サンゴ礁の死が意味するもの

サンゴ礁は世界の海洋面積の0.1パーセントを占めるにすぎないにもかかわらず、海洋生物全種の4分の1を育む。国連大学の水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)副所長であるピーター・セール教授は、サンゴ礁魚類の生態学およびサンゴ礁の管理に関する専門家だ。彼は自身の新著『Our Dying Planet — An Ecologist’s View of the Crisis We Face(死にゆく私たちの地球:私たちが直面する危機に関するある生態学者の見解)』の中で、サンゴ礁がいかにして地球から消滅する最初の生態系になりつつあるのかを示している。私たちはセール氏に新著についてインタビューした。

Q:新著『Our Dying Planet』のプロモーション活動の中、お時間を頂きありがとうございます。この本を書いた理由と、どのように調査を行ったのかについて簡単に教えてください。

A:この本で私は、現在の世界的な環境危機がいかに深刻であるのかを、一般の読者に説明しようと試みました。それは人類の誕生以来、人が直面した最も深刻な環境危機です。問題としてはまず、漁業、森林製品、水、その他の再生可能資源の著しい乱開発があります。さらに私たちが廃棄する肥料やその他の化学薬品による世界中の土壌や空気や水の著しい汚染です。また、私たちは(開拓、農業、都市化によって)陸地の環境を変えたり、(トロール漁によって)海洋環境を変えたりする能力を使って、世界の自然生態系に著しい変化を加えました。そして、気候と海洋の化学現象における大きな変化は、主に化石燃料の使用による温室効果ガスの排出が主要な原因です。こうした状況は多くの種の分布を変えつつあり、地球の歴史上6番目の大量絶滅を引き起こしています(現存する全種の50パーセントが2100年には絶滅していると予想されています)。この本は、何が起こっているのか、それはなぜか、どれほど深刻であるのか、そして私たちの未来にとってどういう意味を持つのかを説明しようとしています。人類と地球にとって良き結果を生む可能性はまだあり、そのためには私たちが今すぐ賢い行動を起こすしかないということを論証しています。この本は、海洋生態学者としての私の全人生をかけた研究と、環境科学に関する幅広い文献に基づいています。

Q:研究結果で驚いたことはありますか?

A:私がこの本を書こうと思ったのは、人間がサンゴ礁に及ぼす影響の深刻さが分かったからです。(サンゴ礁は私が研究人生を捧げた生態系です)そしてほとんどの人々は問題の深刻さをまだあまり認識していないということに気づきました。そればかりか、こうした問題を解決する行動を起こすのが早ければ早いほど、私たちや私たちの子供たちが生きる価値のある未来を築く可能性が高くなるという事実も、人々はまだ理解していないのです。

“私が研究を続けている間に、ほぼ無傷だったサンゴ礁の数は急激に減少し、今では人間が排出する二酸化炭素が世界中のサンゴ礁に影響を及ぼしています。”

完全な確証が得られない限り、行動を受け入れず、遅らせ、ためらい、拒否することは、現在の環境危機に対する最もよく見られる反応です。もしこうした反応を続けるなら、私たちは非常に不快な未来を生きるしかありません。

Q:ご自身の40年におよぶ研究生活の中で、熱帯沿岸域の生態系で起きた大きな変化とは何ですか?

A:人間は常にサンゴ礁の生態系を傷つけてきました。なぜならサンゴ礁の生態系は乱獲や汚染に対して驚くほど繊細だからです。私が1960年代中旬に研究を始めた当時、サンゴ礁は世界の多くの地域でひどく劣化していましたが、同時に人間の影響を免れたサンゴ礁も存在しました。私が研究を続けている間に、そういったほぼ無傷のサンゴ礁の数は急激に減少していき、今では私たちが排出する二酸化炭素が世界中のサンゴ礁に影響を及ぼしています。その影響の大きさから、私を含む多くのサンゴ礁の研究者は、1970年代に見られた状態のサンゴ礁は2050年までに完全に消滅すると考えています。人間はこれまでも種の絶滅を引き起こすのがとても上手でしたが、生態系全体を世界的に消滅させてしまうのは、今回が初めてとなるでしょう。サンゴ礁という生態系は生物学的に豊かで生命力に富み、沿岸部にサンゴ礁を持つ国にとっては非常に高い経済的な価値があります。さらに、こうしたサンゴ礁の消滅は私たちへの警告でもあります。もし私たちが行動を変えなければ、他の生物圏でも同じようなことが起こりうると警告しているのです。

Q:本作の第1部で、森林に関して1章を割いています。森林の問題はサンゴ礁とどのような共通点があるのでしょうか?

