震災から2年:福島の遺産

福島第一原子炉建屋が次々と爆発した様子に世界が驚愕してから約2年。津波による死者数や破壊の規模の方がはるかに大きかったが、原発事故によって現地に残って作業を続けた50人ほどの作業員たちのような英雄や、徐々に窮地に立たされていった東京電力などの悪役の姿が世界中の注目を集めた。さらに16万人もの被災者が地域からの避難を余儀なくされ、後にはさらに広域の住民も食物や水への放射能汚染拡散の恐れから避難を命じられた。

後に判明したことだが、大量の放射性物質が大気中や海へ放出されたこと以上に重要な問題と脅威があった。炉心溶融が起こり、核燃料が格納容器を溶解し建屋の床まで達した。またいくつかの使用済み核燃料貯蔵施設の核燃料が危機的な状態にあったのだ。最悪の事態は免れたとはいえ、現状は悲惨なものだった。放出された放射性物質の量は、1986年のウクライナのチェルノブイリ原発事故の約半分だ。しかし、チェルノブイリの場合と異なり、福島ではほとんどの放射性降下物卓越風によって海へ流されたが日本の沿岸水域、生物相への影響は今後も懸念される。

チェルノブイリ事故での死者数については現在でも意見は分かれ、数千人から数十万人までの幅がある。日本の場合はおそらく数百人ほどの早期死亡者が出そうだ。しかし問題は、長期的に見るとどれだけの人が深刻な影響を受けることになるのは誰にもわからない点だ。そしてこの不確実性こそが不安の源なのである。原子放射線の影響に関する国連科学委員会などの公的機関が健康被害は最低限にとどまると述べる一方 で、個別の学術研究は最悪の場合、日本での原発の影響によるがんの死亡者数は1300人程度に上る可能性があり、「アジア大陸や北米では顕著な影響はほとんど見られない」としている。

世界の反応

海外での反応は非常に素早かった。ドイツは古い原子炉の全てを閉鎖し、2022年までには残りの原子炉も段階的に全て閉鎖すると決定した。イタリアでは国民投票が行われ94%が政府による新たな原子力発電所の建設計画に反対の意を表明。政府は敗北を認める以外選択の余地はなかった。同じことがスイスで、そして後にベルギーでも起こっている。フランスでは、いくつかの世論調査で国民の70%が原発に反対し、原発推進派の政権が国政選挙で敗北した。その後、新政権は原発への依存を大幅に削減することを約束している。

その他の地域では、マレーシア、フィリピン、クウェート、バーレーンで原子力計画が放棄され、台湾などでは大きく変更された。中国は原発建設計画を見合わせていたが、2012年後半には規模を縮小して再開し、今後5年ごとに「若干数の」計画を承認する方針を示した。当初は2020年までに原発の割合を電力の2%から4%に増やす予定で、既に再生可能エネルギーは中国の発電量のうち17%を供給していた。福島の原発事故後は2020年までに一次エネルギー消費構造に占める非化石エネルギーの割合を15%に引き上げる予定だが、そのほとんどが再生可能エネルギーになりそうだ。

世界のその他の各地でも似た状況だ。アメリカでは再生可能エネルギーは原子力エネルギーを既に抜いており、福島の原発事故後にはいくつかの予定されていた原発建設プロジェクトは廃止された。再生可能エネルギーの人気と原子力コスト上昇が相まって、原子力への依存は徐々に減少するだろう。

とはいえ、原発プロジェクトが進行している国がないわけではない。不確かな経済にもかかわらず、西ヨーロッパでは唯一イギリスだけがいまだに大規模な拡大計画を進めている。ロシアも同様だ。インドは大規模なデモ(これまでに2人が死亡)にもかかわらず、やはり壮大な原発建設計画を推し進めており、韓国もそうである。

