気候変動懐疑派に米軍が宣戦布告

気候変動に立ち向かうための米国連邦法案は、気候変動が科学的に実証されたわけではないと主張する議会の反対派につぶされ、当面は実現する望みはなくなった。そこで明らかになったのは、気候変動に関しては、結論をすでに出し、今後もその結論を変えないであろう人たちがいるということだ。私たちが科学的事実をどれだけ積み上げても、彼らが自分たちの周囲に張り巡らせたイデオロギーの要塞を乗り越えることはできない。だが、幸運にも、とびきりの切り札が登場を待っている。米国の国家安全保障の枠組みだ。

私は2006年に、”Communicating Climate Change(気候変動をめぐるコミュニケーション)”を主題にナイロビで開催された国連気候変動会議に出席した。気候変動に関する政府間パネルのラジェンドラ・パチャウリ議長、極地研究の権威として知られる科学者のポール・プレスタッド氏らと共に、気候変動とその影響の重大さをより高い精度で伝えられるかを検討するのが目的だった。

パネル開始の1時間前に、私たちは気候変動否定派の難物、ジェームス・インホフ米上院議員(共和党所属、オクラホマ州選出)のコミュニケーション・ディレクターが、ごり押しで演壇にたどり着いたことを知った。突然乱入してきたこの人物は、気候変動が事実であり、その原因は人間であるという広く認められた科学的コンセンサスが偏見であるとこぼし、パネルを乗っ取りにかかった。掲げられた議題について討議する代わりに、彼は気候変動の科学的存在への疑問を投げかけ、自身の事務所が出版した『A Skeptic’s Guide to Debunking Global Warming Alarmism(地球温暖化警鐘論の誤りを暴くための懐疑派向けガイド)』を振り回しながら、様々なパネリストを個人攻撃したのだ。

討議の時間には、インホフの右腕たるその男に、さまざまな国から集まった聴衆が誠実な態度をもって、最新科学が彼の世界観を否定していること、そして科学者は次の研究資金の獲得を狙う餓えた徒党ではないということを納得させようとした。だが、彼は頑強にも微動だにしなかった。

それから5年後、時軸が屈曲したかのように、2006年の政治的な約束はうやむやのまま棚上げされている。2011年には、米国以外の世界中が受け入れた、IPCCの気候変動に関する科学的コンセンサスを無視する新たな動きも出てきている。ヘンリー・ワックスマン下院議員(民主党所属、カリフォルニア州選出)が、気候変動が主に人間の活動が原因で起きており、公衆衛生に深刻なリスクをもたらしているということへの認識を下院の記録に残そうと、2011年エネルギー税防止法の修正を試みたが、結局、否決されたのだ。党の結束を破って賛成票を投じた共和党所属議員はひとりだけだった(ワシントン州選出のデヴィッド・ライカート議員)。

軍による援護

対抗勢力は、意外なところから出現した。米軍だ。マイケル・マレン統合参謀本部議長の特別補佐官2人により書かれた最近の報告書「A National Strategic Narrative(国家戦略構想)」(pdf)は、「安全保障とは防衛のみに留まるものではないことを私たちは認識しなければならない」と論じている。そして、「包囲の戦略から持続(持続性)の戦略」への移行が必要だとし、気候変動は「私たちの戦略環境において『新たな標準』を形作っている」と断言している。

実際、何年も前から、米国防省の高官やシンクタンクの国家安全保障の専門家らは、気候変動が現実のものであり、米国の国家安全保障上の権益を保全・向上させるためには対策が必要であることを認めていた。国防省自体、2010年2月には、4年ごとに発表される「Quadrennial Defence Review Report(国防政策に関する報告書)」(pdf)で、「気候変動とエネルギーは将来の安全保障において重要な2つの中心課題である」と明言している。そして、国防省は積極的に「気候変動が活動環境、作戦、施設に及ぼす影響を管理するための政策と計画を策定している」と記している。