私たちが森林に与える影響は多様ですが、私は乱開発に焦点を合わせました。近年、森林の全体的な消失率は落ち着いていますが、それでも年間に約700万ヘクタールの森林が消失しています。その多くは原生林です。森林消失によって、私たちは森林が毎年供給してくれる物質やサービスの価値を失っています。森林が今すぐ消滅する可能性は低いのですが、私たちは少しずつ森林を失いつつあり、大気浄化作用や水循環の制御、炭素隔離といった森林が生態系サービスとしてもたらす非常に重要な価値を徐々に減らしているのです。

Q:この本は2011年9月初旬に発表されました。これまでのところ、人々はあなたのメッセージに耳を傾けていますか?もしそうなら、最もよく聞かれる反響は?

A:いつものことですが、ほとんどの読者の方々はすでに「改宗」しています。しかし、そういうグループの中でも、状況がいかに深刻か知らずにいた人が多く見受けられます。私の話に耳を傾ける多くの人々は、よりよい未来を手にするために自分には何ができるのか知りたがっています。そこで私は彼らに、政治的に行動を起こし、文献を読み、友人たちとこの問題について話し合うように勧めます。草の根活動が進まない限り、多くの国のリーダーたちはこの問題への対応を渋り続けるだろうと私は固く信じています。(しかし、潮流が変われば、状況の変化は速いだろうとも確信しています)

Q:一方、反論はありますか?(もしあれば、どんな人から、どのような理由で?)

A:あまり反論は多くないようです。気候変動否定論者やその仲間が私を攻撃し始めるほど、私の本はまだ十分に傑出した存在とは目されていないのです。しかし、ある人たちと話をした際に、環境問題は引き続き「あまり重要ではない」と片づけられる問題であると、少なくとも身振りで私に伝えてきた人たちもいました。要するに、人間はゆっくりと拡大していく危機に対処するのが苦手であり、不快な情報を細分化するのは非常に上手だということなのです。

Q:どのような調査が続けていく必要があるでしょうか?

A:気候科学、海洋化学、生態系の機能と力学、環境の変化に対する個々の種の反応について、今後多くの詳細を明らかにしなければなりません。さらに、化石燃料の使用からできるだけ早く脱却するための技術に、今後も投資し続ける必要があります。そして真剣な議論と、人口増加をコントロールするための新たな取り組みも必要です。

“私たちが現在と同じ行動をとり続けた場合の、10年先、20年先、あるいは50年先の世界の姿は、現在の知識によってすでに明らかです。”

しかし、私たちが現在と同じ行動をとり続けた場合の、10年先、20年先、あるいは50年先の世界の姿は、現在の知識によってすでに明らかです。最も必要なのは、現状の深刻さを人々に認識させると同時に、人々の力で状況は変えられるし、良好な未来はまだ可能だという希望を持たせることです。

Q:この問題における国連大学の役割とは?

A:国連大学はシンクタンクとして、環境危機の多くの側面に関する理性的な議論を推進する上で重要な役割を担うことができます。さらに、科学的な議論を政策決定へ移す上で主要な役割を担うでしょう。また、国連の一機関として、国連大学は(恐らく国連関連組織としては新奇な)次のようなアイデアを広める選択もできるでしょう。つまり、現場での行動を増やす一方で、上級外交官をもてなし、大量の紙とお金をむやみに浪費し、多くの言葉が語られるのに国際社会の行動には微々たる影響しか与えていないような、お金のかかった国際会議での話し合いを減らそうという発想です。

Q:UNU-INWEHはどのような関連研究を行っていますか?

UNU-INWEHは世界の水の管理を改善する取り組みに重点を置いています(水の問題は環境危機の重要な一部です)。私たちの乾燥地および淡水プログラムは、陸地での水管理の問題や、水管理が人々の暮らしや環境の持続可能性に及ぼす影響の問題を扱っています。沿岸地域プログラムも同様に、特に熱帯地域での沿岸海洋システムについて研究を行っています。そして、水と健康を関連づけた取り組みは、水と病気の問題を結びつける上で重要な役割を果たしています。

Q:『ネイチャー』誌の最近のインタビューで、教授は大気中の二酸化炭素を制限することが不可欠であるとした一方、「気候会議で」議論された500ppmという数値は「サンゴ礁にとっての弔鐘」だと語りました。COP17の交渉人たちに何かメッセージはありますか?

