ワクハン渓谷の水と持続可能な土地利用

パミール高原のワクハン渓谷は、名高いシルクロードから伸びる険しい道として、かつては遊牧民や行商人、巡礼者の行き交った交通路の交差点に存在している。中央アジアのこの地域は豊かな生物多様性と、山岳の環境に依存した人里離れた社会を育んでいる。

西パミールのアフガニスタンとタジキスタン国境の多くを成すパンジ川には、雪をいだいた山々を水源とする他の河川の水が流れ込む。そしてパンジ川下流のワクハン渓谷に、タジキスタン側の町イシュカシムがある。この町は、本稿に掲載されたビデオブリーフで見られる、国境沿いの多彩な市場で有名だ。

イシュカシムの住民のほとんどは自給農業に頼っている。人口密度は1平方キロ当たり、わずか7.6人だが、乏しい西パミールの土地資源は切迫している。海抜が高く降水量が少ないため、この地は半乾燥地帯だ。農地は限られているため、村人たちは土壌浸食しやすい山腹で耕作するようになった。

しかし、水は豊かにある。力強い水流を誇るパンジ川と、長い時間をかけて建造された基礎的な用水路の存在によって、イシュカシムは長年、乾燥した山々に囲まれた耕作地と果樹園の緑のオアシスであり続けた。

ところが今日、イシュカシムで暮らす人々が水を畑まで引いてくるのは困難である。なぜなら彼らが頼りにしているかんがいシステムに早急な修復が必要だからだ。

ビデオに示されたように、水の入手は深刻な問題となった。農業を営むのAnvar Alidodov(アンバー・アリドドフ)氏は、主要な用水路の堤防(何十年も前、タジキスタンがソビエト連邦の構成国だった頃に作られた)が水流で崩れてしまったと説明する。

「長年にわたって強い水流の影響を受けた結果、セメントが劣化し崩れてしまいました。ここに住む人々は、堤防を修復しなければいけないと分かっていました。そうしなければ私たちは土地を失ってしまいます」

「水がなければ、村の人々は本当の貧困に落ち入ってしまうのです」とアリドドフ氏は簡潔に述べた。しかし彼や他の農民たちには、用水路を修復する資金や協調関係がなかった。

問題へのミクロ的な解決法

こういった状況下で年月が過ぎると、土壌浸食とかんがいの両方が問題となり、土地の生産性は下落した。そして、元々余裕のない人々の暮らしが脅かされた。

ビデオで説明しているように、こうした状況に貢献できたのが、パミール高原とパミール・アライ山脈における持続可能な土地活用(PALM)プロジェクト・チームだった。PALMはキルギスタンとタジキスタン両国政府による国境を越えた統合的なイニシアチブであり、地区単位のグループ(国際機関やタジキスタンの提携機関、地方公務員、NGO、農民によって構成されている)を通して技術や資金のサポートを提供する。こうしたグループは地域の生態系の劣化や農村部における貧困問題に対し、革新的で現場を重視した持続可能な土地活用の実践や関連したマイクロプロジェクトによって対処する。

PALMプロジェクトの提携機関の1つである、国際連合大学環境・人間の安全保障研究所(UNU-EHS)のEnvironmental Vulnerability and Ecosystem Services(環境的脆弱性と生態系サービス)部門のニベリーナ・パコーバ氏の説明によると、上記のような農民との協力体制は試験的なコミュニティでボトムアップ型の変化を引き起こす狙いがあり、その手法を他の村でも再現できるという。

実際に、ビデオで示されているように、調査と支援を受けたイシュカシムの農民たちは土地の生産性を向上させるために、新たな作物、かんがい技術、土地利用の方法(例えば伝統的な棚畑の復活)に挑戦している。

「誰もが自分の土地で耕作したいと願っています」とアリドドフ氏は言う。「うれしいことに、今ではこうした問題は完全に解決できました」

「『水は命の源』ということわざがあります。人々の命は水とつながっているのですから、ことわざはまさに真実なのです。村の人々は土地から食べ物を得ています」

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イシュカシムのマイクロプロジェクトは、パミール高原とパミール・アライ山脈における持続可能な土地活用(PALM)プロジェクトの支援を得て、地域レベルでは国際連合大学が、タジキスタンの国家・地方レベルではCommittee on Environment Protection(環境保護委員会)とアガハーン開発ネットワークのMountain Societies Development Support Program(山岳社会開発支援プログラム)が実施したものである。PALMプロジェクトは地球環境ファシリティーが資金を提供し、国連環境計画が実行している。

翻訳:髙﨑文子

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ワクハン渓谷の水と持続可能な土地利用 by キャロル・スミス is licensed under a Creative Commons Attribution-NoDerivs 3.0 Unported License.

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著者

キャロル・スミスは環境保護に強い関心を寄せるジャーナリストで、グローバル規模の問題に公平かつ持続可能なソリューションを探るうえでより多くの人たちに参加してもらうには、入手しやすい方法で前向きに情報を示すことがカギになると考えている。カナダ、モントリオール出身のキャロルは東京在住中の2008年に国連大学メディアセンターの一員となり、現在はカナダのバンクーバーから引き続き同センターの業務に協力している。

2002年より国連大学メディアスタジオに勤務。環境問題に関するビデオドキュメンタリーやオンラインメディアの制作を担当している。

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