ゴミ時代のバケーション

あなたはこれを芸術を利用した反消費主義の主張だととらえるだろうか?それともスポンサーであるビール会社の「マーケティングパーティ」に過ぎないと一笑に付すだろうか。マドリードのセーブ・ザ・ビーチ・ホテル前には、寒いにもかかわらず、館内を一目見ようと列に並ぶ人が絶えなかった。

期間限定でオープンする5部屋のセーブ・ザ・ビーチ・ホテルは、一言で言えば巨大な木製の掘っ立て小屋だ。その小屋にヨーロッパ各地のビーチで集められた12トンのゴミがはり付けられており、ゴミ製の家具が置かれている。前庭には砂がしきつめてある。水道水もなく、トイレは共同の簡易トイレ1つしかないにもかかわらず、宿泊希望者がネットの申し込みに殺到した。

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マドリード市の中心にあるカリャオ広場に建てられたこのホテルは同市で開催された国際観光見本市の期間に合わせて5日間営業された。この見本市には、166ヶ国から10500の出展があり、展示スペースは75000平方メートルにおよんだ。(ホテルは昨年ローマの世界環境デーでお目見えしてから二度目の設営となる)

「このホテルは、人間が海や沿岸地域にどれほどの害を及ぼしているかを示すものです。私たちはゴミの時代に生きており、いずれ人類もゴミになる危険があります。私はこんな世界を本当に望んでいるのでしょうか」 開催に際し、このホテルの建設を担当したインスタレーションアーティスト、HAシュルト氏は語る。

シュルト氏はもう何十年もゴミを使ったアートを製作している。環境保護活動のパイオニアのように言われる彼だが、1969年の「ハプニング」と呼ばれるパフォーマンスでミュンヘンの道路を紙とゴミで埋めつくしたため逮捕された。1977年にはスタントパイロットを雇い、小さな飛行機をニューヨーク州スタテンアイランドのゴミ捨て場に墜落させたりもした。

近年では、等身大の人間の像1000点を並べる「トラッシュ・ピープル」(つぶした空き缶、電気製品から出たゴミなどを材料としている)を製作し、1997年ドイツ、クサンテンの考古学公園に展示した。その後も、赤の広場、万里の長城、エジプトのピラミッドなどの世界の有名な歴史的建造物、そして北極でもトラッシュ・ピープルを展示した。

2007年ローマに展示されたトラッシュ・ピープル 写真: Roberto Ventre.

2007年ローマに展示されたトラッシュ・ピープル 写真: Roberto Ventre.

規模の大きさは十分?

「ホテルの壁にはり付けられているのはグランビア(近くのショッピングストリート)で売られているものばかりです。ただし、どれも捨てられたものですがね」シュルト氏は、マドリードの主要紙、エル・パイス紙で語っている

懐疑的な立場に立つエル・パイス紙のジャーナリストは、このホテルで一泊したが、このプロジェクトは1つの効果的なCSR(企業の社会的責任)活動に過ぎないとしている。確かに、ホテル内のあちこちに置かれている企業の宣伝ロゴは、シュルト氏の理想とは多少矛盾があるように思える。

批判的に見れば、ゴミのホテルが象徴するセーブ・ザ・ビーチ・キャンペーンは規模がやや貧弱と言えるだろう。ボランティアが1年に1つのビーチをきれいにするに過ぎないからだ。エル・パイス紙のジャーナリストは、マスコミの報道(無料の広告など)によってこのホテルがかき集めた金額とホテル建設のコストを比べていたが、この程度の活動では足りないように思える。

“ホテル内のあちこちに置かれている企業の宣伝ロゴは、シュルト氏の理想とは多少矛盾があるように思える。”

もちろん、ビールとビーチは相性がよい。この大手のビール会社がブルー・フラッグ・プログラムやサーフライダー・ファウンデーションをキャンペーンの協賛として選んだのも不思議ではない。ブルー・フラッグ・プログラムとは、持続可能な環境管理を行っている世界3000ヵ所の海岸にエコラベルを認証している非営利団体であり、サーフライダー・ファウンデーションは海洋と沿岸地域を保護する目的で活動を行っている団体である。

このように意識の高いアーティストと団体がタッグを組んだわけだが、このプロジェクトの第3のスポンサー名を見ると、CSRというものに納得がいかなくなる。このスポンサーは環境や持続可能性の意識などは全く持っていないオンライン旅行会社だからだ。とは言っても、このプロジェクトによって環境への意識がとれだけ高まったかは言うまでもない。

