シンプルな生活から緑豊かな未来へ

私はここ数年の間、自分のエコロジカル・フットプリントを減らすために何ができるのかを考え続けている。自然環境を改善するためには、他人に行動の変化を求める前に、まず自分たちがアクションを起こす覚悟が必要だ。

私は国連大学で教壇に立つうちにこう確信した。私たちは大学で、生徒や講師仲間に頼んでカーボン・フットプリントを測定してもらい、それぞれの記録を共有することを始めた。生徒の出身地はアジア太平洋諸国全域に及んでおり(ちなみに私たちは飛行機での移動を避け、テレビ会議によって情報を共有した)、実に変化に富む測定結果が出ている。先進国に住む者のカーボン・フットプリントの量は、発展途上国に住む者よりずっと多い傾向にある。この最大の原因は飛行機での移動と思われるが、研究や会議出席のため遠方へ旅しているのは、たいてい私たち講師だ。

一連の計算にはオンラインのCO2排出量計算機を使った。これによると私の昨年のフットプリント(CO2排出量の合計)は8.8トン(前年度と比べて29%の減少)であると算出された。これは、日本人の平均である9.8トンをわずかに下回る量であるが、世界の平均である4トンと比較すると2倍にもなる。だが私には改善すべき点がたくさんある。

コリン・ビーヴァン氏の影響を受けて、私たちは今学期、自称「ノー・インパクト・ウィーク」を実行している。これに従い、各自が何か変化を起こして、環境への負担を減らすための努力をするようになった。例えば、「全くゴミを出さない日」とか「買い物を一切しない日」といった単純な変化でも構わない。またこの変化は成功も失敗もない。まったくの自発的でかつ啓発的な行為なのである。

私はこの講座をとっている生徒に、この間の出来事、講義内容、事象の中で自分たちが楽しめることがあったかどうかについて意見を求めている。いつも大多数の生徒が、カーボン・フットプリントの算出とノー・インパクト・ウィークをどれほど楽しんだかを書いてくれる。ある生徒の感想を挙げてみよう。

「まず、自分がどれほど大量のエネルギーを消費していたのかを知って驚きました。私はこの活動に大きな影響を受けて、エネルギー消費量削減のためいくつかの生活習慣を変えました。また、私たち皆が自分の行動を変えて自然環境への負担を減らすことに真剣に取り組んでいる姿は、素晴らしかったと思います。ほんの短い期間でしたが、これを良いスタートにしたいです」

そして毎年この講座で活動を実践した影響で、私も個人的に自分の生活習慣をいくつか変えた。飛行機を利用する旅行を減らし(この後、航空会社の頻繁利用客用のカードを失い)、車をプリウスにし、自転車を買い、食生活を向上(肉を減らして果物と野菜を多く食べる)させた。また授業のために毎年ここに戻ってくる系列大学の同僚がいるのだが、彼女たちも遠方への移動を減らすなど自分たちの生活習慣を変えた話をしてくれた。他にも太陽光発電システムの導入により、自宅の電気料金がゼロになったそうだ。

楽観主義と悲観主義の狭間で

こうしたやり方は数値での測定を可能にし、前向きにさせる影響力を持っているが、実のところ緩い変化であり、自分たちのクラスの中か、ごく近いところだけで起こっているものだ。実はその年の残りの期間、私の日常生活は何も変わらなかった。私は普段ものごとを楽観的に考えがちであり、世の中は絶えず良い方向に向かっていると思っている。しかし気候変動、資源の枯渇、食料安全保障、生態系の喪失、水危機…といった問題について詳しく読んでいくと、とたんに悲観的になり、こうした緩い変化では十分な結果が得られないと分かる。これを解決することは難しい。どうすればこの世界はより良い場所になるのだろうか。そしてピークオイルや気候変動といった難問を解決することができるのだろうか。

影響力のある2人の評論家、テッド・ノードハウス氏とマイケル・シェレンバーガー氏は、2004年に出版したエッセイ「環境主義の死(The Death of Environmentalism)」の中でこの難題の1つの側面について述べている。彼らが言うには、個人の行動変化によって地球温暖化のような大きな問題を解決することはできないだろうということだ。その代わりとなる彼らの楽観的な提案は、現代化、技術、進歩によって引き起こされた環境危機は、さらなる現代化、さらなる高い技術、さらなる進歩によって解決されるだろうというものだ。

