カンクン会議は次世代に何を提供するのか?

世界中の若者がメキシコのカンクンで開催された第16回気候変動枠組条約締約国会議(COP16)での交渉の行方に注目している。彼らは「気候ジェネレーション」、すなわち私たちの気候対策の遺産や言葉を濁しがちな傾向、もっと早く行動しなかった世界全体の失敗と共に生きていかなければならない人々だ。カンクン会議において、世界的に拘束力を持つ同意に向かって実質的な前進が見られることに期待が高まる。

この期待を抱いたのは、気候チャンピオン(日本、韓国、タイ、インドネシア、オーストラリア、ベトナム出身者)と呼ばれる30人の若者のグループだ。彼らは2010年11月22~26日、ベトナムで会合を開き、世界中のリーダーたちに気候変動に関する議論はやめて行動を起こすように要求した。

気候チャンピオンたちは、ブリティッシュ・カウンシルのClimate Generation Project(気候ジェネレーション・プロジェクトによる環境ビジネスや起業に関するワークショップに集まった。このワークショップの目的は、プロジェクト管理やリーダーシップ・スキルの研修、関連分野の専門家との交流を通じて、参加者たちが各自の環境プロジェクトを開発できるようになることだった。

気候ジェネレーションは何ができる?

まず言えるのは、従来のやり方は通用しないということだ。このプロジェクトに集まった若者たちは環境起業家たちであり、彼らは皆、自分たちのコミュニティーでの気候や持続可能性の問題に対処するために「クールな」プロジェクトを展開しようとしている。

“このプロジェクトに集まった若者たちは環境起業家たちであり、彼らは皆、自分たちのコミュニティーでの気候や持続可能性の問題に対処するために「クールな」プロジェクトを展開しようとしている。”

例えば、日本出身の石橋秀一氏は、自宅の電力消費状況をオンラインで監視できる、見事な電力リテラシーに関するプロジェクトを開発した。その他のプロジェクトには、リサイクル素材から家具を作るタイの工場、ジャワ島東部のトゥルンガグンのLake Buret(ブレ湖)近くで行なわれているコミュニティーをベースとした環境保全プロジェクト(インドネシア語のサイト)、韓国でのエコ・ファッションショー、スマート・グリッド・システムの開発を目的としたベトナムのプロジェクトなどがある。

若いリーダーたちが変化を起こす

インドネシア出身のブリティッシュ・カウンシル気候チャンピオン、シティ・ヌル・アリア氏は、気候変動の影響を逆転させ、コミュニティーを貧困から脱却させる方法を見つけ出すために、インドネシアの田園地方の中心部で起こる焼き畑の問題と取り組んでいる。コミュニティーで活動していたアリア氏は、ボルネオ島中央部にあるセコンイェール村の農民が農地を拡大させるために周囲の森をどれほど焼いても、貧しさから脱することができない状況を痛感していた。

「悲しいことに、どんなに多くの資源を乱用しても、今でも貧困線以下のコミュニティーのままなのです」と彼女は話した。

そこでアリア氏は、もっと環境に優しく、農作物の質と量を向上させるメリットもあるような農法を模索する決心をした。その結果、誕生したのがForest Farming project(森での農業プロジェクト)だ。セコンイェール村の人々と共に、農業の知識を深め、よりよい土地管理法を探すプロジェクトである。

アリア氏によると、このプロジェクトで大事なのは、地元の知恵を育み、コミュニティーの行動を促進し、村の持続的な関与を育成する点だという。アリア氏や彼女のチームと共に農法を変える活動に熱心に取り組んでくれる先住民族の人々の姿勢こそ、彼女たちが変化を生み出しつつあるリアルな兆候だ、と彼女は言う。

気候チャンピオンの福島宏希氏は、国内の教育機関に「Climate Campus Challenge(エコ大学ランキング報告書)」を発行している日本の学生によるネットワークに参加している。教育部門における温室効果ガスの排出を削減するため、学生たちは再生可能エネルギーの利用やキャンパス内の建物の改装、環境に配慮した製品の購入を大学に働きかけ、その成果に従って大学をランクづけするのだ。

