パワーアップかパワーダウンか?それが問題だ

最近、私が読んだところによると、21世紀における私たちの課題はエネルギー需要を3倍に増やし、「それによって、世界の最も貧しい人々が現代的な生活水準を享受できるようにすること、その一方で、エネルギー生産からの二酸化炭素排出量をゼロにすること」だという。ブレイクスルー研究所のテッド・ノードハウス氏とマイケル・シェレンバーガー氏の著作物にはおおいに敬意を表するが、件の記事については、どうすればその課題の克服に乗り出せるのかを説明する参考文献にリンクを貼っておいてもらえればありがたかった。

この記事を読んだ他の人たちも同じように感じたらしい。ある人は議論に飛び込んできて、次のような質問をした。「ブレイクスルー研究所が提唱する気候変動問題のソリューションで、現状維持を声高に奨励するわけではないものを詳しく説明している他の記事はありますか?」 この質問に対して、ある人はすぐに次のようなコメントを寄せて、私たちに2つの選択肢があることを示した。

「ひとつは、非規制市場の望むまま、化石燃料をできるだけ早く、たとえばY年間で使いきってしまうことだ。そしてもうひとつは、今や効力を失った京都スキームのような監督制度を設けて消費をはるかに低く抑え、炭素燃料を使いきるまでの時間をZ x Y年にすることだ」

重大な疑問は、それぞれのシナリオで気温はどうなるのか、そしてその計算の科学的な根拠はどのようなものかということだった。

この2つのシナリオを私は「パワーアップ」「パワーダウン」と名づけようと思う。「パワーアップ」はノードハウス氏とシェレンバーガー氏が言及したシナリオだ。何も手を打たず従来通りにするということだが、1つだけ前提がある。それは、これらの化石燃料を使えるのは、二酸化炭素の排出量がゼロになるという条件下においてのみということだ。そう言ったのは彼らであって、私ではないが、その理由は単純である。化石燃料によるエネルギー生産からの二酸化炭素排出を攻略する方法を見つけられなければ、地球が揚げ物になるだろうということに関しては科学的な合意がある。この点については後で、米国エネルギー省が2006年に発表した論文を引用して説明したい。

“「パワーアップ」はノードハウス氏とシェレンバーガー氏が言及したシナリオだ。従来通りにするということだが、これらの化石燃料を使えるのは、二酸化炭素の排出量がゼロになるという条件下においてのみである。”

2番目のシナリオは「パワーダウン」と呼ぶことができる。これは、ポストカーボン研究所のリチャード・ハインバーグ氏の言葉を借用したものだ。彼は2004年、その言葉をタイトルに「Power Down: Options and Actions for a Post-Carbon World (パワーダウン:ポストカーボン世界の選択肢と行動)」という著書を発表した。しかし、このシナリオをどのように実現するかの詳細の説明には、2008年にソール・グリフィス氏が発表したThe Game Plan: A solution framework for the climate challenge(ゲームプラン:気候変動に対するソリューションのフレームワーク)を挙げたい。

世界はどれほどのエネルギーを必要とするのか?

さて、おそらく、ブレイクスルー研究所のウェブサイトあるいは彼らの出版物のどこかで、ノードハウス氏とシェレンバーガー氏は、どのようにすれば世界のエネルギー供給(私としては、供給が結局は需要を制限するのだから、需要や消費よりは供給の方が良い言葉として響く)を3倍にできるかを示す計算式を掲載していると思うのだが、残念ながら、私には何も見つけられなかった。

しかし、インターネット検索により、ラッキーなことに、2006年に米国エネルギー省のジェフ・ツァオ氏がカリフォルニア工科大学のネイト・ルイス氏およびアルゴンヌ国立研究所のジョージ・クラブツリー氏(なかなか豪華なグループだ)と協力して執筆した論文を見つけた。彼らはパワーアップのシナリオについて挙げられた疑問にわかりやすく答えていた。それらの疑問は以下の通りだ。

特筆すべきことに、彼らは議論の起点として、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の予測を用いている(これで気候変動懐疑論者はもうあれやこれや言い出すだろう)。だが、ここではとにかく答えに進むことにする。

彼らの予測によれば、世界の人口が104億人になるとすると、エネルギー消費量は2001年の13.5テラワットから2100年には43テラワットと3倍に増える。これはノードハウス氏とシェレンバーガー氏が述べていたことに完全に一致する。

