試みた。

より完全な指標

昨年のHDIが発表された後、私たちは、(チュラン・トグトハ氏の考案に基づき)1人当たり炭素排出量をHDIの4つ目のパラメーターとして加え、指数を再計算した。

各国の環境フットプリントを算出するにあたり、例えば炭素排出量や生物多様性、汚染などのファクターを用いて複雑な計算式を作ることもできたが、健康の指標が寿命であるのと同様に、炭素排出量を基本とすることで指標の簡潔さを維持した。

実際、温室効果ガス排出量は生産・消費のシステムからは切り離せない要素だ。この事実は、1969年に出版されたロバート・U・エアーズ氏およびレスリー・エアーズ氏の共著「A Handbook of Industrial Ecology」(産業エコロジーハンドブック)などによって以前から知られている。カーボン・フットプリント(二酸化炭素排出量)も同様に、ロバート・ヘレンデイーン氏とジェリー・タナカ氏が1976年に発表した「生活のエネルギーコスト」と密接に結びついている。

HDIの再計算に炭素排出量を加えることで、1つの国の生活の質が、他国にどのような負担を与えているかがわかるようになった。例えば、HDIと炭素排出量の両方の数値が高い国の場合、この国の人々が享受している生活の質は、とりわけ開発途上国の人々や未来の世代の犠牲のもとに成り立っていると言える。

新たな順位

では、持続可能性を考慮した人間開発指数とHDIとの違いは何だろう?最も顕著な変化は、HDIで上位にランクインした国々に見られ、最下位を占める開発途上国においては目立った入れ替えはない。新しい指標で見直した場合、温室効果ガスを大量に排出しているHDI上位国のアメリカやカナダは、トップ10から脱落してしまう。つまり、石油やガスに高度に依存するこれらの国々のライフスタイルは持続可能ではない、ということになる。

アメリカはジェットコースターがレールを滑り降りるような急落ぶりだ。同国は、昨年からの1年間でHDIのランキングを9つも上げ、13位から4位へと浮上した。ところが、炭素排出量を計算に入れた途端に状況は大きく変わり、20も順位を下げて24位へと転落する。8位という好位置につけていたカナダも同様に23位にまで転落する。

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この数字は、アメリカの温室効果ガス排出対策における遅れを指摘し、カナダがお手本とは程遠い国であることを示唆している。しかし、国連では既存のHDIに基づいて、これらの国々を高度な発展の成功例として紹介している。彼らに続いて発展を目指す国々は、アメリカやカナダの経済モデルや政策に注目している。

しかし、このアプローチには欠陥があり、人類の持続可能な発展のために緊急な方向転換を呼びかける潘基文事務総長の方針とも矛盾している。

次に、新しい指標で上位にランクインした国を見てみよう。上位を独占するのはヨーロッパ諸国だ。ノルウェーはどちらの指標でも変わらずトップに君臨している。ニュージーランドがお隣の国オーストラリアを押しのけて2位に浮上し、スウェーデンは9位から3位にまで順位を伸ばした。スイスとフランスがともに9つ順位とあげて4位と5位になり、その後にアイルランドとオランダが続く。香港は21位から8位へと大躍進を遂げ、後ろにドイツが続く。驚くべきことに、1人当たりの炭素排出量が世界有数であるオーストラリアが10位に入った。

トップ5にランクインしたノルウェー、ニュージーランド、スウェーデン、スイス、フランスの生活水準は羨ましいほどに高く、石油に依存したライバルたちと余裕で肩を並べている。これらの国々は、完璧ではないにしろ、幸福の追求が必ずしも経済発展と対立するものではないことを示している。

新しい指数を用いたランキングで上位につけた国々の経済モデルは、相対的に言って正しい方向に向かっていると言える。私たちはその努力を認め、他の国々に対する手本として扱わなければならない。

唯一の国、キューバ

しかしながら、このような国家でさえ現在の栄冠に満足することは許されない。実際、グローバル・フットプリント・ネットワークが行った1人当たりエコロジカル・フットプリントとHDIの対比によれば、キューバだけが世界で唯一、真に持続可能な経済を持つ国と見なされた。最先端の環境保全技術を持たないキューバがこの偉業を成し遂げたのは注目に値する。さらに、キューバは2010年のHDIリストに登場すらしていないのだ。

香港とブラジルは、新しいランキングでそれぞれ13と16ずつ順位を上げており、先進工業国への急速な移行がいかに環境負荷を減らすかを示す例になりそうだ。

炭素排出量が指数の計算に含まれたことで、アルメニアやコロンビア、グルジア、エクアドル、ベリーズ、ブラジル、ウルグアイもまた、2010年のHDIランキングからそれぞれ16〜18位ほど順位を伸ばした。概して、ラテンアメリカ諸国は他のどの地域よりも順位を大幅に上げている。

当然ながら、カタールや、アラブ首長国連邦、クウェートなどの産油国は最も順位を下げた。

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国連のための新しい指数

HDIが使用され始めてから20年、国民の生活の質を改善するための即効薬などないことは明白だ。前進には長期的な政策転換が求められる。例えば、アメリカは毎年平均0.25 %ポイントほどの改善率で少しずつHDIの順位を上げてきた。

同様に、持続可能な世界の実現も長期的な課題だ。膨れ上がる世界人口を今後も支え続けていくためには、一体どこにどうやって道路や輸送手段、発電所、住宅やその他のインフラ施設を作ればいいのか。継続的に考え、決定を下すことで大きな変化が生まれるかもしれない。

オリジナルのHDIは、人々に国の発展とは何かを見直させた。その価値は、長期的な政策介入の影響力を明確に示すことができるところにある。しかし、国連は間違えたメッセージを発しないよう慎重にならなければならない。

HDIを考案したマブーブル・ハック氏は、「発展の目的は、人々が長期的に、健全で創造性に富んだ生活ができる環境を作り出すことだ」と述べている。持続可能な開発とは、そのような環境を未来の世代のために維持していくことだ。

持続可能性を考慮した人間開発指数には二重の価値がある。それは、正しい政策さえあれば、私たちが質の高い生活と少ない炭素排出量を両立できることを示している。さらに、この新しい指標は、人類の発展と気候変動、持続可能な開発を(少なくとも国連において)結びつける一歩なのだ。

経済学者のニコラス・スターン氏は最近、「先進諸国が低炭素の経済成長が可能だということを行動で証明しない限り、開発途上国は排出削減目標を受け入れないかもしれない」と述べている。

持続可能性を考慮した人間開発指数はこのギャップに取り組もうとしている。

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持続可能性を考慮した人間開発指数はチュラン・トグトハ氏によって考案された。(地球圏-生物圏国際協同研究計画の地球変動2009 ニュース)

翻訳:森泉綾美

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持続可能性を考慮した人間開発指数 by オーウェン ガフニー and チュラン・ トグトハ is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

オーウェン・ガフニー氏は、ストックホルムにある地球圏-生物圏国際協同研究計画の広報責任者である。

チュラン・トグトハ氏は、地球圏-生物圏国際協同研究計画のモンゴル地球変動委員会の副議長を務めており、モンゴル国立大学で持続可能な開発の研究を行っている。

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  • Maoyam

    CO2 の吸収量は計算に入れないのですか?