「私たちは334の大学の環境対策を調査し、基準に従って評価しました。例えば学生1人当たりのエネルギー消費量、エネルギー消費量の減少、気候変動対策、学生への気候に関する教育、独自の対策などです」と宏希は話した。「そしてエコ大学ランキングを発表し、優れた環境対策や活動を行う大学に表彰状を送ると共に、大学での環境対策を促進するためにセミナーを開催しました」

宏希によると、1990年代以来、環境活動に参加する日本の学生数は増加し続けているが、気候変動に関するキャンパス内での取り組みに的を絞った活動は少ないという。この状況を改善するため、中心メンバーが海外のプロジェクトを調査し、活動例を日本で採用するにはどうしたらいいかを検討した。その後、様々な大学の学生たちに協力を仰ぎ、プロジェクトの実現に向けてネットワークを立ち上げた。

タイの気候チャンピオン、Panita Topathomwong(パニタ・トパトムウォン)氏はクール・バス・クール・スマイル・プロジェクト(Cool Bus Cool Smile project)を通じて、環境に関するメッセージを伝えようとしている。パニタは地域住民に、自家用車は車庫に置いて公共バスを利用することで温室効果ガスを削減するように働きかけている。都市部での二酸化炭素排出の大きな原因の1つは交通であり、自家用車の利用を控えれば、交通部門の環境への影響を抑えられるだけでなく、渋滞緩和というメリットもあると言う。

そこでパニタと彼女のチームは、バンコク大量輸送公社(BMTA)と運輸通信省の協力を得て、メッセージを広めるために市内を走るバス3台のデザイン・コンペを開催した。2009年4月、世間の注目を集める中、運輸通信省次官やBMTAのディレクター、在バンコク英国大使館の外交官、多くのメディア関係者が出車式に参列し、その後、飾りつけられたバスは3カ月間バンコクの街中を走った。

cancun-generation2

“気候チャンピオンは、コミュニティーが抱える気候や持続可能性の問題に対処するための革新的なプロジェクトを開発する若い環境起業家たちだ。”

「バスをすばらしいイメージに改装したことで、バンコクの多くの人々に気候変動に関するメッセージを伝えられたと信じています。バスはみんなに気候変動への関心を持ってもらう移動式の広告のようなものだったんです」とパニタは話した。

気候チャンピオンはクールだ

2008年以来、ブリティッシュ・カウンシルの気候ジェネレーション・プログラムは、気候変動の問題解決に関心を持つ世界中の12万人の若者と共に活動してきた。このプログラムを通じて、若者たちは気候変動の影響を何とか低減させるための草の根的なプロジェクトを立ち上げるチャンスを手にする。参加者たちは提案を実現し各自のコミュニティーで問題に対する関心を広めるために必要な研修や資金を与えられる。

気候ジェネレーション・プログラムは、気候変動の対策に関心を持つ若者たちがお互いにつながり、地元でできる対処法を見つけ出し、地域や国や海外の意志決定者たちに意見を伝えることを促進する。

このプログラムに参加する者は気候チャンピオンとして、コミュニティーで議論を活性化したり、人々が気候変動に適応したり、その影響を低減したりできるようなプロジェクトの立ち上げに必要な研修や情報を得ることができる。その結果として、熱意にあふれた若者たちが世界的なネットワークを形成した。彼らは気候変動に対処するための行動を起こし、人々の生活にポジティブな影響を及ぼすための知識や人脈、具体的な情報を持っているのだ。

気候チャンピオンのバックグラウンドは、政府、ビジネス、起業家、NGO、教育、メディアなど、実に様々だ。彼らはコミュニケーションや交渉に関する研修を通して、いかに計画を実行に移して、自分たちと同じ世代の人々の関心を呼び起せるかを学ぶ。

気候チャンピオンの行動の方がCOP16の結果よりも進んでいることは明らかだし、彼らは「みずから行動を起こしている」が、カンクン会議において本当の意味で前進できることを望んでいるのだ。

・◆・

本プログラムに関する詳細は、ヒュー・オリファントまでご連絡ください。

翻訳:髙﨑文子

Creative Commons License
カンクン会議は次世代に何を提供するのか? by ヒュー・オリファント is licensed under a Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 3.0 Unported License.