A:多くのサンゴ礁研究者と同様に、私は大気中の二酸化炭素濃度の制限値を350ppmとする意見を支持しています。この数値は1980年代中旬の状況に戻すということを意味し、結果としてサンゴ礁は繁殖可能にはなりますが、大いに増えるわけではありません。サンゴ礁の問題は海水温度の上昇にあり、それが大量の白化現象やかなり高いサンゴの死亡率や、サンゴの成長を遅くする海洋の酸化現象を引き起こしています。(オーストラリアのサンゴの成長率は現在、1980年代よりも14パーセント遅くなりました。なぜなら、サンゴが炭酸カルシウムの骨格を形成するには、以前よりもずっとエネルギーを必要としているからです)ある生態系内で重要な種が過去よりもずっと速いペースで死滅していくと同時に、生き残った個体が以前よりもゆっくりとしか成長できない場合、その生態系はゆっくりと消滅していくしかありません。

“非常に恐ろしい未来予想図ですが、今までの国際交渉は、あたかも小さな問題を解決するためにたっぷりと時間があるかのように行われてきました。”

気候会議の交渉人たちへの私のメッセージは、この問題をすぐに真剣に取り上げ、実際の変化を行動に表してほしいということです。私が話した人たちの中で、気候会議に参加経験のある人々も含め、500ppmという「ターゲット」や「ゴール」が達成できると確信している人はほとんどいません。気候科学者であるジェームズ・ハンセン氏は、二酸化炭素が500ppmを超えることになれば、私たちは「暴走する気候変動」という現実的な危険に身を置くことになると発言したと記録されています。暴走する気候変動とは、数々の正のフィードバックが作動し、気温上昇が激化し、化石燃料からの転換によって状況を好転させることは完全に不可能になるというシナリオです。非常に恐ろしい未来予想図ですが、今までの国際交渉は、あたかも小さな問題を解決するためにたっぷりと時間があるかのように行われてきました。しかし、小さな問題ではありませんし、私たちには時間もあまりないのです。

Q:保護地域の問題点に関する教授の最近の研究の要約に、次のような記述があります。

「保護地域の数や面積を改善し増やす取り組みは引き続き行わなければならないが、生物多様性の喪失に対する付加的な解決法の開発の必要性は明らかで、早急に行われるべきである。特に世界人口と、生物多様性への私たちの生態学的需要を安定化する解決法の開発は必要である」

Q:著書の中でも人口問題に触れましたか? その点について少しお話しいただけますか?

A:はい。人口問題を語るリスクについては認識していましたが、この本には人口に関する章があります。1970年代に私たちは制御不能な人口増加について議論を始めました。ところが、それは政治的に正しくないという理由で議論は止まってしまったのです。国連機関は各国における人口学的遷移の可能性に注目しました。いずれ生活水準が十分に向上すればよいと考えたのです。残念ながら、環境条件が悪化し続けているため、生活水準の向上に頼る方法で事足りる可能性はますます低くなっています。だから、私たちは人口増加について再び話し合う必要があるのです。そして伝染病、凶作、病気、戦争が人口をコントロールする世界を望むのか(人口問題を避け続ければ、そういう状況はやってくるでしょう)、それとも、すでに見られるように、誕生率を制限した分、死亡率が大幅に改善されることを選ぶ世界を望むのか、私たちは議論しなければなりません。私は過剰人口の問題に取り組むことなしに環境危機の解決はあり得ないと思います。

翻訳:髙﨑文子

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サンゴ礁の死が意味するもの by ウィリアム アカーマン and キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

2000年以前、アカーマン氏はアメリカ農務省の土壌保全局で編集者および主任編集者を務めた。さらにフリーランスのテクニカル・ライター兼編集者として活動し、『Computing Japan』誌の創刊時の編集長を務めた。1998年以来、アカーマン氏は世界的な経営コンサルティング会社でのコミュニケーション・スペシャリストと、国連大学での編集者という2つの職務を掛け持ちしている。現在はメディア・センターのシニア・エディター。マイアミ大学(オハイオ州)から環境科学の修士号(M.En.)を修得した。

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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