こういった考え方は一般によく知られており、ジョン・ドライゼック氏が1997年の著書「地球の政治学」の中で指摘している「プロメテウス派」と同じものである。しかしここである問題に直面する。それはこの考え方に甘んじていると、経済界がいつものようにその役割を果たすのをのんびり見ていればよいと私たちが思ってしまうことだ。個人レベルでは何もしないという考え方は魅力的だ。なぜなら、より楽観的で緩い世界観を持った人々の共感を得られるからである。

しかし、もっと疑い深く、差し迫った地球規模の問題に対して悲観的に見ようとする人々なら、現在の地球は、何か新しい基本システムへの移行を必要としている兆候を見せていると考えるだろう。そしてそのためには私たち自身の行動の変化が必要とされる。もちろん新技術がこの難題の解決に役立つかもしれないし、その分野の第一線にいる人々の役割は大きい。しかしある種の考え方を持った人々(例えば持続可能な発展の専門家であり本も書いているティム・ジャクソン氏のような)が説得力を持って主張してきたように、この問題を解決するカギは、進歩とか繁栄という言葉の持つ意味を私たちがもう一度定義し直すことかもしれない。

そして自然科学者で環境保護活動家のデイヴィッド・コロビツ氏の助言どおり、もし私たちが実際にこの転機の火付け役となるなら、毎年のように最小の資源で最大の効果を出さねばならないし、悲惨な結果に直面する場面もでてくる。しかしそうしていくうちに、現在の生活習慣を維持することは、ほとんど意味がなくなっていくだろう。たしかに他の人がやっていないのに自分が行動に移した場合、すぐに「環境保護論者とか左翼とか活動家」といったレッテルを貼られてしまうという問題はある。しかしこれは変化を起こすために、必要性を否定し、自分の意志の力を疑うことで、私たち人間が見つけた新しい選択肢である。

シンプルな解決法が最良?

こうした私の考えの背景には、Simplicity Institute のサミュエル・アレクサンダー氏、テッド・トレイナー氏、サイモン・アッシャー氏によってつくられたThe Simpler Way(よりシンプルな方法)というイニシアチブに感銘を受けたという事実がある。彼らは無駄のない暮らしを送るための実用的なアクション・プラン(行動計画)を示してくれている。それは私が自分の暮らしの中で実行できるカテゴリーに関しての提案であり、それぞれ5~6種類の実用的なアドバイスがある。そのカテゴリーには、依、食、住、エネルギー資源、お金、テクノロジー、ゴミ、移動手段、水、仕事と時間、コミュニティー、積極的な活動、政治、気づき、態度などがある。提案の多くは目新しいものではないが、上手い具合にひとつにまとめられている。

このアクション・プランの中に次のような言葉がある。「この文書の冒頭に何百という実用的アイディアが出てきます。しかしどのアイディアも独創的に解釈され、また各人に合わせて活用されることが必要です。私たちの文書は読者の皆様の独創的な考えにはとても及びません」

よし、分かった。それならば私は自分らしい発想で、自分の暮らしの無駄を省く努力をしよう。そういえば「仕事と時間」のカテゴリーで、「就業時間を減らす努力をする」「週に1度は在宅勤務をする」「移動手段を使わずに通信手段を使う」という提案があった。

国連には ワーク・ライフ・バランス 政策がある。これはコフィ・アナン氏が事務総長であった2003年にできた。現在、この実現化のために何がされているのだろう?2011年の国連職員の調査によると、フレックス制度の可能性について認識している職員の割合は43%に留まり、その中で実際に在宅勤務を申請した人はもっと少数で全体の18%しかいなかった。シフト制を利用している者は10%、仕事のスケジュールを圧縮している者は9%、社外学習のために休みを計画している者は3%に留まった。この現状はプラスの変化をもたらす場合によく起きる2つの問題を実証している。それは、まず何が可能なのかを理解し、さらにそれを実行するための一歩を踏み出す必要があるということだ。

移動手段に関してオーストラリア発祥のSimplicity Instituteが私に提案してくれたのは、自転車を購入すること(すでに購入した)、公共の乗り物を利用すること(東京では便利で簡単な方法)、自動車を使わないことを考えること(まだ時々運転している)、そして飛行機を頻繁に利用しないこと(これも努力はしてきた)である。私はどうしても飛行機に乗る必要がある時は、少なくともカーボン・オフセットを少し余分に支払うことを検討しようと思う。

興味深いことにカーボン・オフセットは、環境マネジメントシステム(ISO14000)の下、国連大学でずっと話題にされてきたが、いまだに話し合いの段階から先には進んでいない。私は国連組織すべてに対して、カーボン・ニュートラルを重要な目標に掲げるべきだと指摘したい。これはとても進歩的なアプローチであり、国連全体の中でもっと広く達成に向けて努力されるべきだ。すべての人がこれを自覚し実行する必要がある。