太陽を追いかけて

ここマドリードには、8月には例年通りの夏休みを過ごそうと、多くの人が(ほとんどが車で)押し寄せる。その多くは毎年同じ場所を訪れるという。

ところが、セーブ・ザ・ビーチの調査によると、10人に1人のスペイン人は、ビーチがごく近くにあるにもかかわらず、ビーチの状態がよくないという理由で行くのを取りやめている。ヨーロッパの残りの国々でも、14%の人々が同様にビーチ行きをやめている。調査されたうち66%は、行政機関がこの問題に対し「ほとんど何も、または全く何も」していないと考えている。

だが、そもそもこれは誰の責任なのだろうか。セーブ・ザ・ビーチ・キャンペーンのサイトで、今年クリーンアップ作戦を行って欲しいビーチを投票したり、ゴミのホテルを訪ねたり学んだりするだけでも、ヨーロッパのビーチ好きな人は自分の責任を痛感できるかもしれない。

北方の寒い国(私の故郷、カナダもそうだ)では、冬にビーチへ逃げ出す人々が最も多い。ガス排出ゼロを謳う農民、ジョナサン・ライト氏が、2009年に説得力ある論文で発表したように、今日の旅行はあまりに容易なため、この習慣を断ち切るのは難しい。(特に何ヵ月も凍えるような日々が続く地域では「旅行虫」が騒ぎやすいのだ、という人もいるだろう)そして家から遠く離れた場所では、環境への影響に対して責任感も希薄になりがちだ。

旅行好きの人々は飛行機での移動による石油の無駄を減らす努力をするのが一番だが、どこかへ行く場合にはせめて責任をもった行動をとり、『Disappearing Destinations(旅行先が消える)』という現象には貢献しないようにすべきだ。

これは国際農業生物科学センター(CABI)が出版した新しい本のタイトルである。この本は、人気だが脆弱なグレートバリアリーフのような場所でみられる様々な危機について検証している。現在の観光の傾向が続くようであればこれらの場所は観光客立ち入り禁止にせざるを得なくなるかもしれないと、著者らは警告する。

著者の1人、スウォンジー・メトロポリタン大学School of Built and Natural Environment(人工・天然環境学部)学部長であるM. R. フィリップス教授からのメールによると、この研究は世界中の専門家たちの研究成果を、同僚のアンドリュー・ジョーンズ博士と共にまとめたものだ。

ここには、北米から南極までの様々な10のケーススタディがまとめられており、中にはダイビングツアーに関するトピックもある。さらにツーリズムの成長による影響についても検証している。プラスチック問題(フィリップ氏によるとプラスチックゴミは堆積物となる)から、観光客の資源消費問題(不足している飲料水を観光客が消費してしまう問題など)まで幅広く取り上げ、それぞれの管理・政策について検討している。

この本以外にも、観光業リサーチに興味のある人に対し、フィリップ氏は世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のサイトを覗いて、統計や主要な出版物などを調べてみるようすすめている。専門家でなくても、Best Practice Gatewayを閲覧し、モーリシャス島でクラブメッドが地元の飲料水の使用を減らし、廃水を再利用するよう努めている例などを容易に知ることができる。このリゾート地はJardins Filtrants (浄化する土壌)と呼ばれる水生植物床を通して汚染物質を吸収、分解させたり、処理水をかんがいに利用したりする技術を採用することとなった。

旅行先や旅行会社を選ぶ際には、よく考え、持続可能で、エコなものを選びたい。そんな時に参考にできるようWTTCはTourism for Tomorrow Awards(明日のツーリズム賞)を主催している。候補地や受賞地のリストは旅行の参考になるだろうし、ケーススタディも読みものとして面白い。そしてガイド付きグリーントラベルを推進する多くのサイトがあるが、その中の1つが国際エコツーリズム協会である。

このように多くの努力がなされているが、まだまだ多くの困難はある。フィリップ氏は率直にこう話す。

「私の経験から言うと、人の善意は広まっていても、結局モノを言うのは金です。現在の不況は、観光に依存する経済にとっては打撃です」

農業を営むライト氏が主張するとおり、私たちは飛行機で飛び回るのをやめ、なにげないが多様な変化を見せてくれる地元に密着する術を学ばなければならないのかもしれない(そこが暖かかろうが寒かろうが)。

問題の根源は?

