観光の危機

毎年、春と夏に北極の海氷が海に崩れ落ちていく様子が、世界中で数多く報道されている。この海氷の融解の原因は、人間が引き起こす地球温暖化にあると科学者たちは言う。


現在では、北アメリカ、ヨーロッパ、ロシアを結ぶ新しい航路として、これまで完全凍結していた北極海を抜ける航路が注目されているほどだ。同様に、北極グリーンランドの氷床は崩壊しつつあり、ヒマラヤやボリビアの氷河も融解している。

これらの現象は遠く離れた場所だけで起きているわけではない。日本の北端に位置する北海道のオホーツク海沿岸という、我々にとって身近なところでも影響が出てきている。

オホーツク海は北極海氷が見られる場所として、北半球では最も低緯度に位置する。毎冬、流氷は北極を南化し、樺太の東端沿いを流れて、1月半ばから下旬にかけて北海道にやってくる。流氷が最もよく見られるのは2月後半だが、3月下旬あるいは4月上旬まで接岸している。

流氷は、北海道北部沿岸の網走市などでは重要な観光資源となっており、流氷に関する催し物や博物館がある。また、流氷はこの地域の海洋生物の維持にも貢献している。

「流氷はアムール川からの真水を含んでいるため、豊富なプランクトンを運んできます」と、網走流氷博物館の三島幸子館長は言う。「その結果、小型の魚、大型の魚、アザラシ、そしてクジラもやってきます。オホーツク海は素晴らしい海です」

「流氷は自然現象で、人間がコントロールすることはできません。ですから、私たちはみなさんに実際に流氷を見て実感してもらいたいと思っています」と三島館長は語る。

気候変動の指針

しかし、海氷はどのように縮小しているのだろうか?温暖化によって氷が薄くなり、毎年流氷の接岸時期が遅くなっているというのが一般的な回答である。気象台は、今年の流氷の遅れは強い西風・南西風の影響によるものだとする一方で、暖冬を理由に挙げる人々もいる。

実際、海氷の縮小は過去20年の間に起きてきた現象である。最初に大幅に減少したのは1989年で、以来それ以前の姿に戻っていない。(1969年からのデータをご参照)

気候変動が報道や人々の大きな関心を集め始めた頃と、海氷の縮小が時期を同じくして起きたことは偶然ではない、とニューヨークタイムズ紙のアンドリュー・レフキン氏は言う。アメリカでは、その1年前にNASAの気候専門家ジェームズ・ハンセン氏が上院議会で、地球温暖化は実際に起きており、すでに気候が変化していると証言している。

流氷が薄くなっているのは、日本でも気候変動が起きていることを明確に意味している。今年、流氷が網走市に到達したのは例年より18日遅く、1959年以来2番目に遅い記録となった。

これは、日本で起きている様々な現象のほんの一部である。例えば、桜の開花は毎年早まっている。東京ではこの春、過去30年間の平年値より7日も早く開花した。気候変動とヒートアイランド現象が原因だとする専門家もいる。

ビデオ中のアニメーションが示すように、流氷のパターンの変化は様々な要因によって起きている。シベリアの極寒温度とアムール川の真水の相互作用や、オホーツク海が島々によって太平洋から遮断されていることも関係している。

シベリアは温暖化しつつあり、風向きが変化し、オホーツク海の海水温度も上昇していると科学者たちは言う。これらの変化は穏やかだが、流氷に影響を与え、地元の懸念材料となるには十分だ。

「流氷はゆっくりと消えつつあります」こう語るのは、北海道大学低温科学研究所の三寺史夫教授だ。「50年間で、約10%が消失しました」

また同氏は、シベリアの気温が30年間で約5度上昇したと指摘している。

「シベリアとオホーツク海の気温変化は、地球温暖化によって引き起こされたと考えています」

気温変化のプロセスについての詳細は、こちらの三寺教授のインタビューをご覧ください。


影響を受ける観光と生態系

多くの観光客は流氷を目当てに観光に訪れるが、その中の多くの人は、何が起きているのが十分にわからないまま、気候変動の最前線に立たされている。彼らは流氷が接岸しなければ、ホテルの予約を取り消してしまう。

同様の現象は、他の自然観光でも起きている。多くの日本人にとって、桜の花は文化の象徴でもあり、お花見は自然に接する特別な時でもある。満開の時期がほんの数日しかないことから、日本人も外国人観光客も何週間も前から花見の予約をするため、気象庁の正確な予測を頼りにしている。これでは、花見に出かけるのも一苦労だ。

流氷は、オホーツク海の生態系で魚の繁殖場としての役割を担っている。そのため、流氷が減少すれば、様々な影響が出てくる。

「流氷の減少は、環境に多くの影響を及ぼします」と松寺教授は述べ、その影響のひとつに鉄分不足を上げた。鉄分は植物の光合成やプランクトンの成長にかかせない。「鉄分なしには光合成が起きません。そうすれば海洋・漁業資源に影響が出るでしょう。」

コペンハーゲンへの働きかけ

この地域の経済は、流氷に依存している。すでに、流氷砕氷船の利用客やその他の流氷関連の催し物に参加する観光客数は落ち込み、ホテルのキャンセルも出ている。これを受けて、地元ではより環境を意識するようになった。

グリーンツーリズムは新しい発想ではない。私たちの多くは、タオルやシーツを毎日取り変えず、石鹸やシャンプーをあまり使わないのがグリーンツーリズムだと思っている。しかし、網走市内のホテルでは、これよりさらに進んだ取り組みを行っている。皆が一丸となって、二酸化炭素排出量の削減に取り組み、流氷を守る、あるいは少なくとも流氷の減少速度を遅らせようと努めている。例えば、二酸化炭素を削減するために冬でも室内の温度設定を20度に抑えるなどの工夫をしている。

これらの活動は、網走市観光協会と地元住民が設立したオホーツク流氷トラスト運動によって支持されている。彼らの活動はすぐに広がったと、網走市役所の柏木邦子女史は言う。

「2007年12月にこの運動が正式に発足した頃は、参加ホテルは40軒のみでしたが、今では79件のホテルや旅館が参加しています。」

特に、この運動は昨年北海道で開催されたG8サミット前に、「流氷を救おう、地球を救おう」のスローガンの下で環境意識を喚起した。当時、流氷の減少はマスコミの注目を浴びたが、2009年に入り、この問題は見落とされがちになっているようだ。

「流氷を通じて、人々にこの地域や環境について考えてもらいたいのです」と柏木氏は言う。「どんなに小さなことでも行動は起こせますし、些細なことにみえても、私たち一人一人が二酸化炭素排出量を削減すれば、流氷の保護につながります。」

しかし、流氷減少の速度を緩めるために真に必要とされているのは、地球規模での温暖化ガス排出量の大幅な削減である。大気中の二酸化炭素濃度を削減し、約350 ppmに安定させるようにと提案している科学者たちもいる。(現在は390 ppmに迫りつつある

したがって、2009年12月に開催されるコペンハーゲン会議では、意欲的な政策を打ち出す必要がある。

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著者

2002年より国連大学メディアスタジオに勤務。環境問題に関するビデオドキュメンタリーやオンラインメディアの制作を担当している。

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