二酸化炭素の排出量については、今の世界のエネルギー消費レベルでは、関連する二酸化炭素排出量は2001年の年間6.6ギガトンから年間13.3ギガトンに増加する。

大気中の二酸化炭素濃度についても明快に述べられている。基本的な議論は、年間6.6ギガトンの二酸化炭素排出量により、280 ppmv の二酸化炭素濃度(産業革命が始まるまでの過去1万年間、この濃度は比較的安定していた)は、直線的に増加するとすると、5倍の1,470 ppmvになる。

ちなみに、2013年5月10日、大気中の二酸化炭素濃度は400 ppmvを超えたが、この事実に関する報道はごく一部でしか行われなかった

では、ここで最後の質問に答えよう。大気中の二酸化炭素濃度を安定させるには、カーボンニュートラルなエネルギー源からのエネルギー供給が2050年までにほぼ15テラワット、2100年までにはほぼ30テラワット必要になる。単純に言えば、2050年までに、2001年にすべてのエネルギー源を合わせて利用可能になっている全エネルギーを超えるカーボンニュートラルなエネルギーを作り出さなければならないということだ。しかし、ノードハウス氏とシェレンバーガー氏はさらに一歩進めて、2100年において求められる43テラワットのエネルギー供給をすべてゼロカーボンにしなければならないという。それをどう達成するかの答えにおいて重要なのは、原子力エネルギーの推進である。

“単純に言えば、2050年までに、2001年にすべてのエネルギー源を合わせて利用可能になっている全エネルギーを超えるカーボンニュートラルなエネルギーを作り出さなければならないということだ。”

こういうことだ。パワーアップのシナリオははっきりした。上述した2006年の論文よりも新しい論拠を挙げようとすればできないことはないのだが、私たちの質問に対する簡潔な答えはこれで示された。ここで突っ込んだ議論ができない細かい部分も多くあり、不確定な要素もたくさんある。だが、いずれにしても、このシナリオには明快なメッセージがあると思う。基本的に、現在のエネルギー消費を13テラワットのパイだとするなら、このシナリオでは、2100年に世界の人々にエネルギーを提供するために、さらに2つのパイを焼かなければならないということだ。すべての人のためにはもっとパイが、しかもゼロカーボンのパイが必要なのである。

このシナリオでわからないのは、材料として、原子力、石炭、ガス、太陽光、風力などのうち、何が想定されているのかだ。さらに、もし3つのエネルギーのパイを焼くなら、材料の多くが尽きても、続けられる限り、パイを焼き続けなければならないことも問題である。

では、パワーダウンのシナリオは?

このシナリオについては、私たちはOur World 2.0でこれまで数多くの記事を書いてきた。たとえば、日本で進められている低炭素社会研究プロジェクトに関する洞察も紹介した。 このプロジェクトは2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減することを目指している。また、スイスの2000ワット社会構想も取り上げた。この構想を提唱した研究者は、世界の誰もがエネルギー消費を2000ワットにすべきだと考えている。今日のレベルは米国では1万ワットなので、そこからは引き下げ、バングラデシュでは200ワットなので、そこからは引き上げていいことになる。

また、2012年6月の記事では、ソール・グリフィス氏の「ゲームプラン」提案についても議論し、 さらに野心的なエネルギー変革を提唱する論者が他にもいることについて触れた。たとえば、スタンフォード大学のマーク・ジェイコブソン氏とマーク・デルーチ氏は 「2030年までに持続可能なエネルギーを実現する方法」で、再生可能エネルギーだけで世界の需要は賄えると述べている。

しかし、グリフィス氏の「ゲームプラン」で興味深いのは、原子力エネルギーを排除していない点だ。彼はまた以下の問いにも触れて、ゴールを具体的に示している。

ここでもやはり、IPCCの予測が基準点に使われており、グリフィス氏は大気中の二酸化炭素濃度の数値をさまざまに変えて、その影響を考察している。最終的にはじき出したのは450 ppmvで、関連して予想される気温上昇は2度である。

それから彼は現在のエネルギー生産力を世界規模で調査し、バイオマスを含めて、2008年には18テラワット程度であると述べた(上述の13テラワットより多いのはバイオマスを含めたからである)。その内訳は、化石燃料が11.8テラワット、バイオマスが5.2テラワット、原子力が1テラワット、わずかに残る0.4テラワットが再生可能エネルギーだ。