ディスカッションに参加しよう

著者

ヒュー・オリファント氏はブリティッシュ・カウンシルの気候ジェネレーション・プロジェクトの東アジアおよび東南アジア担当者で、ブリティッシュ・カウンシル東京センターを拠点としている。気候ジェネレーション・プロジェクトの目的は次のとおりである。環境に関するアイデアを行動に移すための研修と資金を参加者に提供すること。気候変動や持続可能性の問題に関する情報と意見交換のために国内および国外のネットワークとつながる機会を参加者に与えること。国内外の議論と行動に携わるための土台を参加者に提供すること。

ディスカッションに参加しよう

  • Kaori Shimada

    「気候ジェネレーション」は、メキシコのカンクン会議において、気候変動問題に関する国際交渉が、2012年以降の気候対策を規律する枠組みの合意に向かって前進することを期待している。なぜなら、「気候ジェネレーション」と呼ばれる世界中の若者たちは、今後の気候対策によっては、気候変動によって引き起こされる様々な問題に対処しなければならなくなる可能性があるからだ。ブリティッシュ・カウンシルのClimate Generation Projectに集まった気候チャンピオンたちは、コミュニティーが抱える気候や持続可能性の問題に対処するための革新的なプロジェクトを開発する若い環境起業家たちである。彼らは気候変動に対処するための行動を起こし、人々の生活にポジティブな影響を及ぼすための知識や人脈、具体的な情報を持っている。
    私はこの記事を読むまで気候チャンピオンという人たちの存在も、その活動も知らなかった。しかし、私自身も気候ジェネレーションに属する一人であり、今後の気候対策の遅れが将来大きな負担となってのしかかることを危惧している。もし、このまま何も有効な手立てを講じずに気温の上昇を許すと、その分、以前の状態に戻すための手間や時間が必要になる。例えば、伐採によって木の生えなくなった山を元の状態に戻すのにどれだけの努力と歳月が必要かということである。木がなくなれば土壌は流出し、土の栄養分は損なわれ、そこに木を植えることすら困難な状態になる。その状態から元の青々とした山に戻すには大変な苦労を伴わなければならないだろう。気候ジェネレーションの負う負担も同じであり、今打つべき対策をしなかった代償はより改善困難な状態になって次世代に受け継がれる。海面上昇や、水不足、食糧問題など、気候変動がもたらす問題はさまざまである。このような問題の解決が私たちの世代だけでなく、今後誕生する後世の人々にまで押し付けられることのないように、現在、私たちが持続可能な人間活動をすることが大切である。
    今回のカンクン会議は、前回のコペンハーゲンで開催された会議から少し進展を見せたと言われている。しかし、先送りとなった議案もあり、気温上昇を抑えるためには、まだまだ多くの課題を残している。したがって、気候チャンピオンのように、自ら先達て環境問題に取り組む人々の活動は重要であり、もっと広く認識されるべきだと思う。特に、気候変動問題に関しては、各国間の交渉が難航し対策が遅れがちであり、国レベルというより、市民一人一人の意識的な行動の方が問題の解決に必要かもしれない。事実、1990年から2008年までの日本の部門別二酸化炭素排出量では、産業部門での二酸化炭素排出量は減少したものの、業務部門、家庭部門での排出は増加している。(全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCA) http://www.jccca.org/trend_japan/state/ )つまり、消費者である私たち一人一人の行動が温室効果ガスの増減に影響しており、しかもそれが二酸化炭素の排出を増加させていることである。
    COPのような国際レベルの会議では、先進国と途上国間の利害に関する対立がなかなか解消されず、協力にこぎつけるのが難しいのが現状である。しかし、早急に気候対策を進めなければならないことは明らかであり、私たちは国際政治の膠着状態を批判するだけではなく、自ら気候対策を始めなければならないと思う。また、各国の人々が地球市民として自覚を持って、草の根的な対策を進めるには、人々の関心を喚起する気候チャンピオンのような人々の動きが拡大していくことも重要である。気候対策の取り組みが大学や地域の小さなコミュニティーから出発したとしても、同様の取り組みが世界の各国で起これば、ある程度の波及効果が望めるはずだ。したがって、気候チャンピオンのみならず、今後はもっと多くの人口が気候変動に対して関心を持つことが大切だと思う。