海軍と海兵隊の研究を請け負う非営利団体のCNAコーポレーションも、事態の緊急性を説く国防省に同調しており、「軍事顧問団の視点から、気候変動は米国の安全保障に深刻なリスクをもたらしている」と書いている。陸軍環境政策研究所国家情報会議新アメリカ安全保障センターも、気候変動を放置することの危険と、それが地政学において意味することについて同様の報告書を発表している。

不確実性の優先

これは、木に抱きついてみせる環境主義者たちのお祭りなどではない。米軍とそのパートナーたちによる、現時点で最良の気候科学に基づいた、明瞭な計算なのだ。では、科学者と軍上層部のこの目立たぬ接近の理由は何なのだろう? その最も確実な答えは、不確実性だ。

不確実性は公正な科学が本来的に有する要素だ。しかし、政治の世界では、不確実性は否定や無為のよい口実として利用されてきた。一方で、軍は常に不確実な状況下で活動している。科学者と同様、軍人は様々なリスクの度合いを査定するために未踏の地に分け入るのだ。CNAコーポレーションによれば、軍の指導部は、「さまざまな可能性があるからといって、行動しないことを正当化はしない。リスクこそが彼らの仕事の中心なのだ」。

気候変動否定派の多くは、実際には国家安全保障の危機を常に煽ってきた人々でもあるのだが、自分たちが支持する国家安全保障の識者たちが気候変動の深刻さを認めるように主張しているにもかかわらず、無視することを選んでいる。都合のいいデータを選んでいるのはどちらなのだろう。

フレッド・アプトン(共和党所属、ミシガン州選出)議員らが、CO2の排出規制に向けた米国環境保護庁(EPA)の努力を「反憲法的な権力の濫用」だと噛みつき、政治的に脈のありそうな環境関連の法案ひとつひとつに「雇用殺し」のレッテルを貼る一方で、国家安全保障の当局者は、異常気象の脅威やその結果もたらされる食料・水の不足、大規模な人口移動について厳しい警告を発してきた。

気候変動に関する公聴会を乱発してきた米国下院エネルギー・商業委員会は、気候変動問題に前向きな国家安全保障の権威を証言者として招くべきだ。おそらく彼らなら、激しい異常気象が私たちの日常的な現実になる前に、否定派がイデオロギーで固めた要塞にいくらかの現実を投げかけられるだろうから。

• ♦ •

この記事は2011年2月20日、guardian.co.ukで公表したものです。

翻訳:ユニカルインターナショナル

Copyright The Guardian. All rights reserved.

ディスカッションに参加しよう

著者

ジュールス・ボイコフ氏はオレゴン州にあるパシフィック大学政治科学部の助教授である。社会活動や気候変動、スポーツ政治学に関する著作活動を行っており、著書には『Beyond Bullets: The Suppression of Dissent in the United States(銃弾の彼方:米国における言論弾圧)』、共著には『Landscapes of Dissent: Guerrilla Poetry and Public Space(反論の風景:ゲリラの詩と公共スペース)』がある。ボイコフ氏はサッカーの元プロ選手で、オリンピック米国代表チームのメンバーとして国際試合にも参加した。

ディスカッションに参加しよう

  • Tomoyuki Nakatsuka

    気候変動が科学的に証明されていはないという主張はこれからも存在し続けるだろう。しかし、気候変動は今現時点で起きているという事実は大方の人々に認識されているのも事実だろう。
    この記事は気候変動懐疑派に対して意外にも軍が安全保障やエネルギー政策の観点から警鐘を促しているというものである。確かに本文に「安全保障とは防衛のみにとどまるものではないことを私たちは認識しなけらばならない」とあり、また今日世界で起きているほとんどの紛争や、衝突はエネルギーがらみであるのも事実である。しかし、そもそも軍は国を守るものであり、軍が考える安全保障が必ずしも国際社会が考える環境政策と一致しうるとは限らないのではないだろうか。
    国防の観点から気候変動を考えるというアイディアは、気候変動が国の存亡にかかわるといっても過言ではない今日、それなりの意義はあるだろうが、軍それ自体が気候変動とどう関わっていくのかは少々疑問である。