The Simpler Wayの食に関する提案は次のようなことである。「できる限り自分自身が食べるものだけ」を育てること、「コミュニティー・ガーデンの利用」、「地元の農家の市場に対する支援」、「肉を減らし、乳製品と魚の消費を増やす」、「菜食主義になることを検討する」、「パンや保存食を自宅でつくる」

東京に住んでいる私たちには、何かを育てるといっても十分な場所がない。その昔、私の家族は家の小さなベランダでピーマンとトマトを育てていたが、今こそそれを復活させる時だと思う。私たちはコミュニティー・ガーデンについて考えてきた(そして同僚にはすでに始めている者がいる)が、これもまた、皆の忙しいスケジュールを調整して庭仕事に組み込まねばならない。

すでに申し上げたが、私は以前より肉の消費量を減らして現在の食生活を向上させた。時にはパンを焼くこともあるが、保存食づくりには挑戦したことがない。今でも毎週、国連大学のキャンパス内で素晴らしいファーマーズ・マーケットが開催されている。ここでは各地の農産物を買うことができる。この忙しい街、東京で、よりシンプルな暮らしへの動きに自分が参加しているというのは実に興味深い。


小さな努力の積み重ね

The Simpler Wayの提案は感心させられるほど長いリストになっている。そのため実際に自分にできることはどれか、またどれくらいの時間を使うのが現実的なのかを見定めるにはもう少し時間がかかりそうだ。しかしThe Simpler Wayチームによると、急激に変化させることはよくないらしい。一晩だけで終わるのではなく、継続的に取り組まねばならないのだ。ダイエットと同じで、急激に痩せるとリバウンドする可能性がある。つまり急激に暮らしの無駄を省くと、ストレスが溜まったり、ギブアップすることになるらしい。これについてはThe Simpler Wayのウェブサイトに多くの体験談が載っているので、参考にしようと思う。

中にはThe simpler Wayの提案はありふれた温情主義であるように感じる方々もいるだろう。例えばお金に関するアドバイスの中には、「自分の財力の範囲内で暮らそう」や「借金をやめよう」といったものがある。私はどちらも実践できているが、中には大変だと感じる人もいるだろうし、そういう人たちがこの提案を読んでどう感じるか疑問である。恐らく「できることならそうしたいよ!」とか「どうしてこんなにお金を使い込んでしまったのだろう?」などという反応が返ってくるだけだろう。

The Simpler Way の中で著者は、「化石燃料の使用やがらくたやゴミを減らし、さらに人をやる気にさせて満足させることに時間を使う暮らしを描いている」。その通りだと言いたいところだが、そう言い切れるだろうか?まずは行動に移すしかない!

昨年の大地震と原子力発電所の事故後初めての夏、東京では電力不足のため15%の電力消費量削減に迫られた。通常ならばこれほど大きな削減は、暮らしを急激に変化させる必要性があるので、社会的に受け入れられないと反対されるところであろう。ところが私たちはこれを成し遂げた。私の職場では国連大学スーパー・クール・キャンペーンなるものが実施され、室内の温度は26度から28度に設定された。終始エアコンの代わりに扇風機を利用し続け、結果的に目標は達成され、大学としても電気料金を減らすことができた。

今年1月、千葉商科大学の鮎川ゆりか教授が私たちの講座で講義をしてくれた。その中で、東京のさまざまな場所で起こっていたことについての説明があった。彼女の話の詳細は次の通りだ。まず電車の本数が減り、駅の電灯が消え、エスカレーターが止まった経緯について。工場の稼働が平日から週末になり、店は営業時間を短縮し、ATMの24時間利用が中止されたこと。人々が通勤に自転車を利用し始めたこと。就業開始時刻を早朝に変更し、夕方早い時刻に帰宅する人々のこと。また地元のビアガーデンで普段より長い夜を楽しむ2人の若者の写真も紹介された。

これはあまり不便を感じることなく、電気消費量を減らす方法を学ぶ良い教訓となった。そして今年の夏も同じようなことが行われるだろう。

資源の利用を減らし、エネルギー消費を抑え、地球への負担を減らすことは必要であり、そのための努力をすることもできると思う。しかしこうした努力を続けることで、この先何か困難に直面した時に、それを対処し、乗り越えることができるのだろうか。正直に言うと、私にもわからない。しかし何もやらないで「同じことが続く」のを見ているよりは、少しでも行動を起こす方が気分的に楽になる。あなたならどうするだろうか?

翻訳:伊従優子

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シンプルな生活から緑豊かな未来へ by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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