続いて彼はさまざまなエネルギー源の潜在可能性を評価し、450 ppmvの目標を確実に達成するエネルギーミックスは以下の表のようになると結論づけた。

energy-mix-2033-jp
ここで最初に注目すべき点は、エネルギー消費の総量が15テラワットに抑えられていることだ。次に、原子力が全体で4テラワットと大幅に増加している一方、化石燃料は2テラワットに減少していることが目につく。残りが再生可能エネルギーとカーボンニュートラルなバイオ燃料だ。だが、この移行を確実にするには、私たちは基本的に全産業界にシステムの方針転換を促し、たとえば飛行機の代わりに風力タービンを、フラットスクリーンのテレビの代わりにソーラーパネルを、車の代わりに地熱蒸気タービンを作るように仕向けなければならない。

なお、このエネルギーミックスを25年で実現するためには、3ギガワットの原子力発電所を毎週1基、100メガワットの蒸気タービンを毎日3基、3メガワットの風力タービンを毎時12基、太陽光パネルを毎秒100平方メートルずつ建設し続けなければならない。

これは桁外れに大きな課題だ。しかし、必要になる政治的および社会的変革に比べれば何でもないことかもしれない。パワーダウンシナリオの主要な問題は、90~100億人の人口で分け合うエネルギーが15テラワットしかないということだ。つまり、1人あたり2000ワット程度である(これは現在のメキシコあるいは1960年代のヨーロッパのエネルギー消費レベルである)。世界の終わりというわけではないが、ある種の生活は間違いなく終わるだろう。

しかし、ここでやや残念なニュースをお伝えしなければならない。スイスで進められていた2000ワット社会の実験のことだ。2008年以降、スイス連邦材料試験研究所(EMPA)とチューリッヒ工科大学(ETH)の研究者は、 2000ワット社会のパイロット地域であるバーゼルとチューリッヒで、3,369世帯を対象に調査とライフサイクル分析を行っていた。そして先月、彼らは2000ワットの目標値を達成したのは対象世帯の2%だけだったと報告したのである。結果は、「模範的な」1人あたり1,400ワットから目標の10倍の2万ワットと大きな差があった。

2000ワット社会の実験は失敗に見えるかもしれない。しかし、エネルギー消費量を抑えた家庭がどの所得層にも存在したことは、研究者の励みになっている。つまり、「高い生活水準でもエネルギー消費を低く抑えることは可能」という結論が導き出されるのだが、そこに至るには「最大限の努力」を要する。

あなたはどちらのシナリオを支持するか?

どちらのシナリオも明快で、それぞれ違うところで気持ちがひるむ。個人的には、ノードハウス氏とシェレンバーガー氏の提唱する、従来通りに突き進むパワーアップシナリオは、パワーダウンシナリオより呑み込みにくい。これは私自身に野心的な精神が欠けていることを反映しているのかもしれない。

私はアンドリュー・シムズ氏が2013年に発表した著書「Cancel the Apocalypse(世界の終わりを回避せよ)」の内容にかなりの部分で賛成する。彼は次のように書いている。「拡大するグローバル経済により、私たちは自然の限界からすでに押し出されている。しかし、資本主義はそのような境界などに一切敬意を払わない。資本主義は限りない蓄積と成長、それに徹底的な資源の利用と一体なのだ」

ノードハウス氏とシェレンバーガー氏が推奨しているのは無限に拡大する経済で、なんとかすればそれをカーボンニュートラルでやれると言うのだが、その技術はまだ存在しないか、立証されていない。

シムズ氏はやはりパイの比喩を用いて、次のように述べている。「最終的には成長はあるシステムの中においてのみ可能で、そこには物理的に限界がある。そうすると、単純な理屈で、物質的な生活水準を向上させようとするなら、貧しい人々がより優れた、より公平な配分を必要とする。だが、これ以上大きなパイが焼けないのであれば、すでに持っているものをうまく分け合うことができなければならない。そして、それができないとなると、貧しい人々に分け前はないと宣告するか、生命の根源である生態系に過度の負担をかけて破綻を引き起こさせるかである」

このような主張に対して、ノードハウス氏とシェレンバーガー氏は「だから、私たちはパイをもっと焼くしかない。そうしなければ、貧しい人々を究極の窮乏と貧困に陥らせることになってしまう」と言うかもしれない。彼らはこのように述べている。

「かつて、社会的正義は、すべての人たちが現代的で快適な生活を公平に手に入れられることと同義語だった。つまり、電灯があれば、貧しい子どもたちでも夜間に本が読めるようになり、冷蔵庫があれば、保存してあるミルクがいつでも飲めて、洗濯機があれば、女性は手を荒らしたり、腰を痛めたりせずにすむ。マルサスは何世代もの社会主義者に冷酷な特権階級の思想の持ち主として非難されていたが、それは当然だ。彼らに言わせれば、マルサスはエリート主義を擬似科学のマントの下に隠し、自然には、飢餓に苦しむ人々をこれ以上養う余裕はないと主張したのである」