増加する再生可能エネルギー

ある調査によると原発事故の後、世界的に原子力に対する一般市民の反対の声は62%に上り、いくつかの国では(イタリア、ドイツ、メキシコ)80%を超えた。これとは対照的に、再生可能エネルギー推進の声も高まった。福島での出来事によって、多くの人々は具体的な改革の必要があると感じ始めた。気候変動は重要な課題だが、原子力はその答えではないという考えは広く認められるようになり、再生可能エネルギーが答えだという確信が広まっている。

多くの研究(WWFのエネルギーレポートやスタンフォード大学でのリサーチなど)が行われ、再生可能エネルギーが世界の電力の100%を賄え、もしかしたら2050年までには全てのエネルギー需要が満たせるかもしれないことを示している。ドイツは2050年までに最低でも電力の80%を再生可能エネルギーから得ることを目標としており、原発非保有国デンマークの新政権は2050年までに(電力だけでなく)全てのエネルギーの100%を再生可能エネルギーにすることを目指している。変化の兆しが現実化してきたのだ。EU内の他の多くの国も野心的な目標を掲げている。例えば非保有国オーストリアは2020年までに全エネルギーの34%を再生可能エネルギーにすることを目指している。

アルバニア、レソト王国、ネパール、タジキスタンなど約12カ国の途上国は既に電力のほぼ100%を再生可能エネルギーの水力発電で賄い、30カ国の途上国は電力の60~90%を賄っている。水力発電はノルウェーでは電力のほぼ全てを、アイスランドでは電力のほとんどを、オーストリア、カナダ、ニュージーランド、スウェーデンでは最大で60%を供給している。

“新たな再生可能エネルギーは原発の出力を越えるとまではいわないまでも匹敵するレベルになってきている。”

世界全体では、大小あわせて870ギガワットの水力発電容量があるが、原発は374ギガワットで、そのうちいくらかが福島原発事故後に閉鎖された。新しい大規模水力発電プロジェクトは今後選ぶべき道ではないかもしれないが、いわゆる「新再生可能エネルギー」は、急速に拡大している。世界全体の風力発電容量は約240 ギガワット、ソーラー発電の容量は約70 ギガワットだ。太陽光集約型の発電の容量は250ギガワットで、実は最も実用化されている。波力・潮力発電も急ピッチで開発が進んでいる。

風力や太陽光などの再生可能エネルギーによる出力は可変でありこれらのプラントの容量を直接比較することはできない。だが、これらを全て合わせれば新たな再生可能エネルギーは原発の出力を越えるとまではいわないまでも匹敵する程度になってきている。そして水力発電は既にそのレベルに達している。

一部にはイギリス、インドが進めているように再生可能エネルギーと原子力エネルギーを両立させればいいと主張する者もいる。だがその問題点は、乏しい財源を奪い合うことになる以外に、双方の割合が大きい場合、中央集中型の原子力発電と分散型の再生可能エネルギーでは両立しないという点だ。

原子力発電所は大きく柔軟性がない。通常、高い建設費に見合うよう1日24時間、週7日間休むことなく稼動している。ほとんどの再生可能エネルギーは、それより小さく柔軟で、ダイナミックな「スマートグリッド」管理システムによって可変的な出力を調整しなければならない。そうすればピーク時のエネルギー需要をシフトし、風力発電所からの過剰な出力を後の利用のために備蓄し、高速起動のバックアップ用発電所を使い、そして高度に効率的で長距離のスーパーグリッドから電気を取り込むことで局所的な供給の変化を調整する。原子力はこの調整プロセスの妨げになる。原子力発電所は高い出力を迅速かつ定期的に変えることができず可変的な再生可能エネルギーのバックアップとしてはほとんど役に立たないからだ。私たちはいずれかの道を選択するしかない。原子力か、非原子力か。

日本の新たな方向性

上記で述べたとおり、多くの国が既にこの選択をし終えている。日本では福島の原発事故を受けて全国各地の原子力発電所が全て安全性確認のため閉鎖され、2012年の調査報告書は政府が提出していた3つの選択肢について検証している。原発ゼロ、原発15%、原発20~25%維持の3択だ。再生可能エネルギーは残りの約30~35%を占めていた。エネルギー使用も削減されなければならない。

