自然の価値とは?

「新しいビジネスモデルが必要です。今始めるべきことは、水質浄化や気候安定、生物多様性など、(自然から受ける)多くの恩恵に価値を見出すことなのです」と、グレチェンCデイリー博士は言う。

冒頭の発言は、デイリー氏が2009年コスモス国際賞を受賞した際、東京の国連大学で行われた特別セレモニーにてスピーチした時のものだ。(スピーチの詳細はこちらからダウンロード

デイリー氏はスタンフォード大学、生物学部の教授であり、自然の生態系(通称:生態系サービス)がつくり出す資源やプロセスを重んじる画期的な研究の第一人者として国際的に知られている。同氏は、国連ミレニアム生態系評価や自然資本プロジェクトにも大いなる貢献をしている。(自然資本プロジェクトとは、学術団体や自然保護論者らにより結成されたもので、ビジネスや政策決定において自然資本の考え方を数値化し推進するのが目的だ)

「人々が生活を営みながらどのように自然を維持してゆくのか皆で考えなければならない」グレチェン C. デイリー博士

デイリー氏が生態系サービスや生物多様性について話す時、人々は耳を傾ける。そして国際生物多様性年での発言でも分かるように、同氏が世界へ発するメッセージは明確だ。

メッセージはここに掲載されているビデオで視聴することができる。2010年は地球上の生物や、その多様性を称賛する国際生物多様性年と定められているからこそ、ぜひこのビデオをご覧になり、他の人たちと共有していただきたい。今年は、地球上の様々な種を保護するための行動を起こす年なのだ。これに関しては、デイリー氏が説明を得意とするところだ。

「私たちには新しい政策や金融メカニズムが必要です。経済機能の連携を生み、また、暮らしの選択肢や新しいビジネスモデルを創造し、こうした利益を社会にもたらす人々に恩恵を与えるような政策、金融メカニズムです」
(国連大学副学長の竹内和彦氏によるデイリー博士のインタビューは、この記事の文末に掲載されています)

方向性を変える

デイリー氏曰く、保護に対する昨今のアプローチや考え方は機能しないという。人々は往々にして、保護地域を設けることが十分な自然の維持につながり、人類にも役立つと考える。しかし、保護地域の生物多様性は世界の多様性の5%にしかすぎず、この自然保護の考え方は誤っていると、デイリー氏は指摘する。

「人々が生活を営みながら自然を維持する。この調和をいかに達成するかを考える必要があるのです」とデイリー氏は断言する。

ニューヨーク市の水供給が良い例だ。市の水は、150キロメートル離れる山あいを水源とするが、この山あいが開発地区となり水質が落ち始めた。その際、選択肢は二つ。一つは、水質浄化技術に60~80億ドルを投資すること。もう一つは流域の農家に(財政支援をすることで)事業を変更してもらい、川沿いの土地を買い上げて湿地帯や森などの自然資本に戻すことで水質を改善させることだ。湿地帯や森は、水を汚染する病原菌や栄養物を閉じ込める働きをする。

ニューヨーク市は二つめの選択肢を選んだ。デイリー氏によると、それは双方に有利な状況だったという。

「ニューヨーク市民が支払う水道費は最低限に抑えられ、山あいのキャッツキルの住人たちは、その行いに対してようやく代価を支払われるようになりました」

真の自然の価値を見出すか?

デイリー博士は、「ある決断が異なる行動や計画のもとでどのように生態系に影響するか、また、生態系や土地や水が、気候安定や洪水調整などの恩恵をどのように与えてくれるかを知る」術が必要なのだと指摘する。こうした生態系サービスの価値を経済的、文化的観点からはかれるようになる必要があるのだ。

こうした考え方をさらに研究するためデイリー氏は、植物や動物、その他の有機体などの自然資本や、農業地帯の生物多様性をいかに支援できるかの理解に時間を費やしてきた。

例えば、デイリー氏と調査団がインド南部カルナタカで調査した時のことだ。森に生息する鳥の非常に高い多様性とともに、数百年存在する農業システムを発見した。

その土地の農業は森保全と密接に関係していた。落ち葉は肥料となり土地の湿度を管理する。またこの落ち葉は、南および東南アジアで消費されるビンロウの実の肥料にもなる。これは、生物多様性にやさしく、食糧生産における高い経済価値を表す良い例だ。

そこで、どのようにすれば「生物多様性の恩恵は何か、自然資本を守るという選択をする見返りは何か」を知ることができるのかをデイリー氏は考え始めた。

だからこそ、自然資本プロジェクトが重要なのだ。このプロジェクトは、デイリー氏がネイチャー・コンサーバンシーとWWFのピーター・カレイヴァ氏と共同で立ち上げたプロジェクトだが、その目的は、科学を実用的ツールかつ実証プロジェクトにすることだ。それは、生態系サービスに関する意義の理解を深めるだけでなく、政府や企業が自然の価値をいかにその意思決定に取り入れるかを推進するものでなければならない。

月まで飛んで

自然資本の価値を説明するにあたり、デイリー氏は、月への引っ越しをイメージしてほしいと言う。

「月での生活を価値あるものにするために、どんな生物体、植物、動物を月に持って行きますか?」

「まず、食べるものをリストアップできるでしょう。例えば、魚介類、農作物、動物性食品、林産物などです。とにかく、薬など、口に入れる全てのものを考えてリストアップしてみて下さい。何百、何千というリストになるかもしれません。しかし、それだけのリストをもってしても、おそらく月では生き残れないでしょう。生き延びてせいぜい数日。ですから、他にももっと多くのものが考えられるのです」

この問いは、私たちがどれだけ生態系サービスに頼り、それを当然のことと受け止めているかを適切にあらわしている。世界人口が増え、種の絶滅が進む中、私たちの認識の甘さを改めることは、非常に大きく、また極めて重要な課題なのだ。

デイリー博士は、次の二つの課題について強調する。

「科学的側面からもう一つ言うと、生態系サービスや自然資本という構想を人間の健康と結びつけることです。蚊やねずみなどの媒介生物を介する生物ベクター生起病や、水系感染症などありますが、土地利用と疾病リスクの関係について理解を深める余地があるかもしれません」

「さらに、貧困緩和にも利用できると思います。世界の貧困地域における人間開発に役立てようと、大きな野心と希望を持っています。しかし、今現在、有意義かつ持続可能な貧困緩和をいかに達成できるかを知るほど私たちは賢くありません。ですから、この二つは私にとって最大の課題なのです」

インタビューのフルバージョンはこちらをご覧ください。

翻訳:上杉 牧

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著者

ブレンダン・バレットは1984年からイギリス原子力発電所の環境アセスメントに従事して以来、環境分野に従事してきました。環境スペシャリスト、都市設計者でもあり、コミュニケーションや教育をはじめ環境問題の研究のため、ITを駆使しています。

博士課程を終了後、1997年から国連大学に加わり、2002年に国連大学メディアスタジオを立ち上げました。

IUCN(国際自然保護連合)教育・コミュニケーション委員会のメンバーでもあり、オーストラリア環境研究ジャーナルやサービス・リサーチ・ジャーナルの国際編集顧問委員会のメンバーとして活躍。2002年から2005年には情報社会サミットで、国連大学の中心的役割を果たしました。

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