「世界で貧困に苦しむ人々のために現代のエネルギー、つまり旧世代の社会主義者であれば祝福するであろう、まさに求めていたものが、ついにもたらされたというのに、今日の有力な左翼リーダーはエネルギーがなかった時代に戻ろうと呼びかけている」

なんということだ! しかし、このような主張に対して、シムズ氏はノードハウス氏とシェレンバーガー氏こそ「科学的な人間の進歩に即し、経済的かつ政治的に中立な選択肢として差し出された、大規模で中央集権的でトップダウンの技術解決策」を提示していると糾弾するかもしれない。

明らかにどちらのエネルギーシナリオでも政治的に中立な選択はできない。シムズ氏はノードハウス氏やシェレンバーガー氏に会ったことはないが、討論が行われれば興味深いものになるはずだ。ソール・グリフィス氏にも加わってもらえば、なおのこと良い。

しかし、こういった議論のすべてから引き出せるのは、パワーアップでもパワーダウンでも、大規模な社会・経済・政治的変革が必要だということであり、それは世界のかなり多くの人々(特に欧米の豊かな社会)にとっては容易には受け入れがたいものだろう。選択肢は明快だ。限りあるエネルギーを使い尽くす、あるいは気候を破滅に追いやる危険性を高めることになると知りつつ、もっとパイを焼く約束をするのか。それとも、より良い生活を送りたいという夢を多くの人から奪い、また必要とされている規模では、過去において、そのような共有の仕組みが効果的に機能した例はほとんどないと知りつつ、差し出すパイを減らすのか。

しかし、どこかに嬉しい中道があるかもしれず、潘基文(パン・ギムン)国連事務総長は「すべての人のための持続可能エネルギー」イニシアチブの枠組みの下でそれを見つけようとしている。このイニシアチブでは2030年までに3つの目標を達成することを目指している。

  1. 現在、電気あるいはクリーンな調理用燃料を手に入れることができない30億人の人々に、現代的なエネルギーサービスを提供する。
  2. 世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合を30%に増やす。
  3. エネルギー効率を2倍に向上させ、2010年から2030年までの年間平均を2.4%にする(過去の年間エネルギー効率は1.2%)。

そして、地球温暖化を2度までに抑えつつ、これらの目標を達成する可能性についての分析が、ETHおよび国際応用科学システム解析研究所の研究者によって行われた。

彼らは500種類のシナリオを検討し、2030年までにこれらの3つの目標をすべて達成することは、地球の温度上昇を2度に抑えることにも相反せず、「高い確率で」成功する見込みがあると結論づけた。

だが、彼らはいくつかの主要な課題も強調した。

第一に、「将来のエネルギー需要の伸びが比較的低いシナリオにおいてのみ、エネルギー効率性に関する目標は達成できる」ことだ。

第二に、「そのような需要抑制には一連の強硬な政策でエネルギー消費に対する行動の変化を促進しながら、厳密な効率規制、技術標準、環境コストのエネルギー価格への盛り込みを早急に導入することが必要」ということだ。

第三は、「これらすべてを達成するには、大規模な社会的および政治的取り組みが強く求められる」ことである。

つまり、パワーアップ、パワーダウン、中道のどの道を進むにしても、私たちが途方もなく大きな課題に直面しているということは間違いない。だが、この変化を起こすことができれば、そしてもし、私たちがエネルギーシステムを本当にゼロカーボンに変えて、すべての人に持続可能なエネルギーを提供できるのであれば、黄金色に輝く時代が待っている。もっとも、はっきりしていることだが、時間は私たちの味方ではない。

さて、この記事はハムレットの台詞で終わらせたいと思う。この台詞が私たちの状況にどのようにあてはまるかは説明するまでもないだろう。

「どちらの道をゆくべきか、それが問題だ。

荒ぶる運命に投げかけられる石や矢を

心の内で耐え忍ぶのが高貴というものか、

あるいは武器を手にして困難の渦巻く海に臨み、

抗い、鎮めるべきなのか」

翻訳:ユニカルインターナショナル

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パワーアップかパワーダウンか?それが問題だ by ブレンダン・バレット is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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  • sgw

    パワーアップシナリオなんて考えられるアメリカ人のフロンティア精神には敬服するばかり、願わくは、それはSimCityのシミュレーションの中だけで実施して満足することを。