食糧改革を阻止する企業に国連が警告

国際連合食糧農業機関(FAO)のディレクターは、「強力」で巨大な食糧関連企業によるロビー活動が人々の健康や環境を改善する改革を阻止していると警告した。

サミュエル・ユッツィ博士がロンドンで発表したこの公式声明は、産業の規制に関する政治的決定に対して巨大なアグリビジネス企業や食糧生産企業が持つ過剰な影響力を不満に思い続けてきた活動家たちに歓迎されるだろう。また、食糧関連セクターは水資源の世界最大の利用者で、環境汚染の主要源で、生物多様性を脅かす存在であり、さらに肥満や病気を引き起こす重要な原因でもあるとする意識が広まりつつある。

Compassion in World Farming(CIWF、英国の畜産動物福祉団体)の定例講演においてFAOの動物生産・保健部ディレクターであるユッツィ博士は、強力なロビー団体が時には何年も政治的決定を先延ばしにし、改善案を「骨抜きにする」ことができると話した。また、FAOはコンセンサスに基づいて活動するため、ロビー団体はわずか2~3カ国の政府に改善案を阻止するよう説得できれば、目標を達成できてしまうのだという。

「私はこの20年間、健全な農業のための指針と規範の作成に努める国際機関に所属してきました。しかしロビイスト、すなわち本当の権力組織の影響により、現実的で本質的な諸問題が政治的プロセスで議論されていないのです」とユッツィ博士は話した。

さらに彼は、ロビー団体の強力な介入による影響力を2009年12月コペンハーゲンで開催された国連気候変動会議での失敗と比較した。「目標に向かってほんの少しずつでも前進しようとしているのに、こういった経過をたどるうちに、私たちの多くは希望を失ってしまいがちなのです」と彼は付け加えた。

2050年までに食糧生産量を2倍にすると同時に、水や土地やエネルギーの不足を補うには、世界の農業のあり方を改革する行動が不可欠だとユッツィ博士は言った。

家畜産業の阻止活動

講演後のガーディアン紙との会話で、ユッツィ博士は企業によるロビー活動のパワーの1例を挙げてくれた。それは2年前に家畜産業における任意の行動規範が提案された際に起こった阻止活動だ。この提案は、家畜の健康状態のよりよい標準値を導入していた国や、長期的な損害を避けるために一定の土地面積に対する家畜の頭数などを定めた規制を導入していた国にとってはメリットになるはずだった。しかし、数カ国がより多くの証拠と報告を要求したため、任意の行動規範が実際に履行されるまでには恐らく10年はかかるだろうと、ユッツィ博士は言った。

「私たちは非常に深刻な問題に直面しました。まさにその時、ロビイストたちの経済的な利権が背後に絡んでいるからこそ、ある一部の政府が実に強固な反対姿勢をみせるのだと気づいたのです」

“民間企業の中には、家畜産業の主要な利権を持つ国の政治家よりも進歩的な企業があることも分かっています。”

サミュエル・ユッツィ博士


また、2006年「Livestock’s Long Shadow(家畜の長い影)」と題された主要な報告書が発表された後(この報告書が出した推計には、人間による温室効果ガスの総排出量のうち、3分の1近くは畜産業界によるものだとする推計もあった)、「信じられないほど激しい攻撃を受けました」とユッツィ博士は聴衆に話した。

ユッツィ博士は企業名や国名の明言を控えたものの、すべての企業がFAOの活動を妨害しているわけではないとして、一部の産業界を擁護した。「民間企業の中には、家畜産業の主要な利権を持つ国の政治家よりも進歩的な企業があることも分かっています」とガーディアン紙に語った。

CIFAの広報責任者であるジョイス・ドシルバ氏は次のように語る。「CIWFのような組織は、FAOや他の国際機関との対話に参加しています。しかし私たちの資金は限られているため、例えば諸機関が提案する動物の福祉に関する改善案に敵対する、メジャーなアグリビジネス企業や政府の資金や予算には、とてもかなわないのです」

「特定の商業セクターだけが得をする利権が、何万人もの市民の価値観と強い希望を代弁する組織よりも大きな影響力を持ち得る」のは「恐ろしいことです」と彼女は付け加えた。

何十年も前からある問題

ロンドン市立大学で食糧政策を研究するティム・ラング教授は、FAOや世界保健機関といった国連組織で何十年も行なわれている企業のロビー活動が懸念されているという。この問題は、民間企業の権力が広く受け入れられたことでさらに悪化しているそうだ。

ラング教授はもう1つのロビー活動の成功例を挙げた。2000年の欧州委員会による重要な報告書で、健康的な食料や飲料についてアドバイスを与える目的で編まれた「Eurodiet」が、ロビー活動によって骨抜きにされ、その影響力を弱められてしまったという。

「私たちは過去25年間、ある経済パラダイムに則ってきました。それは市場が優先し、グローバル・パワーが未来を握るのだとするパラダイムであり、卓越したグローバル・パワーとは国ではなく企業だとするものです」とラング氏は言った。「ユッツィ博士が言及したのは、食肉業界や畜産業界で行なわれてきた儀式化した手段のことです。彼が言及しなかったとしたら驚いたでしょうが、発言してくれたことは本当にすばらしいことです」

ユッツィ博士は、ロビー活動が政府を通じて影響力を発揮する点を強調していたが、ラング氏によると企業の権益は、関係者たちが定期的に密接なコンタクトをとることによって国連組織の中にも「埋め込まれて」いるという。「その人達はロビー活動を熱心に行なう必要もなく、ほとんど権力構造の一部となってしまっているのです」と彼は言った。

問題はあるにせよ、ユッツィ博士は改善の余地は大いにあると言う。「必要な政策方針が実行されれば、食糧関連セクターは、より持続可能で責任ある発展への軌道修正のチャンスはたくさんあります」と彼は話した。

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この記事は2010年9月22日水曜日、英国標準時14時12分にguardian.co.ukに掲載されたものです。

翻訳:髙﨑文子

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