最後に、海の堆積物についてだが、これはビーチ好きの人がゴミを捨てないようにする努力だけで解決される問題ではない。海洋保護センターが「Trash Travels(ゴミは旅をする)」と題した記事にも書かれているように、不用意に捨てられたゴミは長い間川を流れ、世界で最大の公害要因となってしまう。海の堆積物は海や海洋生物に悪影響を及ぼすだけではなく、観光、漁業、航海、健康、水質にも影響を与える。

Trash Travelsより©海洋保護センター

Trash Travelsより©海洋保護センター

国際海岸クリーンアップキャンペーン(スポンサーにはコカ・コーラ社とダウ・ケミカル社も名を連ねる)の期間中、50万人のボランティアが世界の6000以上の場所でゴミを集め、データを取ったが、記事には驚くべき数値も含まれていた。

このグラフでわかるように、海のゴミの60%~80%は陸地で出たものだ。湖、川、雨水、風によってゴミは数百マイルも流れ、やがて海へとたどり着く。
つまり、海水浴を終えた観光客がゴミを持ち帰るだけではなく、平凡な日常を過ごす私たち1人1人がゴミを減らし、再利用し、正しくリサイクルされるよう責任を持つことが大切なのである。

翻訳:石原明子

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ゴミ時代のバケーション by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

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  • Eriko Ooizumi

    セーブ・ザ・ビーチ・ホテルがオープンした国際観光見本市は、業界関係者や一般消費者など非常に多くの来場者が見込まれるものである。見本市は、旅行業者が提案する新しい旅先を知ったり、世界各地からやって来る文化や味に触れたりする絶好の機会となる。その中でもセーブ・ザ・ビーチ・ホテルは、ある意味で観光における新鮮な感覚を来場者に与えたに違いない。それは単に芸術としての素晴らしさだけではなく、人の活動の末生まれたゴミというものに対する責任感をも思わせる感覚である。そして最終的に企業の社会的責任や資金的問題についても考えさせられるこのホテルは、私に人間の利己と環境保全の両立の難しさをも思わせた。様々な問題が絡む部分ではあるが、HAシュルト氏の作品には、これからの環境保全における深い論点が潜在していることは間違いないだろう。
     そして近年では、ツーリズムの成長に伴う観光客の在り方について問題が浮上している。様々な面で国際化が進んでいく中で、より多くの人々が国境を越え、より多くのものを目にすることが可能になっていく。だからこそよりいっそう、世界で立ち入り禁止の観光地を増やしてはならないと思う。そのためにはさらに多くの観光客が、「旅をしている」と主観的でいるだけでなく、「旅をさせてもらっている」という気持ちを持ち、観光地の人々や自然環境にも目を向けることができれば理想的である。しかし現実的にモラルの面だけで解決させることは非常に難しい。そのような複雑さをもゴミのアートは象徴しているような気がした。

  • 渡部健司

    Eriko Ooizumi さん、貴重なコメントをありがとうございます。

    「近年では、ツーリズムの成長に伴う観光客の在り方について問題が浮上している。様々な面で国際化が進んでいく中で、より多くの人々が国境を越え、より多くのものを目にすることが可能になっていく。だからこそよりいっそう、世界で立ち入り禁止の観光地を増やしてはならないと思う。そのためにはさらに多くの観光客が、「旅をしている」と主観的でいるだけでなく、「旅をさせてもらっている」という気持ちを持ち、観光地の人々や自然環境にも目を向けることができれば理想的である。しかし現実的にモラルの面だけで解決させることは非常に難しい。そのような複雑さをもゴミのアートは象徴しているような気がした。」に関しまして、私見を述べさせていただきたく思います。

    ごみ処理問題に関しては、個人だけでなく行政機関との協力も重要な役割を担うと考えているのですが、本記事にもあります通り、行政機関はこの問題に対し「ほとんど何も、または全く何も」していない、のが現状であると考えます。

    解決策としては、エコツーリズムの促進、旅行者へのごみ処理費用の負担、ポイ捨ての罰金化などが政策面では考えられます。また、こういった政策がごみに関するモラル教育につながっていくとも考えられます。

    最後に、現代のごみ問題を考えるにあたって、根底にあるのが、その量の多さにあるのではないかと思います。莫大な量のごみが毎日増え続けている、その現実をしっかり認識することが、今後の政策およびモラル教育を考えていく上で大切になってくると思います。

    Eriko Ooizumi さんの次回のコメントを楽しみにしております。