10万人を超える反原発デモが日本では定期的に行われており、毎週、首相官邸前で集会が開かれている。反原発の思いは非常に強い。ある調査では 47%の人々が「原発ゼロ」を、16%が「原発15%」を支持し、「原発20~25%」を支持したのは13%だった。そして2012年9月に、2030年までの原発ゼロを目指すと政府は発表した。

原発事故の前は、世界第3位の経済力を誇る日本は電力における原発の割合を当時の26%から45%へ拡大しようとしていたという状況を考えると、ゼロへの転換は非常に意義深く、大々的な変化を必要とする。しかも温室効果ガスを1990年レベルから、2030年までには23~25%削減するという目標もあるのだからなおこのことだ。しかし当時の経済産業相、枝野幸男氏はこう述べている。「私はゼロシナリオが経済にとって悪いものだとは考えていません。逆に、再生可能なエネルギー開発とエネルギー効率向上に向けた努力は国内需要を増やし、成長を促すでしょう」

“1つだけはっきりしている。日本はこの問題についていつまでも決断を先送りにはしていられない。”

2030年までの戦略の詳細はまだでき上がっていない。しかし2012年末の総選挙でやや原発推進寄りの自民党政権になったことで、段階的廃止計画は遅れるか変更が加えられるだろう。だが、すでに大飯原発が再稼動され今後さらに増えるかもしれないとはいえ、世論調査の影響力を考慮すれば大々的な原発推進政策への切り替えは難しいと思われる。

1つだけはっきりしている。日本はこの問題についていつまでも決断を先送りにはしていられない。事故の直後は精力的な努力によって失われた原発の出力分の節電が行われ、一定の成果が見られた。節電要請にこたえたり自主的に行ったりして需要が10%以上減った部門もあった。一方で電力を切らさないための暫定措置としてガスの輸入は増え、その費用はかさむ一方だった。

それとは対照的に再生可能エネルギーは徐々に安価になってきている。燃料費がいらないのだから驚くには当たらない。日本では、例えば既に原発の段階的廃止の予定があったドイツなどと比べると、はるかに低いところからのスタートであり再生可能エネルギーを目標まで引き上げるまでには時間がかかるだろう。ここで日本の新たなプログラムの中核が明らかになってきている。そのひとつが洋上風力発電プロジェクトだ。この国の地価が異常に高いことを考えれば至極当然だろう。そのうち最初の企画の1つが、象徴的なことに福島沖の1 ギガワットの浮体式風力タービンである。

さらに、政府は地熱エネルギー計画に関し国立公園内での規制を緩和し、それによって2020年までに2ギガワットの設備容量が可能になりそうだ。まずは、これも象徴的なのだが、小規模な地熱発電所が福島市の土湯温泉に建設される予定である。そしてバイオ燃料の藻類生産など、バイオマス計画も始まっている。

また太陽光発電にもより大きな期待が寄せられる。新たに寛大な固定価格買取制度が導入され、誰もが一役買うことができるようになった。ドイツではこの方法で30ギガワットの太陽光発電の設備がこれまでに設置された。気候を考えれば、日本の方がさらに良い結果が出せるだろう

福島の大惨事によって日本には莫大な社会的、経済的コストが残され、その影響は今後も長く続くことになるだろう。と同時に、日本の進むべき方向を変えてくれたかもしれない。それは日本にとってだけでなく世界にとっても利益をもたらすものだ。日本の技術革新のこれまでの実績を思えば、全ての人がより持続可能な生き方を開発するための機会なのかもしれない。

翻訳:石原明子

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The Legacy of Fukushima: Two Years On by David Elliott is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

デビッド・エリオット氏はイギリスのオープン大学テクノロジー政策の名誉教授。最新の著作は『Fukushima: Impacts and Implications(フクシマ:インパクトと影響)』。

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